ダンジョンで観る夢
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
色々あったディスタンドへの道中でラナに再会した。 白川さんの予言では、俺とラナが世界をどうにかしなくちゃならないらしい。 ダンジョンを破壊するため、俺は1人行動を開始した。
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階段と、呼べなくもない段差を降りる。
目標はもう近い。
『 報告。 任務開始から97時間、ダンジョンの最終層に到達、目標を視認 』
強化服の光学ズームには、ダンジョンコアへと通じる通路の入口が表示されている。
ここまで来れば、任務はほぼ完遂したと言って良いだろう。
『 目標までの距離、光学測定で521m、既に効果範囲に入っている。 目標との間に魔物を確認するも、地形効果を考慮すればコアの破壊は可能だろう 』
ダンジョンの最下層は、小さな階段で上層と繋がっているだけだ。
強化服の爆発の衝撃波は確実にコアまで届く。
俺の勝ちだ。
『 記録。 数階層前から魔素濃度は飽和値に到達、それ以降は変化無し。 魔素センサーの感度を調整した。 強化服に異常なし、連続稼働試験としては充分だろう 』
強化服の装甲は、ここまでの全ての魔物の攻撃を防いだ。
対魔法コーティングも有効だ。
ただ、対魔法コーティングは物理攻撃で剥がれるから、吹き付けて補修してる。
『 ここまで罠の存在は確認出来ない。 落とし穴、毒矢、転がってくる大きな岩も無かった 』
途中で脆くなってた床を踏み抜いたが、落とし穴では無いだろう。
『 宝箱の存在も確認出来ない。 代わりに魔物の体内から剣などの金属や宝石類が出てきた、表面を数層からなる固形の物質に覆われていた 』
何かが後ろから接近してきた、段差の途中で足を止めて振り返る。
こちらを確認した魔物は、急に方向を変更して遠ざかっていく。
『 考察。 金属を覆っていた物質は、硬化した魔物の体液と推測。 金属が体内を傷付けないように保護していたのだろう。 数層になっていたのは、捕食者が、更に上位の捕食者に捕食されたためと考える 』
冒険者が魔物に襲われて捕食され、魔物は体内で金属類をコーティング。
んで、上位の魔物が捕食して再度コーティング、ってとこだろう。
『 報告。 戦術AIは対魔物戦闘において非常に有効と判断、積極的な使用を推奨。 今回得た情報は、全強化服で共有すべきだ 』
強化服はそれなりの質量が在る。
俺の強化服が軽いとはいっても200kgは越えてる、足元には注意しないとな。
『 それとだ。 誰だ、 ”最下層はボス部屋” って言った奴は 』
俺の目の前にはそれなりの種類の魔物が、かなりの数存在してる。
正確な種類も数も計測できない、大小混ざって重なってるし。
中には数階層上の弱い種類も混ざっている、これからあいつらの相手をすることになる。
『 考察。 魔物は、種類別に生息階層がほぼ固定されている。 だが、時々下層や上層への移動を確認した。 酸素濃度は地表と変わらない、植物? 菌類? らしき物も確認した。 標本は確保済み 』
つまりだ。
『 ダンジョンは、コアを中心とした1つの生態系を形成していると推測。 コアは魔物に、生存に必須な何らかの物質を供給しているのではないかと考えられる 』
下層になるほど強い魔物が多い、それでも弱い魔物が居ない訳じゃ無い。
殆どは強い魔物に倒されてるけど、それでも下層を目指す弱い個体が居る。
何らかの物質が無くなって倒れるのも、強い個体に倒されるのも同じなのだろう。
ココまでの道中で、フレンドリーファイヤを狙った。
何度も成功しているんだが、魔物同士の抗争には発展しなかった。
『 魔物にとって我々は、ダンジョン外からの侵入者。 生存領域を脅かす共通の敵に該当するのだろう 』
敵と味方をどう識別しているのか現在不明、発光も発音も無かったから音や光ではない可能性が高い。
交戦時の魔物の魔力パターンは記録した、解析出来れば今後は味方だと誤認させることも可能だろう。
帰ったら直ぐ解析してみよう。
魔物たちが俺に気が付いた、集団を形成してこちらに向かってくる。
『 以上。 これより目標への最終アプローチを試みる 』
記録を保存した魔道具をカプセルに入れ、階段におく。
俺が帰還できない場合でも、誰かが来てカプセルを拾えばダンジョン攻略の役に立つ。
もっとも、俺が失敗すればソルが危ない。
そんな時に、ここまで来る余裕のあるヤツが居るとは思えないが。
俺は脚に力を込め、地面にクレーターを作りながら走り出す。
何てことはしない。
地面を壊す分の力は全く無駄だ、壊す力が余分に必要になるから加速が遅くなる。
オマケに壊れた破片が加えられた力を分散するから、更に加速が遅くなる。
ホイルスピンさせても車は急に加速しないのと同じ、見た目は派手だが。
地下の成分は不均一だ、力の入れ過ぎは脚の裏に掛かる力のバランスが崩れる。
バランスが崩れると、足首をねんざする可能性が高まる。
急加速が必要なら、何らかの爆圧か噴射を利用すべきだ。
俺は捻挫したくないからやらない。
俺に向かってくる魔物の群れは壁の様に見える、最下層の横幅一杯に広がってる。
魔物と天井には隙間が在る。
俺は魔物の上を飛び越すために、大きくジャンプする。
何てことはしない。
俺は鳥じゃない、空中で姿勢を制御する装備も無い。
ジャンプの頂点付近では、鉛直方向の移動速度はほぼゼロだ。
ジャンプの角度によっては水平方向の速度も低下するから、狙いやすい的になる。
俺はやつらの的になる気は無いから、大きくジャンプなんかしない。
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魔物の群れにライトアローを3連射、群れを横に4つに分断する。
コアに近い場所、高濃度の魔素の中なんで高出力の魔道具の使用は控えている。
使える兵装は、ライトソードとパンチとキック、それと5連射可能なライトアローだ。
キックは問題無い、脚は普段から地面を蹴ってるから。
だが、手は殴るのには向かない構造をしてる。
関節部が多いし、細いし長い。
殴る時にはナックルガードが、手と手首を完全に覆うように設計してある。
本当はパンチを飛ばすつもりだったが、ちょっと無理だった。
4つに分断した魔物の群れ、着弾点の隙間の圧力が下がった。
隙間に魔物が集中したんで、壁際が手薄になった。
俺は壁際を、壁と床を交互に蹴って駆け抜ける。
コアへ続く通路までは後20m。
急激な失速、左足に違和感、足先が動かない。
左足に絡みついてたスライムを、ライトソードで処分する。
数階層前から、魔素濃度が濃すぎて魔素センサーが真っ白になった。
やむを得ず、一定以上の魔素だけ感知するように閾値を上げた。
強い魔素は感知できても弱い魔素は感知できない。
他のセンサー、赤外線、紫外線、音、光、光学式動体センサーが在れば十分だと判断した。
強い魔物を検知出来ないリスクを、より重視した結果の変更だ。
立ち上がろうとして、左足首が上手く動かないことに気が付く。
『 左足より麻痺毒が侵入 』
モニタには麻痺毒の警告、自動で解毒のポーションが投与されるも効果無し。
既知の毒では無いようだ。
『 左足首をパージ、鎮痛剤の投与を忘れるな 』 足首から先が無くても動ける。
モニタに接近警報、抜けて来た魔物の群れが向きを変えてこちらに迫っている。
左足はスネから下が冷たく感じてる、多分もう動かない。
毒の侵攻が早い。
このままでは左足全体が動かなくなるまで、それほど時間の余裕はないだろう。
脚だけで済めばよいが、全身に毒が回ったら完全に動けなくなる。
片足だけで移動しても、目標に到達する前に魔物の群れに捕捉される。
『 左足を、足首、膝、股関節の順にパージ。 その反動で目標まで向かう 』
どこかを掴まれて、もしくは挟まれて身動きが取れない。
そんな事態を想定して、関節ごとのパージ機能は搭載済み。
パージは魔薬で吹き飛ばす、掴んでる対象へダメージを与え、同時に距離をとる設計だ。
もちろん、自動で鎮痛剤を投与するサービス付。
『 姿勢制御完了。 パージまで10・9・・・ 』
『 直ちに実行 』 魔物の群れが迫ってる。
バン、バン、バン。
繰り返される衝撃、強化服ごとコアへと続く通路に飛び込む。
『 パージは成功、左足の再生を開始 』 マリアさんのポーションが投与される。
『 体内に毒物なし、バイタル低下中 』
寝転んだまま仰向けになる、まだ左足が無いんでひと苦労だ。
仰向けになっても世界が回ってる。
世界が回っていても問題無い、自転してるし。
そうじゃなくて、意識レベルの低下とバイタルの低下が問題だ。
毒は無くなったんじゃないのか?
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世界は魔素に包まれている。
街並みの中を魔物達が歩いている、服を着て。
同じ種類では大きな個体が大人で、小さな個体は子供なんだろう。
ギャウギャウ言ってるのは、何かの会話だろうか?
道は何らかの物質で固められている、一応道路なのだろう。
機械では無い何かに乗って走っている、座席と何らかの外装を装備してるから乗り物だ。
道の両側には店がある、服を売っている店もあるし、食料品もあるな。
建物が入っている建物は建築物なんだろう、俺にはそうは見えないが。
周りを見渡すと、様々な種類の魔物が居る。
大きな個体は、どこに家が在るのだろう。
寝るだけで道路を塞ぐサイズなんだが?
戦闘や紛争は発生していない、ケンカもしていないな。
仲が良いと言っていいのだろう。
暗転
虫達が歩いている、みんな服を着てるが靴は履いていない。
建造物もある、建物なんだろうが材料は恐らく土かそれに類する物だ。
服を着てる虫ってのは、何かあれだな。
会話らしきものも聞こえる、内容は意味不明。
俺は樹液に興味は無い。
街中を歩いている個体は、大きさの個体差が大きいが魔物たちほどじゃない。
大きな虫に踏まれた小さな虫がいるが、怪我は無い様だ。
大きな個体は謝っている、小さな個体はそれほど気にしていない。
慣れているのか? ケンカにもならない。
これだけ個体差が大きいと、集合住宅やデパートは建築には苦労するだろう。
共通の乗り物も設計は難しそうだ。
自分で飛んでる個体も居る、長距離移動を除けば自分で飛べるのか。
種族によって、出来る事と出来ない事が明確になってる。
専門分野があるから、相互依存になってるのか。
暗転
植物が動いてる。
俺基準で観ればひどくユックリだが、色々な植物が多分歩いてる。
高速の移動には、俺基準では早歩き程度だが、何かに乗ってる。
反引力装置ではない、車輪だ。
豪華な植木鉢? に入ったままの奴もいる。
特権階級なのか、自分では動けないのか知らないが。
他の個体との会話も成立しているようだ、葉や枝をワサワサやるのが会話らしい。
光って会話してる奴もいる、通訳が付いてるな。
個体差はそれほど大きくない、数10cm~3mと言ったところか。
何となく酸素が多そうだ、道も歩道も広々している。
光合成か、あるいはそれに類する行為を実施するためなのか街中は明るい。
恒星の光が十分に降り注ぐ街並みになっている、高層建築が無いのはその一環だろう。
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『 これは夢だ 』
細部までは判らないが、誰が何をしているのかは判る。
詳細は判らないが、何のための物でどう使うかは判る。
明らかに夢だ。
でも、俺のじゃ無い。
虫嫌いの俺が、無視が世界の頂点に立った世界を夢見る訳がない。
魔物も無視も植物も、その他の色んな生命体も世界の頂点に君臨していた。
食物連鎖の頂点だ、そこに人類は居なかった。
『 これは誰の夢だ? 』
『 波乱様、御目覚めになりましたか? 』
『 ・・・ラナ? 』
モニタにはラナの強化服、見上げるとラナがいた。
目に映る範囲では、ここはさっきの通路。
400級ダンジョン最下層、そのコアへと続く通路のはずだ。
んで、俺は仰向けに倒れてる、強化服を着たままだ。
『 波乱様。 左足の再生は終わっていますが、痛みますか? 』
脚の指まで感覚が戻ってる、軽く膝を曲げると、踵には通路の床が当たる感触。
『 痛みは無いよ、ちゃんと動くし 』
『 良かった 』
ラナが強化服のフェイスガードを開けた。
「 波乱様! お誕生日おめでとうございます! 」
『 ・・・・・・ありがとう、ラナ 』
そうか、マリオンは11歳になるんだな。
んでも、自爆シーケンスは進行中なんだが?
誤字脱字の報告、読後の感想などお待ちしています。