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鐘音で嗤う  作者: 海華
シルキー編
4/4

鐘音で嗤う(シルキー編)3


「で、出てきたぞ」


「……手紙を」


真っ白なフリルが沢山着いたドレスを纏った少女。

話とは違い、出てきたシルキーは明らかに好意的な目でこちらを見ていた。


兵士は緊張しながらシルキーに手紙をわたす。シルキーは嫌がりもせずそれを受け取って、少し首を傾げたり頷いたりしながら読んだ。そして少し待ってて欲しいとジェスチャーをして立ち去ると奥から紙とペンを持って帰ってきた。


『下着姿で出歩かないこと。

下着の洗濯は自分ですること。

個室の掃除は自分ですること。

これらを守れるのならば、寮として使ってもいいですよ』


それは奇妙な要求だった。

シルキーは、家人の洗濯も掃除も全てやりたがるものだ。

一部拒否をするということは、家の主とは認められていないのだろう。


まあ、それでも。


「ほ、本当か!!わかった、守らせるから!」


嬉しそうに笑う兵士には充分な結果だったのだろう。

老司祭も、デビットも嬉しそうに笑っている。


「良かったな。自室には入れそうだぞ」


「ああ!助かったぜカイン!いつもありがとうな!!」


「じゃあ私は帰る」


入れると分かったら、外で待機していた人も続々と入ってきた。

忙しいだろうしもう用は無いだろう。

そう思って人波に逆らうように家の外に向かうとーーーーくいっと袖を引かれた。


なんだろうと振り向くと、そこにはシルキーが首を傾げて私の袖を捕まえていた。


「何か?」


意図は分からない。

が、シルキーはくいっくいっと袖を引っ張り続ける。

とりあえず案内されるままについて行くとーーー綺麗に掃除された部屋に案内をされた。


清潔なベッド。

落ち着いた壁紙。

古い大きな、けれどまだ使える大時計。

とても居心地が良さそうだけれど、誰の荷物も置かれていないおそらく空き部屋。


「……いや、私には自分の家があるから」


私にここを使えと言いたいのだろう。

だが、私は小さいが家を借りて居るし、ここは『兵士寮』だから事務官の私は入ることは出来ない。


なので断ると、シルキーは両手で口を覆い凄まじいショックを受けた様子でヨロヨロとよろめいた。


「ごめんな。でもみんなを入れてくれてありがとう」


嫌がって無さそうなので手を伸ばして同じくらいの身長のシルキーの頭を撫で、今度こそ家を出る。





帰り道、商店街で肉を焼いたものとパンを買って。

職場から少し離れた民家が立ち並ぶ場所にある自宅に帰る。


ガチャりと鍵を開けて、中に入るとしっかりを鍵を閉める。


最後のシルキーの様子を見るに、彼女はどうも私が寮に住むから許可を出した……そんな様子がありありと感じられたので。


念の為に玄関の横に十字架を飾った。宗教で使われるものだ。

これを置いておけば、妖精は無闇に入ってこない。


上着を脱いでコート掛けに置き、買ってきた食料を机の上に置く。

そして水瓶にまだ残っていた水をコップで掬って飲む。


まだ残っていたけれど、残りはだいぶ少なくなっていた。



ので、目を細めて水を出す魔法を使うと水瓶の水はあっという間にいっぱいになった。


とりあえず晩飯を食べるか。

そんなことを思っていると、コンコンと玄関がノックされた。



扉を開けると、そこには先程あったシルキーが居た。


何も言わずに無言で扉を閉めた。


するとまたコンコンとノックがされる。



「私は妖精が嫌いなんだ。元いた場所に戻ってくれ」


そう言うと、扉の向こうにはしばらく妖精の気配が残っていたが……時間の経過とともに消えた。

良かった、戻ったか。


そう思って食事を食べて、水魔法で身体の汚れを落として。

まったりと本を読んでいるとドンドン!と荒っぽく扉が叩かれた。


『俺だカイン!』


「なんだよデビット」


慌てて扉を開けるとーーーそこには大きな鞄を持ったデビットが居た。


「何故か俺だけ追い出されたんだ!荷物付きだから良いけどな、だから泊めてくれカイン」


「……はあ」


追い返すにはもう遅い時間なので、仕方なくデビット入れる。

よく泊まりに来るデビットは勝手知ったる感じで客室に荷物を置きに行った。


「下着姿で出歩いたのか?」


「やってねーよ!突然ぽいぽいって荷物ごと窓からほ放り出されて、あとは入れてくれねえんだぜ!」


「……晩飯はもう食ったから、炊事場にあるもので適当に作れよ」


「おうともよ!」


別に泊まりに来るのはいいんだが。この分だとデビットの新居が決まるまで居候になりそうだなーーーーと思った瞬間、ことりと調理済みの暖かで美味しそうな料理がテーブルに置かれた。

私は椅子に座ってる。

デビットは向かいに座ってる。他に人は、居ないはずだ。


そう思って食事を差し出された方を見ると…そこにはデビットの服を何枚も持ったシルキーが居た。


げ、一緒に入ってきたのか。


「おお、洗濯してくれるのか!!」


そういったデビットに対して、サムズアップ了承を返すシルキー。

違うな……こいつ。

うちに住み着くためにデビットを利用しやがった。

ひきつる笑顔で追い出そうとするも、甲斐甲斐しい世話を受けたデビットがシルキーの擁護に回り追い出すことは失敗し。


また、洗濯、掃除、調理をしないで済むと大喜びしたデビットまでもがうちに住み着くことになった。




この日、妖精嫌いの私の家に一人の妖精と友人が住み着いた。




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