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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第参部
19/37

第19試合 - 強襲2

「いやあ、まぐれですよ、ま・ぐ・れ!

 マ~ジ、やばかったですから!」

「いや、あの時は見事だった」


 夜、食卓を囲むカイルと神威は、本日の剣闘について健闘を称え、内容について検討していた。


「このカード、よく使いこなしたな。

 あんな使い方は想定していなかったが」

「渡された時は、びっくりしましたよ。

 大会限定配布のレアカードですけど、使いどころがめちゃくちゃ難しいやつですからね!」


「うむ、この"斥力せきりょく"のカード、よく使いこなした。偉いぞ」

「ギアブレードとギアブレードをくっつけやすくするマグネット、その反対のカードですからね!

 テクニカルタイプ的には、打ち合いは遠慮したいんで、凄く便利そうなカードに見えますけど、斥力を使ってる間は他に攻撃手段がありませんからね!」


「柔道技の大外刈りに繋げたところも見事だった」

「あれはですね! 地面が腐葉土だったから思い切って出来たんです!

 アスファルトだったら、絶対できないですよ!」


 例えどんなに失礼で卑劣な相手だろうと、相手の事をおもんばかるカイルの心根に、神威は感心していた。


「正道のグラディエーターではない、だからこそ柔道技を使うという発想が出てきたわけだな。

 案外、俺達四天王を倒せるような本当に強いグラディエーターは、デュエリストから誕生するかもしれない」


 ふと、自分が神威を倒すシーンを想像してゴクリと喉を鳴らすカイル。


「あ……でも、神威先生って、前回の大会では……」

「ああ、神童と称される天才少年に負けた」


「彼は有望株だ。あの年であれだけの技術を持つのであれば、精神が成熟してくれば相当なグラディエーターになれるだろう」

「でも、俺、あいつあんまり好きじゃないですよ。

 シュンさんに負けた後のインタビューで……」


 ──惜しくも暫定ディフェンディングチャンピオンに負けてしまいましたが、四天王入りの予定はございますか?

 ──チャンピオン以外、興味ないです。

 ──理想が高いですね、次の大会に向けての意気込みをどうぞ!

 ──今回負けたのはカードの差です。もっといいカードを集めて再挑戦します。


「……とか何とか言って、カードのせいにしてましたもん!

 シュンさんのカード選択が見事だったから、隙を晒したクセに。

 そんなの、カードの差じゃなくて、あいつ自身のせいじゃないですか」

「ふむ」


「俺ならこう言ってやりますね!

 今回はシュンさんが上だった。しかし私が劣っているとは思っていない。

 次にやれば私が勝つだろう。キュピーン!」

「おお」


「相手を認めつつも、自分を決しておとしめないのが、かっこいいセリフですよ、くぅぅ!」

「そうか。だがシュンは強いぞ」


「知ってますよ! 俺がシュンさんとやれるわけないじゃないですか!」

「今のシュンには塚原日剋も勝てない。

 シュンだけじゃない、四天王として研鑽けんさんを続けてきた俺達全員、今なら塚原日剋に勝てる」


「なんか、凄いです。雲の上の話を聞いているみたいです」

「すまん、宣戦布告ではない。

 毎日の研鑽を諦めるなという話だ。

 例えば、今回の相手に勝ったという事は、お前にとって大きな意味を持つ事だろう」


「はい、なんたってラグナロクですからね。

 第7神といえばナンバーズとしては最下位ですけど」

「お前がここで満足してしまえば、お前の成長はここで終わる。

 俺達が日々成長しているように、お前も成長を続けるんだ」


「いつか神威先生とも戦えるようになりますかね?」

「俺とやるのはやめておけ。

 通常、テクニカルタイプはディフェンスタイプに勝てないというのが定説だ」


「はい、知ってます。

 昔、分布図を取った事があって、大会出場者のタイプを見たんですよ。

 そしたら圧倒的に多いのが、ディフェンスタイプで、次にアタックタイプ。

 テクニカルタイプなんてほとんどいませんでした」


「それはよく調べているな。

 ディフェンスタイプはテクニカルタイプ相手だと通常、圧勝できる。

 苦手とするアタックタイプにも、上手く立ち回れば、勝てなくはない。

 一言で言えば、万能」


「ですよね、だから俺も最初はディフェンスタイプを買おうとしたんですけど」

「使用者の多いディフェンスタイプに有利に立ち回るため、アタックタイプの使用者が次に多い。

 これには、テクニカルタイプが難しいギアブレードであるから、という理由もある」


「……はい」

「お前の強みは、そのテクニカルタイプを持っていることだ。

 ギアブレードの性能にらない部分で、お前は優れた使い手になる必要がある」


「はい」


「……明日からは、次の段階の修行へ進むぞ。

 基礎練習を続けつつ、俺の流派……神威気功術を教える」



 * * *



「なんだ、天晴……フられたのか」

「違うよ……なんでそうなるんだ」


「えらく落ち込んでるからな。

 ま、若い時の経験は後々役に立つ」

「……そういう事じゃないんだけどな……」


『次は私が相手をするわ。

 円卓の騎士のリーダー、アーサーとしてね』


(翔さん……悪いけど、俺、翔さんとは戦いたくないよ……)


「ああそうだ、ギアブレード、メンテしてやるよ」

「多分、今回は大丈夫。体張って守ったから」


「体ぁ? お前な、ギアブレードなんて壊れるもんなんだから、気にせず壊して来いって」

「嫌だよ……これ、おじさんのだし」


「もうほとんどお前のもんだろ。

 俺は振らないし、使ってもらった方が、ギアブレードも喜ぶ」

「そんなもんかな……いてて」


「なんだ、腹、痛めたのか」

「もしかしたら、あばらイってるかも」


「ギアブレード守ってあばら折ってちゃ、命がいくつあっても足りないぞ。

 おっと、そういや、さっきユッコちゃんがお前を探しにきたぞ」

「ユッコねーちゃんが?」


「珍しく慌ててたなぁ。

 日が落ちるまで神社にいるって言ってたから、早く行ってやれ」

「うーん、あんまり気が進まないけど、行ってくる」


「おう、帰りに病院に付き添ってもらえ」

「え、でも、病院代が……」


「まーだそんな事言ってんのか、お前が無事ならそれでいいんだよ。

 どうしても気にするなら出世払いしろ」

「う、うん。ありがとう、おじさん」


 すぐに踵を返し、店を出る天晴。

 店長は、困ったようにため息をつく。


「……モテる男はつらいねえ」


 * * *


 日の落ちかけた夕暮れの神社。

 角度によっては痛む脇腹をかばいながら、天晴は進む。


 境内けいだいに入ると、見慣れた後ろ姿があった。


「ユッコねー……ちゃん」


 見慣れた姿の女性は、見慣れないものをその手に抱いていた。


「どうしたの、それ。

 おじさんから聞いたんで、来たけど」

「天晴くん。

 もう一人前のデュエリストになった君なら、これを見たらなんとなくわかるよね」


 ユッコの手に握られたもの、それは機械の剣だった。

 かつて天晴が、オモチャと呼んで馬鹿にしていたもの。


 ギアブレード。


「まさか、ユッコねーちゃんまで、俺とバトルしようなんて言うんじゃないよね」

「あ、ごめん。威嚇いかくのつもりじゃなかったんだ。

 これ持ってた方が、伝わりやすいかと思って」


 どうやら懸念は違ったようだ。

 大体、剣島の住民のほとんどはギアブレードに触れた事があるのだ。

 天晴が心配するほど、バトルやデュエルなど頻繁に起こらない。


「ユッコねーちゃんもギアブレード好きなの?」

「私の場合、好きなんて気楽なもんじゃないかなぁ」


「ガチなかた?」

「うん、ガチなほう」


 普段通りのゆるゆるとしたやり取りなのに、嫌に漂う緊張感。

 これから起こる事を予感するように、背筋が冷える。


「……それで、俺に何の用なの?」

「天晴くん、うちのデュエリストチームに入らない?」


 また勧誘か。

 円卓とのやり取りで、疲弊していた天晴はチームへの勧誘を前向きに受け取る事はできなかった。


「チームに入る気はないよ。

 昔より真面目に取り組んではいるけど、そんなにガチでやる程ハマってるわけでもないんだ」

「そうなの……。

 えとね、チームに入ると、色々いい事があるんだよ。

 バックアップも受けられるし、仲間もできるし」


「そう言う事じゃないんだ、ユッコねーちゃん。

 なんていうか、チームに入るって事はさ、チームの意思に従う必要が出てくるじゃん?

 俺は俺の意思でやりたいんだよ」

「大丈夫、うちのチームは自由にやらせてくれるよ。

 特に指令みたいなのも、あんまりないし」


「ごめん、ユッコねーちゃんのチームがどんなチームなのか知らないけど、本当に興味がないんだ」

「うう……どうしてもだめ?」


「……」


 なぜここまで執拗しつように勧誘するのだろうか。

 ユッコが天晴を気にしているという事に関係があるのだろうか。

 はたまた、天晴の名声を利用しようとしているのであろうか。


 いずれにしても、天晴の気持ちはチームに入る事に微塵みじんも興味を抱かなかった。


「……」


 ユッコがぎゅっとギアブレードを抱きしめる。


「誘ってくれたのは嬉しいよ。

 ユッコねーちゃんと一緒なら楽しいかなって気持ちもある。

 でも、チームって存在に、どうしても今、いいイメージがもてなくてさ」

「天晴くん、いろんなチームに狙われてるもんね……。

 だからこそ、うちのチームで、守ってあげたいって思ったんだ」


「ユッコねーちゃん……」

「これね、この勧誘って、私が独断でやってるの。

 後でチームの偉い人に怒られるかもしれないけど、天晴くんが来てくれたら嬉しいな……」


 日の落ちかけた神社である。

 天晴からは逆光でよく見えなかったが、ユッコの瞳には雫が浮かんでいた。


 いつもとは違う、あまりにしおらしいユッコの言葉に、少しだけ天晴の興味が動く。


「その、ユッコねーちゃんのチームって?」

「うん、結構有名だから知ってるといいんだけど」



    ──ラグナロク。



 * * *


 夜のとばりが降りた神社。

 既にユッコは去り、天晴は一人、石段に座り込んでいた。


 ラグナロク。


 カイルから噂は聞いた事がある。

 剣島で最強のチームと言えば、ラグナロクが筆頭に上がる。

 次いで円卓の騎士、パルテノンであると。


 円卓の誘いは断り、パルテノンについては完全勝利した。

 そもそも、これがいけなかったのだろう。


 パルテノンの下っ端、塚原日剋に勝利したことで、パルテノン本体が動き出してしまった。

 そこで負けておけば話は済んでいたはずなのに、店を人質にとられて戦わざるを得なくなった。


 そして、勝った。

 必要もない名声が上がった。


 すると最強格のチームからお呼びがかかった。

 つまり、もう天晴は、剣島では無視できない一大剣闘士として、見られているということである。


(……翔さん)


 頭に浮かぶは、熱に侵された彼女の顔。


『次は私が相手をするわ。

 円卓の騎士のリーダー、アーサーとしてね』


「くそ……そんなに剣闘が楽しいのかよ」


 天晴が剣闘によって得たものは多い。

 同時に、失ったものも大きい。


『ただし、強くなれば敵が増える』


(おじさんの言った通りだった……。なんかもう、めんどくさいや……)


 自暴自棄になりかけた、その時だった。



(誰かが、石段を上がってくる。

 子供か? なんか黒いマント来てて、ちょっと痛々しい奴だな)



 最初に抱いた感想はそんな程度だった。

 だが、距離が近づくにつれ、天晴の体が震えだす。


(なんだ……身体が、震える。

 一体、何が……この子供、何者なんだ……!?)



「上がれよ、夜宮天晴」



(俺を、知ってる……!? デュエリストか……!)


 全てを憎悪し、全てを下に見るような、高圧的な目線が、身体を射抜く。

 ただの子供ではない。

 今までに感じたことのないオーラを、その子供は纏っていた。


 逃げ出す事も、逆らう事もできず、再び境内に入る天晴。


 ──ギュイィィィン!


「さっさと構えろよ」

「……」


 ──クゥゥゥン!!


 危険だ。この子供は普通じゃない。

 それをわかっていながらも、気圧けおされた天晴はギアブレードを駆動させるしかなかった。


「僕はラグナロクの第3神、ロキ。

 流派は白虎心陰流」


「ら、ラグナロクだって?

 ユッコねーちゃんが誘ってくれたチームじゃないか!」


「ユッコ……?

 知らないね。それにお前をチームに誘うなんて話、聞いてない。

 僕はオーディンが気にかけているというお前の腕を試しに来てやったんだ」


(そういえば、ユッコねーちゃんは勝手に俺を誘ってるって言ってたな……)


「それより、剣闘するのに名乗らないのはどうなんだ。

 いくらなんでも失礼じゃないか」

「あ、わ、悪い。

 俺は無所属の夜宮天晴。

 流派は、蕎麦屋とわり」


「知ってるけどね。いくよ、剣闘開始!」


 ──ピッ。 ダッ!!


 全てが一瞬だった。

 剣闘開始という言葉を言い終わるや否や、何らかのカードが挿し込まれ、2メートルはあった距離が一瞬で詰められた。


(えっ)


 突然目の前に現れたギアブレードに、反射的にギアブレードで対抗しようとしてしまう。


 そして。


 ──バキッ。


 ──クゥゥゥ……ゥゥゥン……。


 ピーン。


「……あ、あ」


 砕けた。


 

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