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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第肆部
28/37

第28試合 - 悪戯

「何だって!? じゃあ、オーディン、お前は知っててロキを泳がせていたのか……!」


 研究室に響くトールの声。


「ああ。前にも言ったが、ロキについていった奴らはラグナロクへの再入団は認めない方向で頼む。

 しっかりリストアップしておいてくれ」

「わ、わかった……」


「ロキ自身はどうする気だ、オーディン。

 俺は最強だ。制裁を加えるなら俺がやってやってもいい」


 バルドルが鋭い目をギラつかせる。


「その必要はないよ、兄さん。

 高確率でロキはラグナロクに戻ってくる。

 その場合は、受け入れる気だ。


 もし戻らないなら、その程度の奴だったというだけのこと。

 サンプルのひとつが消えるだけで、俺には何の痛痒つうようもない」


「我が弟ながら、恐ろしいやつだ、オーディン」

「兄さんほどじゃないよ」


 クックッ、と声を押し殺して笑うラグナロクの重鎮二人。

 その姿にトールは背筋が凍る思いをしていた。


 二人はナンバーズとして主神と第2神に分けられているが、どちらも別のベクトルで最強であった。


 正道を行くプロのグラディエーターだったロキを、オーディンの知己なしで粉砕する事ができる強さの持ち主であるバルドル。


 同じくロキのデータを丸裸にし、正確にロキの弱点を突き、完勝するであろうオーディン。


 この二人にトールを含めた三人が、ラグナロクの設立メンバーであるが、随分と水を空けられたものだと、トールは少し寂しい気持ちになった。


「と、ところでオーディン。

 夜宮とロキが当たったとして、勝率はどのぐらいなんだ?」

「それは、夜宮の勝率、でいいのか?」


「あ、ああ」

「トールも結構、ロキに冷たいな。

 だが、残念ながら俺のデータ通りなら、夜宮の勝率は0%だ。

 100回やれば100回ロキが勝つ」


「……!」

「フフ、トール、オーディン。俺は知ってるんだ。

 何が起こるかわからないのが剣闘だってな」


「その通りだよ、兄さん。剣闘に100%はない。

 俺だって"グングニル"だなんて揶揄されちゃいるが、自分の予想が100%当たるなんて思っちゃいない。

 特にあの夜宮という男は……、俺の予想をいつだって覆してきた。

 一番面白い奴だよ」

「俺よりか?」


「兄さんは……強すぎて予想を外した事がない。

 確実すぎて勝負というギャンブルにしてみれば、面白みに欠けるよ」

「悪かったな、俺は無敵の兄なんだ」


「だからこそ、期待してるところもあるんだ」

「知っているぞオーディン。お前が俺をサンプルとして見ている事を。

 何をやろうとしているかは知らないが、ロキや夜宮などという他のサンプルにはない最高の結果を俺が見せてやる」


「ははっ、参ったな。

 兄さんは剣闘だけでなく、俺の頭脳まで超えようとしている」

「兄を超える弟など存在しない、というだろう?

 今はお前に花を持たせてやっているが、本気を出せば必ず俺が勝つ」


「……楽しみにしているよ、兄さんの見せてくれる未来を」


 * * *


「あーあ、夜宮のやつ、手玉に取られている。

 すぐに決着がつきそうですね」

「ガウェイン、不謹慎だが、俺は少し感動しているよ」


「どういうことですか、ランスロット」

「……神童、ロキ。アタックタイプの使い手として、あまりに正道。

 果敢な攻めを信条とする白虎心陰流を操り、無駄のない動きで、正確にアタックフロントを当てていく。


 真正面からの正々堂々の打ち合いで、あれだけイニシアチブを取れるなんてな……俺達の目指すべき姿が、今すぐそこにある」


「確かに、ロキの完成度は子供だと侮れない、究極的な位置にあります。

 それでも時代遅れのバランスタイプに負けた奴ですよ。

 弱点は必ずあるってことじゃないですか」

「そう。そしてギアの差は腕と戦略で埋められるという事を、シュンは示した。

 だが、俺はこうも思う。

 その逆もまた、あるのではないかと」


「逆、ですか……。

 ま、夜宮と戦ったあなただからこそ感じる事もあるんでしょう。


 ところで、そろそろモードレッドを引っ張り出しませんか」


「何かいい手があるのか?」


「まさか。闇討ちです」


 * * *


「あ~、ダメダメ! もう見てられないわ~!」

「しっかりしなさい、アーサー!

 アンタが応援してあげないと、夜宮が負けちゃうかもよ!?」


「でも、これ、本当に一方的だ……。

 同じアタックタイプ使いだからわかる。

 あのロキって奴は、本当に強い……」


「じゃあ、そのまま負けろって言うの、ガラハド!」

「い、いや、そうは言ってないよ、アーサー」


「そうよそうよ! ラブラブパワーフルメェァックスでいきましょ、アーサー!」

「え、ええ? それはちょっと」


 * * *


「ロキ少年ねえ、あれは強いな」

「店長……」


「ギアブレードの相性が不利ってのもあるが、使い手の技量差が酷過ぎる。

 このまま真っ向勝負しても勝ち目がない。

 相手から崩れてくれればワンチャンスあるかもしれないが、それを期待できる程、ロキという子は弱くない」

「そんな……天晴くん……」


「げっほげっほ、砂埃舞わせるの、ホント好きですね、ロキ」

「鏑木くん、砂埃が目とか鼻に入らないようにしておいた方がいいよ」

「はい、店長さん」


(剣闘の神様、ご先祖様方……どうか、天晴くんを勝たせてあげてください……!)


 * * *


 ロキの執拗しつような攻撃は続いていた。

 天晴が対応し始めた頃に、緩急をつけはじめ、また対応に時間を使わせる。

 一気に決めさせるような隙こそ天晴は見せていなかったが、じわりじわりと削られていった。


 ──ガァァシュゥゥ!


 吠える天晴のギアブレード。

 その駆動音は、拷問に耐える嘆きの声にも似ていた。


(つ、強い! ダメだ、どうしようもない。

 雑に見える突撃なのに、数ミリの誤差もなくアタックフロントを命中させてくる!

 打ち込む隙を与えてくれない!)


(こんなに長い時間遊べるとは思ってなかったよ、夜宮天晴。

 やっぱりカード効果は見えない方がいい。

 その方が、僕の得意な打ち合いに持っていきやすくなる。


 力は大人の方があるけど、ギアは力で振っても仕方がない。

 だから子供でもプロになれる)


 ピッ。


「白虎奮迅剣! でりゃあああ!!」


(またこの連撃!? 逃げるしか!)


 ギアブレードを逃がそうとする天晴だが、白虎の爪牙は逃がしてくれない。


 ──ギャギギギギ!


「……!」


 一呼吸で繰り出される連続攻撃。

 アタックフロントが天晴のギアブレードを削り、不快な音を立てる。

 慌てて天晴がギアブレードを確認するが、コアは排出されていない。


(それにしても随分堅いギアだ。ディフェンスタイプでもここまで削れば音を上げるはずなんだけど。

 まあ、夜宮天晴はカード下手みたいだし、基本に忠実に攻めていけば、僕の勝ちだ)


 ピッ。


 ロキがカードを入れ替える。


 ドクン。


 その瞬間、天晴は自分の鼓動が酷く大きく聞こえた。 


(あれだ、雷天突とかいう突撃がくる)


「雷」


 ロキが砂利を蹴り飛ばし、猛然とこちらへ向かってくる。


「天」


 一筋の雷のように鋭い突きが、天晴の首を狙ってくる。


「突!」


 刹那、天晴の視界が広くなった。

 澄み切った世界が広がり、全てが手に取るようにわかる。


(!? ロキは、俺に当てる気がない……!)


 鋭い突きを繰り出す手元に見える別のカードの存在を、今の天晴は見逃さない。

 最低限の動きで雷天突を回避すると、ロキの顔が驚愕に染まる。


 それでもさすがは元プロのロキ、既に別のカードへと切り替えようとしている。


 目線を明後日の方向に向けたまま、天晴はギアブレードを切り上げた。

 天晴の視線に騙されたロキは、一瞬対応が遅れ、天晴の切り上げをギアブレードでガードしてしまう。


「ぐぅ!!!」


 ──ガガガガッ!!


「……」

「はぁ、はぁ……」


(焦った、なんだ今の夜宮天晴の動きは。

 あんな高度なフェイントができる奴だったか?


 ……オーディンが言うように戦いの中で進化するのが夜宮だというなら、僕もそれに対応するまでだ!)


 天晴はロキを見つめながらも、ロキを見ていない。


 ピッ。


 そんな天晴を中心に捉え、新たなカードに差し替えるロキ。


「白虎心陰流には、裏の奥義があるんだ。

 裏白虎、つまり、黒竜奥義がね」


 ロキの言葉を聞いているのか、いないのか、天晴はロキとその空間全てを把握していた。


(黒竜奥義ってなんだろう。

 後ろからユッコねーちゃんの声が聞こえる。

 あ、あっちには翔さんがいる。

 あれ、ランスロットさんもいる)


 ──明鏡止水。


 蕎麦屋奥義の状態に、天晴は入り込んでいた。


「見せてやるよ、夜宮天晴!

 裏白虎、黒竜双飛爪こくりゅうそうひそう!!」


 ロキがギアブレードを振りかぶって襲ってくる。

今までの型とは違う、荒々しい振りかぶりだ。


 これを間近で受けてはいけない、しかし踏み込みから距離は見切っていた。

 明鏡止水状態に入った天晴は、今、まさに無敵。

 紙一重での絶対回避。


 ──ガキィィィ!!!


 ……のはずであった。


 届くはずのない距離に届いたロキのギアブレード。

 思わずギアブレードでガードしてしまう。


 天晴のギアブレードに弾かれ、空中を回転するロキのギアブレードを、ロキ本人が見事な跳躍でキャッチする。


(ギアブレードを投げた、のか……)


 やけに冷静だった。

 そのまま振り下ろされる事は必至。


 これをギアブレードでガードすれば、耐久値はたやすく限界を超える。

 アタックフロントを外してくれるだろうか、いや、ロキに限ってそれはあり得ない。

 では、身体で受け止めればどうだろうか。

 否、この破壊力では骨折は免れない。


 ──負ける。


「黒竜の爪は、獲物を二度切り裂く」


 ロキの言葉が、やけに耳に残った──。



 ──ピーンッ……。



 * * *


「何が起こったんだ……?」


 その場の誰もが、一部始終全てを見ていた。

 だが、誰もが予想しえなかった。


「え、天晴の、負け?」

「いや、ロキ、の、負け?」


 勝利の女神は、悪戯の神にすら悪戯を仕掛けた。


 互いのコアの排出である。


 予想だにしない状況にギャラリーがざわつく。


「ねえ、アーサー、今の、夜宮の勝ちだよね?」

「私には、一瞬早くロキのコアが排出されたように見えたけど……どうして?」


「店長、ロキのギアブレードが当たって、天晴くんのコアが排出されちゃったんですかね……?」

「すげえ微妙。

 天晴のギアブレードの排出は、間違いなくロキ少年の攻撃によるものだ。

 だが、ロキ少年のコア排出が早かったかどうかは、わからない」


(負け、た……? 強、い。

 元プロって、こんなに強いのか……)


(なんで、僕のコアが排出されてるんだ……!

 クソッ! わけがわからない!)


 当人達ですら、どちらの勝ちか判断がつかない。

 

 ざわつく境内で、こういった状況にめっぽう強い男が一歩前に進み出る。


「共に"有効"! 10秒以内にギアを再駆動させろ!」


 鏑木である。


「「!!」」


 鏑木の公式ルールに則った発言に、異を唱える者は誰もいなかった。

 当然、その言葉にいち早く反応したのは正道を歩んだ事のあるロキ。


 鏑木の言葉が意味するところは、10秒以内に駆動できなければ負け、共に駆動すれば続行、というものであった。


 ロキがコアを拾い、ギアブレードにセット。


 その姿を見た天晴も、慌てて我に返る。


(まだ、負けてないんだ!)


「残り5秒!」


(コアが見当たらない!

 頼む、もう一度……!!


 ──明鏡止水!)


「3!」


 砂利に埋もれたコアを見つけ、砂を落としてセット。


「2!」


 スイッチを入れ、ギアブレードを駆動させる。


「1!」


(動け、動け、俺のギアブレード!!)


「……!」


 ──ガァァシュゥゥ!


「0!!」


 境内に響く天晴のギアブレードの駆動音、すぐさま構え直す天晴だったが、目の前にいる相手は、まさかの事態に陥っていた。


「くそっ、くそ! どうして、どうしてギアが回らないんだ!

 動け、動け!!」


 ガチッ、ガチッ。


 スイッチを入れる度にギアが動こうと音はするが、完全な駆動まではしてくれない。


「タイムアップ!! 夜宮の勝ちだ!!」



 ──ワァァァァ!!!



「やったわ! 天晴くんの勝ちよ!!」

「すっごーい! やったわね、アーサー!」

「……なんか釈然としないけど、これも、勝ちは勝ち、なのか」


 奇跡がまた起きた一夜に、ギャラリーは大いに沸いた。

 その騒ぎを一瞬で静める大声が響く。



「ふざけるな! こんな負けは認めないぞ!!」


 ロキが鏑木に食ってかかる。


「公式ルールに真っ先に反応したのは、お前だったな、ロキ」

「く……!」


 両者のコアが排出された際には、10秒以内にギアブレードの再駆動を行うという公式ルール。

 このルールに従うという事は、ルール上、それはデュエルとはいえない、正道のバトルである。


 そのルールに従った結果敗北となったロキは、ぐうの音も出なくなってしまう。


「ロキ少年、ちょっとギアブレードを見せてくれるかな」


 そう言って現れたのは、ロキ視点から見て妖しいオーラを纏った男、塚原日剋こと店長であった。


「……」


 ロキが歯を食いしばりながら、ギアブレードを店長に渡す。


「……なあるほど、ロキ少年。これは自爆しちまったな」

「……?」


 意味が理解できないロキ。


「ギアに砂が噛んでいる。デュエルだからと砂埃を上げ過ぎた事が原因だな。

 そんなにデュエルに沿わなくても、君ぐらいの腕があれば、もっとクリーンに戦って、スマートに勝てたはずだ。

 今の天晴ぐらい、そう大した相手じゃない。そうだろ?」

「く……」


 その通りである。

 少なくとも、ロキ自身は天晴よりも店長とのバトルの方が面白くなりそうだと考えていた。

 そこに油断がなかったとは言えない。


 その事実を噛みしめ、ロキの目から大粒の雫が落ちる。


「ロキ少年、君は強い。次にやったら間違いなく君が勝つだろう。

 そんな君が、今回のようなデュエルらしい無茶な戦い方をした理由はなんだ?

 そこに君らしさはあったのかい?」


 優しくも厳しい店長の言葉に、張りつめていたロキの心が崩壊する。


「……ふぐっ、ぐぅっ、くっ……」


 ロキはプロの世界を降り、野に下った。

 デュエリストという存在になってしまった。

 その事が、彼の隙となってしまった事は言うまでもない。


 * * *


「ロキさんが……そんな……うっ!?」


 ショックを受けるヨトゥンの腕を捻り、動きを封じる男たち。


「モードレッド、こっちに来てください」

「ぐっ、お前たち、ランスロットとガウェイン……!」


「一緒に来てもらうぞ、モードレッド……」


 

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