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鐘音で嗤う  作者: 海華
プロローグ
1/4

鐘音で嗤う


「そうですね、ここのところの計算間違っているようなので直させて頂いても良いでしょうか?」


「おお、ありがとうなあ!数字は苦手でよう」


「いえ、これもタールさんが確認をさせてくださったおかげです。会計部としてお礼を申し上げます」


「何言ってんだよう!俺としても不備で再提出喰らわなくって本気で助かったぜ」


「またいらしてください」


本当に嬉しそうにタールさんは笑ってバンバンと力強く私の肩を叩いて去っていった。

うん、これならばちゃんと予算案として提出できる。


申請書を計上書に仕上げる担当の先輩に渡すとーーーー先輩はいやそーな顔で私を見ていた。


「どうかしましたか?」


「お前、大丈夫か?あいつ頭も馬鹿だが力も馬鹿だろ?」


うーん。

馬鹿力。ああ、なるほど。

肩が結構痛いのは、そのせいか。


「ちょっと痛いですがまあしばらくすれば大丈夫ですよ」


「…ほれ、これやるよ。お前にはキリキリ働いて貰わないとダメだからなあ」


「優しさかと思ったらそっちですか!?」


「あたぼうよ。ほれ、さっさと使って働け働け!」


手渡されたの服の上からでも振りかけられる精霊の霊薬で。

窓口業務の時以上の作り笑いを浮かべながら先輩に頭を下げた。


そしてーーーー霊薬をかける()()をする。

優しくも厳しい先輩には悪いが……()()の力なんて借りたくない。




『鐘音で嗤う』



領都の会計部。そこが私が今年入った職場だ。

その中で私の入った部門は騎士団と魔術師団の出資を管理する場所だ。

戦うこと魔法を使うことに長けた方々は

事務書類が非常に雑だった。


新人に計算などはまだ任せられない!という理由で私は受付を任せられた訳だけども。


初めはとある部隊長の一月分の申請書だった。

詳細欄に

宿泊費800x5=4000とだけ書かれた書類。


宿泊費はわかったけれど。食事代や備品代は書かないのだろうか。

新人だが、先輩がこの手の雑すぎる申請書を再提出を要請しているのは知っていたので……部隊長の機嫌を損なわないよう恐る恐る声をかけてみる。


「あの、すみません少しお尋ねしてもいいですか?」


「ああ、どうした?」


「こちらの申請、お食事代や細かな備品の申請はないのですがよろしいのでしょうか。宿代ってここまで高くないですよね」


「ああ。この中に全部入ってんだよ。宿代だけだと一人400位だったかなあ」


この中。

800x5=4000

いやダメですよそれ!宿泊費と食事代は別物ですし!

それは再提出くらいますよ!?


申請書をじっと見て。

部隊長さんが気分を害して無さそうなのを確認してもう一度勇気を出してみる。


「あの!これだと多分審査は通らないと思います。ですのでこれをこういう風に書き足して頂けないでしょうか?」


「……ん?」


宿泊費800x5=4000

内訳

食費300x5=1500

宿代400x5=2000

雑費100x5=500

計4000


いらないメモにそう書いて見せると、部隊長は目を輝かせた。


「これ!こう書けば三枚書類を出さずに済むのか!」


「え、ええ。一番初めの状態だと高級宿にでも泊まったのかとおそらく却下されてしまいますので」


「そうなんだよ!三枚も申請するのは面倒だけどまとめすぎると却下されてなあ。こう書けばいいんだな、助かるぜ」


そしてその場で書き足された書類は、1発で先輩のチェックを抜けていった。

先輩も部隊長さんもすごく喜んでいたので私は上司に頼んでその日から受付の時点で簡単なチェックと書き方指導をする許可を頂いた。



驚くことに、書き方を知らない人は沢山いた。

だいたい一種類に一枚書くのが面倒でまとめて書いて高価になり棄却をくらう。

または普通に計算を間違っている。


簡単なチェックで再提出が減れば会計部としても仕事の手間が減って万々歳だった。

そんな感じで、

私は新人だけれど無事に職場で自分の立ち位置を確保していた。




「よう!カイン、昼飯食いに行こうぜー」



昼休みの鐘が鳴り、その前に来ていたお客さんの処理が終わると入口から友人が顔を出した。

同期で、同窓生で、友人のデビットだ。


先輩に休憩に入りますと挨拶をしてから、カウンターを出てデビットの元へ行く。


職場は大きな括りでは同じだが事務官として入った私とは違い、デビットは兵士として入隊した。

故に、私とはデビットは体格が物凄く違う。性格も全然違うけれど、グイグイ来るデビットと私は不思議と学生時代から仲が良かった。


「今日のランチ、なんだっけ?」


「生姜焼きか煮魚だったかな。お前はどうせ生姜焼きだろ」


「だな。デビットは意外と魚が好きだから煮魚だろ」


「おうともよ。俺、煮魚は作れねーからすげえ楽しみ」



けれど事務官と兵士の組み合わせは珍しい上に……私もデビットも少し目立つ容姿をしているのですれ違う人は少し目を見張ってこちらを見てくる。


まあ、そんなものは私たちの友情には関係ないけども。

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