11話
仕事中が一番書く気になるんだよね……(´・ω・`)
これまでの話の中で設定や誤字等の修正を行っている箇所があります。多分これからも増えます。よろしくお願いします
買い物が終わって宿に戻る頃にはウルラートもグラナートも食料をごっそり買い込み、両手に袋をぶら下げていた。その二人の表情が対象的すぎて二度見の視線をかっさらっている。
「つ、疲れた……」
「いやー、やはり人間がいるところの買い物はいいな、面白いものがたくさんある。なぁ、ウルよ」
こいつちょっとくらいなら殴っても許されるかな……とウルラートが恨めしげにグラナートを睨んだ。
「楽しいのはいいけど、もうちょっと自重をだな…」
「なんだと、ちゃんと自重してお前の傍にいただろう」
「……………シェルムに絶対にチクるからな」
「それはよせ!卑怯だぞ、勇者のくせに!」
「卑怯もクソもあるか!」
ぎゃんぎゃんと口を動かしながら、袋から買ってきたものを取り出して整理を始める。
「グルナ、肉はこっち。パンはそっち。あ、バカ、それ肉じゃなくて魚!」
「そんなことはわかっている。干してあるのだから一緒にしたって構わんだろう。バカとは何だ、失礼な」
「雑!」
買い物から戻ってきても勇者に安息はないらしい。もっと違う形で悟りたかった。
ため息をついていると部屋の扉をノックされた。
「ピスティです。こちらも買い物を終えたので荷物の整理の手伝いに来ました」
「あぁ、開いてるから入ってくれ」
その答えを聞いてピスティが入ってくる。
「あの、さすがに無用心では……?鍵をかける習慣ってご存知です…?」
「別に大丈夫だろ、治安もいいし、俺らがいるときは。なぁ、グルナ」
「まぁ大丈夫は大丈夫だろうが、やはり鍵はかけたほうがいいのではないか?」
「そうか?まぁ寝るときは流石にかけるけどさ」
首を傾げながらひとまず頷いておくウルラート。
「…………えーと、私の方では使えそうなものを買ってみました。特にマジックライター。どこぞの魔王が火種にすらならないようでしたので」
相変わらず一言多いが、当のグラナートは、おお!っと喜んでいる。
「これで火起こしもバッチリだな!よくやったぞ、ピスティ!」
「………むしろなぜ食料しか買っていないのですか……まぁいいですけど。とりあえず使用者の魔力を取り込んで炎を起こしてくれるタイプで買ってみました。周りから魔力を集めるタイプは水辺とかだと使いにくいそうなので」
そう言いながらマジックライターを10個ほど並べる。
「買い物がいつできなくなるかわかりませんし、余分に買ってきました。それと、治療キットと緊急用ポーションですね。私が回復魔法使えますので、そう使わないとは思いますが。あと、さすがに荷物が増えるので、少しばかり値は張りましたが空間拡張型のマジックバッグを小さめのものを3つ。突然の戦闘なんかではどうしても邪魔になりますし、その辺り考慮して、バッグの口より大きくても入れられる高性能で揃えました」
食べ物しか買わなかった男連中とは違い、さすがのピスティである。
「マジックバッグ便利だよな。回復アイテムもありがとう、ピスティ」
「いえ……質量調整型ならもっと小さいものもあったんですが、こっちはちょっと手が出なくて」
「あれ高いもんなぁ……空間拡張型でも十分だって。これでだいぶ楽に歩けるな」
ニコニコと上機嫌のウルラートに、ピスティは首を傾げた。
「でも、王都で購入すればよかったのでは?」
ウルラートの目が泳いでいる。
「………あのな、ピスティ。俺は庶民の出だ」
「?はい」
前もって知っていたピスティは大人しく頷いて言葉を待つ。
「マジックバッグ……高いんだ」
「そう、ですね?」
またもや大人しく頷くピスティの頭上にははてなマークが飛んでいる。
「いくら大金をもらっててもな……高いもんは高いんだ」
グラナートが、納得、と頷いた。
「あぁ、単なる貧乏性か」
「うるさい」
「あー……まぁ確かに、遠出するような方が奮発して買ったりとかするもの、ではありますね。あとは富裕層の方の旅行のお供とか」
「ちょっと考えたんだ、買ったほうがいいかなーとか、便利かなーとか。でもいざ値段を前にすると……」
「難儀なやつだな。必要経費だとゴネればまだ金出させられただろうに」
「そんなことできるか!この剣だってこうやってぶら下げられるようになるまで、自慢じゃないが結構時間かかったんだからな!壊れそうで!」
「ほんとに自慢にならんな……その辺の鈍らなわけでなし、そう簡単に壊れるか」
「ヴィテスたちにも言われた」
「で、でもお金を大事に考えるのはいいことですし!さすがです、ウルラート様!」
「だ、だよな……!」
こんなに分かりやすいヨイショで機嫌が治る男、ウルラート。チョロいやつだ。
「まぁとりあえず、火と荷物の心配はなくなったな。寝具もほしいところだが、テントや寝袋では奇襲に対応できんし、仕方ないところだな」
ベッドの快適さを思い出した身には辛いが致し方ない。
「では、明日の出立で構わんか?」
「いいと思うぞ。ここに用があるのはお前だけだったし。アパリシアの屋敷に行って、挨拶したら出よう」
正直、もう少しベッドのお世話になりたい気はするが、そんなことを言っていてはここで旅が終わってしまうのでさっさと切り上げることにする。
「待てよ、さっさと旅に出て書類に悪い環境になればその辺考慮して減らすなり後日に回すなり……いや、それをすると溜まる一方か……」
そんな言葉が聞こえた気もするが、たぶん関係なく書類は目の前に積まれると思う、とはさすがに言ってやらないウルラートである。言ったらそれはそれでうるさそうだし。
「では、あとは各々ゆっくりして、食事と入浴後に寝るだけですね」
「だな。ふむ……ならもう一度買い物に」
いいこと思いついた!みたいな顔でパッとウルラートを見るグラナートを、
「却下だ」
の一言でぶっ潰した。
「なんだと!?」
「いやもう勘弁してくれ、ほんとに……お前なんでそんなに買い物好きなんだよ。いやそれはいいけど、なんでそんなに幸運だのなんだのって怪しいものに弱いんだよ……」
「む……だ、だがマモンの統治にあるこの街で本気でそんなもの売るものはおるまい、買ったところで害があるわけでなし」
「害があるかどうかじゃなくて…」
「ウルラート様、ちょっとこの魔王、頭ぶっ叩くとかしたほうがよくありません?」
「いやぁ……叩いても治らないだろ、コレ」
「失礼な!前から言いたかったというか何度も言ってるが、俺が魔王だってお前ら分かっているのか?」
あんまりといえばあんまりな言われように、グラナートは自分を高く棚上げして抗議する。
「分かってはいますね、信じたくはありませんが」
「あー、分かる。今までのは何だったんだろって虚しくなるよな」
冷めた目でうんうんと頷きあう2人の反応でグラナートは肩を落とした。
「もういい……不貞寝してやる……」
ゴロン、とその場で当てつけがましく横になったグラナートを呆れ顔で見る。
「じゃ、グルナも不貞寝するらしいし、荷物の整理もだいぶ終わったし、あとはやっとくからピスティも戻っていいぞ。なんなら自分の買い物とかしてこいよ」
「そうですあ?じゃあ……ちょっとだけ行ってきますね」
翌朝。
見張りの必要もなくベッドでゆっくりできる時間を惜しみつつ、真新しいマジックバッグをそれぞれ抱えて3人で食事を終え、グラナートの案内でアパリシアの館に向かう。
「…………でけー家」
「こんな大きい家、強欲の象徴ですね」
「何でもかんでもそこに結びつけるな。家の造形は好みというやつだ、たぶん。ちょっとデカすぎるな、とは思うが」
門扉についている、狐を模したノッカーをグラナートが叩く。
コツン、と軽い音がした。
「………そんな音で聞こえるのか?」
「問題ない。魔力の振動が行っている。じきに誰か来るだろう」
言葉通り、そう待たないうちに門扉が開かれた。
「いらっしゃい!」
「エキセタムが出迎えか。偉いな」
「とーぜん!もうすぐ家主になるからね、出迎えくらいするよ!」
エヘン、と胸を張るエキセタム。
「父親は起きられるようになったか?」
「んー、まだもうちょっとかな。でもマモンは話せるから大丈夫。結構こっちに来てるから。あ、ほら、こっちどうぞ」
エキセタムの案内で応接室らしい、きれいな部屋に通される。
「なにか食べる?クッキーあるよ!」
「いや、それはいい。というかお前が食べたいんだろう」
「あ、バレた?まぁいいや、座って座って。マモンが移ってくるペースが上がったから、ちょっとなら僕でもマモンの口になれるよ」
よいしょ、と椅子を引いて飛び乗り、足をプラプラとさせる。
三人がそれぞれに椅子に座ると、エキセタムは少しの間目を閉じる。
「やぁ、お初にお目にかかるね。魔王はもう会ってるけど。今代の勇者と……神官かな?マモンだよ、よろしくね」
エキセタムの口と声音で、別のものが、マモンが喋り始めた。
「強欲の、マモンが……本当に……?」
あくまで存在を知ってはいたものの、それが目の前で子供の体を借りて喋っていることに、ピスティは少なからず衝撃を受けて絶句する。
この子自身が望んだこととはいえ、本当にマモンをその身に宿してしまっていると。神官という神に仕える、神に親しい存在であるという自負が無力感に襲われるのを感じた。
「……はじめまして、マモン。俺が今代の勇者ウルラートだ。……なぁ、これ毎回勇者とか名乗るの嫌なんだけど」
一方で、少し緊張気味のウルラートは自己紹介から始めるものの、久しぶりに自分の口から出した勇者という単語に背中が痒くなる思いをしていた。
「その剣で勇者であることは分かるし、いいのではないか?」
「それだとめっちゃ助かるけど……つまりやっぱりこれ持ってるだけで勇者って名乗ってるようなもんなのかよ、そんなに認知されてるもんなのかよ……」
ガックリするウルラートを、マモンは面白そうに眺めていた。
「勇者だーって鼻にかけるようなやつじゃなくてよかったよー。そういうのウザいしね。君みたいなのは割と好きだよ。で、今日はどんな用向き?もしかしてもう出る?」
「あぁ、そのつもりだ。お前に声をかけに来たんだ、その目的が達されたなら次に行かねば」
「なぁ、マモンはグルナに協力してくれるんだよな?それは、グルナが何をしようとしてるかとか分かってるからか?」
何も教えてもらえないウルラートが口を挟んだ。
「ん?んー、そうだな……そうだね、魔王が何を考えて何を心配してるかとかそういうことなら分かってるよ。でも、それとは関係なく、ある程度の頼みなら聞いてあげるつもりだけどね。君と同じさ。でも魔王、ちゃんと協力してくれそうな契約者だし説明すればいいのに」
ちらりとグラナートに視線を向けると、その視線を受けてグラナートが睨み返してくる。
「はいはい。相変わらず過保護なんだからー」
「……それなら、いい、今は。ちゃんとグルナに協力してくれるなら」
「僕としては、それは君たちに言いたいことではあるんだけどね。まぁ君はいいとしても、そっちの神官。いざとなって使い物にならないくらいならともか…」
「マモン。喋り過ぎだ、煩い」
少し鋭くなったマモンの語気と視線がピスティに向けられる。しかし、それをすぐにグラナートが制した。
「おっと。そんなに怒らないでよー」
「………私はピスティです。神官として、魔王は信用できませんしあなた達七魔も信用するつもりはありません。でも、神に選ばれた勇者であるウルラート様が信用するというのであれば、ひとまずはそれを手助けするのが私の役目です」
はっきりと、そう告げた。
「物怖じしない子だね。魔王と七魔の前でそれ言っちゃうんだ。まぁいいよ、僕は魔王に協力することに異論はないし」
「ウル、もういいか。余計な口を滑らされる前に出たいんだが」
「ほんっと頑固というか、頑ななやつだな。分かった。必要なときにちゃんと手を貸してくれる確約が欲しかっただけだ」
ウルラートの返答を聞いて、グラナートが真っ先に立ち上がる。
「こうやって隠し事をされてる間は、少なくとも信用する気にはなれませんね」
ため息をつくピスティに肩をすくめて、ウルラートも立ち上がる。続いてピスティも立った。
「あ、次ってどこ行くの?」
ぴょんと椅子から飛び降りてマモンがグラナートの隣に並ぶ。
「ルクスリアのところだな」
「へー、じゃあアスモデウスに言っといてよ。今度また行くねって」
「ベルゼブルにもだが、お前は煙たがられてたと思うが」
「だから魔王に頼んでるんじゃん」
全く悪びれることもなく、マモンはエキセタムの顔でにっこり笑った。
「俺を伝書鳩代わりにするんじゃない。一応伝えておくが、お前が自重すれば煙たがれることもないだろうに」
「やだなー、一応してるよ?昔のよしみってやつ?」
「自重が機能してないぞ」
マモンが一方的に楽しげな会話をしながら、屋敷の扉をくぐって外に出る。
「ウルラート、ピスティ」
グラナートを先頭に歩き出した二人を、マモンが引き止める。
「僕は強欲だからさ、いろいろと欲しい物とか願ってることとか想ってることとか結構あるんだよね」
ウルラートとピスティの表情が緊張で強張った。
何かを欲しいと言われて、七魔の、強欲のマモンを相手に断れるのか。そう警戒する。
「僕のものを傷つけられるのも奪われるのもすごく嫌いなんだ。僕の欲しいものは全部僕のもの。君たちの無事と、行く末もその中に入れてあげるよ。だから、魔王を助けてやってね。人間贔屓で過保護で強情ですーぐ抱え込んじゃう馬鹿なやつだけど、悪いやつじゃないからさ」
「余計なことを」
何を言い出すのかと黙って聞いていたグラナートが顔をしかめる。
「ほらまた顔に出す。魔王なんだからポーカーフェイスくらい覚えてほしいよね。困った困った。じゃあね、またいつでも来るといいよ。次に来るときは、街が国になってるかもね」
大きなことを言って、再び目を閉じるエキセタム。
「もー、マモン喋り過ぎだよー。さすがに疲れちゃうって」
エキセタムが、目を開いて困ったように笑っている。
「まったくだ。マモンは喋り過ぎだな」
「でも、ちゃんと魔王もお話しないと駄目だからね?じゃないと、助けたくても助けられないよ」
ぐっとグラナートが何も言えなくなって押し黙る。
「ほら、もう出るんでしょ?もう待ってるかもしれないし、早く行かなきゃ。またね!」
にこにこと見送ってくれるエキセタムに背中を押されて、3人は宿に戻って、整理した荷物を手に取る。
ピスティは難しい顔で考える。
(人間贔屓……?この魔王が……?魔族贔屓の間違いよ)
硬い表情でその思いを胸の深いところに沈めた。
「なぁ、ベルゼブルって、暴食のベルゼブブのことか?」
グラナートがマモンとの会話で出した名前にウルラートが問うと、あっさりと返答は返ってくる。
「あぁ、そうだ。ベルゼブルと呼んでやると機嫌がいいぞ」
「?名前変えたのか?」
「変えたという訳では無いが……まぁなんというか、こだわりだとでも思っておけばいい」
そんなもんか?と首を傾げつつ、ひとまず納得しておく。どうせそのうち会うことになる。
「それよりウルラート様。これから行くのは色欲の七魔の領地、もう少しこう……ガッチリした格好にしません?全身鎧とか!」
いいことを思いついた!とピスティが提案してくるのを、苦笑いで受ける。
「いや……その訓練受けてないから邪魔そうなんだよな」
「領内にいる間だけです、外に出るときにはその服装に戻れば」
「普通逆だよなぁ」
言い募ってくるピスティを押し留めて、どう思う?とグラナートを見る。
「そんなものを買うくらいならもっといいものがある。あの街は肉が美味い。せっかくマジックバッグを買ったのだからそっちを買うといい」
「え、肉?」
「あぁ、ルクスリアのところは畜産が盛んだ。マモンがまた行くと言っていただろう、あれは美味いものを食いにか仕入れにかどっちかだと思うぞ。あとはそうだな……家庭が多いな。人間にも魔族にも。響魔とは別の魔族と結ばれている人間もいるらしいし」
「でも色欲って……」
「あぁ、子供がいる家庭が魔族領でもダントツだな。長く繁栄してる一族も多い。今度ラソンにデゼルトとザフィロを連れてこさせてもいいな、友達の1人や2人くらいできるだろう」
色欲の街、と聞いてイメージするのとはだいぶかけ離れている話に思わず唖然とする。
「旅行先としてもオススメだぞ。家族サービスバッチリだ。行ったことはないが」
勧めてくる割に実体験の根拠はないらしい。
「お前魔王だし、結婚相手とかいねーの?」
「そんな暇がどこにある」
返ってきた答えは切実だった。
「暇があってもそんなつもりはないが、ひとまずそんな暇はない。ただでさえシェルムが、旅先でも仕事なんてエリートっぽい!とか言って笑顔で仕事を持ってくるというのに」
「魔王にエリートもなにも……まぁエリートはエリートだろうけど、なんかイメージと違う」
「現実などそんなものよ」
魔王が鼻で笑う。字面に似合わず哀愁が漂った。
「なんかこう、魔王って椅子にふんぞり返ってあくせく働く部下とかを眺めてるのかと」
「いいな、それ。できるもんならそうしたい。というか書類だけでいいから代理立てられないものか……無理だろうな……」
「大変だな、お前」
励ますようにポンポンと魔王の背中を叩く勇者。それを後ろから眺めるピスティはものすごく複雑な気持ちになった。
「はぁ……頭痛くなりそう……」
思わず天を仰いだピスティの呟きは誰にも聞かれることなく、なにはともあれ3人の歩は進む。
「なぁ、騎獣は?」
「そんなにすぐに用意できるか」
お立ち寄りいただきありがとうございます
更新頻度がまちまちすぎていますが、もしよければ評価や感想コメント等いただけるととても嬉しいです。
あと誤字や設定の矛盾なんかもご指摘いただけると助かります
ありがとうございました