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王女の思惑 女性護衛騎士の憂鬱  作者: 樫本 紗樹


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33/70

返し

 王宮の一角で食事会が催されていた。リチャードが自分の気持ちを伝えられるか不安だったジェームズが、元々その日の夕食を一緒に取る約束をしていたのだが、そこにグレンとアレクサンダーも加わっていたのだ。身分上アレクサンダーは同席出来ないのだが、幼なじみである事は王宮に勤めている者なら皆知っているので誰も気にしない。

「それで、アレックスはいつ覚醒した?」

「意訳した瞬間の空気で」

 一通り話を聞いてからジェームズはアレクサンダーに問いかけ、アレクサンダーは気まずそうに答えた。意訳ではなく誤訳だとジェームズは気付いているのだ。何故かリチャードは気付いておらず、自分の背中を押してくれたのだと思っている感じなのでジェームズもはっきりと言葉にはしない。

「リックは遠回しに言う癖を直した方がいい」

「遠回しに言っているつもりはない」

「王太子として慎重なのは悪くないけど、男女間なら誤解を招くよ」

「ジミーに男女間の説教をされたくない」

「私も結婚相手は探している。ただケイトより魅力的な女性が居ない」

 ジェームズは深刻そうな表情で食事を口に運ぶ。しかし他の三人はジェームズの意見に同意しかねた。ケイトは兄から異常な愛情を注がれた割には、まともに育っている。顔立ちも整っており、教養も立ち居振舞いも問題ないが、他に魅力的な女性が居ないと言う程ではない。

「ケイトの評価が高すぎる気がする」

「グレンは弟しかいないからわからないだけだ。二人は私の気持ちがわかるよな?」

 グレンの言葉にジェームズはアレクサンダーとリチャードに視線を向ける。しかしリチャードは冷めた視線を返した。

「弟と妹で愛情の差はない」

 ジェームズには妹と弟がいるのだが、彼の口から弟の話はまず出ない。リチャードにはそれが不思議だった。リチャードにとっては妹ヨランダだけが特別ではない。姉も弟も同じく家族として仲良くするべきだと思っているし、実際そう接している。

「リックは真面目過ぎるから話にならない。アレックスは?」

「レティは可愛いけど、早く結婚すればいいのにと思ってる」

 アレクサンダーはそう言いながらグレンに視線を向ける。グレンはそれを少し困ったような表情で受け止めた。

「可愛い妹をこの頼りない男に任せて大丈夫か? しかも面倒な伯父までついてくるのに」

「他に嫁がせるとその伯父がより面倒になると思うが」

 アレクサンダーは困ったように言い、ジェームズは納得する。ウォーレンは決して敵に回すべき人物ではないと、彼の下で働いているジェームズは重々承知なのだ。

「私なら絶対に嫌だ。ハリスン家にケイトはやれない」

「欲しいと言っていないが」

「弟がどう思っているかわからないだろう?」

「思っているなら既にケイトに接触しているよ」

 グレンは元々スカーレットとの結婚の話があった為に、エミリーも教育に力を入れた。しかし弟達はそうでもない。特に三男と四男はライラの子供の乳母をやる必要がなかった事もあり、ハリスン家が用意した乳母に育児を任せてライラの侍女に早々戻っていた。勿論、公爵家である以上教育は施されており、エミリーも定期的に様子を見に戻ってはいる。しかしやや放置気味だった故に、グレンとは違い弟達の性格はおおらかで、自分のやりたい事を好き勝手にやっている。

「グレンは本当にいつレティと結婚をするつもりだ? ヨランダと児童養護施設の公務を引き継ぐと姉上が言っていたけれど」

 二人の不毛なやり取りにリチャードが割り込む。以前なら自分が諦める為に早く結婚して欲しいと思っていた彼だが、今は自分とエドガーがまとまったのでグレンも早くすればいいと思っている。

「その話は初耳です。アレックスは知っていたのか?」

「レティからは聞いていないが、兵長からはここに来る前に聞いた」

「私も書類で見た」

 自分の婚約者の話なのに、自分以外の三人が知っている事実にグレンは情けなくなった。リチャードとアレクサンダーは立場的に先に知る事はあるだろう。しかしジェームズが知っているとなると本決まりなのだ。近衛兵の仕事の変更など、本人の意思でどうにかなる範囲ではないとはいえ、何も相談して貰えなかった事がとても寂しかった。

「前から思っていたけれど、グレンは何に遠慮をしているの?」

「遠慮をしているわけでは」

「している」

 ジェームズに強く言われ、グレンは言葉を返せない。そんなグレンの様子を見てアレクサンダーは困ったように笑った。

「ジミー、俺の親友をあまり虐めないでやってよ」

「アレックスもそうやって甘やかすからいけない」

「ジミーだってリックを結構甘やかしているくせに」

「リックの場合は側近が怖いから、私は違う立場にいるだけだ」

「怖いのはエドガーだけだよ。そのエドガーも結婚が決まったからもう怖くない」

 アレクサンダーは断言した。エドガーが常にリチャードに厳しく接してきたのは、王太子として立派に振舞って欲しかったからである。それはアリスの希望を叶える為、そして自分が結婚する為だ。結婚を発表し、王族を離れるアリスが王位に就く事はもうない。今後は仕事よりも家族と暮らす時間を優先するだろうとアレクサンダーは判断していた。

「それなら尚更グレンにはしっかりして欲しい。リックは威厳をもって君臨出来る性格ではない。リックらしい国王として振舞うにはグレンが必要だと私は思っている。だからこそさっさと結婚すればいい」

「簡単に言わないで欲しい」

 グレンはスカーレットとどう接するのが正しいのか、答えが見いだせていない。出来ればそっとしておいてほしいと思っている。しかしジェームズはそのような事を気にせず続ける。

「アレックスのように自信に満ち溢れているのもどうかと思うけど、グレンは卑下し過ぎだ。将来のハリスン公爵家当主として十分な資質を持っているのだから、堂々とレティと結婚すればいい」

「さり気なく俺を下げるな」

「アレックスはパン屋の看板娘に惚れて振られればいい」

「王道の恋愛小説の筋書なのに、俺が振られるのかよ」

「ぽっと出の騎士より幼なじみと結ばれる方が熱い、ケイトがそう言っていた」

 またケイトかとアレクサンダーは冷めた視線を送る。リチャードとグレンは恋愛小説を読まないので、一体何の話をしているのかわからない。グレンは首を傾げながらジェームズを見る。

「つまりグレンは自信を持ってレティに接しろと言いたい」

「だから簡単に言わないで欲しい」

「リックはパウリナ殿下に会いに行き話をまとめてきた。グレンはレティが他の誰かと結婚してもいいのか?」

 ジェームズは真剣な表情でグレンを捉える。グレンは婚約者という立場に甘えている事実を突きつけられ表情を歪めた。リチャードとパウリナの話は国同士の話になるので、動き出せば滅多な事がない限り破談にはならない。しかしグレンとスカーレットの婚約は強制力などなく、スカーレットが拒否をすれば解消されてしまう。

「嫌に決まっているだろう」

 グレンは悔しさを滲ませて答える。スカーレットが他の男性の横にいる事など想像したくもなかった。その答えを聞いてジェームズは笑顔を浮かべる。

「それなら行動しろ。この前の舞踏会に出席した事でレティの認知度が上がった。誰が出てきてもおかしくない」

 スカーレットは成人後初めて舞踏会に出席をした。それまで彼女を知らなかった男性が、興味を持つ事は十分考えられる。

「ジミーは結構世話焼きだよね」

「アレックスは勝手に振られて来い」

「俺は看板娘に惚れないし」

 ジェームズとアレクサンダーのやり取りを聞き流しながらグレンは考える。スカーレットは今朝自分が贈ったものを身に着けていなかったが、ただ何も着けていなかっただけだ。気に入らなくて身に着けなかったとは限らない。もっと彼女と向き合い、彼女の心の内を聞き出さなければいけない。そう考えていると、リチャードがグレンの足をつついた。グレンは驚いてリチャードに視線を向ける。

「お返しだ」

 リチャードは笑顔だ。グレンも笑顔で頷く。アレクサンダーが誤訳したにしろ、結果的にリチャードは結婚を決めたのだ。グレンもスカーレットと向き合おうと決意をした。

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