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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第肆部
24/37

第24試合 - 新チーム誕生!

「廊下が騒がしいな……。

 オーディン、ちょっと見てくる」

「ああ」


 相変わらずパソコンに向かい続けるオーディンにトールは一瞥いちべつをくれると、廊下を急ぐ生徒を捕まえた。


「この騒ぎはなんだ?」

「誰かが正門側で剣闘してるんだってよ!」


「剣闘だって?」

「じゃっ、俺、見に行くから」

「ああ、ありがとう」


(この大学で剣闘を始める者がいるとは……。

 ラグナロクの管轄だと知ってのデュエルなのか)


「オーディン、誰かが正門の近くでデュエルをしているらしい」

「そうか」


「見に行ってくる」

「ああ、見届けてやってくれ」


「……? 誰がデュエルしてるのか、知ってるのか?」

「予想だがな、ヨルズと誰か……フリッグ辺りだろう」


「そうか……。ヨルズはラグナロクを抜けたがっていたし、フリッグはお前に入れ込んでいるからな……モテる男はつらいな?」

「トール……、俺は今、女に構っている暇はないんだ。

 実力差を見せつけるようにヨルズに勝ってもらって、フリッグには大人しくしておいてもらいたいとすら考えている」


「おいおい、あまりに冷たくないか。

 まあ、確かに勧誘したのは俺だが」

「……フリッグは直情的すぎる。

 あの勢いは強力な武器だが、それだけで突き崩せる程、ヨルズというデュエリストは甘くない」


「確かにフリッグの勢いは凄い。

 昔のナンバーズはもっとお前のファンが並んでいた気がするが、すべてフリッグが蹴散らしてしまった」

「それ自体はフリッグに感謝しているよ。

 女っ気のないチームで申し訳ないが、フリッグのおかげで俺はこうして研究レポートに打ち込む事が出来る」


「それはそれとしても、フリッグというのがな。

 あいつがフリッグを名乗っているのは、悪いが鼻で笑いたくなる」

「あいつなりに北欧神話を知っているのだろう。

 勉強家なのは、いいことだぜ、トール」


「お前は幸せな頭をしているな……」

「それは俺の夢が着実に現実へと向かっているからだ。

 夢を夢で終わらせない、現実へと着地させるぜ、俺は」


(オーディンの作り続けているレポート……。

"剣闘士の可能性と育成理論"、か。

 黒澤が消えた今、バルドル、アーサー、そして夜宮がサンプルか……)


「俺もデュエルを見てくる」

「ああ」


 * * *


「うああああああっ!!」


 雄叫びをあげながら、鋭い飛び込みでユッコの"体"を狙ってくるフリッグのギアブレード。


 いくら打ち合いに弱いテクニカルタイプとはいえ、人体の柔らかい部分に当たった程度ではコアを排出したりはしない。

 フリッグのえげつない攻撃は、その事を当然見越して行われていた。


 ──ギャリギャリ!


「相変わらずね、フリッグ」

「チイッ!!」


 だがユッコも負けていない。

 上手くフリッグのギアブレードに自身のギアブレードのアタックフロントを当てている。


 店長の見立て通り、ユッコはアタックタイプのデュエリストとしては、ほぼ完成の領域にある手練れであった。


「ずっと気になってたんだけど」

「ああ!?」


 呑気に会話するユッコ。

フリッグは会話に付き合うつもりは毛頭なく、鋭い突っ込みから、蛇のように"しなる"攻撃を繰り出してくる。


 ──ギャリギャリ!


「あなた、なんでフリッグなの?

 別にオーディンに愛されているわけでもないのに」

「く、ぐあああああ!!」


 誰も本人の前では触れなかった事実。

 貞淑なる伴侶として語られるフリッグの名は、彼女にはあまりに似つかわしくない。

 それでもフリッグが"フリッグ"を名乗るのは、少しでもオーディンの傍にいたいという願望から成るものであった。


 願望は願望でしかない。

 現実は違う。


 えげつない直接攻撃を仕掛けてくるフリッグに対して、ユッコはえげつない精神攻撃で対応していた。


 フリッグの顔は耳まで真っ赤に染まり、攻撃が単調に、直線的になっていく。


 それを遠巻きに眺める男、トール。


「やれやれ、どんなキャットファイトかと思えば、すっかりヨルズのペースだな」


 半ば呆れ気味にため息をつくトール。


 そもそもナンバーズの能力差は平均的ではない。

 あるレベルを境に、大きく開きがあるのだ。


 それは第3神と第4神の間、そして第5神と第6神の間である。


 第4神であるトールは、逆立ちしても第3神のロキには勝てない事を知っている。

 となれば、彼女達のデュエルの結果も、おのずと導き出されてしまうというもの。


(テクニカルタイプはアタックタイプに対して有利ではあるが、彼女達の実力差を覆す事はできないだろう。

 それこそ、夜宮のようなイレギュラーな存在でもない限り)


「オーディンは私のものよぉぉぉ!!」

「私は、天晴くんの元へ行く」


 ──キィン!! ……ピーン。


 * * *


 ──。


 コンコン、とノックの音が響く。


「入ってくれ」


 扉を開けて研究室に入る一組の男女。


「オーディン」

「トールとヨルズか。

 いや、ヨルズではなく、宮永くんと呼んだ方がいいかな?」


「えへ、そうだね、決めたよ。

 ごめんね。私、ラグナロクを抜けます」


 彼女──ユッコこと宮永みやなが由紀子ゆきこは、脱退に恐怖心を抱いていたのかもしれない。

 それは、あまりにも強大なラグナロクという組織と、そのブレイン、オーディンの存在。


 それでも、堂々と脱退宣言ができたのは、彼女が想う天晴の可能性に賭ける事ができたからだ。


 罵声のひとつも浴びせられるかと覚悟していたユッコだが、オーディンとトールの二人は、柔らかな微笑みをたたえている。


「……怒らないの?」

「どうしてだ?」


 心底疑問に思うトール。

 オーディンが理由を付け足す。


「怒る理由がない。

 塚原日剋の捜索はもちろん、夜宮のデータは十分に集まったし、ラグナロクのナンバーズとしてお前は十分に役目を果たしてくれた。


 ありがとう」


「……!」


 ラグナロクという組織にいながら、オーディンという存在は非常に天高くに座す存在であった。

 何せ、ユッコにしてみれば何を考えているのかわからない。


 それでいて、度量の広さを見せたり、時折すねて見せたり、冷酷になったり、優しさを見せたりする。


 第5神であったユッコですら、対外デュエルでの指揮以外では滅多に話す事がない。

 まさしく天上の主神であるオーディンは謎の存在そのものであった。


 以前、実質的な脱退の相談をした時は、一方的に要求を突きつけ、返事を聞かずに逃げ出した程である。


 そんな謎多き人物からの、思いもよらぬ感謝の言葉。

 思わず瞳が潤んだユッコは、最後にとんでもない置き土産をしてしまう。


「こんなにあっさり送り出してくれるなんて思ってなかったから……。

 ラグナロクの第5神ヨルズとして、最後にひとつだけ、情報を渡しておくね」

「……」


「夜宮天晴の、新しいギアブレードについて」



 * * *



「お疲れ様でーす」

「おう、お疲れ」


 夜9時頃、蕎麦屋とわりは営業を終える。

 およそ1時間をかけて店内清掃に入り、夜10時に閉店。

 いつもの流れ、いつも通りのバイト。


 しかし、ここからは違う。

 ユッコは真面目な顔つきで店長に向き直る。


「店長、ラグナロクを抜けてきました。

 今日からは天晴くんのマネージメントに尽力させてください!」


「……そうか。

 じゃあ、本格的にチームとして動かなきゃな」

「えっ、チームって……」


「天晴、ちょっと出てこい」


 扉から出てきた天晴は酷くやつれており、汗だくの状態であった。

 飲食店には似つかわしくない酸っぱい臭いが天晴から漂う。


「ユッコちゃんが、元いたチームを抜けてきたそうだ。

 そこでだ、俺達で新しいチームを組むべきだと考えている。

 天晴、何かつけたいチーム名はあるか?」

「え……別に、何でもいいよ、そんなの」


「所属としてずっと名乗るんだぞ、ちょっとはかっこつけたいだろ。

 パルテノンとか、ラグナロクとか……いや、あれらはクサすぎだが」

「所属ったって……俺、ずっと蕎麦屋とわりって名乗ってたから。

 あ、チーム蕎麦屋。これにしよう」


「「ええ?」」


 あまりに安直すぎるチーム名に、店長とユッコの声が重なる。


「いいじゃん。所属はチーム蕎麦屋。流派はとわり流ってさ」

「お前さー、ロマンとかそういうの、ないわけ?」


 さすがの店長もドン引きである。


「でも、天晴くんらしくていいかもしれませんよ、店長っ」


「はぁ……。俺が現役の頃はもっと、スペシャルウィーカーズとか、グラスワンダラーズとか、かっこつけたもんだがなぁ」

「店長はセンスが古いんですよ!

 今の時代はシンプルイズベストっです! ……多分」


「シンプルも何も、店の宣伝じゃないか……」


「おじさん、俺、なんか集中切れちゃったから、風呂入って寝るよ」

「ん、明日からはユッコちゃんと俺が指導するからな。

 しごき倒してやるから、覚悟しておけよ」


「……マジかよ」


「寝る前にカードを使うイメージトレーニングを忘れるな。

 イメージが明確であればあるほど、五体ってのは思い通りに動いてくれるもんだ」

「わかったよ」


「天晴くん」

「何、ユッコねーちゃん」


「ただいまっ」

「……? おかえり?」


「えへへ」


 一連のやり取りの意味がわからない天晴は頭にクエスチョンマークを浮かべている。


「かーっ、今のいいやり取りだっただろ。

 お前には本当にロマンってもんがないな」

「いいんですよ、店長。

 それより、明日からもまた、よろしくお願いしまーすっ!」


 

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