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アフターハロウィン

作者: 京本葉一

 お母さまが淹れてくださった紅茶の香りに満たされていると、学友のナデコさんから予定にはないお電話をいただきました。


「ハッピーハロウィン!」

「まだ昼間ですよ」


 そう、今年も来てしまったのね。


「今夜はブルームーンでもあるらしいよ!」

「ええ、そのようですね」


 世界は豊かで美しい。その恵みには感謝せずにいられない。美を感じる心があれば、敬意を抱かずにはいられない。自然とともに生きてきた日本人なら当然のはずですのに、商業主義に陥ったイベントに踊らされるだなんて、日本人の魂はどうなってしまったというのでしょう。


「ねぇねぇ知ってる? ブルームーンって青くないらしいよ!」

「由来は所説あるそうですね」


 ブルームーンのハロウィンともなれば、きっと何かが起こるのでしょう。

 道理のわからない人たちが、派手な仮装をして集まり騒ぎ、多大な迷惑をかけながら、ひとときの興奮と虚しさを味わう。それが嘆かわしい日本のハロウィンですもの。

 不吉なことが起こるにちがいない。

 明日の朝には、公道にランジェリーが散乱しているかもしれません。


「どこかでホラーイベントやってないかな!」

「破廉恥ですわ」

「えぇ!?」

「えぇ、ハレンチです」

「わかるの!? あたしのコスチュームがみえてるの!?」


 それでも世界は美しくあろうとするでしょう。豆をまいた節分の翌朝、どこからかハトがあらわれるように、明日の朝には、地上に舞い降りた白いハトたちが、色とりどりのランジェリーとともに飛び立ち、大空というキャンバスに虹のような美しい絵画をつくりだすのかもしれません。


「落ちつかれましたか?」

「うん、だいじょうぶ」

「よろしければ今からいらっしゃらない? お母さまのつくったスイーツがあるの」

「えっ、いいの!?」

「そうだ、お母さまには、ナデコさんのご家族のぶんも作っていただきましょう。お菓子をづくりが楽しくてしかたのない方ですもの。きっとお喜びになるわ」

「神か!」

「ハロウィンですもの。むしろ悪魔ですわね。糖質とカロリーの支配者です」

「くっ、すでに誘惑に負けてる!」


 ナデコさんとの通話を終えたあと、少し冷めてしまった紅茶を味わいました。


 ナデコさんが大胆な仮装姿でやってくる可能性については、ないといいきれないのが困ったところですね。今年のハロウィンはどうなるのでしょう。いえ、いかなる夜が訪れようとも、夜明けはかならずやってくる。日本人の魂の夜明けを、わたしは信じています。

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