表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/70

それぞれの部屋にて

「本当に宜しかったのですか?」

 議会が終わり、リチャードと側近達は王太子の執務室へと戻ってきていた。全員が座った所で、エドガーがリチャードに確認をする。

 前日確認した通り、大臣からアリスの発言の真偽について問われた。それをエドワードは打ち合わせした通り王家の問題なので話す事はないと突っぱねたが、問うた大臣の方は納得していない様子だった。それを見てエドワードが急にリチャードに他国から婚姻の打診があると言い出したのだ。

 レヴィ王国が大国である以上、婚姻の申し出があるのは不思議ではない。しかしエドワードは自身の側室も子供達の婚姻についても、今まで全て断ってきていた。どれ程の話が舞い込んでいて断っているのか、エドワード以外に全てを把握している者はいない。この執務室にいる人間は誰も知らないのだ。

「アリス殿下との話し合いはいつの予定なのですか?」

 無言を貫いているリチャードにグレンは問いかける。そもそも話し合いもしていないのに、王太子妃候補の話になってしまった事はグレンも納得していない。エドワードの発言に異を唱えるのが難しいとしても、あの場でアリスが受け入れてしまったのも理解出来ていない。

「明日だ。今日は私も姉も予定があったから」

 リチャードは視線を伏せたままだ。ここにいる誰も、エドワードの行動を予測していなかった。しかしそれが悔しかったのは誰よりもリチャードだろう。

「会わずに決められないなどと答えるからですよ」

 突然の二択を迫られ、リチャードは決められないとしか答えられなかった。それを聞いたエドワードが、それならアリスに判断を委ねるかと言い出したので、まずアリスの意見を聞こうとなったのである。

「突然どちらにすると言われても答えられない」

「陛下は二択ですぐに王妃殿下を選ばれたと聞いていますが」

「それは事情が違う」

 エドワードとナタリーは政略結婚として意味があった。しかし今回はどちらと結婚したとしても、レヴィ王国には特に益がない。

「サリヴァン卿を見つめていましたが、何の反応もありませんでした」

 エドワードの側近フリードリヒ・サリヴァンはエドワードの異母弟であり、彼の母親がローレンツ公国の公女、彼の妻がメイネス王国の王女である。母親は政略結婚で嫁いできたが、彼は恋愛結婚であり、彼の妻ボジェナと現メイネス国王は異母兄妹で縁は薄い。それでもグレンは念の為フリードリヒを観察していたが、フリードリヒは議会中無表情を一切崩さなかった。エドワードの発言にリアンは反応していたので、エドワードと側近の間で共有されていた話ではないはずだ。

「サリヴァン卿は噛んでいないと思います」

 オースティンが口を挟む。彼にとってフリードリヒは血の繋がった叔父だが親しくはない。ここにいる人全員親しくない、というかフリードリヒが誰とも親しくしない。国王の側近でありながら完全に独立している。オースティンにはフリードリヒが縁談を持ち込むとは考えられなかった。

「父なら手元に届いているのを黙っていてもおかしくはない」

 リチャードはため息を吐く。結婚相手は自由に選んでいいと言われていたが、同時に待つのは二十二歳までとも言われていた。それはエドワードが結婚した年齢である。現在二十一歳のリチャードはいつ言い出されてもおかしくないとは思っていたのだ。だが、どうにもならなかった。

「どちらも受け入れられそうになかった場合、どうされるのですか?」

 オースティンが困り顔でリチャードに尋ねる。どちらも、どのような女性なのか知らない。だが、オースティンにはどちらにしても上手くいくような気がしなかった。小国の女性ではリチャードを支えられないと思っているのだ。

「それは姉の判断も入る問題だから」

「それも含めて明日、しっかりと話をしないといけませんね」

 エドガーの言葉にリチャードは頷く。そして話はここまでだと言わんばかりにリチャードは机の上の書類に視線を移した。



 一方、アリスの部屋。

「何故私がリチャードの相手の世話をしないといけないのよ」

 アリスは部屋に戻るなりソファーに座った。アビゲイルは無言でアリスから宝飾品を外していく。スカーレットは準備していた紅茶を淹れるとアリスの前に置いた。

「普段からリチャード殿下の相手を探されていたからかと存じます」

「人の行動を全て調べているあの人、本当にどうかしているわ」

 アリスは悪態を吐くと紅茶を口に運ぶ。そして一口飲むと軽く息を吐いた。

「ワンピースは選べないのに、紅茶は美味しいのよね」

「これはエミリー直伝なので」

 内容がわからずともいい話ではないだろうと察したスカーレットは、広間前で待機していても仕方がないと紅茶の準備をしていた。彼女に出来る侍女らしい仕事のひとつだ。

「陛下の批判はほどほどにしておいた方が宜しいのではありませんか?」

「聞かせてやればいいのよ。普通の父親は娘の監視なんてしない。あの人がおかしいのだから」

 アリスは苛立ったまま紅茶を再び口に運ぶ。エドワードの行動が普通でないと、アビゲイルもスカーレットも思っているのでそれ以上は言えなかった。

「ところで近衛兵は彼女達の情報を持っているの? こちらに回して貰えるかしら」

「私は存じ上げませんが、父に確認しない事には何とも」

 アビゲイルは困ったようにそう言った。いくら父娘でも全ての情報は共有されていない。近衛兵をまとめる立場にあるオリバーは、必要な情報を必要な人間にしか開示しないのだ。それでも彼女は娘として父の行動を予測する事は出来る。

「ただ先入観を持たずに見て欲しい、と言いそうですけれど」

 アビゲイルの言葉にアリスは嫌そうな顔をした。そう言われそうだと納得してしまったのだ。

「婚約も何もない状態でレヴィまで来るのは可能なの?」

「陛下が許可されるのなら、可能かと思います」

「とりあえず明日リチャード殿下とよくよく話し合われるべきではありませんか」

「そうね。レティも同席してくれる?」

「私は扉の外で待機するわ」

 スカーレットは即座に拒否をした。アビゲイルの話が本当とは思えないが、自分がその場に立ち会うのは気が進まない。しかしアリスはスカーレットの目を見つめた。

「中に居て。リチャードの気持ちをまず白状させないと前に進まないわ。だいたい二人の女性がろくでもなかったら私が即位するかもしれないのよ?」

「その話、陛下は何処まで本気なのかしら」

「知らないわよ」

 アリスはティーカップを戻すと、背もたれに身体を預けた。準備をしてエドワードに王位継承権を欲しいと言ったはずなのに、思惑とは全く違う道を歩かされている状況に彼女は苛立っていた。

「ジョージなら父の真意を知っているかしら?」

「父は機密情報だからと一切話さないと思う」

 スカーレットの冷静な言葉に、アリスは恨みがましい視線を向ける。しかしスカーレットは事実を言っているのでそれを無言で受け止めた。アリスは悔しそうな顔をして息を吐き出す。

「父やジョージが私達と同年代だった頃は、色々と考えて行動をしていた。私達にも考えろ、と言いたいのかもしれないわね」

 そう言うとアリスは身体を起こした。

「父の真意は知らないけれどリチャードと相談するしかなさそう。レティ、明日は付き合ってよ」

 アリスはまっすぐスカーレットを見据える。流石にスカーレットは嫌とは言えずに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Web拍手
拍手を頂けると嬉しいです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ