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殴る勇者と斬る魔王  作者: 鳳梨
7/13

5話

アニソンしか曲知らないからさ、この曲イメージに合うから脳内オープニングに採用する曲は100%何かのオープニング(笑)

妄想するだけならいいよね!と自己弁護する今日この頃……


抱きしめていた少女を自分の背後に入らせて、獣人の少年はウルラートたちに正面から向かい合う。

「……………突然跳びかかったのは俺が悪かったと思ってる……ます……でも……」

俯いて言葉を濁す少年に、グラナートが先を促した。

「こいつらがお前たちの話を最後まで聞く前に剣を抜くなら俺が間に入る。だからそう怯えずにちゃんと話すがいい」

「うん……」

すっと息を整えて、緊張した顔で少年が口を開く。

「ぼ……俺は、デゼルト・フィラフト。こっちは妹のザフィロ・フィラフト。ちゃんと一緒に生まれた、正真正銘の双子なんだ……」

正真正銘の双子、その部分をデゼルトは、複雑な顔をしているピスティを見ながら強調した。

「人間の母さんと、その響魔だったマンティコアの父さんの間に生まれたのが俺達で……父さんと母さんはこの村をずっとこの森の中からこっそり守ってた」

「なんでコソコソする必要があった?守っているのなら、堂々と村の用心棒としていられただろ?」

ウルラートがそう尋ねる。

「村の人は、父さんを……嫌ってたから……俺達も村には行かない様にって言われてたし……」

「お兄ちゃんと村に遊びに行ったら、石投げられたよ・・・的当てだって。人と魔物の子なんて変だって」

とつとつと話す兄妹が哀しそうな表情でまとまっていない話を口にする。

「……………確かに、10年ほど前にマンティコアの一族から一人、響魔が排出されている。子ができたという報告は受けていないが………」

顎に手を当てて、ふむ、と考えるように目を閉じる。

「珍しい魔族特徴の発現の仕方だ、報告は欲しかったが、お前たちの親の懸念も分からんでもない。魔族の中にも探求心の元に命をいじる輩がいるからな。知識欲は人間のそれと変わらん」

「人間はそんなことしません!そんな、命を弄ぶような残虐な行為、魔族くらいしか行いません」

人間も魔族も変わらない、そんな言葉に過剰に反応したのかピスティが声を荒げた。

「ピスティ、今はその話じゃないだろ………それに、人間は聖人君子な種族なんかじゃない」

ウルラートが、声を荒げたピスティを押しとどめるのをグラナートは意外そうに見た。

「ほう………そういうことは神官のピスティより勇者のお前の方が言いそうだと思っていたんだがな?ウルよ」

「人間も魔族もいろんな奴がいるさ。それに、いざとなった時、魔族より人間の方が非情だ。俺はたまたま、それを他の奴より知ってただけだよ」

その“いざ”の基準が人間の方が不安定だってことも。ぼそりとそう付け加えるウルラートは何とも言い難い複雑な表情をしていた。

「ウルラート様……?」

その表情に、ピスティが何かを言おうとするが、結局口をつぐみ、その場が沈黙する。

「まぁ、その話よりも、2人の話だろ?デゼルト、ザフィロ、続きを話してくれ」

その沈黙を破るように。ウルラートが兄妹に話の続きを促す。

「う、うん………」

「そもそも、なぜお前たち の両親は出てこない?この異常な状況で、響魔とそのパートナーが己の子だけを動かすなどおかしな話だ」

グラナートの純粋な疑問に、デゼルトはぐっと拳を握り、ザフィロは目に涙をためた。

「…………父さんと母さんは………この村と一緒に死んじゃったんだ………空から怖いのがいっぱい降りてきて……」

「なんだと」

デゼルトが言葉を詰まらせながらそう訴えると、二人を怯えさせないようにと気を使っていたはずのグラナートが険しい目を子供たちに向け、怯えさせてしまう。

魔王であるグラナートは、自分のあずかり知れぬところで魔族が人間を襲うなど何かの間違いだとどこかで信じていたし、そんなことがおこるなど信じたくもなかった。

「グルナ、気を立てるな。怖がってる。俺が言えたことじゃねぇけど」

ウルラートに指摘されて、はっとグラナートは険しさを引っ込め、息をつく。

「すまん。そんな報告は受けていなかったからな、驚いただけだ。脅かしてすまんな」

ばつが悪そうな顔でグラナートはそうもごもごと謝る。

子ども二人は、びくつきはしたものの率先して庇ってくれたグラナートには幾分か心を開いているらしく、おずおずと頷いた。

「その、空から来たという、怖いものについて話をきかせてくれ。マンティコア族の者がいかに背後に守るものがあったとしてもそう簡単に後れを取るとは思えん」

険しさは抑えられたものの、穏やかとは言いづらい表情でグラナートは双子に先を促した。

「どんなのかは分からなかった……父さんと母さんが外には出してくれなかったから…でも、羽の音が聞こえたんだ。鳥みたいな、柔らかい羽根で飛んでるような音だった」

人間は、空は飛べない。どんなに技術が発達しようと、マンティコアの耳を欺けるほど精巧な鳥の翼など作れない。

「人間みたいな形で羽が生えたやつらがいっぱい、浮いてたよ」

人間は、身一つで空中にその身を置くことはできない。

信じたくはなかった。

しかし、証言が出てしまったのだ、ほかならぬ、人間と魔族の間を生きるこの双子によって。

愕然と失望する魔王は、顔を覆うように片手を当てる。

「この俺の許可どころか、報告すらなく……どこのバカかは知らんが、いい度胸だ……」

低く唸るグラナートの怒りが、失意と悲しみの裏返しなのを察して、ウルラートは息をつく。

付き合い自体は短いが、この魔王は良くも悪くも、魔王としての立場に対して真面目だ。数日近くで見ていれば分かる程度には。

怒りより、失意や悲しみといった感情のほうが勝っているように思える。

「あとね、あとね!青い火が見えたの!すっごくきれいだったけど、冷たいくらい怖い感じの火!」

しかし、ザフィロのその言葉と、その言葉にうんうんと頷くデゼルトに、グラナートの表情が一変した。

「青い、炎だと……?」

「グルナ……?」

手で覆い隠されているにもかかわらず、明らかな変化を示すグラナートに、不審げにウルラートが声をかけ、ピスティも胡乱気な視線を向ける。

「…………いや、いや。大丈夫だ。何でもない」

「何でもないって顔じゃなかったろ。なにか心当たりがあるのか?」

ウルラートがそう問うと、すっとグラナートは目をそらした。

「心当たりというほどのものではない。その火を見ればはっきりするのだが、それがはっきりしない以上は下手に勘繰るのは避けるべきだろう。確信できれば、教えてやるが……そんなはずはない、ありえないことだ」

それきり、考え込むように黙ってしまうグラナートに、ピスティとウルラートは目を合わせて首を傾げた。

「あ、あの、わたし、なにか変なこと言った……?」

「いや、大丈夫だ。話してくれたこと感謝する」

気を取り直して手を下ろし、グラナートは双子に黙礼する。

「あ、あの、お兄さんたちはえらい人なの?あいつらやっつけてくれるの?」

期待を込めた瞳でそう問うてくるザフィロと、無言ではあるが同じような目を向けてくるデゼルト。

その二人に、グラナートは大きく頷いて安心させるように笑って見せる。

「任せるがいい。我は魔王、全ての魔族を庇護し導くことが我が役目。同族を虐い、人間との間に亀裂を作るのであれば、その亀裂が魔族に害なすのであれば、裁きを下し罰を与えよう」

「あ、バカ…」

魔王の名のもとに双子に宣言したグラナートにウルラートが、あ、という顔をする。

「あ、そうです、勇者であるウルラート様の響魔が魔王ってどういうことなんですか!?」

双子の話に聞き入ってそのことを忘れていたピスティがはっとしたように声を張り上げた。

「せっかく忘れてるっぽいなと思ってたのに」

しかし聞かれている以上はただの問題の先送りでしかなかった。それでも忘れていてほしかった、1か月くらいは…!

頭を抱えるウルラートにグラナートは首をかしげる。そもそもグラナートは名前を隠す必要性を感じていなかった。これがジェネレーションギャップ…!(違う)

「あれだけ言ったのに…口走るどころか堂々と…」

「ウルラート様は知ってらしたんですか!?勇者ともあろうお方がまさか魔王を前にこんな、こんな……!」

明らかに変わった話の流れに、双子はそっと3人から距離をとる。実に賢い子どもたちである。

「いや、隠すつもりはなかったんだ、もう少しグルナとの距離を縮めてから…!」

「隠す気満々だっただろう、ウルよ。俺は耳にタコができそうなくらい黙ってろと言われたぞ、忘れたのか?」

「黙ってろ!!まだタコもできてねぇだろ!」

きょとんと悪気0で暴露していく相棒にウルはさらに頭を抱える。ピスティの視線は勇者を見ているとは思えない冷え込みでウルの胃が痛くなってきた。

つまり、ウルラートのメンタルは満身創痍であった。なにそれ泣きそう。

「説明を」

視線は冷たいのに声音からは温度そのものを感じないような平坦な声と無表情でピスティはウルラートを見据えている。

ピスティの視線がウルラートのほうを向いているのをいいことに、グラナートはグラナートなりに不穏を察して気配を消して先に逃げていた双子をうらやましそうに見つめていた。おい魔王。

「いやあの、だからだな、その……」

そして魔王が戻した視線の先では勇者が神官に睨まれている。魔王ではなく、勇者が。

何とも言えない気持ちになって、グラナートは再びウルラートから目をそらした。

「だ、だからだな、その……俺の召喚に応えたのがグルナ…魔王だったんだけど、だな…ほら、神官なんだし知ってるだろ?儀式の結界の中じゃ嘘はつけない。その結界の中でこいつが魔王だけど人間に敵対なんかしてないって言うから…」

「だとしても、相手は魔王ですよ、なんで簡単に信用して契約して、あまつさえ魔王討伐の任に魔王本人がついているんですか!今すぐにでも討伐すべきです!!」

言っている内容はピスティが至極真っ当に正しい。しかし。

「待ってくれ、ピスティ。確かに、お前の言うことも分かるよ。でも、本当に魔王を倒してすべて解決するのかって言ったら違うだろ。俺たちが今しなきゃいけないのは、この一連のことの原因を暴くことだ」

「それが魔王の仕業でないと、どうして言い切れるのですか!原因なんて、魔王を倒してそれでも騒ぎが収まらなかったらの次善策でいいではないですか!」

「グルナは!」

だんだんと語気を荒げていくピスティをなだめるように話していたウルラート。しかし、正論ではあるものの過激な主張を押し通そうとするピスティにつられる様にウルラートも声を荒げた。

「グルナは魔王だし俺も付き合いも長くないけど、それでも俺の響魔だ!俺はこいつを信じるって決めて契約したんだ、それを俺より短い付き合いで、しかも色眼鏡でしか見ないやつに否定される謂れはない!」

まさか否定されるとは思っていなかったのか、それとも温厚に話してきたウルラートが声を荒げたことに驚いたのか、感情の動きは本人にしか分からないが、明らかにピスティが傷ついたように顔をゆがめた。

「そ、それでも、王やほかの神官たちに嘘をついたことに変わりはありません…!後ろ暗いことがあったからなのではないのですか!」

「そういう反応するのが分かってて馬鹿正直に言うわけないだろう!」

互いに譲らなず、ギッとにらみ合う二人。

正直忘れ去られた双子と、話の中心にいるはずの魔王は端っこの方で一塊になっている。というか、双子に魔王が盾にされている。それを受け入れているグルナもグルナだが。

「ケンカしてる…」

「魔王様、止めなくていいの?」

「むぅ、アレは俺が入っていくとややこしくなるやつだ。しゃしゃり出ない方が賢いな。というわけで、お前たちの住処に案内してくれないか?お前たちの父親は我が同胞、その伴侶たる人間もそれ同然だ。守るべき民を守れなかった詫びをしたい」

双子は顔を見合わせて、次いでグラナートとウルラートを見比べる。

「勝手に行っちゃっていいの?」

「構わん。俺はあいつの響魔だが、今は魔王として、お前たちの両親に会いたいのだから」

ここから逃れる口実みたいになってしまったのは不本意ではあるが、グラナートの本音であることに違いはない。

「……分かった。こっちだよ」

双子に手招きされて、グラナートが森の奥に入っていく。背中では連れの二人の口論が聞こえてくるが、戻ってくる頃には落ち着いているだろうと希望を持って。





小さな小屋だった。周囲に焼け焦げた跡が残っており、なぜこの小屋が残っているのか不思議に思いながら、双子と共にグラナートはその小屋に近づく。

「ここが僕…俺たちの家だよ」

デゼルトが少し寂しそうに妹の手を握りながらグラナートを見上げた。

「お父さんとお母さんが、この家だけはって守ってくれたの。火が来ないように、怖いのが来ないようにって」

グラナートの疑問に答えるように、ザフィロが呟くように言った。

「そうか…強い者たちだったんだな……」

小屋の脇に、小さな砂山が二つ寄り添うように作られており、少ししおれた野花が置かれている。

「墓か」

「うん。ちゃんとしたの、作りたかったけど…」

「明日また、お花取りに行かなくちゃ」

明日は何の花にしようか、と気持ちを紛らわせるようにそう話す。

「……お前たち、頑張ったな」

グラナートが、そうポツリとこぼし、膝をついて二人に視線を合わせた。

「すまなかった。お前たちの親を守ってやれなくて。助けてやれなくて。……お前たちに、気づいてやれなくて」

ひどく哀しそうに、悔いるように魔王が言葉を吐き出す。

「よく生きていてくれた。デゼルト、よく妹を守ったな。ザフィロも、よく兄を助けたな。よくぞ、二人で、ここで生き延びてくれた……お前たちの両親の代わりにはなれないが、それでも言わせてくれ。生きていてくれて、ありがとう。よく頑張った」

じわり、とその言葉が入ってくる。二人はうつむいた。泣くのをこらえてるのか、少し手が、肩が震えている。

「俺は…兄ちゃんだから…ザフィロを守ら、なきゃいけないから…っ…」

だから、泣いちゃいけないんだ、と蚊の鳴くような声でデゼルトが声を震わせる。

「私だって…私が泣い、たら…お兄ちゃんが…困るから……」

それにつられるように、ザフィロの声も小さくなっていく。

「………助けてやれなくてすまなかった。泣かせてやることもできなくて、すまなかった」

泣いていいんだぞ、と。我慢するな、と。グラナートの手が、デゼルトとザフィロの小さな頭をなでる。

それで堰が切れたように、デゼルトの震えが大きくなる。ザフィロが座り込む。

小さな泣き声と大きな泣き声が上がった。

「泣くことも、できていなかったんだな」

二人が落ち着くまで、姿勢を崩すことなく、グラナートは二人の寄り木であり続けた。





ようやく落ち着いてきた二人は、グラナートにごめんなさいと呟く。

「謝る必要はない。もっと甘えてもいいくらいだ。他人に甘えるのは慣れないだろうが、な」

少しすっきりしたような、気持ち明るい顔で、ザフィロが小さく頷いた。デゼルトは、まだ硬い表情を崩さないままで頷きはしなかった。

「……お前たち、すまないが少しここから離れてくれないか」

デゼルトの様子が気になりながらも、今の自分にこれ以上の言葉はかけられない、とグラナートは別の話を切り出す。

「俺たちはまだこれから行くところがある。お前たちを連れていくことはできないからな。俺の部下に命じてお前たちを守るよう手配しようと思う」

生まれ育った、両親が眠るこの小屋を離れてほしいというグラナートの言葉に双子は顔を見合わせて気乗りしない顔をする。

「ここから完全に離れろとは言わん。好きなものは持って行っていいし、両親の墓もこのまま転移させよう。時々ここに戻ってくることも止めない。お前たちを守り、育て、導くものが必要だ」

提案できる譲歩を考え考え、グラナートはとつとつと言葉を紡ぐ。

「ここでは、次に何かあっても助けられない。守れない。来てくれるのであれば、お前たちをきちんと生活できるように育てるものを紹介する。デゼルトには魔族としての戦い方、守り方、生き方を。ザフィロにはデゼルトを支える術を。お前たちを引き離すようなことはしない」

デゼルトは条件に惹かれたように視線を上げるが、ザフィロは思いきれない様子で小屋や周囲を見つめている。

「私、ここにいたい…」

独り言。誰かに聞いてほしい言葉ではない言葉。

「フィー…」

ザフィロの気持ちも分かるデゼルトはそれ以上何も言えない。ザフィロがいかないのなら、デゼルトも行かないと決めてしまうだろう。

「ここに、いたいの…でもね、ここにいたら、ずーっとここにいたら、お父さんもお母さんも心配しちゃうかなぁって思うの」

割り切れない気持ちを自分なりに消化しようとしたのか、ザフィロがまた泣きそうになりながらそう呟いてデゼルトの服の裾を握った。

「……魔王様…」

「辛い決断をさせてすまない。必ずお前たちがここに戻れる世界を取り戻す。それまで、辛抱してくれ」

上げられた二つの視線に、グラナートが頷く。

そして、グラナートは二人の両親の墓の前に膝を折った。

「魔王でありながら、お前たちを守ることも、この子たちに気付いてやることもできなかった俺を許せとは言わん。だが、二人を守るため、連れていくことは許してほしい。お前たちの眠る墓を別の場所に移してしまうことも。よく、この子たちを守ってくれた。我らが同胞の誇りよ、安らかに眠れ」

温かい風が吹いた。少し、ほんの少しだけ、温かすぎるような柔らかい風。

「ありがとう。必ず、守る」

マンティコアは火を身の内に飼う。

「お父さんとお母さんの風だ…」

ザフィロが目を丸くして呟いた。

「お母さんの風をお父さんが温めてくれた時の風だ…」

どこか懐かしそうにデゼルトも風に手を伸ばす。

「お前たちの親から許可が出たようだ。すぐに部下を呼ぶ。俺はここにいるから、持っていきたいものを選べ。また戻ってこれるから慌てなくていいぞ」

グラナートの言葉に、デゼルトとザフィロは頷いて小屋に駆け込んでいった。

その背中を見送り、グラナートはシェルムを呼ばわる。

ぽこん、とまたピンクの蝙蝠ボールがまたピンクの煙を巻き上げて現れる。

「どうしました?魔王様。調査の方ならまだ報告できるほどの情報は……」

「マンティコア族から人間に偏見のないものを調べて寄こしてくれ。見つからなければ見聞の広いもので教えることが苦にならないような者を。少し変わった子たちを保護した」

デゼルトとザフィロのことをグラナートはシェルムに手短に伝えていく。

「それは……分かりました、手配します。あと、魔王様」

「なんだ?」

突然低くなったシェルムの声に、グラナートも眉をひそめた。

「まだ確認が取れてないのでご報告は控えようと思っていたのですが、その子たちが言っていたことと共通する証言が上がっています。主には柔らかい羽音という証言ですが。少数、青い炎の証言も上がっています」

「青い、炎…か」

低く唸る魔王の周りを落ち着かなげに飛び続けるピンク蝙蝠ボール。

「シェルム。俺はこれから、ウルラートたちを誘導して彼らのもとを巡る。俺の想像が当たっていれば、彼らに会わない手はないからな。できればこの想像、想像で終わってほしいところだが」

渋面で魔王がそう伝えると、シェルムもむぅっと音を漏らす。

「お伝えになるんですか?」

「……いや…人間はアレを妄信する節もある。ここで話しても俺を信じるかどうかは賭けだろう。引き続き調査を進めろ。それと、奴らに伝令を出しておけ」

魔王の命令を受けてシェルムはまたポンっと音を立てて消える。

「あれらがまた動き出したのであれば、厄介なことになる……うまく動かねば、人間とも完全に袂を別つ羽目になるかもしれんな…」

森の外、ウルラートたちがいるはずの方を見る。

「人間は、愚かだな。真実など知ることもなく‥‥いや、知らなくてもいいはずだったことを知る羽目になるかもしれないあいつらが不運なだけか‥‥」

ため息をついて、双子が出てくるのが先かシェルムの手配が先か、あるいは、かなり低い確率でウルラートとピスティが和解して二人で追ってくるかとぼんやりと考える。

「なんで、今さらになって動き出す。そんなに、我らが気に入らんか。それとも、今度は人間が気に入らんか」

憎むような、哀しいような、そんな顔で、空を睨む。

「いや、アレが動き出したとは限らん。視野狭窄になるのはよくないな」

切り替えるように呟いて、グラナートはまた小屋のほうに視線を戻した。



しばらく、黙って動きを待つ。すると、グラナートの前に赤みがかった金茶の毛並みの大きな影が立つ。

「失礼いたします。お初にお目にかかります、魔王様。シェルム様からご指名受けました、マンティコア族のラソンと申します」

グラナートより二回りほども大きい巨躯の膝を折り、ラソンと名乗ったマンティコアが首を垂れる。

「いい。顔を上げろ。要請を受けてくれたこと、感謝する」

「われらが種族の者を保護していただいたのですから当然です。それで、子どもたちは?」

顔を上げたラソンが周りを見回し、そして小屋に目を止める。

「今荷物をまとめさせている。できるだけ持って行かせてやってくれ」

「この小屋ごと転移させてしまえばよろしいのでは?」

ラソンが不思議そうに意見すれば、グラナートは首を振る。

「いずれ必ず、またあの子たちがここに戻りたいと望んだ時に戻れるような世界に戻す。だから、このままにしておいてやりたい」

小屋から小さな手にいっぱいの物を持って出てきた双子を見やり、グラナートは呟く。それにラソンは頷いた。

「出過ぎたことを申し上げました。魔王様の御意のままに」

小さな影がころころと駆け寄ってくる。

「魔王様…?この人は…?」

グラナートの傍にいたからか、子どもたちは警戒もせずに近づいてくる。

「初めまして、我らが小さき同胞。マンティコア族のラソンだ。今日から君たちの先生になりたいと思っているんだが、どうかな?」

ラソンが二人に合わせるように膝をついて穏やかな声で話しかける。

「先生……?」

「お父さんと同じ、マンティコア…?」

二人は首をかしげてグラナートのほうを見る。

「あぁ。お前たちに生き方を教えるのなら、同じマンティコアがいいだろうと判断した。今日からはラソンがお前たちを見守り、導いてくれる。魔王である俺から頼んだのだ、しっかりと面倒は見てくれるだろう」

力強く頷いて、グラナートがそう告げると、ピシリと、特にデゼルトが姿勢を正す。

「デゼルト・フィラフトです。妹はザフィロ。よろしくおねがいします」

精一杯大きなラソンを見上げて、まっすぐにデゼルトが口を開く。それに倣うように、ザフィロも「おねがいします」と続けた。

「うんうん、挨拶もしっかりできるんだね。君たちが過ごしやすいように、なんでも相談できるような相手になれるように頑張るよ。よろしく」

「ではラソン、この子たちを頼む。我はそろそろ戻らねばならんからな」

穏やかにあいさつを交わす雰囲気に安心して、グラナートはそう切り出す。

「はい、魔王様。しかと承りました。お任せください」双子に合わせていた視線を戻して立ち上がり、背中を向けるグラナートに頭を下げるラソン。

「ご武運を」

「魔王様!ありがとうございます!」

「あの怖いの、やっつけてね!」

双子たちがその背中に声を張り上げる。本当ならば諫めなければならないラソンが口を開く前に、グラナートが振り返る。

「あぁ。必ず、ここに戻れるようにしてやる。だから、しっかりラソンの言うことを聞くんだぞ」

「「はい!」」

元気のいい返事に満足したように頷いて、グラナートはその場を後にした。

後ろで、転移魔法の詠唱を行うラソンの声がして、そして3つの気配が消える。

「マンティコアに転移魔法をかじる者がいたとはな。よく見つけてきたものだ。……さて、そろそろあの二人も落ち着いているといいが」

部下の仕事に満足げなグラナートは、来た道を見やってため息をつく。

「人間同士でこれとは、俺にどうしろと……」

魔王がこれとか、俺にどうしろってんだ…という気持ちを相棒がだいぶ前から抱いているとは露知らず、ため息をつくグラナートだった。



グラナートがウルラートたちのもとに戻ってくると、相変わらず二人は向かい合って座っている。そのことにまたグラナートはため息をついた。

「おい、いつまでそうしているんだ…まさか日が暮れるまでそうしているつもりではあるまいな?」

ものすごく嫌ではあったが二人にそう声をかけてみると、ギスギスとした空気に耐えられない様子だったウルラートがさっと視線をグラナートに向ける。

対してピスティは視界にも入れたくないとばかりに頑なにグラナートのほうを見ようともしない。

「こいつ頭固すぎ…どうあってもお前を討伐しろってさ」

「当たり前です!あくまで勇者の任は魔王討伐なのですから、他のことは後で対処すればいいのです!」

「………どうでもいいのだが、お前たち、本当に俺のこと魔王だと思ってるか?思ってたら本人の目の前で討伐の話をするな??俺が短気だったらお前たちとっくにぶった切ってるぞ??」

またため息をつきながらグラナートがそう苦言を呈する。

「ほら!こんな物騒なことを平気で言う魔王が安全なわけありません!」

「ほら!こんなに言われてもぶった切ったりしないだろ!」

再度激化する言い合いに、しまった、という顔をしつつ、グラナートが疲れた顔をする。

「俺はまたここで野宿はごめんだから先に行くぞ。よっぽど野宿が好きなんだな?」

なだめるのを諦めて、グラナートがさっさと歩きだす。

「ウル、その神官の言い分も一理あるのだからそう目くじらを立てるな。ピスティ、お前も少し冷静になれ。その調子で旅を続けるつもりか?」

まったく気にした風もなく、さも当然のように二人を置いていこうとするグラナートに、不機嫌な態度を崩さないまま、二人も後に続き始めた。

「絶対に認めません。魔王こそを討伐すべきなのです。それが勇者を生み出した神の思し召しなのですから」

口の中でそう呟いて、ピスティは異端の勇者と倒すべき魔王を睨む。

ウルラートはどこか居心地悪そうな顔をしているが、グラナートはそれを聞き流した。

「………グルナ、あの双子は?」

周りを見て気配もないことに気づいたウルラートが問う。

「もう魔族領に送った。あそこなら我が配下たちの庇護下だ。ここよりは安全だろう」

「なんですって!?二人とも!?」

グラナートの発言を聞きとがめたピスティが悲鳴を上げる。

「女の子のほう、ザフィロは人間なんですよ!それを魔族領なんかに…!?」

「なんかとは失礼な。それに、だからなんだ?ザフィロだけ人間領に連れて行け、と?あの双子を引き離してまでか」

冷めた視線でグラナートが返す。

「お前たちはマンティコアであるデゼルトを受け入れる気はないのだろう?だったらこちらで引き受ける。マンティコアの全てが人喰いなわけではないからな。今更異論は受け付けん」

ピスティは言葉に詰まり、ようやく沈黙した。

「さて。で、どうする?次まで進むか、野宿するか。野宿するならまた火を起こさねばならんぞ」

まだ日は高いとはいえ、じきに傾いてくるだろう。決めるのなら早く決めろと急かす。

「最悪ここの村の廃墟を使わせてもらえば風はしのげるけど、できれば進みたいところだな」

「次の村なり町まではどのくらいだ?」

ウルラートの結論にグラナートは異論はないようで、距離を確認し始める。

「さすがにここほどは近くはないけど、歩きだと…3日くらいか…」

むぅ、と唸ってウルラートが空の太陽を睨んだ。

「ということは今日から野宿するか明日からかの違いか。なら進んでいいのではないか?俺としてもこの件は早く片づけたい」

「いいえ!このまま王都に戻り、この件を報告すべきです!」

進む方向で話がまとまりかけたところで、またピスティがそう口をはさむ。

「ちゃんと正しいことを報告して、しかるべき判断を下してもらわねばなりません!」

「……しかるべき判断ってなんだよ。俺たち二人に、何もしないうちに死ねとでも言うのか、ピスティ。それは受け入れられない。そんなに戻りたきゃ一人で戻れ。俺たちは進むから」

今度こそ冷ややかに、ウルラートは吐き捨てた。

「なぁ、ちゃんとグルナを見てくれよ。魔王じゃなくて、俺の響魔だ。お前は何を見てたんだよ」

「ウル、さすがに今から人間の女に一人で戻れは酷だ。俺は少し離れるから、二人とも頭を冷やせ」

視線にも声にも冷たさが乗り始めたウルラートをグラナートがたしなめる。

「怒ってくれるのは嬉しいがな、ウルよ。俺も魔王だ、人間からどう見られているかは分かっているつもりだし、ましてやこの事態だ。把握しきれていなかった俺にも責はある。だからそう追い詰めてやるな」

グラナートの言葉にあからさまに顔をしかめるウルラートだったが、確かに褒められた態度ではなかったと自覚しているようで口をつぐむ。

「離れるってどこ行くんだ?」

「その辺で少し周りを見ている。人間に分からずとも、俺でなら分かることもあるかもしれん」

それには納得したように頷いて、離れていくグラナートを見送る。

気まずい沈黙が戻ってきた。

「あー……まぁ、なんだ、確かに言い過ぎたけど…それでも、色眼鏡無しで見てほしいんだ。俺はグルナを信じたい。俺の声に応えてくれた、俺の響魔を」

見れば、ピスティも居心地の悪そうな顔をしている。一方的な勢いは表情からは消えていた。

「……私は、魔族が嫌いです。未だに、ペルルのことも信じきれません。どうして、ウルラート様は勇者でありながら魔王を信じるのですか。神は魔王を倒すために勇者を生み出しました。あなたは今、神を裏切ろうとしているのですよ」

ウルラートが生まれ育ったこの国は、宗教が厳しいわけでも徹底して普及しているわけでもない、宗教は割と自由な国だ。

しかし、やはり神官というポジションについているためか、ピスティは神という存在に重きを置いているようだった。そんなピスティからしてみれば、神から選ばれた勇者が魔王と手を組んでいるということ自体が理解できないし許せないのかもしれない。

「俺だって、最初は魔王だって聞いてから攻撃しようとしたさ。でも、さすがにペンと判子しか持ってないやつが諸手を挙げて、休暇だ!とか叫んだらさすがに毒気も抜けるさ」

冷たさが鳴りを潜め、ウルラートは苦笑を浮かべる。

「そこから少ししか経ってないけど、その少しの間、俺だって俺なりにグルナを見てたんだぞ。でもあいつ、すごく真面目に王様やってんだよ。書類仕事を持ってきた部下を労いながら裏で徹夜で仕上げたり、魔族領民からの相談を部下に持ってこさせたり、たぶ

ん俺が知らない仕事もこなしてるんだと思う。でもちゃんと俺の用事にも付いてきてくれるし。部下の魔族とも少し話したりしたけど、いつもなんだって。すごい慕われてるっぽいんだよな」

だから、ちゃんと見てくれないか。魔王じゃなくて、グルナを。

ピスティは沈黙する。偏見の色眼鏡で見ていたことは、自分でも否定できなかった。

「‥‥‥私も少し周りが見えていませんでした‥‥でも、私はあなたたちを信用できません。少しでも怪しい素振りがあればすぐにでも報告させていただきますので」

今報告して足を止めさせることはしないことにします、と続ける。

「あぁ。今はそれでいいよ。あとは俺たちを見て自分で判断してくれ」

「はい」

色んな不穏が湧き立った一日が暮れていく。

一先ずの目先の不穏が先んじて解消されたと考えるべきか、それとも……。


 日が暮れかけると、また光を集めて火をともす。

 ウルラートとピスティが気まずいながらも多少は話ができる距離感を保っているのを遠目で見て、グラナートは口角を上げた。

「ギスギスした空気で旅などごめんこうむる。荒療治ではあったが、まぁうまくいったか」

 自分が渦中ド真ん中にいるというのに、そんなことはまったく気にしていない様子でそう呟き、また周りを見渡す。

「一番近いのは……アパリシアか。できればコレールから先に行きたかったが仕方ない」

 そうぼやき、地平線を見るその先にあるのはその目的地だろうか。

「大回りな長い旅になりそうだ。手遅れにならなければいいが」

戦隊TRPGのシナリオ作成中

妄想楽しい……


あ、もちろんこの子たちの旅路を考えるのも楽しいですよ、もちろん!

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