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王女の思惑 女性護衛騎士の憂鬱  作者: 樫本 紗樹


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第二王女の茶会

「公務はとても奥が深かったわ」

 ヨランダは紅茶を口にした後で呟く。アリスの命令で公務の様々な資料がヨランダの部屋に運び込まれ、担当部署から説明要員が派遣されて説明を受けた。ヨランダの侍女をしている侯爵令嬢三人とスカーレット同席のもとで、エドワードが推薦した男性が説明をしたのだが、ヨランダは色恋など考えるのをすっかり忘れていた。

「貧富の差は難しい問題よね」

 ヨランダ主催の茶会にはグレースとケイト、そしてスカーレットが招かれていた。幼なじみだけなので敬語厳禁となっている。アリスは新居で使用する家具を選定する為にエドガーと行動を共にしているので、今日のスカーレットは近衛兵の軍服ではなくワンピースを着ている。

「児童養護施設に寄付を増やせばいいという問題でもなくて、頭が痛いわ」

 ヨランダは単純に運営費を増やして生活を改善すればいいと思っていた。しかしその資金がどこから出るのかという話を事細かく説明され、更に家族が揃っていても生活が苦しい人々の話、税金の話など、アリスから公務を引き継ぐだけだと思っていたのに国家運営の話までされて、彼女は疲れ切っていた。

「お父様はお母様を偏執的に愛している変わった人くらいに思っていたけれど、結構すごい人だった」

「陛下の評価が良くなったのなら良かった、のかしら?」

 ヨランダの父に対する評価が案外悪かったのをグレースはどう受け止めるべきか悩む。アリスがエドワードを嫌がっているのは知っているが、ヨランダとエドワードは仲が良いと思っていたのだ。

「陛下は全ての法案に目を通すし、国全体を見ているわ。暫くレヴィ王国は安泰だと思う」

 この中で唯一エドワードの下で働くスカーレットが発言をする。彼女も母親の影響で男性としてのエドワード評価は決して高くない。しかし国王としては賢明としか言いようがなく、宰相ウォーレン・ハリスンとの息も合っている。

「私がやらなくてもお父様が何とでもしてくれるのよ。それに今から始めてしまうと婚期を逃しそうで怖いの」

「補佐の三人と顔合わせをしたのでしょう?」

「したけれど、真面目に話を聞き入ってしまって仕事以外の話を聞いていないの」

 ヨランダの答えにグレースは微笑む。元々アリスと比べられたくないと言って逃げていた割に、やると決めたら真面目に取り組む姿勢が微笑ましかったのだ。

「全部引き受けるの?」

「うーん。児童養護施設はやるけど、他は難しいかも」

「次の児童養護施設訪問は私も一緒に行っていい?」

「グレースも興味があるの?」

「領地の児童養護施設との差を知りたくて。いい案があれば採用したいわ」

 楽しそうに話すグレースにヨランダは首を傾げた。スミス家の当主夫妻は年中王都にいるが、それは現在次男夫婦に領地を任せているからだ。

「スミス領はスティーヴィーが代理領主をしているのではなくて?」

「アリスの結婚式に出席した後は、領地へ行こうと思っているの」

「急にそのような事を言わないでよ。お姉様が嫁いでグレースまで王都を離れたら寂しいわ。ねぇ、ケイト」

 ヨランダはここまでずっと黙っていたケイトに話を振る。しかしケイトは心ここにあらずで、何を話しかけられたのか聞いていなかった。

「あ、ごめんなさい。何?」

「ケイト。どうしたのよ」

 ケイトが話を聞いていないのは珍しい。ヨランダだけでなくグレースとスカーレットも心配そうにケイトを見つめる。

「たいした事ではないの。ごめんなさい、何の話?」

 ケイトはそう言うものの表情は浮かない。ヨランダは睨むような視線を向ける。

「まずはケイトが話すべきだわ。その様子では絶対頭に入らないもの」

 ケイトは助けるようにグレースに視線を送るが、グレースも頷きながら話せと視線で訴えている。ケイトは小さくため息を吐いた。

「母と兄が私に婚約の話を持ってきたの」

「ミラとジミーが選んだのなら間違いない人なのでは?」

「わからない。詳しくは聞いていないの」

 ケイトは俯いた。彼女もいくらグレンを想っていても叶わないだろうとは感じている。そしてそれを兄ジェームズが察している気もしていた。しかし他の人と結婚など考えられない。

「ジミーはいいけれど、ミラ様を困らせてはいけないわ」

 グレースは諭すようにケイトに言う。グレースの母フローラは少々難があり、ケイトの母ミラが近くにいるからこそ公爵夫人として振舞えているとグレースは思っている。故にグレースにとってミラは第二の母のような人だ。そしてジェームズはわからないが、ミラなら娘の結婚相手に妙な人を選ばないと思えた。

「それはわかっているけれど」

 ケイトは不満そうにスカーレットを見る。スカーレットは戸惑いながらもその視線を正面から受け止めた。アリスの部屋で会って以来なので気まずいと思いながら参加したのだが、スカーレットの気持ちはあの時より前を向いている。

「レティの従兄弟に当たる人らしいのだけど聞いている?」

 ケイトの言葉にヨランダとグレースはスカーレットを見つめるが、スカーレットは何も聞いていない。スカーレットの父方の従兄弟ならリチャードの弟達だが、それならこのような言い方はしないだろう。母方の従兄弟となると結構な人数になる。

「母の妹は王家に嫁いでいるのだけれど、まさかガレス王家?」

 スカーレットの言葉にグレースとヨランダはケイトの顔を見る。しかしケイトは首を横に振った。

「ライラ様の生家と聞いたわ」

「それなら将来の公爵夫人ね。言葉の壁もないし、良い話なのではないの?」

 ヨランダの言葉にケイトは曖昧な表情を浮かべた。元々レヴィ王国とガレス王国は同じ国だった為、それ程遠くはない。特にライラの生家であるウォーグレイヴ公爵家はレヴィ王国との国境に土地がある。それでも知らない人だらけの知らない土地へ嫁ぐというのは受け入れ難かった。

「アレックス並みに格好いいかもしれないのよね。ケイトが嫌なら私が話を聞きたいわ」

 グレースは本心でそう言った。国内の嫁げそうな男性は全員把握しているが、結局この人だと思える人がいなかったのだ。ガレス王国は他国ではあるが言葉の壁はない。顔が好みならばいい話だと思ったのだ。

 しかしスカーレットは微妙な表情を浮かべた。彼女はガレス王国にいる従兄弟とは面識がない。だが一人だけ面識がある男性がいるのだ。

「もしかしてサージ?」

「名前は憶えていないわ」

「レティ、その人は格好いいの?」

 グレースはわくわくした表情でスカーレットを見つめる。スカーレットはケイトの結婚相手の話ではなかったかと思いながらグレースを見る。

「どちらかと言うとレヴィ王家寄り」

「どうして?」

「母の曾祖母がレヴィ王女だから、かしら? ただ、サージなら公爵家を継がないわ。母の甥だけれど国立大学で教授をしているもの」

 スカーレットの言葉に三人の目が点になる。他国の留学生は珍しくなくなったとはいえ、公爵家の人間が大学に入るのは珍しいのだ。

「爵位がないの?」

「ガレスでの爵位は知らないけれど、レヴィに骨を埋めるつもりらしいからないも同然かと」

 スカーレットの言葉にヨランダとケイトは完全に興味を失った。しかしグレースは爵位など気にならない。

「それでもミラ様の推薦なら将来有望なのでしょう?」

「それはそうだと思うわ。薬学で今一番詳しいと言われているみたい」

「ライラ様も水臭いわ。どうして教えてくれなかったのかしら」

「母曰く『研究一筋でフリッツより愛想がない』」

 ヨランダとケイトだけでなく、グレースの瞳からも光が消える。フリードリヒが常に無表情なのは有名だ。それでも一応エドワードの弟らしく愛想を作る事はする。しかしそれよりも愛想がなく研究一筋と聞けば、伴侶としては受け入れにくいとしか思えない。しかしグレースはとある事に気付いて、再び瞳を輝かせてスカーレットを見つめる。

「サリヴァン卿は夫人に対しての愛情が細やかで有名よね。その人の唯一になれるのなら、幸せな結婚生活が待っている可能性も」

「グレースの前向き具合は褒めるべき長所だけれど、これはケイトの話だからね」

 暴走しかかっているグレースにヨランダが冷めた声を掛けた。しかしグレースは平然としている。

「でもケイトは乗り気ではないのでしょう?」

「先程領地に行くと言っていたのは誰よ」

「それは結婚相手を探しに行こうと思っていただけで、王都に相手がいるなら別に領地に行く必要がないわ」

 あっけらかんというグレースにヨランダは呆れた。スカーレットも困惑する。そしてケイトも複雑そうな表情をした。

「グレースが乗り気ならこの後で母に会いに来て。私は困っていたから丁度いいわ」

「わかったわ。でも一応児童養護施設訪問は予定に入れておいてね。その人と上手くいくかわからないから」

「えぇ、予定が決まったら連絡するわね」

 呆れた表情のヨランダにグレースは微笑みかける。スカーレットはグレースの本心がわからない。辛そうなケイトを助けただけなのか、本当に従兄弟に興味を持ったのか。とりあえず茶会が終わったら母にサージであっているのか確認しようと思った。

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