鐘音で嗤う(シルキー編)2
「とりあえず終業後、一度寮に行ってみようか。もしかしたらパンツくらいは取れるかもしれないから」
「良いぜ!じゃあ第四寮で待ち合わせな!」
そんなこんなで無駄に賑やかな昼食をとり、様々な人の出す予算案を受理する。
その日の午後からは本当に第四寮の宿泊費申請が提出されていた。申請者はいずれも若く屈強な男性だった。
まあ第四兵士寮だからそれも当然かと問題なく受理を進める。
そして少しの残業後、急いで第四寮へと向かう。
第四寮は確か森よりの大きな洋館だったはずだ。
森の傍ね。
妖精が好きそうな物件だとふっと笑いが込上げる。
もっともその笑いはとてもじゃないけれど好意的なものでは無かったが。
「待たせたねデビット」
「おお、来たかカイン」
第四寮に到着すると、そこには教会の司祭数人の兵士がいた。
妖精は妖精女王をたたえている。
ので、基本的に人の宗教が嫌いだ。
だから追い払うために司祭を呼ぶのは一般的には正しいが……。
「なあデビット、中にはみんなの荷物があるんだよな」
「ああ、あるぜ!」
「……じゃああれ、辞めさせた方が良いぞ。あのやり方じゃシルキーが万が一出ていっても腹いせに荷物めちゃくちゃにされるぞ」
そう言うとデビットは慌てて司祭達の方へ走っていった。
彼等はしばらく何かを話すと、全員揃って何故かこちらへとやってきた。
「もし、君がデビットに止めさせろと言ったのかい?」
「ええ、言いましたよ。対処法のひとつとしてはとても有効ですが妖精は黙ってやられるような存在じゃないので」
「……じゃあ君、何か解決策は無いかい?」
おっと。それを問われるとは想定外だった。
淡々とこちらを見てくる歳上の兵士を見上げる。
「……貴方の願いは何ですか?」
「……難しいな。出来たらシルキーとは和解をしたいと思っているんだ。けれど中にも入れてくれないから追い出すしかないと思っている」
「元から住んでいた妖精を追い出すのは私としてもあまり進めたい選択肢ではなくってね。アドバイスをくれるくらいだから君が何か良い方法を知らないかな、とね」
願いは、和解。
一度目を閉じて、開くと何故か優しげな司祭も兵士も息を飲んだ。
デビットだけは『ああ、いつものか』と言った目で見ている。
そして屋敷の方を見ると、屋敷の中から外へと一本の紐が出ていた。
その紐は中から外へ。
そして外から、目の前の兵士の胸ポケットへと繋がっていた。
「その胸ポケット。何が入ってますか?」
「え!?あ、ああ。ペンだな。寮長に就任した記念に買ったんだ」
兵士が取り出したペンに紐は繋がっていた。
ペンを使えと言うことだろう。
「…和解できるかわかりませんが、入れないのならば手紙を書いてみたらどうですか」
「……シルキーは人の文字が読めるのかい?」
「さあ。でもやらないよりは効果があるかもしれないですね」
少し考えてから兵士さんはわかったと言って紙を用意してサラサラと何かを書き出した。
すぐに手紙は書き終えて、そのまま家に行こうとするのでーーー咄嗟にそこらに咲いていた花を積んで差し出す。
「これは?」
「女性相手なのですから花を添えたら喜ぶんじゃないですか」
「確かにそうだな」
喜んで手紙に花を添える兵士さんのあとを一応ついて行く。
コンコン、とノックをする。
だけど家の人間と認められていないならシルキーが出てくることは無いーーーーーと思った瞬間ガチャっと扉が開いた。
あれ、家の人間として認められているのか?