食い物とねるととぶ(私は疲れています)
俺は疲れていたので、人間と関わるのが面倒になっていた。
へとへとになって帰ってきたのにまだ水曜日とかだと、
心の中にある人間のシルエットが浮かんでくる。
全裸でパンツ1枚のお笑い芸人……とにかく働きたくない安村が出てくるのだが、
「安心してください。
それでも働きますよ」
と安村が言うので働くしかない。
それなりの生活をさせていただいているのは、会社員として仕事を頂けているからなのだ。
いやもう世界って終わってね?
理屈は分かっていても疲れてしまうので、へとへとの脳みそで俺はろくでもないことを思いつき、
いよいよ片足を冷蔵庫の中に突っ込んでしまう。
紅葉が散りゆく初冬、冷蔵庫に俺の体が入りそうだ。
使っていないジャムの瓶とか万が一の切り札の栄養ドリンクが邪魔だから冷蔵庫から出して床に置く。
冷蔵庫のスペースと俺のボディはまさしくシンデレラフィットで、扉を閉めてしまえばそこは俺専用の世界だった。
冷蔵庫の扉を閉めると灯が消える。
コンプレッサの振動を耳で感じながら裸足だから寒い。
コートで覆えない部分の感覚が、足先から消えていく。
頭もすっかり冷えてきて、体がぶるぶる震えだす。
うわー寒い寒い!
鳥肌が立ち身が締まるのを感じて面白くなる。
冷蔵庫に入っている人間は世界でたった一人で俺がオンリーだ。
寒さが全身に染み渡り、よしよし寝れそうだと思いつく。
体操座りしている俺の身体がぽーーーーーーーーーーーーんと跳ねた。
冷蔵庫の天板を通り抜けて、部屋の天井も通り抜けて、上の階の誰かの部屋も通り抜けて、夜の空へと吸い込まれていく。
真上に蹴飛ばされたボールみたいにくるくる回りつつ上昇する。
雲海に突入すると、もう全部真っ暗になり俺の意志だけしか認知できなくなり、暗がりのトンネルを抜けると温かい光に満ちた天の王国に到着する。
「ようこそ天の国へ。世界をゴールしたんだね」と神様みたいな人が言う。
「世界の抜け道を通って君は到着してしまったんだ。冷蔵庫に入るなんて馬鹿なことは考えずに、地上に帰りなさい。あなたが頑張っているのはわかっているんだよ」
次は光がぶわーーーっとあふれ出して、意味が分からなくなったところで目が覚めると布団の中で目を覚ます。
あれは夢だったのか?と思って冷蔵庫に聞いても、もちろん言葉は返さない。
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