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殴る勇者と斬る魔王  作者: 鳳梨
9/13

7話

何か月ぶりだろー・・・・・(笑)


 時折休憩をはさみながら、数日歩き続けている三人。相変わらず魔王と他二人の歩く距離は開いたままだ。

ここまで何事もなく人里もまばらな、人目を気にしなくてもいいようなところまで来た。

まぁ正直、人目があったって気にする気があったかどうかは別だが。

「なぁグルナ、お前転移魔法とか使えねぇの?」

一回だけ、ウルラートがそう、魔術のエキスパートであるはずの魔王にそう聞いてみた。が。

「………楽を覚えるとよくないぞ、勇者よ」

そっと逸らされた目に察して、ウルラートはおとなしく引き下がって歩くことにしたのだった。

「ウルラート様、あれほんとに魔王なんですか……?」

「そのはずなんだけどな……使える魔法が偏ってんのかな…」

ぼそぼそと二人は言葉を交わす。未だにグラナートの使える魔法を把握させてもらっていない。

それは魔法を使うような戦闘がなかったということで幸いなことなのだが、ゆえに話すタイミングを逸しているということでもある。どこかでしっかり話をしたいところだ。できることを把握しておかないといざという時に困る。

「少なくとも、炎魔法と転移魔法は無理みたいですね。光魔法もでしょうか」

「た、たぶん…」

転移魔法はともかく、属性魔法である炎魔法はそこまで扱いの難しい魔法ではなかったはずである。適性があれば人間だって使える魔法なのだから。

二人して一気に不安になる。この魔王、本当に大丈夫か?

「まぁ……剣の腕はあるんだし、戦闘は大丈夫だと思う、多分…」

デゼルトへの攻撃を止められた時のことを思い出して、ウルラートは複雑な顔になる。あっさりと止められたのは正直面白くなかった。

「そうですね、でも、魔族と戦う時にそれで大丈夫でしょうか…」

当然、魔族は魔術を使う。不安になるのも仕方がない。

「本当に致命的だったら多分あいつはもう言ってきてると思うし、大丈夫だって」

あくまでグラナートを信用する姿勢を崩さないウルラートはピスティをそう励まして自分の剣に触れてみる。相変わらず気後れしそうになるくらい眩しい剣だ。

(あの時、この剣じゃなければ、拳だったら、グルナにどのくらい通用したんだろう)

ウルラート自身時々忘れそうになるが、ウルラートは本来、剣士ではなく闘士、素直に殴ったほうが強いというわけのわからない勇者なのである。そしてそのことを、グラナートにもピスティにも言いそびれていた。言いそびれていることも忘れていた。普通にうっかり忘れていた。

「………」

(まぁ…いいか。大したことじゃないし。基本は剣だし)

この魔王と勇者のコンビはどちらも間が抜けているらしい。ほうれん草が嫌いなのかもしれない。たぶん二人そろって一回茹でられた方がいい。

閑話休題。

そんなどうでもいいことを考えながら、距離を稼ぐだけの平穏な一日が過ぎていく。





日が傾き始めると、三人は夜を明かせそうな場所を見つけて火を起こし、食事を済ませるとまたグラナートは二人から距離をとる。取ろうとした。

「魔王様ー!」

今まさにグラナートが立ち上がった瞬間、その魔王のちょうど頭上にピンクの煙がポンっと弾けた。

警戒など微塵もしていなかった、今まさに立ち上がろうとした男の頭の上に、いつかのピンクボール蝙蝠もどきである。

ピンクボール蝙蝠もどきの小さな羽が、あいさつ代わりにぴょこんと上げられるのと、グラナートの頭がぶつかるのはほぼ同時だった。

「………なんて間の悪い……大丈夫か、グルナ…」

「……………シェルム……」

大して痛いわけでもないが、とても気まずい。

「……えへっ」

「シェルム……!」

「お、怒らないでくださいよー、わざとじゃないですって!」

慌ててシェルムを仲介する使い魔はパタパタとウルラートの後ろに移動する。

「おい、俺の後ろに来るな、俺を盾にするんじゃねぇ」

「固いこと言わないでよ、勇者様!勇者でしょ、魔王様から守って!」

「なんかおかしくねぇか、絶対間違ってるぞ!」

じりっと魔王が座った目で迫ってくる。思わずじりっと勇者も下がった。ピンクボール蝙蝠は勇者の背中にピトッと0距離でへばりついている。

(こ、こいつ、思ってたより重いな)

背中にピンクのこぶをくっつけたウルラートはボールみたいな柔らかさでずっしりと重い使い魔に現実逃避しながら、どうやって迫りくる魔王から逃げるかを考えていた。勇者にあるまじき思考である。反省しろ。

「ウルラート様、あの、それは……?」

勇者の背中に隠れたピンクボール蝙蝠はぴょこぴょこと顔だか頭だかよくわからない部分を出したり引込めたりして魔王を煽っている。それを見て徐々に我を取り戻したピスティがそのピンクボール蝙蝠を指さしておずおずと問いかけた。

「え……あ、えーと……グルナの部下で…」

「シェルムだよ!魔王様の秘書やってます!」

片方の羽でウルラートにしがみつきながらもう片方の羽をピスティに向けて振るという器用な芸当をこなすシェルム。

「いい加減俺の後ろから出ろ、シェルム。なんかグルナに話があってきたんだろ」

「あ、そうでした!あのですね魔王様!」

今まで隠れていたウルラートを突き飛ばす勢いでシェルムが飛びあがり、魔王の前に出てくる。

「魔王様がこっちでもちゃんとやれてるか様子見てこーいって言われました!問題なく過ごせてますか?」

一瞬、沈黙が下りた。その沈黙は、え、そんなことできたの?とか、報告があってきたんじゃないの?といった困惑からくる沈黙だったが、シェルムはそれを別の意味で解釈してしまった。

「魔王様!勇者さんを困らせるようなことしたんですか?だからお店から勝手に食べ物取っちゃダメだってあんなに言ったのに!」

プンプン!と文字が見えそうなコミカルな動きで蝙蝠ピンクボールがグラナートに詰め寄る。

「いいですか、魔王様の常識は人間の世界での常識じゃないんですよ!お店のもの食べちゃったときに、魔王様仕方ないなぁって笑って許してくれるのはいつものお店の方たちだけです!ほかのお店では通用しないんですよ!もー!!」

「え、いや違っ……」

ぶんぶんと首を振って無罪を主張する魔王にシェルムは無情にも言い放った。

「今度からこなしていただく書類とは別に、魔族教育委員会発行の常識の手引きと人間世界の歩き方もお持ちしますのでぜひとも再度目を通してくださいね!まったく、絶対役に立たないって思ってた組織のほうが仕事してるってどういうことですか」

「勘弁してくれ、あいつらの本は分かり切ったことを堅苦しく書いてあるだけの退屈極まりない物ではないか!絶対に読まんぞ!あとお前が思っているようなことはしていないからな!?」

本気でうろたえて全力拒否する魔王に詰め寄る秘書。その光景を見た人間二人が死んだ目で思うことは奇しくも同じであった。

「…………………魔族教育委員会って何…」

これに尽きた。

「ウル!お前も黙ってないで何とか言ってくれ!」

悲痛な魔王の叫びが勇者に届いた。勇者は考えるように少し沈黙した後、何かを閃いた、というか思い出した顔でシェルムのほうに向きなおる。

「………確かに店の物はこいつは持ち出してないぞ」

そうだろう、そうだろう!とグラナートは満足げに安心したように大きく頷く。

「ただ試食荒らしをしまくってただけで。あまりにも申し訳ない頻度と量だったからそれぞれの店で買ったらそれも全部食ってた。あと幸運のツボとか言うバカみたいな詐欺に引っかかってた」

チクりやがった、こいつ……!とグラナートがビシッと固まってものすごい顔になる。ウルラートは涼しい顔でそれを見なかったことにしてピスティに

「さ、俺たちはそろそろ寝るか」

と告げた。ためらいなく響魔を見捨てる勇者の図である。酷い。

「………そうですね」

少し口を閉ざしたピスティにグラナートは視線を向けるが、ピスティも、面倒くさい案件だと察しを付けてウルラートに従った。魔王を見捨てる神官の図である。とても正しい。

ウルラートとピスティが少し離れたところで荷物の整理や野営の準備を続けているころ。蝙蝠ピンクボールの眼前で正座でしょんぼりする魔王の姿があったとかなかったとか。



翌朝。

シェルムの姿はなく、グラナートが未だどことなくしょんぼりした様子でまた周囲に目を配っていた。

出てきたウルラートに恨みがましい目を向けるグラナートに、ウルラートは先手で

「悪かったって」

と一言誠意なく謝っておく。なぜなら、あの試食騒動はウルラート的にはちょっとあまりにもアレだったので。

「シェルムは?」

「あれも忙しいからな。帰らせた。言いたいことを言ったら満足したようでもあったしな」

疲れた声音で返答するグラナートに、あぁ、と納得する。だいぶ言われたんだろうなぁ、と。

「あー……ピスティが飯用意してくれてるぞ」

「おお!それは助かる!」

ちょっと気まずい沈黙を、本来の用件でぶった切ると、グラナートのテンションが一瞬で元に戻った。

いつも通りのテンションでピスティのいる方に歩いていくグラナートに呆れた目を向けながら、ウルラートも後に続く。



グラナートはしょんぼりしていたのが嘘のように機嫌よく食事をとる。

「お前、機嫌なおるの早いな…」

「まぁ、いつまでも気にしていても仕方あるまい」

あっけらかんと言い放つ魔王に

「いや気にしろよ…せめてもう少し気にしろよ……」

勇者は頭を抱えた。ピスティもシラッとした目を向けて

「さすが魔王、図太いですね……やはり討伐した方がいいのでは…?」

と言い放つ。この神官も大概図太い神経をお持ちである。

「お前もちょっと待て。正直気持ちは分からんでもないけどちょっと待て」

「おいウル、その気持ちはお前は分かってはいかんものではないか?我魔王ぞ、貴様の響魔ぞ??」

魔王様は勇者と神官に心底シラッとした目を向けられたのだった。

「で、そんなことより、今日の進路のことなんですが」

なぜかへこみ始めたグラナートを完全に無視して、ピスティが持ち出してきていたらしい地図を広げる。

「準備いいな、ピスティ」

「旅をするのですから地図は必須かと思いまして。ただ、こちら側の地図ですので、どうしても魔族領のほうは大雑把にしか書かれていませんが…」

魔族領に詳しいであろうグラナートに視線が向かう。

「…………?」

地図に目を向けることなく、普通に食事を続けていた。きょとんと二人の視線を見返すグラナート。

「………」

「………」

沈黙した二人と広げられた地図を見比べて、あぁ、と状況を把握したらしいグラナートが口の中のものを飲みこんで、ようやく思案顔になる。

「ふむ……」

グラナートの指が地図をなぞる。

「マモン領に入るなら一番近いルートはこの道から魔族領に入るのが早い。が、デゼルトたちのいた森を横切るルート、光を収束するタイプのピスティにはあまり向かないルートだろう。とすると、次に近いルートは今進んでいるルートだ」

王国領と魔族領の境界を越えて、道や詳細の記載のないエリアをグラナートの指が進んでいく。

「このあたり。このあたりがマモン領の……村だったか…いや、街か。街がある。人間も住んでいるぞ」

「え…?」

「七魔領は別に未開の魔境でも何でもないぞ。人間の国には一部の魔族を絶対に受け入れない国もある。響魔を守るために国を出る人間もいないわけではないからな。そういった訳ありの者たちの受け入れ先でもある。七魔領は人間にとっても魔族にとっても少し特殊な場所だからな」

困惑した声を漏らしたピスティに説明するようにグラナートが言葉を繋げた。

「だから、そう過剰に警戒する必要はないぞ。領主が下手な魔族より強いからな、治安は悪くない」

「下手な魔族というか、七魔に勝てるやつのほうが少ないだろ……」

そっとウルラートも口を出すが、これも一つの現実逃避である。

「まぁそれはそれとして。おそらくだが、この辺で何らかの接触はあると思うぞ。マモン本人か配下かは知らんが」

そうグラナートが示したのは、マモン領に入るか否か、といった境界の部分。

「俺がいるんだ、戦闘にはなるまい。だが、お前たちに対してはなんらかのアクションがあるだろう。何しろ勇者ご一行様だからな」

ちなみに俺は顔パスだ。とちょっとドヤ顔を晒す魔王。

「魔境の警備、ザルかよ。顔パスはどうかと思う、さすがに」

ウルラートが警備体制をそう批評するも、グラナートは全く気にかける様子はない。ザルでもいいらしい。

「てか、あったのが昔なのに顔パスもクソもないだろ」

もっともである。

「まぁ問題はあるまい。すり抜けたところで中で騒ぎを起こして領を害すれば領主自らが叩き潰しに動くだけだからな」

ザルとか甘々かよ、と思っていたら普通に叩き潰すこと前提だった。

「やはり魔族は野蛮ですね‥‥」

ピスティは嫌そうに顔をしかめてグラナートを睨む。

その反応を、魔王は華麗にスルーしてまた地図に目を落とす。

「今いるのがこの辺り。少し行った‥‥この辺りから魔獣や魔物が出始めるな。ここまでは戦闘らしい戦闘はないだろう」

そうグラナートが指で叩いた場所は、確かに人間たちの中では魔族領にもっとも近いと認識されている人間領の端の場所。ウルラートも、もっともだと頷いた。

「そうだな、その辺から魔族たちが確認され始めるラインみたいになってるし」

「ウル、それでは語弊が出る。魔王たる我の契約者であるからにはその辺もしっかり頼むぞ」

したり顔でうむうむと頷く魔王に、人間二人は、何言ってんだこいつ、という顔を向ける。

「語弊?」

「なんかおかしいこと言ったっけか?」

首をかしげてウルラートとピスティが疑問符を飛ばすとグラナートは、え?という顔になった。

「何を言っている、明確に違うではないか。それとも人間たちにはそういう認識なのか?それは由々しき事態だ‥‥早急に解決せねばならんな‥‥」

後半は独り言のように呟いて難しい顔になるグラナート。

「いいか、魔族というのはだな」

「あのさ、その話長そうだなと思うのは俺だけか?長くなるなら歩きながらにしようぜ、飯も食ったし」

うんちく喋ります、という雰囲気を醸し出したグラナートをウルラートは秒で遮った。

「そうですね、行路が決まったようですし、とりあえず進みましょう」

それもそうだなとグラナートも渋々頷き、ピスティは手早く片付けを始める。

喋るだけで尺を取りすぎだ、自覚はある。

ようやく準備が整い、3人はまた歩き出す。

BGMは魔王のうんちく語りだ。

「魔族とは俺の配下、同胞を示すのだ。対して魔獣は魔力によって変質した獣や知性が低い獣魔族を指す。別物だぞ。だからこそ、同一視されることを拒むものも多い。お前たちも獣と人間を同じだと言われればいい気はせんだろう。そして魔物だがな、これはそもそも知性を持たないモノだ。我らの魔力のカスが集まって生まれたものやそれが死骸に宿ったアンデット系だな、知性も理性も何もないものを指す。いいか、これらを同一視するだけでいないはずだった敵を自ら産み出す結果にもなりかねんのだ。だからこそだな‥‥おい、ちゃんと聞いているのか、ウル、ピスティ」

「話が長いんだって。ほら、歩け歩け」

「話が長いとはなんだ、これは大事なことだぞ!」

 ぎゃんぎゃんと吠える魔王をうるさそうに流して、三人は歩を進めていくのだった。

いい加減話を進めたいよね、でも進まねぇどうしようと考えた結果、筆が止まったのでそこを考えるのはやめましたw

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