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始まりの始まり

舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。

色々あったディスタンドへの道中でラナに再会した。 白川さんの予言では、俺とラナが世界をどうにかしなくちゃならないらしい。 ダンジョン破壊計画は最終段階に入った。


|||||


新しい朝が来た。


「 行ってきます 」

「 行って参ります。 お母様、マルセラ 」


「 行ってらっしゃいリオ、ラナ 」

「 お兄様、お姉さま行ってらっしゃいませ! 」


今日もマリアさんとマルセラに見送られて出勤、マルセラ姉さんは一緒に出勤だ。

給料を貰ってるんじゃ無いし登庁か? 向かってる先は庁舎じゃなくて神殿だから出殿か?

どっちにしても俺は給料を貰って無いんで、遊びに行くのと変わらないな、趣味か?


いつもと同じ時間、いつもと同じルートで歩く、隣にはラナ。

いつもと違うのは人の量だ。


神殿は王都の重要区画にあるが、誰でも訪れることが出来る。

『 誰にでも開かれた医療を! 』 が、白川さんの理念だからだ。

長い年月を経ても理念は受け継がれていて、今では信仰になってるけどな。


「 ラナ、ちょと待って 」


「 波乱様? 」


俺は通勤路となる神殿の敷地内、その露店に立ち寄る。


「 お姉さん。 それを1つおくれ 」 少しだけ考えてチョイス。


「 こっちの新作だね? はい、お待ち! 」


お金は払う、もちろん自分でだ。

俺は受け立ったものをジッと見る、魔星焼きのハズなんだが色々はみ出してる。

元祖魔星焼きは、チョット甘い生地にあんこが入ってるだけのハズだ。


「 波乱様? 」


「 何でもないよ。 ラナも少し食べないか? 」


受け取った魔星焼きを見つめ、口にしない俺を不思議に思ったらしい。

売り物だから食べられるハズだ。

特神殿の敷地内への出店には、厳しい審査が在ると訊いてる。

大丈夫、きっと多分大丈夫。


一口齧る、よく噛んで味を確認。

想像通りの味だ、もう一口食べてラナに渡す。


「 ありがとうございます 」


ラナが食べる時の表情をジッと見る、よし大丈夫だ。


「 お姉さん。 これ売れてるの? 」


魔星焼き? をラナに渡して、露店のお姉さんに訊いてみる。


「 まぁ、ボチボチかな 」


売り始めて2週間経ってるらしいが、爆売れはしていないんだと。

それと、買いに来るのは決まった人らしい、固定客がると。


お姉さんに礼を言ってから、施設へ向かう。

気が付くと、ラナはもう星焼きを持っていなかった。

ラナに渡した魔星焼きは、ラナと5氏族で分けたんだと。


「 ラナ。 あれ美味しかった? 」


「 ・・・・・・面白い味だと感じました 」


ラナは歩きながら、慎重に言葉を選んで返事してる。


「 安心したよ 」


「 ? 」


「 ラナが俺と同じ味覚だって判って、安心した 」


いつも俺と同じものを一緒に食べてたからな。

我慢して、ムリヤリ食べてるんじゃなくて良かった。


「 安心してくれ、二度と買わない 」


「「 え?! 」」

「 ん? 」


振り返って誰の声かを確認する、メイドさんズの1人と神殿長だった。

出店許可は神殿長が出すらしい、好みなんだろうなこの味が。


「 好きな人は買えば良いんじゃないか 」 俺は買わないけど。


新作の魔星焼は、生地の甘みが増していた。

そこに、細長い麺を肉と野菜と一緒に炒めた物が入ってた。

入っているのは、濃い味付けの醤油味の焼きそばだな。


焼き上がった生地に切れ目を入れて、そこに挟むのならまだ(・・)判る。

味は別にしてだ。

焼き上がる前に入れてるから、もう色々はみ出してる。

俺には無理だ。


「 最近は新作が増えましたので 」 と神殿長。


神殿内の出店で使う魔道具は、全部俺が作って神殿に寄進した。

何に使うかは神殿に任せてる。


「 新作は大事にしないとな 」


神殿に任せてるから、何を売ってても俺のせいじゃない。

神殿の階段を上りきって、ふと振り返る。

露店が並ぶ敷地内を見下ろす。

活気が出て来たのは良いけれど、変な方向に向かわないで欲しい。



エレベータに乗ったら、ラナが訊いてきた。


「 波乱様。 種の限界の可能性は、無くなったのでは? 」


「 そうかもな 」


原因不明の奇病、原因不明の人口減少、戦争、結果的に生存領域が減少。

技術の衰退と意味不明な芸術の台頭。

種の限界ってのが在るらしい、現状を見てるとてっきりそうだと思ったんだが。

魔素の減少による、活力低下だった可能性が出てきた。

もう少し、経過観察が必要だ。



「 こちらが今日の報告書です 」


俺の元に、女王から毎朝届けられる報告書には、昨日までの状況が記載されてる。

国内や他国の現状が主な報告内容だ。


ここにいても、施設の設備で情報は集められる。

魔物の発生場所や数、種類、被害、農作物の育成状態までリアルタイムで把握可能だ。


「 魔物の被害は続いています 」


現在、エルフ族、人族、獣人族なんかの、ヒト種の活動領域は縮小している。

以前から縮小傾向にはあったが、今は意図的に縮小している、戦略的撤退だ。


魔素濃度上昇に伴う、魔物の活性化は事前に連絡してある。

ただ、どこで何時発生するかは直前じゃ無いと判らない。

城壁を作って立てこもっても、城壁の中で魔物が発生する可能性も在る。


そうすると、兵力を分散して配置しなくちゃいけなくなって、数が必要になる。

戦力をまとめて配置して、機動防御って手もあるんだが。

手っ取り早く活動領域を縮小して対応してる。


「 農作物の育成状態は、引き続き好調のようです。 最大で7倍になったとの報告も在ります 」


俺は、指揮官席でコーヒーを飲みながら報告を受けてる。

詳細な内容は報告書を読めば判るんだが、何事も練習と経験が必要だ。


「 あぁ、卵ね 」


「 はい 」


今までは週に1個しか産まなかったんだが、最近じゃ毎日産んでるんだと。

普通に戻っただけなんだがな。

他にも、主要な穀物や野菜、果物、全ての農産物が2倍、3倍は当たり前の大豊作だそうで。


『 魔素の影響下で生まれてきた物は、魔素濃度の上昇に伴い活性化する 』 のも、事前に推測されてた。

魔物の被害が出ても、活動領域が縮小して人口が集中しても、生活の余裕が大幅に増大したのはそのお陰だ。

計画開始当初は、資源の供給元のダンジョンを潰すことに反対意見も合ったんだが。

今では全く無くなった。


「 報告ありがとう 」


一礼して自分の席に戻るメイドさんズの1人。

さっき食べた、新作の魔星焼を美味しいと言ったのが彼女だ。

ちょっと胸焼けがする、胃薬を飲んでおこう。


|||||


昼食後、神殿の裏に移動して、第2小隊の出陣式に出席する。


「 波乱様! 行って参ります! 」


「 頼む 」


小隊指揮官と握手する。

彼女たちは3週間かけて移動して、10日±2日で260m級ダンジョンを破壊する計画になってる。

早過ぎても遅すぎても計算が狂う、時間厳守だ。


4つの残ったダンジョン、その内2つの破壊はディスタンドの担当だ。

より正確に言うなら、5氏族から選抜された10人が担当する。


俺は、5氏族にプレゼントした魔道具の馬と馬車を徴用した。

一度プレゼントした物を返せって言うのは、ちょっと胃にきたけど。

とにかく、魔星の欠片を使用してる魔素炉が必要だったから止むを得ない。


『 装甲服を投入する 』


俺はプレゼントを取り上げる理由として、そう宣言した。

ダンジョンに潜った時に、俺が使用した物の改良版だ。

魔素炉を動力源にして、モーション駆動で、装甲とパワーの強化を目的としてる。


ダンジョンを破壊に向かったSランクの冒険者グループは、全てが早々と崩壊。

Aランクを束にしても、200m級ダンジョンでギリギリだった。

S・Aランクによる超300m級ダンジョンの破壊は、絶望的に不可能と判断された。



「 最近は、魔法を使う魔物が出現している。 その為の改良はしておいた 」


指揮官と握手しながら向ける俺の視線の先には、輸送車に搭載された強化服が4着。

見る角度によっては青色にも青銀色にも見え、全体的なフォルムは女性的だ。

中身と言うか、装着者は全員女性だしな。


緩やかな曲線を主体として構成され、特徴的なのはエルフ耳になってること。

機能上は全く必要ない、出撃する彼女たちの強い希望でそうなっただけだ。

目と鼻と口も必要無いんだが、なにも無いと不気味になっちゃうんでそれなりに。


胸部装甲は左右に分かれておらず1つにまとまっている、トラップショット対策だ。

2つに分けた装甲に、正面から攻撃を受けたとする。

どちらかの山に当たって弾かれると、もう一つの山に向かうことになる、最悪は心臓の真上に当たる。

装甲の設計としては在りえない、少なくとも俺はやらない。


「 素晴らしい色です! 」


「 使用する魔石を変更してみた、希望通りの色になったか? 」


「 はい! 」


魔法を使ってくる魔物の対策として、魔石の微粒子を利用した耐魔法塗装を採用した。

大量に保管されてたゴブリンの魔石を微粒子化し、表面に塗装すると魔素を遮断出来る。

魔素を貯蓄しておける魔石の性質を逆に利用している。


耐魔法塗装で魔素を遮断してしまえば、攻撃魔法は単なる自然現象にすぎない。

ファイヤアローは火に、ウィンドアローは空気に、アースアローは土に戻る。

それらは通常装甲で防御可能だ。


魔法に射程が存在するのは、大気中に存在する魔素が干渉するためだ。

干渉によって魔素がはがれていき、最後は自然現象に戻る。

真空中なら弾丸の射程は無限だが、100気圧なら極端に射程が落ちるのと同じだな。


「 美しい色です! 見る角度で色が変化するのも、素晴らしい! 」


指揮官は、俺の手を両手で包んでブンブンしてる。

他の隊員とも握手したいんで、そろそろ手を離してほしいんだが。


耐魔法装甲の問題は色だった。

魔素を保有してる魔石は黒い、そのまま塗装に用いると黒色になっちまう。

とにかく黒は目立つ、戦場でも街中でもだ。


残念ながら、俺は黒がカッコいい色とは思えない、中二病ではないから仕方が無いだろう。

中二病はやっかいだ、自覚症状が無いケースは特に危険だ。

自覚症状が現れた時には手遅れになっているから。


慢性中二病は・・・・・・、もう手の施しようがない。



「 今回は、空になった魔石を使用した。 空の魔石は透明に近いからな、要望の色に出来たよ 」 手を離せ。


「 武装も追加しておいた 」


左肩には可倒式の30mm50口径砲、発射薬には魔薬に添加物を追加した、危険が危ない奴を使用してる。

貫通力には自信がある。


左の腰にはライトアロー(改良版)の5連発式、貫通力を落として射撃回数を増やしてる。

射撃後は魔素炉から再充填可能だ。

ダンジョンの下層に行くほど魔素は濃くなるから、それだけ充填速度は速くなる。

右腰にはライトソードと不思議金属製の剣、盾は無い。


攻撃してくる方向に、攻撃に耐えうる大きくて重い盾を、適切な角度で構える時間があるなら、その時間で避ければいい。

反撃でもいいだろう。


それに、盾を構えながらの移動は時間の無駄だ。

大きな傘をしていても、時間が長くなればいつかはビショ濡れになる。

攻撃を受け続ければ、そのうち疲弊して致命的な被弾をする。


耐えるより避ける、撃たれるより先に撃つ。

ファーストルックファーストキルが強化服の基本思想、そのための各種センサーと装備を備えた。

つもりだ。



俺は徴用した10台の魔素炉で、8着の強化服と2台の輸送車を作った。

4着の強化服と輸送車1台で1小隊として、2小隊を編成。

ローティションを組んでダンジョンを、250m級~超300m級を中心に破壊して貰ってる。


「 すでに君たちは超300m級ダンジョンを8か所破壊している、今回は260mだ。 大丈夫だとは思うが、魔素濃度の上昇に伴い魔物が強化されてる可能性が高い 」


順番に小隊全員の目を見る。


「 慢心も過信もするな。 計画通りに、必ずダンジョンを破壊してくれ 」


ダンジョン破壊の目的のためなら、俺は損害も許容する。

どう責任をとるかは、後で考えよう。

ここに居るのは、覚悟が出来てる者達だと訊いてるしな。


「「「 了解しました、波乱様 」」」


「 そろそろ、手を離しなさい 」


ラナが指揮官の手を払いのけた。

ブンブンの最中だったんで、反動でヨロけたら別の隊員が抱きとめてくれた。


「 行ってきます! 」

「 行ってらっしゃい 」


抱きしめられての挨拶はしまらないな。

握手して送り出すつもりだったんだが、全員とハグになっちまった。

それが彼女たちへの望みなら、俺は構わない。

願わくば計画を遂行して、全員無事で帰ってきますように。



誤字脱字の報告、読後の感想などお待ちしています。

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