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王女の思惑 女性護衛騎士の憂鬱  作者: 樫本 紗樹


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決意

 レヴィ王宮は朝から慌ただしい雰囲気に満ちていた。年に二回の舞踏会の日は人の出入りも多いのでそうなるのだが、今回はそれ以上である。ただでさえ二国から女性を招いているのに、アリスの降嫁についても発表されると決まったのだ。エドワードには六人の子供がいるが、全員独身で婚約者もいない。これはアリスとリチャードが独身でいた為、他の四人も遠慮していた部分もある。

 しかしアリスは元々エドガーと結婚するつもりでいた。リチャードが王太子として立とうとしている姿を確認出来た事、エドワードが結婚を認めた事で、すぐさま行動に移した。家族四人での夕食後にエドガーへと手紙を送り、翌日にはエドワードに二人で結婚の報告をしたのである。この早さは流石にエドワードも想定しておらず呆れていたものの、エドガーとアリスの意思は固かった。婚約期間を設けないのは非常に珍しいのだが、二人からしてみれば十分に期間があった認識である。アリスは結婚式さえ不要と言っていたが、ナタリーにウェディングドレスを受け継いでほしいと、涙ながらに訴えられたので内輪だけで結婚式を行うと決まった。



「アリスもエドガーも行動力が凄いわ」

 ライラはアリスから一連の報告の手紙を読み終え、感心した声でそう言った。エドガーはスミス公爵家の敷地内に二人で新婚生活が送れる別宅を建設済であり、アリスの公務の引継ぎが終わり次第引っ越す事になっている。

「余程女王になりたくなかったのね」

 ライラは手紙を丁寧に折り畳むと、大切そうに封筒にしまった。リチャードとパウリナが結婚するかはわからない。しかし降嫁さえしてしまえば王位がアリスの所に巡ってくる事はない。今の法律では女性に王位継承権はないのである。

「ちょっと。返事をしなさいよ」

「少し黙っていて頂けませんか。集中力を削がれます」

 ライラは不満そうな声を目の前にいたウォーレンにぶつける。しかしウォーレンもまた不機嫌そうな声色で返す。

「私がどれだけこの日を待ち焦がれていたと思っているのですか」

「許可してあげたのだから感謝して欲しいのだけれど」

 二人の言い合いに、スカーレットは困惑するしかない。彼女は正直今でも舞踏会に参加するのに乗り気ではない。それでもヒルデガルトが何をするのか不明であるし、アリスからも命令されているので、参加せざるを得ずライラが用意したドレスには着替えた。しかしまさかウォーレンが化粧をするとは思っていなかったのだ。ちなみにライラが依頼したのではなく、グレンから話を聞いたウォーレンが希望した。

「何故ライラ様の許可が必要なのかわからないのですけれど」

「母親が嫁入り前の娘の心配をするのは当然だわ」

「当家の嫁の予定なので、問題はないと思います」

「レティはエミリーの息子と結婚させるのであって、ハリスン家に嫁に出す気はないわよ」

「エミリーがカイルの妻である以上、同義になりますが」

 ウォーレンの淡々とした対応に、ライラはわざとらしくため息を吐いた。彼女は娘を愛しており、スカーレットが本当に結婚を嫌がった場合は白紙に戻してもいいと思っている。ライラは公爵家の出身なので公爵夫人の大変さを知っているのだ。

「エミリーは私より余程公爵家の人らしくなってしまったわ」

 ライラはつまらなさそうにそう言った。エミリーは未だにライラの侍女ではあるが、ウォーレンが独身である以上、カイルの妻であるエミリーは公爵夫人と同じ立場で色々と立ち回っている。今は自分の準備の為に席を外していた。

「エミリーは社交性が高いですからね」

「エミリーを大切にしてよ」

「私は結構自由にさせていると思いますけれど」

 ウォーレンは冷めた目でライラに視線を向けた後、スカーレットの化粧に戻る。実際、結婚した後も侍女を続けるのは珍しい。しかもエミリーは王宮に住み込んでいるのだ。定期的にハリスン家別宅に顔を出しているとはいえ、自分の息子達よりもアレクサンダーやスカーレットと過ごした時間の方が長い。

「もし嫁入りしたらレティも好きにさせて欲しいわ」

 ライラは真剣にそう告げた。ウォーレンもその声色を受けて手を止める。

「申し訳ありませんけれど、近衛兵だけは許可致しかねます」

「どうして?」

「近衛兵は陛下直属なので嫌です。閣下の部下なら考える余地はありますけれど」

「だそうよ。レティは将来どうするの?」

 突然訪ねられてスカーレットは困った。アリスの降嫁は決まったが、スカーレットは護衛の後の任務は未定だ。突然だったというのもあるが、近衛兵に属している女性は基本間諜の仕事を請け負っているのだが、スカーレットは顔立ちが整い過ぎていて向いていない。だからと言ってナタリーや第二王女の護衛をするのも、スカーレットは違う気がしていた。

「急な事でまだ考えていないの。アリスが王宮にいる間に考える」

「アリス殿下の降嫁は必ずあるとわかっていたのではありませんか?」

 ウォーレンの指摘にスカーレットは視線を伏せる。確かにアリスがエドガーと結婚するのはわかっていた。しかしまだ時間があると思っていたのだ。

 スカーレットの視界にひとつの箱が映る。それは今朝、グレンから渡されたもの。一緒に買い物に出かけた日は飾り紐だけしか買わなかったのだが、どうやら彼はその後で耳飾りを買いに行ったようだ。舞踏会用なので派手なものでも良さそうなのに、あの日選んだ小さな耳飾りだった。

「レティ。焦らなくていいわ。私も結婚したのは二十二歳だもの」

 ライラは鏡台の前に腰掛けているスカーレットの横に立ち、鏡越しに微笑みかける。

「レティは私の自慢の娘よ。私の選んだドレスと宝飾品、ウォーレンの化粧、エミリーの髪結いでこの国で一番綺麗な女性になるわ。会場にいる全員の視線を浴びるわよ」

「それは望んでいないのだけれど」

「帯剣して軍服を着ているレティも格好いいけれど、綺麗なレティもレティなの。確かにレヴィの法律上、レティは貴族令嬢ではなくても血は流れている。堂々と振舞えばいいのよ」

 ライラは優しそうにスカーレットに微笑みかけた。スカーレットもそれに応えるように微笑みを浮かべる。彼女は確かに昔から気にしていたのだ。幼なじみ達は王族か貴族であり、例外はアレクサンダーとスカーレットだけだった。王弟の子供であるにもかかわらず、ジョージが王位継承権を捨てた総司令官であるが故に、貴族ではなく騎士階級。勿論、幼なじみ達はそれを気にもしなかったし、アレクサンダーも気にしている様子はなかった。それでもスカーレットの心の中では常に引っかかっていたのだ。剣を振りたいと言ったのも、騎士のように振舞った方が正しいのではないかと思ったからだった。実際、やってみたら楽しくなってしまったのだから向いていたのだろうが。

「私が貴族令嬢のように振舞ってもおかしくないのかしら」

「おかしいと思うからいけないの。堂々としていれば楽しい舞踏会になるわ。私とジョージの娘なのだから、自信を持ちなさい」

「私が貴女の魅力を最大限に引き出します。違う自分を演じる気分で丁度いいかもしれません」

 ウォーレンも鏡越しにスカーレットに微笑みかけた。スカーレットは珍しいウォーレンの微笑みに驚きながらも微笑み返す。ライラもその様子を見て微笑んでいる。あれ程乗り気でなかった舞踏会であるが、少しだけ気持ちが楽になった。スカーレットは堂々とグレンの婚約者として舞踏会に出ようと決意をした。

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