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いついろの世界

作者: nauji

五色(青、赤、黄、白、黒)をテーマに書いてみました。

タイトルは『ごしき』よりも語感が好きな『いついろ』にしてみました。


楽しんでいただければ幸いです。

私は世界へと降り立った。


そこは白に染まる世界だった。


あらゆるモノが白い。


空も、地面も、建物も、植物も、動物も、そして、人でさえも。


動くモノはない。


どれもが、白磁か石膏のように形質を変化させている。


目指すは、この異変の元凶。


耳が痛くなる程の静寂の中、それを破るかのように足音を立てて進む。


遠目からでもその姿を確認出来た。


周りの如何なるモノよりも、一際大きい。


全身を白く染め上げたヒトカタ。


球体関節の数が異常だ。


一つの腕、一つの脚に複数存在している。


そして、腕も脚も二つきりではなく、無数に生えていた。


多腕多脚のヒトカタ。


否、最早人を模したとは思えない異形。


遂に、ソレの足元へと辿り着いた。


ヒトカタの顔に開いた二つの穴が私を見つめているのを感じる。


間接部の球体を狙い、手に持つ刀を振り抜く。


私を敵と認識したのか、ヒトカタが攻撃を仕掛けてくる。


迫る攻撃を避けつつ、ひたすらに球体を斬り裂いてゆく。


ヒトカタの腕が、脚が、徐々にその数を減らしてゆく。


やがてヒトカタは、脚を捥がれた虫のような姿に成り果てた。


ヒトカタの頭に刀を突き立てる。


刀越しに手へと伝わる感触が、今までとは異なっていた。


今までは薄い陶器を割るような感触だった。


だが今は、柔らかい感触を返してきている。


瞬間、ヒトカタの頭から、赤い液体が噴き出してきた。


辺りが赤く染まってゆく。


ヒトカタに同調するように、周囲のあらゆるものが、皮を剥くようにして内側を晒してゆく。


それらもまた、赤い液体を噴き出している。


しばらくすると、赤い液体は止んだ。


その頃には、世界はすっかり赤く染め上げられてしまっていた。


赤い液体で小さな池と化していた足元から、何かが浮かび上がって来るのを感じて、その場を飛び退く。


姿を現したのは、全身を真っ赤に染め上げた、身の丈二メートル程の鎧武者だった。


その長身が、予備動作なく私を斬り付けて来た。


鍔迫り合う。


膂力の違いに、私はたまらず膝をつく。


刀を斜めに構え、刀にそわせるように相手の刀を滑らせてゆく。


空いた胴を刀で横薙ぎに両断した。


すると、割れた体から、明らかに体積に不釣り合いな量の無数の(つた)が這い出してくる。


瞬く間に蔦は辺りを埋め尽くし、やがて、世界を鮮やかな緑で覆い尽くした。


かと思われたが、蔦は次第に枯れ始め、その色を変じてゆく。


最後には腐ったような黄色へと変わり果ててしまった。


世界が極彩色の黄色で占められる。


その蔦の一部が何かの形を成してゆく。


果たして、胴体を一つとして、無数の人の首を持つ化生(けしょう)が現れた。


無数の首が私に噛みつかんと迫り来る。


それを片端から斬り伏せてゆく。


しかし、元が蔦だからだろうか、すぐにまた元の姿を取り戻してしまう。


しばしの間、膠着(こうちゃく)状態が続く。


迫る首には構わず、胴体へと肉薄してみせ、その根元を断つ。


途端、蔦は動きを止め、その身を(しな)びらせてゆく。


間を置かずして、その身からは水が染み出してくる。


見る間に辺りは水で満たされてゆく。


水嵩(みずかさ)は留まるところを知らずに増してゆき、この身すらも追い越してゆく。


やがて、青の世界が出来上がった。


水面を目指し、浮上する。


その足を何かが掴んだ。


足元を見るが、その姿は確認出来ない。


どうやら、水に姿が溶け込んでいるのか、水に同化しているのか、視認出来ないようだ。


足元を刀で薙ぎ払う。


しかし手応えがないながらも、足を掴む力は弱まらない。


自身の足を軽く斬り付ける。


傷口からは血が滲み始め、その付近を紫に変える。


その中で、青いままの箇所が見て取れた。


すかさずその箇所を突き刺す。


それを契機として、水が引き始める。


ようやく水面から顔を出すと、辺りは闇に閉ざされていた。


世界を黒が支配している。


水が完全に引くと、視界には何も映らなくなってしまう。


その黒の中から、何かの息遣いが至る所から感じられる。


囲まれているらしい。


目を閉じ、耳が拾う音に集中する。


包囲網を狭め、近づいてくる息遣い。


そして遂に、間合いへと入って来た。


その瞬間、一刀の元に斬り伏せる。


息遣いが聞こえなくなるまで、それを繰り返した。


周囲が静寂で満たされる。


だが、闇が晴れる気配は無い。


油断をせず、構えを崩さないよう心掛ける。


体に痛みが走る。


何の音もさせることなく、何者かの攻撃を受けたようだ。


この相手には視覚も聴覚も当てにはならないらしい。


刀を納刀し、居合の構えを取る。


更に神経を研ぎ澄ませる。


触覚を頼りに空気の動きを探り、相手の攻撃を察知した瞬間に、一刀のもとに斬り伏せられるよう身構える。


息を止める。


酸欠で苦しくなる。


それに構わず、唯々触覚にのみ意識を集中させる。


僅かな空気の動き。


すぐさま踏み込み一閃。


手に持つ刀は、確かな手応えを返す。


黒の世界に亀裂が走る。


それは世界全てへと行き渡り、やがて一斉に破砕した。


足元も崩れ去り、私は落下してゆく。


底が知れぬその先へと落ち続ける。


永遠にも思える時が過ぎ、ようやく底へと到達する。


私は世界へと降り立った。


リターナルの実況を見ていてふと思いついた作品。

ちなみに主人公は2Bっぽいイメージでした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『救世主は救わない』
完結しました!

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