ダイブ!
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
色々あったディスタンドへの道中でラナに再会した。 白川さんの予言では、俺とラナが世界をどうにかしなくちゃならないらしい。 ダンジョン破壊計画の最終段階で邪魔が入った。
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「 波乱様、お時間になりました 」 あまりよろしくない目覚めだ。
「 ・・・・・・ありがとう 」
用意されたテントを出て風呂に向かう。
施設を出て15日目、ここは最終ダンジョンの77階層だ。
これが最後の風呂になるだろう、ダンジョンを出るまでは。
風呂と言ってもダンジョン用に用意された簡易風呂、5枚の金属板を組み合わせただけ。
金属の間に防水ゴムを挟んである屋外での入浴用、野営でもダンジョンも使用できる優れもの。
ちょっと狭いけど無いよりマシだ。
「 撤収準備は完了しています。 波乱様が出発されたのち、30階層まで下がります 」
「 了解した。 ダンジョンが崩壊を始めたら、速やかに地上まで撤収しくてれ 」
お湯に浸りながら報告を受ける、俺のプライバシーは何処へ行った。
身体を清潔にする魔法は、まだ開発中されていない。
問題点は2つ、『 汚れの定義 』 と 『 汚れの選別 』 だ。
魔物なんかの血や油、土やホコリは汚れで確定だが、自分の老廃物をどうするかだ。
自分の老廃物を『 汚れ 』 と定義すると、肌着や服の内側に付いてる汗なんかの老廃物の位置の特定が難しい。
肌の表面にくっついている存在が、更に問題を複雑にしてる。
同じDNAを保有しているからな。
取り除かない毛髪や産毛も、魔法の開発を困難にしている要因だ。
体表面( 毛髪や産毛も含んでだ )以外の物を『 汚れ 』 とすると、非常に精密な3Dモデルを作る必要がある。
0.1mmズレると大変なことになる、全身が真っ赤になる。
1mmズレたら血が吹き出るな。
小さな揺らぎも考慮しないと数値がズレるから、魔法の発動中は身動きできないだろう。
でも不可能ではない、恐ろしく時間と手間を掛ければ可能だ。
今の所、40℃位のお湯を用意して、手で洗ったほうが遥かに簡単で早い。
何処かの誰かが何時か開発してくれることを祈りつつ、俺はお湯につかる。
「 護衛は必要ありませんか? 是非とも護衛に付きたいとの申請が出ています 」
入浴も着替えも全部お任せ。
補給部隊の彼女たちには劣化強化服を供給している。
魔素炉ではなく魔石タイプだ。
出力が桁違いなんで装甲は薄いし武装も貧弱だ、30mm50口径砲は装備出来ない。
それでも、その辺の防具より遥かに高性能だ。
だから、『 75階層まで進出して待機 』 を上回る77階層での活動が可能になった。
クロエさん達Aランクのパーティーは、64階層でほぼ全滅だったからな。
「 護衛は必要ないよ。 君たちの装備じゃこの先は厳しいだろう 」
「 しかし! 倒した魔物から魔石を取り出せば、継戦能力に問題は在りません! 」
魔素炉タイプの強化服は出力に余裕がある、自動治療機能も排せつ物の処理機能も付いてる。
服の内側では、手を強化服内部へ出す事が出来る。
手が動かせるから、食事も戦闘食で良ければ食べられるし、痒いところもかける。
排泄物も小さい方は濾過して再利用、大きい方は乾燥してから撒き散らして処理。
だから俺の後ろには立つな。
魔石タイプにはそれが無い。
魔石交換や休憩のために、数時間おきに止まる必要がある。
魔石は足りても時間が足りない。
「 気持ちは受け取っておこう。 あと5日しかない、途中ではほとんど止まれない 」
残りの時間は5日±70時間だ。
5日より早く着くとは思えないから、より正確には5日+70時間、7日と22時間になる。
元気になる薬も用意してきた、副作用はない。
10歳に投与したデータは無かったが。
薬を使えば、2日なら寝ないでも何とかなるだろう。
それでも、3日に1回の睡眠は必須だ。
昔に実施した、脳波計を付けた、自発的な参加者による無睡眠実験の記録がある。
脳波計が睡眠状態に入ったら、軽い電気ショックで強制的に起床させる実験だ。
殆どの被験者が、3日目で幻覚を見るようになったそうだ。
結果として、人類は3日以上の無睡眠には耐えられないんだと。
『 忙しくてさ~。 俺、3日も寝てないんだよ~ 』 は嘘だ。
寝ていないつもりでも、極短時間の睡眠を非連続で取ってるらしい。
それすら自覚できないほど、疲れ切ってるのは本当だな。
何処かの宗教では、7日間無睡眠で食事も水も取らない修行があるんだとか。
成功すれば、なんちゃらって言う階位が貰えるんだと。
7日間無睡眠で食事も水も取らないなら人類を辞めてるから、階位を貰っても当然だろう。
まぁ、宗教ってのはそんなもんだ。
部隊の全員に見送られて出発。
強化服の顔の部分は、まだオープンのままだ。
「 波乱様、無事お帰り下さい 」
「 了解した。 こんなつまらない事で、死ぬ気は無いからな 」
「「「 ・・・・・・ 」」」
「 不思議そうな顔だな? 技術者の仕事は物を造ることで、壊すことじゃない 」
飛行機を軍用にしたのは軍人だ、技術者じゃない。
核分裂を爆弾にしようと言い出したのは科学者グループで、技術者じゃない。
強化服の手を見る。
俺の強化服は、曇ひとつない真っ青な青色だ。
「 こんなことはさっさと終わらせて、本来の仕事をするさ 」 ウインクも付けておこう。
「「「 はい! 」」」
効果は充分だ。
( 指揮官、1つ頼みがある )
( ・・・・・・あれですか )
( そうだ )
俺の強化服は小さいから軽い。
オマケに30mm50口径砲も積んで無い。
あれは、可倒式とはいえ俺の強化服には大き過ぎて搭載できない。
その代わりの兵装として、ライトアロー(改良版)を左右の腰に装備。
左は出力100倍に改造し、右は5連発に改造済み。
魔素炉と直結して随時チャージするようにしてある。
緊急脱出装置なんかもあるし、自爆装置も在る。
使ったことは無いけど。
魔薬に色々混ぜた危険が危ないやつだ、熱でも魔素でも爆破しない。
特殊な起爆装置が必要だ。
( これは自分では設定できない。 だが、念のため設定しておきたい )
( ・・・・・・ )
自爆装置を、自分で設定できない仕様にしたのはラナの要望だ。
( 俺の技術で魔道具を改造すれば、解除は出来る。 あくまでも念のためだ。 判るな? )
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ダンジョンの中を進む。
AIの戦闘サポートも実戦を積み重ね、信頼できるものになった。
基本方針は最短距離での移動で、戦闘ではない。
魔物は倒すんじゃない、やり過ごせれば充分だ。
ナビゲートの精度も上がった、もう迷うことは無い。
ただ前へ、より深く。
『 前方200m、魔法陣の生成を確認 』
モニタ表示される、警告メッセージ。
強力な魔法には、大きな魔法陣が沢山必要らしい。
俺は魔法を使えないんで知らないが。
魔素と魔力は、電子と電力の関係に似ている。
電子は原子核の周りを回っていて、最小物質で分解不可能だと言われている。
電子はマイナスの電荷を帯びていて、電子が移動することを電流と言う。
電子が移動して電流と呼ばれても、電子が移動してるだけで電子は電子のままだ。
電流が何か仕事をする、回すとか光るとか何でも良いんだが、そうすると電力と呼ばれる。
魔素も同じだ。
魔素が移動しても魔素のまま、魔素も仕事をして初めて魔力と呼ばれる。
火を生成するのも、大気を移動するのも、魔法陣を描くのも魔素の仕事だ。
俺はそこに着目した。
『 目標を固定。 発射 』
俺の音声指令で発射された弾丸は目標近辺に着弾、魔石のパウダーを拡散する。
目標の手前に着弾し、速度に見合った立体の扇形に拡散して目標を包み込む。
魔法を耐える必要はない、魔法を使えなくすれば良い。
魔石のパウダーで、魔法陣の生成を妨害してやればOKだ。
全部を妨害できなくても、魔法陣の一部を壊せば充分。
そうすれば魔法を唱えても不発に終わる、暴発して自滅してくれたら最高だ。
魔法陣が無い魔法が在るらしいが、やることは同じだ。
魔素の動きを乱すから魔法は発動しない。
魔石が魔素を内側に閉じ込めて貯められる構造だから、逆に利用すれば魔法の伝達を妨害できる。
『 魔法陣の生成阻害を確認 』
効果範囲から移動して、再度魔法を使おうとする魔物も居た。
失敗してたけどな。
高速の移動には魔素を使ってるだろうし、上手くいくわけがない。
風で吹き飛ばそうとしても魔法は使えないし、ブレスで散らそうとしたらパウダーを大量に吸い込むことになる。
それに、俺が黙って見てるわけがない。
魔素を使わないで、音速より早く動ける魔物は居ない。
弾丸の方が早い。
魔法もスキルも魔素が在って成り立つもんだし。
結果はモニタに表示された。
俺は前に進む。
電力は電子が仕事をした時の現象の名称だ、だから電力は貯められない。
腕力も脚力も貯められない、魅力も眼力もスピーチ力も貯められない。
『 力 』 が付くものは殆んど貯められない、魔力は別らしいが。
その原理を俺は知らん、魔法使いじゃないからな。
『 後方より高熱源接近 』
『 チャフ 』
『 チャフ散布 』
30mm砲の代わりに取り付けた装備の一つ、魔石パウダーの散布機と発射機。
チャフの代わりにも使える。
発動した魔法から魔素を奪い取れば、単なる不自然な自然現象だ。
高圧な大気、高温な熱源、空中に在る水や土の塊。
自然はそれらを自然な状態に戻そうとする、高圧は拡散し、高温は冷却される。
集められた水や土は拡散して、空中に在るものは地に落ちる。
『 熱源は拡散。 強化服表面温度300℃まで上昇。 現在下降中 』
結果はモニタに表示される、自然は俺の味方だ。
時間は俺の敵だけどな、タイムリミットがあるし。
強化服に異常なし、そのまま進む。
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行動を初めて60時間経過した、そろそろ休むべきだろう。
魔石パウダーを広域に散布、ダンジョンの隙間を見つけて潜り込む。
岩で塞げば即席のシェルターだ。
岩を退かされないように強化服で引っ張って固定、有線式モニタを確認。
魔物が近づいて来ないのを確認して、急いで強化服を出る。
乗降中は外骨格の強度もパワーも落ちるから、手早くしないと。
強化服内部の加熱蒸気式清浄機能を作動、乾燥まで入れて10分。
暖めておいた再生水で身体を拭いて、お着替え。
戦闘食をワンドリップのコーヒーで流し込む。
コーヒーの砂糖が多かった、失敗だ。
携帯用の容器にもコーヒーを入れておく。
軽く柔軟運動をしたところで、強化服の洗浄が完了した。
内部に戻って仮眠だ、入眠剤を使うけど寝ておかないとな。
目が覚めたら、って言うより薬の自動投入で目が開いたら朝食。
ひょっとしたら夕食か? 何とか無事に過ごせた。
強化服から出て柔軟体操、変な姿勢で寝たから筋が痛い。
顔を洗って歯を磨き、出すもの出したら出発だ。
モロモロの、必要の無い物は捨てていく。
『 中度の疲労を確認。 休憩を推奨 』
モニタに表示されたけど無視。
それでも何とか動けるんだから、若いって素晴らしい。
あと50時間在るけど、余裕をみて40時間以内にはダンジョンコアに到着したい。
ラナと通話したのは77階層だ。
『 もうすぐ王都に到着します 』 って言ってた。
予定より2~3日速いペースだ。
俺は中継器を持ってきていない、強化服を少しでも軽くしたかったからな。
中継器が無いからもう誰とも通話は出来ない。
岩の外に出しておいた有線式モニタを確認、何か居るな。
『 記録。 出発からおよそ70時間。 コアに近づくにつれ、魔素濃度の上昇を確認。 最下層は、飽和魔素濃度に近くなるだろうと推測 』
飽和魔素濃度を超えると、いつ魔物が発生してもおかしくない状態になる。
ヒト種にとってはありがたくない状態だ。
『 ここまでの魔物は、基本的に呼吸らしきものをしている。 スライム種を除いた全ての魔物だ。 魔物も炭素系生命体で在る可能性がある 』
あくまでも可能性だ。
『 酸素を必要としているのなら、何らかの方法で窒息させれば倒せる可能性がある。 ・・・・・・直接、ミトコンドリアを破壊するのもありだな 』
可能ならば、だが。
『 魔石パウダーを体内取り込んだ魔物で、自重で圧壊したケースが在った。 呼吸は別として、外気を取り込んでいる可能性は高い。 毒性物質を試すのも面白いだろう 』
モニタを見ながら記録していく。
最後に魔物が通り過ぎてから2分が経過した、周辺に魔物の姿はなくなった。
岩をズラして隙間から出る。
あと40時間だ。
誤字脱字の報告、読後の感想などお待ちしています。