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王女の思惑 女性護衛騎士の憂鬱  作者: 樫本 紗樹


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痛い指摘

 スカーレットは鏡台の前で迷っていた。グレンに会う約束はないが、約束がある時だけ身に着けるのも違う。だが昨日のように会う時もある。アリス達の事など気にせず身に着ければいいのだろうが、本当にそれが正しいのか彼女にはわからない。

 スカーレットが迷っていると、外から女性の笑い声が聞こえてきた。朝の早い時間に女性の声が聞こえるのは珍しい。彼女が暮らしている場所は王宮の端なので人通りは少ないし、清掃担当なら私語は厳禁だ。不思議に思いカーテンの隙間から覗くと、グレンとケイトが笑顔で歩いていた。珍しい組み合わせにスカーレットは首を傾げる。静かに窓を開けてみたものの、二人の話している内容までは聞こえない。しかし王宮へ向かって歩いているのは間違いない。

 ケイトは侯爵令嬢だがヨランダの侍女ではない。その為、朝早くに王宮へ来る用事などないはずだ。アリスかヨランダが呼ぶ可能性はあるものの、それにしても時間が早すぎる。スカーレットは窓とカーテンを閉めると鏡台の前に戻り飾り紐を結んだ。



「兄がご迷惑をおかけして本当にごめんなさい」

 スカーレットが通常通りアリスの護衛の仕事をしていると、ケイトがアリスを訪ねてきた。元々予定はなかったものの、アリスは幼なじみを無下にしたりしない。

「気にしないで。リチャードから話は聞いているから」

 スカーレットは話を聞いていないので、ジェームズが何をしたのかわからない。昨日アレクサンダーが問題なく通訳を務められたのかさえ彼女は知らないのだ。アレクサンダーが戻ってきたら尋ねようとは思っていたのだが、彼は彼女が起きている時間までに自室には戻って来なかった。

「将来宰相になれるのか本当に心配です」

「ケイトが信じてあげればジミーは頑張れるのではないかしら」

「その役目は本来私であってはいけないと思うのですけれども」

 ケイトは困ったように微笑んだ。昨夜リチャードの結婚話が纏まったと聞き、ジェームズは機嫌よく葡萄酒を飲んだ。元々酒に強い方ではないジェームズは途中で寝てしまい、一緒に飲んでいたアレクサンダーも本調子でなかった為に潰れてしまっていた。リチャードは仕方なく自分の従者にジェームズとアレクサンダーを同じ客間に寝かせるよう指示をし、グレンだけが自宅へと戻ったのだ。グレンはウォーレンの性格をよく知っている。服を着替えずに出勤するのは危険だと、朝リスター侯爵家に寄ったのだ。リチャードが王宮へ泊める旨をリスター家に知らせていたのをグレンは知っていた。

「ですが流石グレンだと思いました。私が来なければ兄は今も寝ていたかもしれません」

 アレクサンダーは本調子でないながらも、客間が落ち着かなかったのか夜中に目が覚めた際に自室へと移動していた。一方ジェームズはぐっすりと眠っており、グレンが声を掛けても揺すっても全く起きなかった。ケイトは小さく息を吐いてから兄に近付くと耳元で囁く。お仕事をしないお兄様なんて嫌いです、と。すると一瞬でジェームズが起き上がったのだ。

「ジミーは余程嬉しかったのね」

「そのようです。次はグレンだぞ、なんて言いながら仕事に向かいました」

 ケイトは楽しそうに微笑む。それを笑顔で受け止めながらアリスはスカーレットを一瞥する。スカーレットは無表情のままだ。

「次はジミーでもいいと思うけれど」

「兄を受け止めてくれる女性がいらっしゃるのなら教えて欲しいくらいです。ヨランダ殿下に尋ねたら一考もされずに断られましたわ」

「ヨランダは恋に恋をしているから難しいわね」

「レティはどう思う?」

 ケイトはスカーレットに尋ねた。スカーレットは何と答えるべきか迷う。スカーレットはジェームズと特別親しいわけではない。ただでさえ自分の恋愛感情がわからないのに、他人に似合う人など見当がつくはずもない。

「わかりかねます」

「レティにとって兄は結婚相手になるかと聞いているの」

 スカーレットにはケイトの質問の真意を図りかねた。スカーレットがグレンと婚約をしている事をケイトが知らないはずがない。それなのに何故自分にそのような質問をしてくるのか理由が思い当たらない。だが何も答えないわけにはいかないので、当たり障りのない答えを口にする。

「私は貴族ではありませんので」

「グレンと婚約が出来るのだから兄とも出来るでしょう?」

「レスター卿はウォーレン様のような強引な手段を取らないと思います」

「もう、その他人行儀の話し方はやめて。兄に魅力があるかどうかを聞いているだけだから」

 ケイトは不機嫌そうな眼差しをスカーレットに向ける。他人行儀も何も、スカーレットは勤務中でありケイトはアリスの客人である。

「レティ、仕事は良いからケイトの質問に答えてあげなさいよ」

 スカーレットの困惑を汲み取ってアリスは告げた。スカーレットは頷いて了承の意を示す。そしてジェームズについて考えた。

「私にとっても兄みたいな人だから、結婚相手とは思えないかな」

 ジェームズはケイト第一主義ではあるが、周囲が見えていない訳ではない。ウォーレンに声を掛けられたのだから、将来の宰相として問題ない資質を持っているのだろう。しかし異性として魅力的かと聞かれれば、意識をした事がないというのがスカーレットの答えだった。

「レティは以前グレンも兄みたいと言っていたわ。それならどちらでも一緒という事よね?」

 ケイトの言葉にスカーレットは眉を顰めた。確かに兄のようだと言ったが、スカーレットの中でグレンとジェームズは明らかに違う。しかしスカーレットの返答を待たずにケイトは続ける。

「今朝グレンから聞いたのだけれど、婚約期間は延長中なのでしょう? 決めないのなら私にグレンを譲ってよ」

 スカーレットはケイトの言葉の意味がわからず、怪訝そうな表情を浮かべた。ケイトは笑みを浮かべる。

「私は昔からグレンが好きよ。とても優しくて、気配りも出来るもの。それに旧レスターとハリスンは犬猿の仲。ここで結婚するのも歴史上いいと思うの」

 リスター侯爵家は元レスター公爵家。レスター家とハリスン家は昔から仲が悪いと有名だった。それはリスター家とハリスン家になってからも変わっておらず、当主同士は挨拶をかわす程度。しかしリスター夫人であるミラとエミリーは仲良くしており、ジェームズとグレンの仲もいい。スカーレットには婚姻の必要性がわからなかった。

「ジミーとグレンの代になれば当主同士も仲良くなると思うわ」

「レティは本当に卑怯な言い方をするわね。グレンは私の婚約者だから譲れないと言えば可愛げがあるのに」

 ケイトは不満そうにしながら視線をアリスに戻す。アリスは呆れた表情をしている。

「レティをからかわないで」

「グレンの事は本気です。兄が許しそうな男性は一握りで、その中で一番幸せになれそうなのはグレンだと思いますから」

 ケイトはアリスに笑顔を向けた後、再びスカーレットを見る。

「片思いほど辛いものはないわ。グレンを兄以上に思えないのなら解放してあげるべきではないの? 結婚しても片思いのままだなんてグレンが惨めすぎるとは思わない?」

「それは――」

 スカーレットはそれ以上言葉に出来なかった。自分が中途半端な事をしている自覚はあるのだ。ケイトは視線を伏せてしまったスカーレットに冷めた視線を向けた後でアリスに向き直る。

「本日は突然お邪魔してごめんなさい。ヨランダ殿下に挨拶をしてから帰りますね」

「えぇ、ヨランダも喜ぶと思うわ」

 ケイトは微笑むと一礼をして部屋を出ていった。視線を伏せたままのスカーレットにアリスはため息を堪える。

「レティ、仕事には戻れる?」

「はい、申し訳ありません」

 アリスの声を聞いてスカーレットは視線を上げた。今は勤務中であり余計な事を考えている場合ではない。素早く切り替えたスカーレットにアリスは呆れながらも、児童養護施設の公務についての引継ぎを始めた。

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