ブラック企業で何が悪い!
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俺はブラック企業に勤めている。
たった今帰宅したところだ。壁にかけている時計の短針は真上を指していた。
さっさと寝よう。
そう思った矢先、ポケットの中のスマホが震える。
どうやら電話のようだ。こんな夜中に誰だ。
表示されたのは大学時代の友人の名前だった。非常識なやつめ。
「もしもし」
俺は不機嫌な様子が伝わるように、わざと低い声で応答する。
「やっほー! 元気してりゅー? あははは」
ろれつが回っていない。こいつ酔ってるな。
「こんな時間にかけてくるなよ。マナーは守れ」
「固いこと言うなってー。俺の愚痴に付き合ってくれよー」
「わかったよ。でも手短に頼むよ」
「お前は優しいなー。好きだぞー」
「お前が女だったら嬉しい言葉だな。で? 愚痴ってなんだよ」
「そうそう。上司がひどいやつでさー。理不尽な理由でめちゃくちゃ怒ってくるの。『俺が思っていたのと違う』って。俺は言われたとおりにやっただけだっての!」
「そうか。大変だな」
「だろー。残業したって残業代出ないし。何がしゃーびす残業だ! 労基に訴えるぞ!」
「そうだな。残業つらいなー」
「お前の職場はどうなんだよー」
「俺もさほど変わらないよ。毎日同じことの繰り返し。上司は大声出すし、昨日から徹夜で作業していたんだ。しかも、今やっと帰ってきたところだよ」
「そっかー。お前も同じなんだなー。同じブラック企業どうし頑張ろうなー。今度一緒に飲もうなー」
「ああ。いつか飲もう」
俺は通話を切る。
「ブラック企業か。なかなか大変なもんだな」
俺は他人事のようにつぶやく。
俺は職場が劣悪な環境だとは思わない。むしろ逆だ。これ以上良い職場はないと思っている。
友人に言った言葉は嘘ではない。
上司は朝の体操の時間に誰よりも大きく声を出している。つられてこっちの声も大きくなる。朝から声を出すというのは気持ちの良いものだ。
仕事内容は至って簡単。電話による問い合わせの対応。大抵はきちんと話せばわかってくれる。クレーマーは適当にあしらえばなんとかなる。
それに定時で帰ることができるから、趣味にも没頭できる。昨日は徹夜で麻雀を打っていたし、今日はカラオケ。おかげで喉が痛い。
今みたいに職場について聞かれることがあるが、言葉を慎重に選ばなくてはならない。馬鹿正直に答えて俺より優秀なやつがこっちへ来たらどうする。俺は職を奪われるかもしれない。こんなに良い職場を渡してなるものか。
だから俺はブラック企業に勤めている。
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