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王女の思惑 女性護衛騎士の憂鬱  作者: 樫本 紗樹


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幼なじみに祝福を

 何も得られない打ち合わせを終え、グレンはスカーレットの部屋を訪ねて言葉を失っていた。今までスカーレットは自分を着飾ろうとはしなかったが、元々顔立ちはいい。しかし着飾った彼女を形容する言葉を彼は持ち合わせていなかった。

「本当に愚息で申し訳ありません」

 何の言葉も発しないグレンに呆れ、エミリーが鏡台の前に腰掛けているスカーレットに声を掛ける。スカーレットも慣れない格好に不安でいっぱいだった。皆が笑顔で綺麗だと褒めそやすので堂々と振舞おうと思えたのだが、無言で棒立ちするグレンの様子を見て決意が揺らぎだす。

「やはり軍服に着替えた方がいいかしら」

「いや、レティはそのまま参加して欲しい。語彙力がないのが悔しいけれど、とても綺麗だ」

 グレンは言葉を探すのを諦め、ありきたりの言葉を笑顔で告げた。そもそも彼は幼い頃からスカーレットしか見ておらず、女性を口説く台詞など習得していない。

「おかしくない?」

「これほど素敵なレティと舞踏会に参加出来るなんて幸せだ」

 グレンの真っ直ぐな言葉がスカーレットにはくすぐったくて困ったような笑顔が漏れる。

「公国のお嬢様の件は解決したの?」

 二人の空気をソファーに腰掛けているライラが壊した。グレンは表情を作って彼女の方を向く。

「何故それを」

「アレックスがウォーレンの所へ来たと聞いていないの?」

 ライラの言葉にグレンは納得する。アレクサンダーはウォーレンを探して、スカーレットの部屋に来たのだろう。

「聞いています。今ジミーが宰相代理として向かっています」

「そう。ジミーなら大丈夫かしら。あのような非常識な話はアレックスが勝手に片付ければいいのに」

 ライラはため息を吐いた。彼女はウォーレンとアレクサンダーのやり取りを聞いていた。アレクサンダーがライラとスカーレットの前なら問題ないと判断しての事だ。しかし話を聞いていてライラは苛立っていた。ウォーレンがスカーレットの化粧を理由に断ったのも同じ気持ちだっただろうと思っている。時代が違うとはいえ息子の判断に物足りなさを感じていた。

「ライラ様。アレックスと閣下では立場が違います。単純に年齢だけで比較しないで頂けないでしょうか」

 ライラのため息の理由を察したグレンが告げる。ジョージは叔父の病死により十八歳で総司令官となっていた。その若さで軍を統括するのは簡単ではないが、ジョージには資質があったのだ。アレクサンダーは何でも器用にこなすが、彼には立場がない。いくら最善の道がわかっていたとしても、勝手に行動をする事は近衛兵として許されない。

「それはわかっているわ。けれど相談相手はウォーレンではなかったと思うの」

「多分アレックスは疲労蓄積で判断力が鈍っていたのでしょう」

 三人で夕食を囲んだ際も疲れは見えていたが、今日はそれ以上に見えた。勿論化粧で誤魔化されてはいたものの、レヴィの常識で測れないヒルデガルトに振り回されていたのだろうとは簡単に想像出来る。

「公女は余程酷いのね?」

「かなり酷いようです」

 グレンの言葉を聞き、ライラはエミリーに視線を移す。

「エミリーの意見は?」

「二度と御免です」

 エミリーは本当に嫌そうに答えた。アレクサンダーの代理としてエミリーが通訳を一晩務めたのだ。エミリーもアレクサンダーの疲労を感じており、一晩だけと気軽に引き受けた。しかしグレンの母というのを隠したのが良くなかったのか、好き放題に話すヒルデガルトに辟易したのだ。

「母上が通訳をしたのですか?」

「アレックス様の疲労を緩和したかったのですが、最終的に逃げました」

「え?」

 ライラとグレン、そしてスカーレットも驚きの声を上げてエミリーを見る。エミリーがアレクサンダーの代理だったのを知っていたのはライラだけだが、逃げたというのは初耳だった。そもそもエミリーは自分の仕事を途中で放り出すような性格ではない。

「陛下は考えもなく行動をする人ではないと必死に我慢しましたけれど、限度があります」

 エミリーは自分の行動を決して間違っていないと思っている。招待したのはレヴィ王国側とはいえ、好き勝手にしていいわけではない。彼女はハリスン公爵家の人間として、謙る必要はないと判断をしたのだ。

「あまりにもレティ様を見下されるのが耐え難かったのです。自国が滅びる寸前と知らない公女にレティ様を貶される筋合いはありません。ですから今日は腕に選りをかけました」

 エミリーは満面の笑みを浮かべた。スカーレットに化粧をしたのはウォーレンだが、それ以外はエミリーが整えている。

「一体何を言われたの?」

「レティ様にグレンは勿体ないと。勿体ないのは愚息の方であってレティ様ではありません。説教をしようかとも思いましたけれど、自分を中心に世界が回っていると勘違いしている人間には無駄なのでやめました」

「母上、今日は妙に着飾っていますが、まさか」

 ウォーレンが独身である以上、カイルの妻であるエミリーが実質ハリスン公爵夫人である。しかし彼女はあくまでもナタリーの良き相談相手という立ち位置で振舞っており、家柄を表に出さないようにしていた。しかし今日はグレンが見た事がない程に煌びやかである。

「グレンの母親とも知らずに自由に喋り続けたあの女を黙らせます」

「エミリー、流石だわ」

「ライラ様、褒めないで下さい」

「今日のレティ様を見た瞬間に普通は諦めますけれども、あの女は普通ではありません。ウォーレン様に話して毒も入手致しました」

「母上!」

 あまりの発言にグレンは窘めるような声色を上げる。しかしエミリーは真剣な表情を息子に向けた。

「グレン。怖いのは賢い人ではありません。常識のない馬鹿が一番怖いのです」

「母上、口が過ぎます」

「私の発言ひとつで揺らぐようなハリスン家ではありません。そもそもウォーレン様は毒をくれたのですから承知の上です」

 エミリーの言葉にグレンは困惑する。ウォーレンは宰相という立場ではあるが、後ろ暗い事には一切手を染めていない。ハリスン公爵家出身という肩書はあったものの、己の実力で宰相になっている。ハリスン家の財政も真っ当だ。何の利益にもならない殺害などするはずもない。しかし美に対しての異常な執着をグレンは知っている。スカーレットを見下しただけでウォーレンの理解から外れ、消してもいいと判断してもおかしくない気もした。

「ちなみにその毒の効果は聞きましたか?」

「ただの腹下しです。帰りの馬車の中で苦しめばいいのです」

 思ったより弱い毒にグレンの表情が緩む。

「舞踏会ではなく帰りの馬車なのですね」

「この素敵なレティ様を見て、その差をわからせないといけませんからね」

 エミリーは笑顔だ。グレンも笑顔で頷く。

「ですが、舞踏会を欠席されるかもしれません」

 付添で揉めていたのだから、公国の大使はレヴィ王宮入りしないだろう。女性一人で舞踏会の会場に入るのは普通なら出来ない。グレンはそこまで考えて、普通ではないから入れるかもしれないと思い至った。

「自分を中心に回っている公女の事です。間違いなく参加します」

「そうでしょうか」

「グレンはレティ様と仲良く参加すればいいのですよ」

「そうですね」

 グレンはエミリーに微笑むと、スカーレットに向き直る。

「レティ、そろそろ行こうか」

「やり取りを聞いていて胃が痛くなってきたのだけれど」

 スカーレットは憂鬱そうにそう言った。彼女は元々煌びやかな場所が苦手である。貴族女性なら茶会や他家の舞踏会で慣れているのだろうが、彼女は幼なじみ以外との付き合いはない。アリスの護衛として舞踏会への参加経験はあるものの、立場が違い過ぎる。

「今日の主役はアリス殿下だ。一緒にお祝いをしよう」

 急遽決まったアリスの結婚を今夜の舞踏会で発表する事になっている。その準備のせいでエドガーはアリスの側に居たのだ。スカーレットもアリスに会場で祝って欲しいとお願いされたのを思い出した。

「そうね。幼なじみの皆で祝福しないとよね」

 グレンに手を差し出され、スカーレットは手を乗せる。本来なら踵の高い靴を履くべきなのだが、彼女は低めの靴を履いていた。元々履き慣れていないというのもあるが、グレンとの身長差を考えての事だ。グレンが低いわけではなく、スカーレットが女性にしては高いのだ。

「レティは姿勢がいいから立つとより綺麗だ」

 グレンはにこやかな表情でスカーレットを褒める。褒め慣れていない彼女はまた困ったように微笑んだ。

「ヒルデガルト嬢の事は忘れて、アリス殿下のお祝いと思えばいい。さぁ行こう」

 グレンの言葉にスカーレットは頷く。そして二人は舞踏会の会場へと向かった。

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