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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第参部
18/37

第18試合 - 強襲1

「魚と山菜の味噌汁だ」

「うひょおお、美味そうです!

 でも、たまには米とかパンとか食いたいです」

「……考えておく」


 カイルの修行は中盤を迎えていた。

 山籠もりで集中的な特訓を受け、カイル本人も気付かぬ程に、その成長は目覚ましいものがあった。


 そんな中、お呼びでない来客が訪れる。


「楽しそうですなぁ、俺も修行仲間に加えてもらえませんか」


「何者だ」


(……だ、誰だ? ただものじゃないオーラを感じる。

 今までになかった感覚だ、背筋がピリピリする)


 実力のついてきたカイルは、剣闘士の実力を肌で感じる事ができるようになっていた。


「こぉんなところに隠れ住んでるなんて、水臭いですよ、神威さん。

 ディフェンスタイプ使いは、みんなあなたに憧れてるんですから。

 こんなガキ一人に構うなんて不公平ですよ」

「それはお前が決める事ではない」


 一触即発。

 これまでにない神威の警戒する姿に、カイルは恐怖にも似た、うすら寒いものを感じていた。


「いぃいですよ、デュエっても。

 鉄壁の神威ディフェンスを打ち破れるか、同じディフェンス使いとしては興味があるんです」

「お前を相手にする時間はない、修行の邪魔になる。お引き取り願おう」


「へぇ、じゃあそっちの修行中のカレにお相手願おうかな?

 四天王、神威に稽古つけてもらってるんだ、少しはやるんだろ?」

「えっ、あ、いや、俺は、まだ、全然まだまだで……」

「カイル、相手にするな」


「いいじゃないか、せっかくこんなへんぴな場所まで来たんだからさ~、神威仕込みのディフェンス、見せてくれよ、な?」

「い、いや、俺、ディフェンスじゃなくて、テクニカルタイプだし……」


 余計な事を口にするカイルの軽口は治っていない。


「テクニカルだぁ!?

 てめ~、なんでテクニカルなんてお門違いの奴が、神威の稽古受けられんだよ!!」

「ひぃぃ、そ、それは友達の、ツテで……」


「チッ、どんな業界も結局はコネかよ!

 まぁいいわ、てめ~は気に食わね~。

 だから、この場でゴッ倒す!」

「ひぃぃぇぇぇ、か、神威先生~!」


 神威は悩んでいた。


 このままではカイルは勝機の薄い戦いに身を投じる事になる。

 敗北すれば、それはカイルの心を折ってしまう事にもなりかねない。

 また、修行にも遅れが生じる。


 かといって、自分が相手をするわけにはいかない。

 これでも剣闘界の頂点の一人、四天王である。

 野良デュエルを受ける事は、グラディエーターとして許されざる行為であった。


 ならばいっそ、修行を受けさせるか?


 いや、と神威はかぶりを振る。

 神威の見立てでは、この使い手は相当な域にあると推察していた。


 率直に言って修行の必要がないのだ。

 さらに、神威の修めた流派の感性が、彼を否定していた。


("気"が汚れている。邪悪なデュエリストだ)


「やめろ。お前ほどの使い手ならわかるはずだ。

 彼は未完成であると。

 そんな相手に勝ったところで、お前が得るものは何もない」

「それはあなたが決めることではなぁい」


 神威を相手に、心底バカにした表情で、その男は言い放った。


「……」

「おっと、勘違いするなよ?

 先に言ったのはそっちだぜ、神威センセ♪」


 鋼の意思を持つ男、神威はこの程度の挑発に乗る男ではない。

 しかし、恩師をコケにされて黙っていられない男が近くにいた。

 いや……いてしまった。


「お、お前! いい加減にしろよ!

 神威先生、俺、やりますよ。

 こんな奴に負けたら、それこそ先生に教えてもらう資格なんてないと思います!」

「カイル」


 カイルの憤りを嬉しく思うと同時に、大きな危機感を覚える神威。


「……決めに行く時は、これを使え」


 苦肉の策として、一枚のカードをカイルに投げ渡す。


(えっ、これは……)


 予想外のそのカードに、一瞬身が強張るカイル。

 だが、その希少なカードを使わせてもらえる、という事実にカイルの剣闘士としての心は歓喜に満ち溢れていた。


「おんぶにだっこってか~、甘やかされて強い剣闘士が育つのかね?

 ま、相手しろや」


 ──ゴゴォォォォ……!

 ──ヴァヒュゥゥゥ!


「俺はチーム・シャングリラのカイル=エアシュート!

 流派は神威先生流!」

「俺はチーム・ラグナロクの第7神、シグルズ。

 流派は玄武水湖流だ。こいよ、小僧」



 * * *



 ──ゴッッッ!!!


 鈍い音が多目的ホールに広がる。


「何っ!?」


 天晴の咄嗟とっさの行動に驚愕したのは他ならぬランスロットであった。


「ぐあっ! ガハッ! げほげほっ!!」


(なんて威力だ、あばら骨が折れたかもしれない……!

 息が、苦しい!)


「まさか、ギアをかばって体で受けるなんて……。

 なんて無茶をするの、天晴くん!」


 天晴は起き上がれない。

 だが、ランスロットも居合の構えを解くはしない。


 天晴のダメージは、戦闘不能になるほどではないと察知していたからだ。

 居合の構えのまま、すり足で少しずつ距離を詰めていく。


(気の毒だが、そういう選択をしたのはお前自身だ。

 次は間違いなくギアを叩く)


「このギアブレードは……おじさんのギアブレードだから……壊すわけにはいかない」


 立ち上がる天晴。


 ──クゥゥゥン!


 天晴の心に呼応するように、唸りをあげる天晴のギアブレード。


(……でも、今ので少しわかったぞ……。

 相手のギアブレードには、堅い部分と、そうでない部分があるみたいだ。

 攻撃用のブレード部分と、それを支える支柱のような部分に分かれているんだ、多分)


 鋭い目つきのまま、居合の構えで近づいてくるランスロット。


(あの構えは、そのブレードの弱い部分を隠すと同時に、強い部分で確実に相手のギアブレードを叩くっていう、理に適った高等技術なんだ……!

 凄い、凄いデュエリストだ!)


 相手の実力を推し量り、素直に感嘆する天晴。

 邪念が消え、純粋に相手の強さを見据えた今だからこそ、勝機は見いだされる。


(……つまり、支柱部分があのギアブレードの弱点!

 そこを叩けば、俺にもチャンスはある!)


 ──クゥゥゥン!!


「天晴くんが飛び込んだ!?

 ダメよ、それじゃまた居合で迎撃される!」


(見えているぞ、夜宮……!)


「うおおおおっ!」


(射程圏内!)


「天晴くん!」


(見えるぞ夜宮、お前のやろうとしている事が!

 このアタックタイプの弱点を突こうとしている事が!

 だが、俺は確実にアタックフロントでお前のギアを叩く!


 ……ここだ!)


 ギュルッ!


(何ッ、距離が!)


(おじさんから教わった歩法で、僅かに距離を開けた!

 これでポイントがずれたはず!)


(なめるな、俺とて円卓のランスロットだっっ!!)


 強引に当てに行くランスロット。

 そのランスロットのギアブレードを"後ろ"から叩く天晴のギアブレード。


 ──ピーン。


(……!)


 ──ウワァァァァ!!


 ギャラリーから歓声が上がる。


 ──ランスロットが! 円卓のナンバーツーが負けた!!


「……見事だ、夜宮。

 あんな回転攻撃、予想してなかった」


「そんな事ないです……。

 あんな凄い居合を見せられたから、あなたの強さを理解できたっていうか……。

 とにかく、さすがでした。"ランスロットさん"」


 ──クゥゥゥン!!


 天晴のギアブレードも勝利の咆哮を出している。



「ランスロット……」


 天晴が勝った。

 天晴が勝つ事を望んでいた。

 なのに、彼女は不思議な気分だった。


 なぜあの場にいたのが自分ではないのか。

 なぜあんな熱いデュエルに自分は参加できなかったのか。


 一人の女性としてよりも、一人のデュエリストとして、彼女の心には熱い炎が燃えたぎっていたのである。

 その熱に体を動かされた彼女は、自然と天晴の元へ歩き出していた。


「天晴くん」

「か、翔さん」


「一応聞くけど、どう? 円卓の騎士に入る?」

「い、いえ、申し訳ないんですけど、俺、どっかのチームに入る事は考えてなくて……」


 その返答に不敵に笑う"アーサー"。


「そう、良かったわ。

 同じチームだったら、こんな本気のデュエルは、できないもんね?」


「か、翔さん……?」


「次は私が相手をするわ。

 円卓の騎士のリーダー、アーサーとしてね」



 * * *



 シグルズの居合の構えは鉄壁であった。


 どのように近づいても迎撃され、遠距離攻撃のカードで攻めれば、逆に押し込まれる。

 静と動の切り替えが、あまりに俊敏であった。


 カイルに残された希望は、神威から受け取った、あのカード……。


(でも、どうやってあんなカードを使ったらいいんだ)


「ど~したぁ、亀のように縮こまっちゃってよ」

「か、亀のように縮こまってるのはそっちだろ!」


「いやいや、燕のように突っ込んでいってやってるでしょ?」

「く……!」


 確かに攻め込んでくる瞬間はある。

 だが、それはカイルが必ず反撃できないタイミングだ。


 技量、戦術、すべてに置いて相手が上。

 カイルの心は折れそうになっていた。


(やべえよ……こんなの勝てっこない)


 ギアブレードを握りしめる手から力が抜ける。


 すべてに置いて相手が上……否。

 勝っている点はいくつかあった。


(せっかく親父にギアブレードを買ってもらったのに……)


 それは、神威の指導を受け、カイルが頭角を現し始めていること。

 次に、他の追随を許さない最新式のギアブレードを所持していること。

 そして、神威から受け取ったレアカードの存在である。


 それだけではない、カイルに勝機は残されていたのだ。

 そう、彼のライバルがそれを武器に、勝ち続けてきたように、未完成ならではの武器がひとつ、存在する。


 それは──。


(天晴、お前はこんなデュエルを何度もこなして来たんだよな。

 改めて、お前の凄さがわかった気がする)


「……」


(神威先生、見ててください。

 俺、なんとしてでも勝ちます。

 グラディエーターじゃない、デュエリストだから!)


 進化。


 ──ピッ。


 カイルが自分のギアブレードにカードを通す。


(このアドバンスドテクニカルタイプは、カードを挿し込む従来のタイプと違い、カードをスキャニングして効果を発揮する。

 従来と違って、挿し込む必要がないだけ、片手がすぐフリーになるっていうメリットがある)


(カードを変えたか……へっ、何をしてこようと無駄だ。

 変な音がするギアだが、ぶつかってみれば、ただのテクニカルタイプのギア。

 何にもビビるこた~ねえ。


 なんたって、玄武水湖流の防御は一流。

 ディフェンスタイプが、防御に長けた流派を習う事で、その防御力は完璧に近いものになる、ってオーディンが言ってたしな)


 シグルズは気付いていない。

 自分が普段よりも圧倒的に不利な状況で戦っている事を。


 事前情報もなく、グングニルの知見もなく、ただ格下と見た相手をなぶるつもりでいる傲慢ごうまんさ。


 ラグナロクの第7神、シグルズ。

 彼は今までの勝利に重要だったものを全て捨て、カイルとのデュエルに挑んでしまっていた。


「うわああああ!!」

「ここだぁぁぁ!!」


 テクニカルタイプなど、ブレードの耐久値の低いギアブレードは、ディフェンスタイプの重量の乗った一撃で、簡単にコアを排出する。

 今度の一合も、予定調和だった。

 少なくとも、シグルズの中では。


 ──グンッ!!


 ギアブレードとギアブレードが触れ合う瞬間、突然シグルズのギアブレードが重くなる。


 ──ガチッ。


 剣戟というにはあまりに優しいブレード同士のフレンチ・キス。


(チッ、浅い!)


 振り切る為により大きな力を加えた。


 これが、決め手となった。


 カイルがギアブレードを手放し、行き場を失ったシグルズのギアブレードは、その力のかかるまま腕ごと振り切ってしまう。


「うおおおおお!」

「何いいいい~!?」


 さらに、その腕を掴まれ重心のバランスを崩したシグルズは、カイルの大外刈りをもろに受け、投げ倒された。


 ──ピッ。


「とどめだぁぁぁ!」


 シグルズが面食らっているうちに、地面に投げ出されたシグルズのギアブレードをカイルが一閃する。


 ──ピーン。


 

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