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殴る勇者と斬る魔王  作者: 鳳梨
6/13

4話

グラナートがちょっとだけかっこいいかもしれない回。ぜひかっこいい魔王様でいてほしい(笑)

 国境への街道を外れての翌日の夕方。

 ウルラートたちはその場所に足を踏み入れようとしていた。

「ここが、例の村か」

「やはり、だいぶ荒れていますね…遠目でも分かるくらい建物もボロボロでしたし」

 グラナートの言葉にポツリとピスティがそう言葉をこぼす。

「割と外れたとこにあるとはいえ、壊滅した村が王都から1日しかかからないって、危機感大丈夫か、この国…」

 ウルラートが呆れたようにそう呟くと、それにもピスティが返事を返す。

「一応対策は会議にあがったんですが、これ以上被害が拡大するでもないので様子見で落ち着きました。それに、死人も出てなかったようですし」

「あぁ、上層部というのはどこか危機感に欠けるものだからな。己に害がない限りは。それより、このまま村に入るのか?」

 グラナートの辛辣な言葉に、ピスティは言葉を飲み込み、、ウルラートは肩をすくめる。

「んー、日も暮れるしなぁ…この辺で野宿でもして、明日入ろう」

 そう決めるウルラートに、グラナートもうんうんと頷く。

「うむ、懸命だな。魔獣は夜闇を好む。むしろ、今から入ると言い出したらいきなり意見が対立するところだったぞ」

「だったら聞くなよ」

 グラナートを睨むウルラートにピスティは枯れ枝を手に取ってみせる。

「……あ、なら獣避けに火を焚きましょう。寒さ対策にもなりますし」

 ピスティの提案に、男二人は、「そういえば」とでも言いたげな顔で火を起こせそうな場所を探すように目を滑らせる。

「あ。先に言っとくけど、俺は火は出せないぞ。俺の魔術って身体能力強化だから。そこに火があったら何とかなるけど」

「あの、言い出しといてなんですが…私も火はちょっと…」

 人間二人の目が、必然的にグラナートを向く。

「……なぜ我を見る」

 不機嫌そうな様子を隠そうともしないグラナートが、期待を込めた目で見てくる二人に嫌そうに問いかけた。

「いや、だって……お前まお…上位魔族だし!」

「? ウルラート様、今何を言い直したんです?」

 ウルラートのうっかりでピスティが首を傾げたが、

「気にすんな、何でもない!」

 と勢いで押しきった。

「そうですか…?」

 押しきれてはいないようだが、とりあえずピスティは首を傾げるだけにとどめる。

「言っておくが。我はそんなみみっちい魔術など使えんぞ」

 という、グラナートのまさかの言葉に、ピスティもうっかりそれ以上の言葉を言葉を飲み込まざるを得なかったともいうが。ピスティ、もっと声出して…!

「え?」

「え?」

 二人の声が揃って沈黙に虚しく響く。

「………」

 ものすごく、ものすごーーく不機嫌そうなグラナートが、何か文句あるか、とでも言いたげな視線を二人に向ける。その耳は、赤くなっていた。

「ちょっと待て、グルナ」

「なんか目が泳いでるんですけど……耳も赤くなってるし…」

 初登場以降で初めての赤面ではあるが、睨んでいた視線がいつの間にかあらぬ方向に泳いでいるのを二人はしっかりと見てしまったのだった。そして変な汗をかいている。

「泳いでなどおらんし、赤くもなっていない。魔術などという卑怯くさい小手先の技など我には不要」

 と言い訳じみたことをぶつぶつと言いながら、人間二人に背を向ける魔王。

「おいおいおい?まさかお前、上位魔族のくせに火の魔術使えない……とか…?」

「ものすごい冷や汗かいてますけど、まさかほんとに上位魔族で火炎魔術使えない……なんてことは…」

 ありえないようなものを見るような目で、グラナートの背中を見つめるウルラートとピスティ。二人が発する一言一言に、ピクッ、ビクッと律儀に反応する魔王。グサッグサッと刺さっていると言い換えてもいいかもしれない。

「…………何か文句でもあるのか」

 低い声でジロリと睨まれ、ピスティが一歩引くように答えるが、ウルラートは何も感じていないのか、普通に途方に暮れたような反応を返す。

「い、いえ…」

「じゃあどうすんだよ……」

 相棒たるウルラートの言葉に、グラナートも一応は考えるように首を傾げる。

「………地道に木をこすり続けるか」

 生産性もなければ建設的でもない原始的手段が提案されたところで、ピスティがため息をつく。

「……えーと…まだかろうじて日があるので…なんとかやってみます…」

「できるのか?」

 ピスティの魔術は後方支援特化で、火をおこす魔術は使えないんじゃ?と疑問を抱いてグラナートが問いかけると、ピスティは自信なさげに

「まぁ…うまくいくかは分かりませんが…」

 と答える。

「どうやるのだ?」

「光の魔術の応用ですが、私の眼鏡モノクルに光を集めて…つきますかね、火……」

 過大な期待をかけるには分が悪いがやらないよりはまぁマシかな?みたいな案が可決されて、3人分の重いため息が重なる。

「……つかなかったら…まぁ、一晩くらい何とか…なる…」

「…がんばるのだ、ピスティよ」

 納得いかない思いを抱えつつ、グラナートを睨んで太陽の方角とモノクルのレンズの角度を調整するピスティ。

「……」

 そして、レンズの固定まで済ませると、ピスティは赤く染まった沈みかけの太陽の光を束ねてレンズに誘導する。

「……なんか…ごめんな、ピスティ…」

「…いえ…」



「何とかついてよかったです…」

 ピスティの頑張りにより、プスプスと煙を上げ始めた枯れ葉と枯れ枝を風から守って優しく仰いでなだめすかしてなんとか火に成長させた3人は達成感を胸に焚火を見つめる。いろいろ間違っている気はするが、気にしたら負けだと思う。

「そう…だな……」

「うむ、よくやった」

 頷くグラナートに、ピスティが冷ややかな視線を向ける。

「……そもそも上位魔族の方が火をつけられればこんな苦労もなかったのですけどね」

 すぃっと視線をそらして明後日の方向を見るグラナートにため息をつくピスティ。

「火が消えたら付け直しはきかないから、気を付けないとな…」

「ですね……」

 ウルラートとピスティが神妙な顔で頷き合い、交代の見張り順を決めて寝る準備に取り掛かった。

 そんなこんなで魔王が思いのほかポンコツだったことに驚きながら、交代で火の番をして朝を迎えた勇者一行だったのだった。



 そして朝日が昇り、火の始末をして荷物を片付ける。

「それじゃ、行くか」

 まとめた荷物をそれぞれ担いで、村の方に歩を進める。

「ところで、マンティコアのことだが」

 グラナートがそう口火をきった。

「うん?」

 首を傾げて振り返るウルラート。

「どうするつもりなのだ?」

「どうって……」

「もちろん討伐です。人を食らう魔獣がいては困りますから」

 間髪入れずに、ピスティが断言する。

「……だが、話を聞いてからでもよかろう」

 そう食い下がるグラナートを、ピスティは頑なに首を振る。

「いえ。響魔でない魔物の言うことなど信用できません。すぐに討伐すべきです」

 聞く耳を持たないピスティに食い下がっても不毛だと察したのか、グラナートは口をつぐんだ。

「やけに気乗りしなさそうだな、グルナ」

「………」

 ウルラートの言葉にも、グラナートは沈黙しか返さない。

「?まぁとにかく、その森に行ってみよう。本当にマンティコアがいるかもわからないしな」

 村を一回りして様子を見る間も、グラナートは何かを考えるように沈黙したままだった。



 そして、村を回り終えた後、話に上がっていた森へと向かう。

「随分うっそうとした森だな……奥なんか光入らないんじゃないか?」

 森の表側しか見ていなくても、少し奥に行けばすぐに薄暗くなるのが分かるほどに木々が黒く生い茂る森。

「いかにも魔獣が好みそうな場所ですね…」

 ピスティが森に入る前に光を集めて光球を作ろうとしたところで、森の方から聞き覚えのない声が届いた。

「出ていけ、人間」

 声は聞こえるが、姿は見えるところにはない。だが、わずかに気配はある。隠れているのだろう。

「誰だ!」

 張り上げられたウルラートの声に、返答はない。その代わりに、ガサガサと、森の中で何かが動く音がした。

「出ていけ、出ていけ出ていけ出ていけ!人間はいらない!出ていけ!」

 声が近づいてくる。

「照らします!オーブ!」

 ピスティの声に応えるように、太陽の光がピスティの頭上に集まり、小さな光の玉となって辺りを照らし出した。

「やぁぁぁ!」

 照らし出された森の草木の合間から、影が飛び出す。

「いた!うわっ!?」

 影をウルラートが視認した直後、その影から炎が放たれる。

「火炎魔術…!」

 ピスティが炎の勢いに押され、息を飲む。

 影から放たれたその炎は、その影自身を照らし出した。

「ちょっと待て…こ、子ども…!?」

 その炎が照らし出した影は、小柄な少年の姿をしていた。人間でないことを証明するように、獣の耳がピンと立ち、鋭い爪と牙をギラギラとさせている。

「見た目は子どもでもあれがマンティコアのようです!成体になる前に何とかしましょう!」

「出ていけぇぇぇ!」

 獣人の子どものようなマンティコアは、炎を噴き出しながらウルラートに跳びかかる。

「くそ…あっつ…やるしかねぇか…!はぁっ!」

 勇者の剣を抜き払い、迫って来る炎を薙ぎ払う。

「いらない!人間なんかいらない!」

 同じことを叫びながら、ウルラートとピスティに牙をむくマンティコアを、グラナートはただ黙って見ていた。

「おいグルナ!ボーっとしてないでお前も来い!森に火が広がる前に仕留めるぞ!はぁぁ!」

 ギャリっと、ウルラートの剣とマンティコアの爪や強靭な皮膚がぶつかって嫌な音を立てる。

「人間なんかいらない、この先にも行かせない!出ていけ!」

「ウルラート様、右肩に傷があるようです、そこを狙ってください!」

 なりふり構わず突進してくるマンティコアの動きから、ピスティがそう分析し、ウルラートに呼びかけ、それにウルラートも頷く。

「分かった!だらぁぁぁっ!…え!?」

 キィンッと、先ほどまでとは違う、“金属同士”がぶつかり合う音が響いた。

グラナートが、ウルラートの剣戟(けんげき)を、子どもを庇う様に自らの剣で受け止めた音だった。

「え…?」

 呆けたように、マンティコアの動きが止まる。

「グラナート様!?」

「何のつもりだ、グルナ!」

 ピスティが非難の声を上げ、ウルラートもグラナートに真意を測りかねて、彼を睨む。

「落ち着くがいい、ウル。これは怯えているだけだ」

 冷静なグラナートの声が、二人に向けて発せられる。背中を向けられることになったマンティコアの子どもの牙は、爪は、炎は、その背中に押しとどめられていた。

「はぁ?」

「契約者に牙をむくのですか!?」

 ピスティの悲鳴のような非難の声に、グラナートは静かに彼女を見据える。

「魔族とはいえ、ただ怯えているだけの子どもではないか。それを殺すというのか」

「マンティコアは人を食らいます。ここで見逃してはまた被害が…!」

 マンティコアの危険性を言い募るピスティに、グラナートは首を振る。

「それは、人間だけの都合だろう」

 グラナートの真紅の瞳が、鮮血の色に光を変える。

「俺が魔王である内は、我が前で民を理不尽に殺すことなど許さん。ウルよ、剣を引くがいい」

 ビクリ、と、勇者であるウルラートですら肩を揺らすほどの、威圧感。それは、登場早々に消え失せた魔王の威厳だとかそういうものであったが、今は一度消え失せたことなどみじんも感じさせない。響魔グラナートが魔王としてウルラートを威圧していた。

「ま…おう…?」

 倒すべき敵の名前が、ピスティを混乱に叩き落す。

「あ…」

 そんな混乱した場に、小さな女の子の声がこぼれた。

「!ウルラート様、その子は人間です!保護を!」

 木の影からこちらを窺っていた幼い少女の姿を真っ先に捉えたピスティが、反射的にウルラートに声を飛ばす。

「お、おう!」

 その声で少女に気付いたウルラートが少女に向けて駆け出す。それを追うように、マンティコアもまたグラナートの後ろから飛び出して駆ける。

「触るな!」

 マンティコアの手が、少女に届く………その寸前で、ウルラートの手が少女に届き、抱え上げる。そして、そのままピスティの元に少女を連れて行った。

「!危ねぇ……大丈夫か?怖かっただろ」

 ウルラートの声に、少女は酷く怯えたように言葉が出てこない様子だった。

「あ…う…」

「何が怯えているだけですか!実際子どもをさらっているのが人食いの証拠!やはり魔族なんて信用できない!」

 キッとマンティコアとグラナートを睨み付けるピスティに、マンティコアの目が留まる。

「返せ!返せ!」

「ちっ……ピスティ、この子を頼む!」

なりふり構わず、まっすぐ駆けてくるマンティコアを妨げるように、少女をピスティに預け、剣を構えたウルラートが立ちふさがる。

「はい!」

「やめろ、ウル!話を…!」

 グラナートの制止の声も聞こえず、ウルラートは剣を振り上げる。

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 剣が、銀色の弧を描いて振り下ろされる。刹那。

「やめてぇぇぇ!」

 ピスティの腕の中で固まっていた少女から、悲鳴が響く。それに動揺したウルラートの剣が、ぶれた。

「っ!?」

「はぁっ!」

 その一瞬。届かないはずの距離にいたグラナートが再び、ウルラートとマンティコアの間に滑り込み、剣同士が打ち合わされる。

「ど、どうしたんですか?怖い魔物は勇者様がやっつけてくれますからね、だいじょ」

 泣き叫ぶ少女を、ピスティが優しい声で落ち着かせようと語りかけた。しかし、その言葉も少女の悲痛な声に遮られる。

「お兄ちゃんにひどいことしないでぇ!」

「え?」

 ウルラートが呆けた瞬間、グラナートの剣がウルラートの剣を跳ね飛ばす。その間にも、マンティコアは動く。ピスティと、少女の方へ。

「ガルァッ!」

「きゃっ……あ!あの子が!」

 ピスティが抱えていた少女を奪われた勢いでその場に尻もちをついて倒れる。

「グルナ、その子を…!」

 慌てて少女を取り戻そうとウルラートがグラナートに助けを求めようとするが、マンティコアと少女の会話に今度こそ動きを止めた。

「お兄ちゃん、いたい?だいじょうぶ?」

 泣きながら、必死に少女はマンティコアの傷を撫でている。その手が血に濡れるのも構わずに。

「だいじょうぶ。ちゃんとフィーはまもるよ。まもるから泣くなよ…」

 ウルラートたちを警戒して目を離さないまま、少女を抱きしめてまもるよと繰り返し呟くマンティコア。

「え?」

「やはり訳アリか……お前たちは兄妹なのか?」

 グラナートは驚きもせず、2人にそう問いかける。

「そうだよ!だめなの!?いっしょに生まれたのに、なんでいっしょにいちゃいけないの!?」

 少女が、マンティコアを、兄を庇う様に手を広げる。

「そんな、ありえません…魔族と人間の兄妹…それも双子なんて…」

 困惑するピスティをよそに、ウルラートは黙って剣をしまい、グラナートに並ぶ。

「フィーは…ぼくがまもるんだ、どこにもつれていかせたりなんかしない!」

「お前はずっと妹を護るためにこの森から人間を追い払っていたのか」

 グラナートが痛まし気に兄妹を見て、呟くように問いかける。

「お兄ちゃんは悪くないもん!お父さんとお母さんをいじめたこの村のひとたちが悪いんだもん!」

 少女が兄にしがみつきながらそう叫ぶ。

「ウル、ピスティ。これでも話を聞かないというのか?」

 二人の傍にひざまずきながら、グラナートがウルラートとピスティにそう問う。

「………悪い…話を聞かせてくれないか」

 兄妹の様子とグラナートの真意をようやく受け止めて、鞘に納めた剣を置く。

「…………………」

 沈黙したままのピスティに、グラナートはさらに言葉をかける。

「ピスティ、お前は魔族を嫌っているようだが、話を聞くくらい、いいのではないか?」

 少し迷うように視線を彷徨わせた後、ピスティもようやく頷く。

「……分かりました…」

 怯える兄妹をグラナートが宥め、間に入ることでようやく会話ができるようになるまで約1時間。ウルラートとピスティは罪悪感と共にひたすら耐えて待っていることになったのだった。




魔王バレ早いな…と思わなくもないけど、まぁこれでいいのだ!

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