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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第肆部
25/37

第25試合 - 友と仲間と

 暑い夏が過ぎ、秋の気配を感じる頃。

 蕎麦屋とわりの特訓施設では、過酷な特訓が行われていた。


「天晴くん、頑張ってー!」

「宮永、お前はバイトじゃないのか?」


「ここで天晴くんを応援するのが私のバイトなのっ!

 ……で、なんであんたがいるの!?」


 ここは蕎麦屋とわり内にあるチーム蕎麦屋専用の特訓場である。

部外者は立ち入り禁止のはずだが、ユッコにとってよく知る人物がそこに立っていた。


「なんだとはご挨拶だな、お前から頼んできたと聞いたぞ。

 ああ、夜宮、ちょっと来い」

「はい、鏑木さん」


「踏み込む時のフォームが崩れている。もう少し自分の身体を俯瞰ふかんして捉え、全体のバランスを意識するんだ」

「はい」


(いやいやいや! なんでブラギが!?

 しかもめちゃくちゃ天晴くんと打ち解けてるぅぅ!?)


 そう、元パルテノンのナンバースリーであり、ラグナロクの間者であったブラギこと鏑木拓也かぶらぎたくやがそこにいたのである。


「ちょ、ちょっとブラギ!」

「宮永、今の俺のことは本名の鏑木で呼んでくれ」

「か、鏑木っ、どうしてラグナロクのあなたがここにいるのよっ」


「俺はオーディンからの指令で来た。

 宮永がオーディンの知己を借りたいと言っているから、代理として俺にオブザーバーになれ、ってな」

「お、おぶざーばー?」


「ああ、チーム蕎麦屋の動向には関与しないが、俺なりの意見やアドバイスはさせてもらう、そういう立場だ。

 無論、ここでの事はラグナロクへの報告は不要、となっているから安心しろ。

 そうしないと門前払いされる可能性があったからな」

「……」


 確かにユッコには、ラグナロクを抜けてもオーディンの知己を借りたいと言った覚えがあった。

 まさかこんな形で協力してくれるとは思っていなかったが。


(いやいや、ブラギといえばラグナロクでも随一の曲者。そう簡単に信じちゃいけないはず!)


「今のはどうですか、鏑木さん」

「Goodだ、夜宮。お前は教えた事をすぐ吸収するから、俺としても面白いぜ」

「どうも。おじさんもユッコねーちゃんも仕事があるから、なかなか見てもらう機会がなくて。鏑木さんが来てくれてから捗るようになりました」


(天晴くんが、めちゃめちゃ懐いてるーーーー!!)


「そうだな、一人でやっていると自分がどの程度成長しているかの実感が薄く、モチベーションを保ちにくいだろう。

 そこでオブザーバーの出番ってわけだ。

 店長さんも二つ返事で許可してくれたしな」


「鏑木さん、正式にチーム蕎麦屋に入りませんか?

 俺、鏑木さんの事、すげー人だなって思ってるんです」

「買いかぶり過ぎだぞ、夜宮。

 誘ってくれるのは嬉しいが、俺はいずれお前の敵になるチーム、ラグナロクの一員なんだ。

 ……まあ、ナンバーズでもない俺が今のお前に勝てる未来は見えないが」


(か、勧誘までしてるーーーーっ!!)


「ラグナロクですか……、やっぱり戦う事になるんですかね。

 正直鏑木さんぐらいすげー人が、ナンバーズって人達に劣るなんて、信じられないんですけど」

「ラグナロクは凄いぞ。矛盾していると思うかもしれないが、俺の役目はお前をラグナロクに挑めるだけの使い手にする事なんだ」


「ええっ、なんですかそれ」

「それがラグナロクの主神、オーディンの指示なのさ。

 あの人の考えは俺なんかでは到底及ばない深みにある。

 神算鬼謀ってのはああいう事を言うんだろうな」


「……鏑木さんがそこまで言うなんて、俺、ちょっとラグナロクに興味出てきましたよ」

「いい気迫だが、オーディンの前にまずはロキだ。

 あのロキに勝てるか?」


「あの時は負けましたし、新しいギアブレードだって使いこなしてない……けど、この頃はユッコねーちゃんにも勝てる時があるので、自信はあります」


(あれ、なんか私、軽くディスられた?)


「それは丁度いい。今日はお客さんを招待しているんだ。

 もちろん、店長さんから許可は貰っている」

「客、ですか?」


(え、何それ、知らない話なんだけど!?)


 どんどん蚊帳かやの外へと追いやられていくユッコ。

 オーディンの考えも理解できないが、店長の考えも近頃は理解しかねるユッコであった。


「ちわーっす! いや、たのもー!」


 店の入り口から響く、特訓施設まで聞こえてくる声。


「……あの声は!」

「来たようだな、特別ゲストだぞ」


 慌てて特訓場を出る天晴とユッコ。


 数か月ぶりに見るその人物は、以前とは明らかに雰囲気が異なっていた。



「「カイル(くん)!?」」 



「よーう、天晴!ユッコさん!

 お久しぶりでーっす!」

「お前、学校サボってどこに行ってたんだよ!」


「いや、ちょっとな、へへへ」

「信じられない、見違えたわね……」


「男子三日会わざれば、刮目して見よ!っすねー!」

「このやろ、三日どころか三か月以上も音沙汰なしで、このぉ!」


 じゃれ合う天晴とカイル。

 微笑ましいその光景にも、不穏な雰囲気を醸し出すカイルの背。

 その背にある袋は、明らかに"ある玩具"が入っている事を現していた。


「じゃ、天晴のおじさん、秘密施設にお邪魔しまっす!」

「おー、まあ、気軽にやれよ」

「俺らのヒーロー相手ですからね、胸を借りますよ!」


 頭にクエスチョンマークを残す天晴。

 今のやり取りでユッコは感じ取ったようだ。


 特訓施設に入ると、不敵に笑う鏑木。


「どうだ夜宮、特別ゲストと会った感想は?」

「お、驚きましたよ。ずっと学校にも来てなくて音信不通だったのに、鏑木さん、よく見つけましたね」


「まあ、厳密には俺が見つけたわけじゃないんだが、まあ、これでお前はまた、一歩先に進める」

「?」


 一人、試合用の線が引かれた施設の中央へと歩き始めるカイル。

 相変わらず体幹がいいとは言えない、ふらふらとした歩き方だ。


 しかし。


「おーい、天晴、早くやろうぜ!

 俺、この日が楽しみでよぉ!」

「やるって……バトルをか!?

 俺だって強くなってるし、言っちゃ悪いけどお前じゃ……」


 失言しかけたところで、天晴もカイルの異様さに気付く。


 数か月前より一回り大きくなった体格、がっしりとした肉付き、今まではふらふらとした凧のようだったが、まるで岩のように落ち着いた存在感。


 数々のデュエルを経験し、いっぱし以上の使い手となっていた天晴には、カイルの醸し出すオーラが見えていた。


「天晴、お前は相変わらずだなー。

 バトルってのは正道のグラディエーター同士が戦う事で、俺達デュエリストはバトルの事をデュエルって言うんだぜー」


 カイルの口調はあくまで記憶通りである。

 だが、これはただ事ではない。明らかに以前とは打って変わった雰囲気を纏うカイル。


「俺、こう見えてもトモさんにも圧勝できるようになったんだ。

 もちろん、ギアブレードはアドバンスドタイプを借りて、だけどな」


 その言葉の意味するところは、天晴には伝わらない。

 ただならぬ気配を纏った友の前に、天晴は驚きを隠せないまま、立つ。


(なんだ……これ……)


 正面に立つと、よりはっきりとわかるカイルの莫大なオーラ。

 妖しく揺らめき立つそのオーラは、今にも天晴を吞み込まんと迫ってくる。


 首を振り、改めてカイルを見据える。

 このようなオーラは黒澤やランスロットを超えている。

 少なくとも、油断のできる相手ではなさそうだ、と天晴は思う。


「早速始めようぜ、天晴!

 俺、この日を楽しみにしてたんだ!」


 ──ヴァヒュゥゥゥ!


 聞いた事のない駆動音がカイルの手にしたギアブレードから流れる。

 その音は施設内に響き、まるで轟音のようにさえ聞こえた。


(呑まれるな、相手はカイルなんだ)


 ──ガァァシュゥゥ!


 天晴も自分の新型ギアブレードを起動させる。


「うわ、なんだよその音。お前のギアブレード、うっさくなっちまったな」

「前の、壊されちゃったからさ……でも、俺、剣闘、好きだから」


「マジか……でも、剣闘が好きなんてお前の口から聞けるなんて、嬉しくて仕方ねえよ、天晴ー!」


 あくまで会話は普段通り、本人達にしかわからぬ重い雰囲気を纏い、オーラとオーラがぶつかり合う。


「じゃあ、俺から名乗るよ」

「おっ、天晴、デュエリストっぽいじゃん、受けて立つ!」


「チーム蕎麦屋、夜宮天晴。

 流派は、とわり流」

「チーム・シャングリラ、カイル=エアシュート。

 流派は、神威気功術!」


 いざ、剣闘開始!!


 ──ピ、ピッ!


 カードを使用するタイミングはほぼ同じであった。

 しかし、カードを無事通せた事に天晴が安堵あんどした隙をカイルは見逃さない。


(息を吐いた、今だ!)


 先手必勝の心得で攻め込むカイル。


 ──ガキィン!


 一合の打ち合い、否、打ち込んだのはカイルのみ。

 天晴は防御を強いられた。

 あまりに正確な打ち込み、もし天晴のギアブレードがアタックタイプであったなら、一撃で敗れていた事だろう。


 カイルは体を反転させ、回し蹴りを打ち込む。


「あぶなっ」


 寸でのところで回避する天晴。


「ちぇっ、先手で決めたかったんだけどなぁ。

 その硬さ、ディフェンスタイプか~」

「カイル……そこまで本気かよ」


 * * *


「ウソ……これがあの、カイルくん?

 ただのギア好きの子だったのに」

「彼は四天王、伊達神威の元で修行していた。

 しかも修行途中で、ラグナロクの第7神、シグルズを破っている。

 能力はまごうことなき一級品だぜ」


「シグルズに勝ったの!?」

「ま、独断行動だったらしいから、オーディンの力は借りてないみたいだけどな。オーディンのアドバイスをちゃんと聞いていれば、シグルズだって無様な負けはなかったものを」


(それでもシグルズは決して弱いわけじゃない。

 少なくともブラギよりは上の強さを持っていて、円卓の重鎮とタメを張れるぐらいは強いはず。

 カイルくん……いつの間に、そんな力を……?)


「おお、回し蹴りだ。派手だなぁ。

 しかもその隙にカードを切り替えたか、やるなぁ」

「あれじゃ、天晴くんはカードが切り替わってるの見えてないね」


「対する天晴はカーリッジのままか」

「うーん、耐久力増幅のカードだからディフェンスタイプとしては結構堅い選択だけど……カイルくんのカードが不気味ね」


「相手カードの情報が見えないという点は、デュエルに置いて一番の不確定要素だ。

 正道の大会のようにすぐにわかるものじゃないから、デュエリストとしての勘が頼りになる」

「その点は、経験の勝る天晴くんが有利ね」


「さあどうかな。カイルの知識は厚いと聞いている。

 おまけに二人は仲の良い友人なんだろ?」

「親友と言ってもいいんじゃないかなぁ」


「それならなおさら、デュエリストとしての経験は埋まる。

 よく知る仲だからこそ、デュエリスト本人の性格というある種のメタ読みが出来るからなー」

「でも場数の違い、経験の差はそうそう埋まらないから、天晴くんが圧倒的有利なのよね」


「でもな~、俺たちはそういう不利を覆してきた奴を見てきただろ」

「……天晴くん、自身」


「そう。これはいつもと同じデュエルだが、いつもとはまるで違うデュエルだ。

 新しいギアブレード、普段と違い圧倒的有利な状況、そして互いに知り尽くした相手」

「いつもの天晴くんみたいに、カイルくんが一発逆転することもあり得るってこと……?」


「俺はオーディンじゃないから、グングニルなんて大したもんはできないが……予想そのものは出来る。

 でもなぁ」

「……何よ」


「短い期間だとしても俺は夜宮に剣闘を教えてきた。

 あいつは本当に凄い才能だ。

 だが、あのオーディンが、カイルは不確定要素だと言った。

 こうして試合が始まってしまえば、どちらかが勝ち、どちらかが負ける」

「……」


「夜宮に勝って欲しいが、それは今までの夜宮の奇跡を否定するようで、なんだか、複雑な気分なんだ」

「……格上狩りなんて芸当ができたのは、天晴くんだからの特別な奇跡よ。

 カイルくんには悪いけど、勝利の女神は天晴くんについてるんだから」


 * * *


「うおおおお!!」

「はああああ!!」


 ──シュッ、キン! キィン!


 互いに全力で打ち合っている。

 だが、全力では当たらない。

 どちらかがインパクトの瞬間に力を抜き、威力を流しているからだ。


 少なくとも、剣術という技術面ではカイルは天晴に劣っていなかった。

これは天晴にとって予想外である。


(なんだ!? くそ、カイル相手だからって俺は手加減しているのか?

 当たった時の感触がいつもと違う!)

(へへ、動揺してるな、天晴。今までの俺と一緒にされちゃ困るぜ!

 ここまでこれたんだぜ、俺!)


 ──キィン! キンッ! ピッ。


 徐々に追い詰められていく天晴。


(そうだ、この感覚、あれだ、ランスロットさんと戦った時と似ている。

 打ち合う度に感覚が変わる。それなら、あの時と同じように、いつか必勝の型……攻め手に出てくるはず!)


 一方でカイルには余裕があった。


(とか浅い事考えてんだろうなぁ~、へへへっ。

 こうやってカードを切り替えていけば、違和感の正体を探るために、自分のカードは変えない、いや変えられないだろ天晴。


 これはカードをカシャカシャ入れ替えるのが当たり前な、正道の"バトル"をあんまり見た事がない天晴独自の弱点!)


「くっ!」


 * * *


「凄いなカイルは。

 あの駆動音は聞いた事のない音だが、戦い方からしてテクニカルタイプっぽい。

 苦手とするディフェンスタイプ相手によく戦えている」

「む~、天晴くんのギアがディフェンスタイプなのまで知ってる……」


「当たり前だろ。

 天晴の使うギアはお前が俺達のルートから調達したものだ。

 オーディンがそれを知らないはずがない」

「えっへへ、それもそっか」


(あれ? じゃあ私が流した情報って無意味だった?)


「なんだっけ、リファインディフェンスタイプだっけ?」


「ああ。オーディンが企業に企画書を送って作ってもらったプロトタイプらしいぜ」

「……オーディンって、ホント、何者……」

「政界にもコネがあるらしいぜ、あいつ謎が多すぎる」


「ま、まあ、そのオーディンが企画書を送ったっていうあのリファインディフェンスタイプってどんなギアなの?」

「基本コンセプトはディフェンスタイプらしいが、相当ピーキーに仕上がってるそうだぜ。

 オーディンの話じゃ、ちゃんと使えなかったら旧ディフェンスタイプの方が強いって話だ」


「ウソでしょ!?

 そりゃ店長が"凄く変なギアブレード"なんて言うわけだわ」

「そんな事より見てみろ、カイルが押してる」


 戦いを分析しようと試みる鏑木だが、結論は出ない。


(開始時にはわからなかった僅かな差が、少しずつ広がってきた。


 だが、この差の原因はなんだ?

 カイルが不確定要素すぎるのか、天晴がギアを使いこなせていないのか……。


 決定的な差はないはずなのに、流れがじりじりとカイル有利に進んでいる。


 くそっ、俺がオーディンぐらい頭が良ければこの状況を解説できただろうに!)


「天晴くん、しっかり! 頑張って!」


 ユッコには応援することしかできなかった。


 * * *


(くっ、いつまで経ってもカイルの強さの正体が掴めない!)


(そうやって迷っててくれよ、天晴。

 神威先生、俺、天晴に勝ちます!)


 ──ガキィン!


 

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