表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女の思惑 女性護衛騎士の憂鬱  作者: 樫本 紗樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/70

学習方法の提案

 スカーレットとグレンのメイネス語講座は、二人の仕事が終わる夕方に行われている。基本的にエミリーかアレクサンダーを講師として学んでいるが、今日は二人でやろうとグレンに誘われて、スカーレットはそれを了承した。二人は机を挟んで向かい合って座っている。

「レティ、メイネス王国の歴史は知っている?」

 突然のグレンの質問に、スカーレットは首を横に振る。何故メイネス語を覚える所に、歴史の話が出てくるのか彼女にはわからない。

「レヴィとガレス、シェッド関係、ケィティなら学んだけれど」

 スカーレットの回答にグレンは驚く。彼はリチャードの学友として同じ教育を受けているので、自国だけでなく近隣諸国の歴史も学んでいる。しかし彼女は王族の誰かと一緒に学んではいない。完全に独学であるが、彼女の両親は歴史が好きなので読む書物に困らなかった結果だろう。

「急に言葉を学ぶよりも、メイネス王国の歴史書を読みながら覚えるのはどうだろうと思って」

 そう言いながらグレンは一冊の本をスカーレットの前に置いた。レヴィ王国とメイネス王国は国交があるとはいえ、それ程深い繋がりはない。その為にレヴィ語で書かれたメイネス王国の歴史書は存在しない。また、メイネス王国では地位のある者でなければ書物に触れる事もないので、そもそもの書籍の数が違う。

「これはどうしたの?」

「リックが取り寄せた物を借りてきた」

「借りていいの?」

「レヴィ語に翻訳したものを渡すと伝えてある」

 リチャードもメイネス語を覚えようとしているが、彼は元々公務で忙しい。しかも婚約が整ったので、王太子としての地位を固める為にエドワードから執務内容の変更が入っている。翻訳されていない書物を読む時間を捻出するのは難しい状況だ。それを知ったグレンが丁度いいとばかりに借りてきたのである。

「そしてこれはライラ様が辞書を作った時の原稿だ。辞書は図書館に収められていて貸出不可だったから、母上から借りてきた」

「エミリーが保管していたの?」

「ライラ様が不要と言っても母上が必要と判断したものはハリスン家に保管してある」

 グレンの言葉にスカーレットは怪訝そうな表情を浮かべた。エミリーのライラ至上主義は有名なのでありそうな話ではある。しかしいくらハリスン公爵家の屋敷が広いとはいえ、その家門に属さない者の品を保管しているのはいかがなものだろうかと思ってしまったのだ。グレンはそんなスカーレットの心を表情で察して微笑んだ。

「全ては保管していない。基本書類だけだ」

「母は何冊も辞書を作っているから、書類だけでも結構あると思うのだけれど」

「最終原稿だけだからそれ程でもないよ。メイネス語でこれくらいだから」

 グレンが置いた書類の束は確かにそれ程の量はない。レヴィ語の辞書の厚みを考えると、全ての言葉を網羅していなさそうな感じである。

「この量で翻訳出来るの?」

「わかる範囲でやってみよう。そもそもメイネス語を覚えても実際は使わないと思わないか?」

 グレンに尋ねられスカーレットは答えに困る。近衛兵としての命令に彼女は従っているだけだ。兵長オリバーからもエドワードは色々な可能性を考えていくつも手を打つから、途中で中止になる任務もあると聞いている。それでもいつどこに繋がるのかわからないので、任務を受けない選択肢はない。

「使わないかもしれないけれど、役に立つかもしれない」

「言語の成り立ちは追及すると面白い。歴史的な背景も見えてくる。そういう面から学ぶ方がいいと思う」

 レヴィ王国で暮らす限り、他の言語はまず使わない。十以上の言葉を操るライラでさえ、エミリーとの会話を除けばレヴィ語ばかりだ。レヴィ王国に来る者は基本的にレヴィ語を覚えてくるのである。パウリナもそれは例外ではない。過去にレヴィ語を覚えてこなかった故に貴族達から馬鹿にされた王妃がいる以上、パウリナも必死になって覚えてくるだろう。

 しかし、グレンもエドワードが無駄な命令をするとは思えない。それで彼なりにスカーレットがメイネス語を学ぶ必要性を考えた。そして思い当たったのが、メイネス語を通してメイネス王国を知る事。

 パウリナが嫁いできた後、公爵夫人としてアリスが支える話は既に固まっている。もう一人側に置く女性としてスカーレットが選ばれた。王家の血を継ぐ女性が両脇に居れば、たとえ面白くないと思っている貴族でも簡単に悪口など言えない。

「歴史的背景?」

「アレックスから聞いたのだが、公国語とメイネス語は元々同じ言語が歴史と共に変化している。それでも変わっていない部分もあって、レティならそういう所に楽しさを感じられる気がしたから」

 グレンの説明を受けて、スカーレットは確かに面白そうだと思った。最初は挨拶からと言われて簡単な挨拶は覚えたものの、ゆっくりとしか進んでいない。よほどパウリナがレヴィ語を覚えて嫁いでくる方が早いのではないかと思っていたほどだ。

「私の為に学習方法を考えてくれて嬉しい」

 スカーレットは笑顔を浮かべた。グレンも嬉しそうに微笑む。

「母上からも別途学んで、かなりメイネス語を理解出来るようになった。だからこの本を翻訳しながら、暫く二人で学んでみないか」

「二人で?」

「せっかく二人になれる機会だからね」

 グレンににこやかにそう言われ、スカーレットは反応に困る。以前彼と誠実に向き合うと言ったのは嘘ではない。耳飾りも飾り紐も毎日身に付けている。それでもメイネス語を覚える事に重きを置いてしまっていて、彼に対する気持ちは未だに前に進んでいなかった。

 グレンは立ち上がると椅子を持ち上げた。本当はスカーレットの横が良かったが、あえて斜めの位置に置き直して腰掛ける。彼女の気持ちがまだ自分の方に向いていないのは、彼も感じていた。

「母上は歴史に興味がなく、アレックスはすぐに話が逸れる。二人の方が捗るだろう」

 グレンの言葉に、スカーレットは先程と違って素直に頷いた。エミリーは恋愛や噂話は好きだが、歴史には関心を示さない。アレクサンダーはメイネス語を教えているはずなのに、違う言語を使い出したり、リチャードの話になったりする。スカーレット自身の言語の苦手意識もあっただろうが、ゆっくりとしか進んでいないのは他にも原因がある気もしていた。

「レヴィ語に翻訳という形を取る事で、表現の違いなども感じられると思う」

 そう言って、グレンは持ってきた歴史書を開き、最初にメイネス語で音読した。その後で辞書の原案から単語を拾い、それを繋ぎ合わせて文章を作っていく。そして出来上がったレヴィ語を読んだ後で、もう一度メイネス語を音読する。

「細かい文法などはとりあえず置いておいて、雰囲気を掴むのが先かな。言葉を覚えておくと、ある時ふっと聞こえるようになるから」

「そうなの?」

「私はそうだった。個人差があるから絶対とは言い切れないけれど」

 今までとは違う学習方法だが、グレンがスカーレットの為に考えてくれた方法である。それにレヴィ語とメイネス語の同じ文章を連続で聞くのは、今までよりも頭に入ってくるような気がした。

「わかったわ。暫くこの方法で学んでみる」

 スカーレットは微笑んだ。グレンも微笑むと、歴史書の翻訳を二人で少しずつ進めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Web拍手
拍手を頂けると嬉しいです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ