世界を救う理由
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
色々あったディスタンドへの道中でラナに再会した。 白川さんの予言では、俺とラナが世界をどうにかしなくちゃならないらしい。 ダンジョンコアに到達したんだが、毒? にやられて意識を失った。 意識が無かった間、誰かの夢を見させられていたようだ。
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ラナに手伝ってもらい壁を背にして、右に身体を傾けて座る。
左足は生身だ、強化服の質量で簡単に潰れる。
仰向けに寝てても良いんだが、色々景色が良いし。
「 波乱様。 何があったのですか? 」
『 ここに辿り着く直前に、スライムの待ち伏せに合ってね 』
魔素センサの閾値を上げていたんで、魔素反応が薄いスライムを感知できなかったこと。
温度センサにも動体センサにも、反応が無かったことを説明する。
ほぼ透明なんで、光学センサにも引っかからなかった。
最強じゃないだろうか、透明スライムのアンブッシュ。
『 既知の毒じゃ無かったからな、毒消しが効かなかったんだよ 』
毒には色々な種類がある、影響を及ぼす部位や効果も色々ある。
全ての毒を消去できる魔法やポーションはまだない。
身体にとっては活性酸素は毒だ、アドレナリンは猛毒だ。
ピロリ菌も消してくれると胃が助かるんだが、全部の毒を無くすと人体はどうなるんだろうか。
「 ・・・・・・それだけですか? 」
「 そうだな、それ以外は特に何も無かったな 」
ラナに合わせて、俺も強化服のフェイスプレーを上げる。
ダンジョン内の酸素濃度は地上と変わらない、有害ガスも検知できない。
バクテリア何かを気にしても、今さら遅いだろう。
「 ! ! ! 」
ラナがスゲー驚いてる、始めて見る顔だ。
「 それ以外は特筆すべきことは無いな。 強化服の装甲は有効だったし、魔素攪乱チャフも有効だった。 俺は走ってただけだ 」
ラナが今度はスゲー良い笑顔になった。
驚いた理由が気になるけど、後で確認すれば良いだろう。
「 それで、ラナはいつ着いたんだ? 」
「 30時間ほど前に着きました。 波乱様を見つけましたので、助けようと思ったのですが・・・ 」
ラナが言うには、俺のバイタルは安定していたが目を覚まさなかったと。
それで、しばらく様子を見ていたんだそうだ。
緊急時にしばらく様子見で30時間、エルフ時間だな。
俺が意識を失った原因は、魔道具にセットしておいたサブルーチンにあった。
プログラム内で、同じ処理を何回も実施する場合に用いられるのがサブルーチンだ。
足首、膝、股関節の3カ所のパージで、同じサブルーチンが3回走った。
鎮痛剤を投与 → 姿勢制御 → パージ → 止血もしくは再生判断 → ・・・・・・と続いてる。
つまり鎮痛剤を3回投与した事になる、そりゃ意識も失うか。
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「 それでは、コアを壊して家に帰りましょう。 義母様が、ケーキと料理を作って波乱様をお待ちですから 」
「 ソレなんだけどな。 ラナ、このまま世界を助けても良いと思うか? 」
「 何のことでしょう? 」
急な話なんだが、そんなに驚いてはいないな。
俺は夢の内容を話して聞かせる、夢は本人の無意識の願望だそうだ。
「 あれから5000年だ。 たった5000年なのか、もう5000年なのか、感じ方はそれぞれだろうけど 」
通路に入れない魔物達がウルサイ。
「 俺はたった5000年って感じてる。 たった5000年でダメになるのかってね 」
「 ・・・・・・ 」
「 種族が違うから奴隷にするとか、世界の危機だってのに自分たちの欲望を優先しやがる。 技術も進歩していないどころか、どんどん失ってるし 」
「 ・・・・・・ 」
「 ちょっと前から考えていたんだ。 この世界を救う意味があるのかってな。 ラナやマリアさん達が居なかったら、もう絶滅させてるぞ 」
多分だけど。
積極的にじゃなくて、まぁ滅んでも良いか? 程度なんだが。
「 そうでしたか。 それで波乱様は、笑わなくなったんですね? 」
「 笑わない? 俺が? 」
「 はい。 以前と違って、楽しそうではありませんでした。 皆さんが居なくなったせいだと思っていたんですが・・・・・・ 」
全然意識していなかった。
『 楽しそうじゃない 』 ね、前回も楽しかった訳じゃないんだが。
「 そうだな、楽しくはなかったな。 ラナ以外はみんな居なくなったし 」
裏切った河原君の子孫は全部排除した、指示したのは俺だ。
聖女だった白川さんの子孫は残ってる。
だが大丈夫だろうか、俺はイケメンじゃないし王子様でもない。
チョット笑顔を作ってみる、顔の筋肉が痙りそうだ。
最後に笑ったのは何時だろうか?
「 ご家族の事が気になりますか? あちらの世界の? 」
「 ああ、気になるな 」
妻と子供、それと孫も居たな。
初孫で女の子、確か名前は、名前?
「 ・・・・・・思い出せない 」
大切な家族、その詳細が思い出せない。
家族は居た、それは間違いない。
思い出の数々のシーンは途切れ途切れで整合性がなく、それ以外の記憶も断片的だ。
「 ・・・・・・デスペナルティか 」 頭を抱える。
「 デスペナルティですか? それはどんな罰なのですか? 」
ラナは不思議そうだ。
そう言えば、ラナはゲームはやらないんだったな。
「 死んで復活するとレベルが下がったり、アイテムを失ったり。 持ち金が半分になるってのもあったな、ゲームの話だけど 」
ラナの顔を見てニッコリ、上手く笑顔になっているだろうか。
「 ゲームのお話なんですね。 波乱様が悪人って話しじゃなくて、安心しました 」
記憶の移行は難しい、パソコンのデータ移行と比べるまでも無い。
記憶は脳内の電気信号の連続だから、ミクロン単位の正確さが必要になる。
時間の正確さに関しては想像も付かないほどの、正確さが必要だ。
電気信号だけ移行しても、そこにシナプスが無ければ信号はロストだ。
記憶を永久に失う。
歳を取る度に細胞も無くなっていき、だんだん記憶も虫食いになっていく。
それがまとめて来た感じか。
俺のデスペナルティは記憶の一部ロスト。
記憶は人格を形成する基だから、俺は人格も変わっていたのかもな。
「 そうそうゲームの話。 命を大切にしない奴に与えられるペナルティの事だよ 」
命はゲームの中だったらどうでも良いのか、ゲームの中でも大切にすべきか。
『 俺の家が~、俺の宝が~ 』 って、言ってたゲーム実況の配信者が居たな。
1回目に言った時は大量に居たオオカミが居なくなって、2回目に言った時は馬とかラマとか居なくなってたな。 大量のパンダもか?
無闇に増やした村人が多すぎて、パソコンが重いからって別の世界に送り込んで処分していたし。
偶然起きた事件の後は、パソコンの動作が軽くなったってスッキリしてたから、配信者は何も感じていないんだろう。
ゲーム作成者はそこに疑問を持ったのではないか、現実とゲームの区別が付かなくなるのを心配したのか。
結果として、デスペナルティが実装されたと推測、単純にゲームが面白く無くなるからかも知れないが。
最終的には個人の判断次第だな、俺はゲームでもやらない。
反撃は別だ。
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この世界は停滞してる。
貴族は学べるのに学んでないし、貴族以外は学べる余裕がある者は少ない。
同じ事を繰り返してるだけの進歩の無い世界だ。
俺から見ると、滅びを待ってるだけに見える。
「 そろそろ、別の種族にチャンスを与えても良いんじゃないか、って思ってる。 ヒト種は今回危機を脱して、もまた争いを始めるだろう。 だったら、そろそろヒト種じゃない誰かに、この世界を任せるのも在りなんじゃないかってな 」
どうせ平和は長続きはしない、多分だが。
前回も他の世界から連れてきた俺達任せだったし、その前に召喚された勇者だってそうだ。
人任せ、それがこの世界の基本方針。
判ってる。 夢が俺の思考に影響してるの自覚してる。
「 そうかも知れません。 でも、このままでは皆さんが犠牲になってしまいます 」
「 そうだな。 でも、こう考えたらどうだろう 」
世界が後5000年保ったとしよう、人類がキッチリ100年の寿命で入れ替わるとしたら50世代。
獣人も似たようなものらしいから、50世代。
エルフ族やドワーフ族は年々寿命が延びてるんだと、特にエルフは。
元々寿命が長かったから世代交代が進んでなくて、進化? 覚醒? が完了していないんだろう。
今代のハイエルフの子供は、5000歳に届くんじゃないかってさ。
「 今なら50分の1程度の被害で済む 」
今の人口は約3000万人、全部の種族を集計した数字だ。
元の人口の0.375%、誤差だ誤差。
新しい世界の為の犠牲として、多いか少ないか。
「 計算ではそうですが・・・・・・ 」
「 それにだ、これから生きていくには魔素が必要なる。 水と食料と空気、生きていくために必要なものだ。 そこに魔素が加わる、魔物を生み出す魔素がだ 」
「 魔素が無くなれば滅びる。 でも、魔素があると魔物で苦しむのですね 」
「 そうだ 」
「 ヒト種は魔素が無い世界に行けなくなった。 魔物に怯えながら、魔素と共にずっとこの惑星で生きていくことになる。 呪いだよこれは 」
怯えながら、苦しみながら生きていくことになるだろう。
今、この惑星の滅亡を防いでも、救っているのか、呪いを掛けようとしているのか。
俺には判断が出来ない。
この惑星を滅ぼしても、どうせ数万年か数十万年すれば別の種族が目を覚ます。
今より良い世界なのか、それとも悪くなるのか。
そんなこと俺は知らん。
世界の危機を人任せにする奴の子孫は、何でも人任せになるんだろうか。
積極的滅ぼしたいわけじゃないが、どうにもやる気が出ない。
「 何か変なところがあったか? 」
「 いえ何も。 少しレベルが上がっていますが、それ以外は 」
さっきから、ラナの目が時々光ってた。
勇者には鑑定が使えるらしいからな、俺の状態を確認してたんだろう。
俺は正常なつもりなんだが。
「 波乱様を見つけたとき、回りに何かが在りましたのでチョット心配で 」
「 何か? 魔素じゃなくて? 」
「 はい。 寝ていた波乱様の回りを包み込むように、何かがありました 」
初耳なんだが? 洗脳とか、憑依とかされてないよな。
俺はひねくれ者だ、おじさんになるとひねくれ者になるとも言える。
おじさんは自分に関する事を、他人に決められるのが嫌いだ。
「 ラナ。 脱出の準備だ 」
「 はい、波乱様 」
ラナに手を借りて立ち上がる。
ポーチから非常脱出装置を取り出し、床に設置する。
「 念のため、600mにセットする 」
400m級ダンジョンだからな、地表に戻るには1.5倍在れば大丈夫だろう。
周囲に山は無いし。
「 はい、波乱様 」
脱出装置にダイブ、距離を鉛直方向へ600mに改造する。
そう、緊急脱出装置は魔道具だ。
この魔道具は、衛星を転移させていた魔道具が基になってる。
レベルが上がり、転移魔法陣の一部も解読出来る様になり、一部の改造にも成功した。
転移の魔道具は、空間の指定に座標を使用していなかった。
『 ここからあっちへ何m転移 』、いわゆるベクトルを使用していた。
色々試験もした。
転移距離は魔素量に比例していて、魔素の無いところには転移出来ない。
それにズレが発生する、毎回同じ方向にズレる、原因は不明。
転移は人物を含んだ空間を移動させる転移だ、大気も含んでる。
転移先の空間に割り込む感じで転移する、転移先の物質を押しのけるから核融合は発生しない。
んで、大気も一緒に転移するから音がする、あまり格好良いもんじゃない。
俺はひねくれ者だ、おじさんになるとひねくれ者になるとも言える。
俺に夢を見せた奴が、ヒト種の世界を終わらせたいなら続けてやる。
それに。
『 世界は何時でも滅ぼせます。 もう少しだけ、この世界でご一緒しませんか? 』
失敗した、ウッカリだ、俺はラナを5000年待たせていたのを忘れていた。
『 この世界を救って欲しい 』 、この惑星の最後の人類だったおっさん。
施設に一人だけ残って、骨まで粉々になってたおっさん。
彼の願いも忘れてた。
世界を救う理由なんて、こんなもんで充分だろう。
ラナがコアを取ってきた。
俺は支えていた手を、壁からラナへと移す。
「 まぁ良い。 ソッチが勝手に俺達を巻き込んだんだ、俺も好きにさせてもらう 」
通路の向こう側には大量の魔物、ダンジョンを壊さないで脱出するのは無理だろう。
壊すのは簡単だが、400m分の土砂に埋もれたくは無いしな。
ラナなら大丈夫か、俺には無理だ。
「 お前達を管理してやろう 」
食料に燃料に素材、タップリと供給して貰う、徹底的に搾り取ってやる。
やりたいことがまたひとつ見つかった、口元が緩むのを感じる。
ラナがブルッとして、魔物がビクッとした。
「 今、何か出てた? 」 魔王的な威圧とか。
「 いえ、波乱様。 出てはいません 」 格好良かったんだとさ。
俺のステータスに変化は無い、魔王には成れないらしい。
コアを破壊、ダンジョンが崩壊し始めるのを確認して魔道具を起動する。
タイムリミットまで7時間だが、それほど影響は無い。
俺とラナは、ダンジョン上空200mに転移した。
はずだった。
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強化服に取り付けた脱出装置は、転移の魔道具とフライングスーツでワンセットだ。
上空まで転移して、滑空して地上に戻る。
俺とラナの強化服は軽いからな、滑空なら何とかなる。
「 また、ズレたな 」
「 はい、波乱様。 見た事がない花が咲いています 」
今回は大幅にズレたようだ、植物の生態系が違う。
魔物の生態系も違うな、きっと。
「 随分と盛大にズレたな。 隣の大陸だぞここは 」
「 お隣さんですか 」 ラナは回りを見渡している。
魔道具によると、今居るのは隣の大陸。
元の大陸には近いけど、夕飯には間に合いそうもない。
ラナにお願いして、その辺の木を適当な長さで切り出して貰う。
左足が生身でそのままじゃ歩けないから、木を松葉杖にして歩き出す。
「 近くには強い魔物の気配はありません 」
「 了解だ。 コッチのセンサーにも反応は無い 」 近くにはな。
歩き始めて2時間。
衛星経由のデータ通信によると、高速で接近する魔素体2が確認されたと。
ラナの強化服にもデータは届いてるはずだ。
歩みを止めて待ち受ける、周囲に脅威は無い、待ち受けるのがベストだ。
「 波乱様、来ました 」
ラナの目は光学ズームより優秀だな。
「 確認した。 ドラゴン? 」
「 はい、そのようです 」
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