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まっしぐら勇者と聖魔道士ちゃん

まっしぐら勇者たちを諫めていたつもりが人のことを言えなくなってしまった話

作者: 三須美ソウ

前作『勇敢すぎる勇者さま方、まっしぐらもほどほどにしてくださいと聖魔道士が語る話』の後書きでちょろんと申しましたおまけ話です。


わたしは我に返って愕然としました。

自分だけは冷静な目をもっておかなければいけないと律していたつもりでした。

我が身を振り返ると、どんな顔をして良いものやら……

宿で荷物の整理をしながらひとり反省会を決行しておりましたわたしの肩を、隣で武器の点検をしておられた勇者さまがぽんと手を置かれました。

とても良い笑顔をつけてひとつ頷かれます。なんでしょうかその笑顔は。

普段なら少しときめいてしまうかもしれない勇者さまの笑顔、今は無性に殴りたくなってきました。実行はしませんけども。


「こちら側へようこそ!」


やっぱり殴っても良かったかもしれません。



***************



本日、わたしたちはあるダンジョンを攻略しておりました。

立ち寄った町で若い男性に声をかけられ、相談を受けたのです。婚約者がここ数日姿をくらましているのだと。

あちこち探し唯一見つけた手掛かりは、町のはずれにある林に墜ちていた彼女が身に着けていたハンカチのみ。

その林を抜けた先には今は誰も済んでいない古びた館があるだけで、町中探しても見当たらないのであれば彼女はそこにいるのではないかと男性は考えたそうです。

良くない噂が立っている館ではあったけど彼女がそこにいるのでは自分が助けに行かなければいけないと奮起した彼は、勢いむなしくも館にたどり着けなかったのだとか。

館は見えているのに何度向かおうとも目的地にたどり着けない。歯がゆい思いをしていた矢先に勇者一行が町を訪れ、もしかしたら勇者ならと声をかけられたそうです。

わたしたちは迫りくる魔の手から世界を守るという使命のもとに旅をしている身ですが、困った方を見過ごすことはできません。

勇者さまももとより御信条が『目の前で助けを求める人を見捨てて何が世界平和だ』とされていますし、他の方々も同じ志を胸にされておられますので満場一致で解決に身を乗り出した次第です。

だからこそあの時もわたしの故郷をお助けくださったのでしょう。こういった面をわたしは大変好ましく感じております。

勇者さまはそのままでいてください。


そういった経緯で訪れた林です。わたしたちも足を踏み入れて館を目指していたはずが、気づいたら立ち入った最初の位置へ戻されてしまいました。

どうやら何かしらのトラップが発動していたらしく館にたどり着けないようになっていたみたいです。勇者さまがあれこれ仕掛けを解かれると、なんなく館までたどり着くことができました。

素直に感動していたら勇者さま曰く『ゲームでこういった仕掛けよくやっていたから』。

よくわかりませんが、勇者さまには手慣れたものなのだということなのでしょうね。さすがです。


林を抜けてすぐ、例の館がありました。館は2階建てのよくあるもののように見えます。

外壁は一部崩れていたりとか周辺に生えている木々が鬱蒼と茂っているところを見ると人の手が入っているとは思えませんので、確かに住んでいる人は誰もいないのでしょう。

とてもじゃないですが、こんなところに用があるとは思えません。事件に巻き込まれたとかなのでしょうか。

勇者さまを先頭に、そーっと扉を開きました。外見と合わせたかのように内装も見事に古びていて、壁紙がところどころ剥がれております。

1階を探索しても女性の姿はなく、2階へあがろうと全員階段へ足をつけました。

そのとたん、足元でガコンと大きく音が鳴りました。床が、なくなっていました。

それは、つまり、わたしたちを支える地面がなくなった、いうことで――。


「キャーーー!!?」


抗いようがなく、そのままわたしたちは落下してしまったのです。

みなさんさすがに接近戦に長けているだけあるのか、空中であるにも関わらず体勢を整え見事着地されておりました。

わたしですか?そんな器用なことはできませんでした。なんと!勇者さまが横抱きでキャッチしてくださいました。とても格好よくいらっしゃいました。


それはさておき、落とされたここです。この館は上だけではなく下にも空間があったようで、むしろ地下が本番のようなつくりでした。あとから思うと、ですが。

しかしこれがまずかった、わたしにとっては。


ここ一帯には霊やゾンビが発生しているようで、わたしたちが分類しているものでいうとアンデット系の敵であるということです。

それらには物理攻撃がイマイチ通用せず、代わりに魔法攻撃が有効で、その中でも聖魔法が最適であります。

それはつまり、この勇者一行の中でわたしが一番有効な手段をもっているということでした。

わたしは……やってしまったのです……


「ふふ……うふふふふ……わたしの一撃、受けてください……!」


だって……よく効くんですよ……わたしの魔法……


「あはははは!まだまだこれからですよー!」


一種のトランス状態のような、万能感のようなものが身の奥から湧き出てくるようでした。

今のわたしは最強です、のような。

戦闘ではもはやわたしの独壇場で、その間に皆さま方は仕掛けられていたトラップを解除したり要所要所に印されたヒントを辿り根城としていたモンスターを対峙してとらえられていた女性の解放に成功されておりました。

そこでわたしは、はっとしたのです。この高揚感はなんだったのかと……!

こういう感じ、わたしはいつも傍目から見ていたのではないかと。

そうです、皆さんのバトルに対する姿勢と似ていたのではないかと。

わたしは……皆さんの手綱を握っていたつもりでしたのに……そんな……染まってしまったということなのでしょうか……?


その後の落胆したわたしは、いつも以上に大人しく皆さんのあとに続き、女性を無事婚約者である男性のもとに送り届けました。

時間も時間でしたので、この町で宿をとることにしたのでした。

気も落ち着いて、頭に過ぎるのは本日の自分のはっちゃけ具合です。

何度思い出しても、ああああ……と頭を抱えてしまうのです。


救いもありました。勇者さまがお話してくださったのです。

勇者さまを先頭とするパーティを組むとパーティメンバーには戦闘意欲向上、攻撃力上昇する傾向があるのだそうです。

彼らが『勇者の加護』と呼んでいるその現象は、わたしにも適用されたんだろう、とのことでした。

今まで顕著に現れなかったのは、わたしが回復魔法に徹していたからじゃないだろうか、と。

それが今回はわたしの攻撃魔法が大活躍する場面だから発芽したんだろう、と。


「これからも頼りにしているよ。よろしくな!」


まぁ、なんです。

頼りにされるのって、うれしいですよね。

皆さまのお役に立てるなら、良いっか。


にかっと爽やかに笑って手を差し出す勇者さま。

わたしもにこっと笑ってその手を握り返しました。




****END****



書いてると段々愛着が沸いてきたので、とりあえずもうひとつ投稿予定です。

次も読んでいただけると嬉しいです。

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