世界平和
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
色々あったディスタンドへの道中でラナに再会した。 白川さんの予言では、俺とラナが世界をどうにかしなくちゃならないらしい。 ダンジョン破壊計画および魔素の地脈化計画が進行中。
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計画が始動して6ヶ月が経過した、現在まで計画は順調に進捗中。
無魔素エリアの発生は極端に減少した。
代わりに増えたのが、魔物との戦闘によるケガと病気だ。
同じ惑星で同じ条件で発生したんだから、こちらが住み易くなればあっちも住み易いだろう。
そんなんでゴブリンなんかの魔物が増えて、戦闘になるケースが増えている。
「 君たちが理解すべきことは1つだ。 それは君たちの目の前にある 」
ディスタンドにある白川さんが祭られている神殿、その治療所の一室。
エルフ族、人族、獣人族が各5人ずつ、3チームで15人。
選抜され集まっているのは、医療に携わる覚悟と知識がある者。
「 事前に説明はしたが、ご遺体を解剖して死因を特定してもらう 」
俺は全員を前に強い口調で命令する。
「「「 ・・・・・・ 」」」
気持ちの良いものではないが必要な事だ。
俺は血を見るのも苦手だし、立ち会う必要は無いって言われてる。
本音じゃ参加したくはない。
でも発案者だからな、それなりに責任はあると思うんだよ。
こちらでは、遺体を解剖して死因を特定する、何てことは今までやっていなかったらしい。
治療できるのは外傷だけだから、やる必要も無かったんだが。
「 では、始めよう 」
御遺体の魂の安寧と休息を祈る、やり方は各種族バラバラだが問題では無いだろう。
エルフ族はエルフ族が、人族は人族が、もちろん獣人は獣人が担当する。
最初は。
御遺体は魔素欠乏症でお亡くなりになった人達で、ご遺族が居る場合は同意を得て検体頂いている。
彼ら彼女らはに死因を知らせていない。
だが、ここでの主たる目的は医者の養成ではない。
技術の向上はもちろん期待しているが、それ以上の目的がある。
「 時間だ、右隣に移動しろ。 全てを記録するのを忘れるな 」
全員が、全種族の検死を実施する。
他種族の検死に忌避感を訴えるものがいる、気持ちはわかる。
御遺体をお見送りした後は、部屋を移って報告会。
タップリシャワーを浴びてから、消毒も忘れずに。
俺は偉そうな椅子に座って報告を受ける、誰が用意したのか俺は知らん
「 では、報告を 」
各チームは、指導官の助言を受けて簡易的な報告をする。
当たり前だが病変は報告されない、各チームの報告では死因は不明となる。
「 なるほど。 他に何か気が付いた事がある者はいるか? 」
「「「 ・・・・・・ 」」」
誰も何も気が付かないなら、全員を不合格にするつもりなんだがな。
詳細は最終報告書で見るか。
「 ・・・・・・よろしいでしょうか? 」
エルフ族の女性が手を挙げた。
「 なにかな? 」
「 3つの種族の御遺体なんですが、有意差が見受けられませんでした 」
「 死因に差が無いと言う事か? 」
「 そうではなく、いえそうなのですが。 ・・・・・・各器官に大きな差が見られませんでした。 体格等の個体差は在りましたが 」
良かった、正解だ。
だが、ここで甘やかしてはいけない。
「 君は各種族に、医学的な差が見られないと言いたいのか? 」
「 はい 」
「 なるほどな。 他には? 」
俺は参加者達を見渡す、威圧的に、威厳を持って。
10歳だからな、限界が在るのは理解してる。
「 よろしい。 ではその点も含めて、各自報告書を書き上げるように 」
俺は廊下に出て施設の司令所に向かう。
「 お疲れ様でした、波乱様 」
「 ラナもお疲れ様。 このまま指令所に行こうか、そろそろ攻撃時間のハズだからな 」
部屋の中からは、『 提出期限は明日だ、期限におくれないように 』 とかなんとか聞こえてくる。
B及びC大陸のダンジョンは優先して潰した、もうダンジョンは残っていない。
たまに発生しそうになってるけど、完全体になる前に潰してる。
残っているのは、この大陸にある5カ所のダンジョンだけだ。
「 ダンジョンから魔素の放出を確認しました 」
「 最深部からも魔素の放出を確認しました。 放出パターンは、崩壊時のそれに酷似しています 」
「 メインモニタへ 」
町や村から離れてれば、ここからの攻撃でダンジョンは潰せる。
ダンジョンだったものから、徐々に放出されていく魔素。
もう見慣れたパターンだな、異常は無い。
「 ダンジョンの崩壊を確認した。 攻撃態勢を解除、警戒態勢へ移行 」
司令所の空気が緩んだ。
「 以降の監視をAIに移管。 休憩だな 」
「「「 はい、波乱様 」」」
これで、破壊すべきダンジョンは残り4つだ。
残りは、直接ぶっ叩くしかない。
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翌日の王城の会議室、俺とラナ、3人の指導官がミーティング中。
「 今回の受講者は、全員規定をクリアしていると考えます 」
3人の指導官の統一見解だそうだ、俺も同意見だ。
「 参加者の中には、魔物にポーションや治療の魔道具を使った者もいました。 その際の、効果の違いに疑問を持ったようで・・・ 」
魔物は歯を磨かない、手も洗わない。
ゴブリンやオークも、武器を煮沸したり、アルコール消毒したりはしない。
彼らの爪や牙、武器には、血や肉片が常温でそのまま付いてる状態だ。
つまり、醗酵して、腐って、天然の生物兵器になってる。
それらで出来た傷は、ポーションでも治癒魔法でも治せる。
んでも、生物兵器に対してはポーションも治癒の魔法も無力だ。
毒を消すことは出来るが、生物兵器には無力だ。
受講者には針と糸、それと投薬での治療を教え込んでる。
ここの15人はそういう治療を体験して、成功させた者達だ。
施設にあるポッドを使えば、もっと高度な治療も可能だ。
でも、ポッドを使わないと出来ない治療じゃ、覚えても意味はない。
会議室に呼び込まれた受講者達、種族毎にまとまって座るのは何時もの事だ。
部屋に入って、勇者ラナを見て固まるのも何時もの事だ。
「 おめでとう。 君たちは最終ステージに進むことが決まった 」
隣で座ってるラナは、内容が医療関係なので静かだ。
「 これから、君たちにはある映像を見てもらう。 その後、自身の進む道を決めることになる 」
パネルを操作して室内を室内を暗くする。
会議室、その円卓の中央のモニタに大きな建造物が映し出される。
構造物の背景には真っ青な空、大気が汚れていない証拠だ。
「 これは過去の記録映像だ 」
モニタには笑う親子連れやカップル、子供達も映し出されてる。
よく見ると、人々と構造物の寸法の対比がおかしな事に気付くだろう。
構造物は高さが数キロ、縦も横も数十キロになる。
「 これは、失われたエルフの超古代文明!? 」
防衛施設を見捨ててディスタンドを建国した当時のエルフは、それなりの技術を使ってた。
5000年経過した現在では、”超古代文明” 扱いされている。
魔法が使えることに浮かれ、技術を放置した奴らの使ってた技術なんて、大したものでは無いんだが。
「 不正解だ。 この映像はそれより更に数千年前のものだ 」
受講者は例外なく驚く、その他の参加者はもう慣れてる。
俺とラナは知ってるから、驚く事じゃ無い。
「 君たちの言う、”超古代文明” の更に昔、惑星ソルには70億人の人類が住んでいた。 これは、その当時の映像だ 」
「「「 70億? 」」」
移動経路としての空中は、不安定で不経済だ。
大気の密度は低くてムラが多く流れも在る、静止状態を保持するだけでエネルギーが必要となる。
んでも、密度が低い場所を移動するから、移動速度を高く出来るという利点も在る。
地表を移動する場合、静止状態ならエネルギーは必要無い。
エアコンなんかの装備品は、どんな移動手段でも使うから考慮しない。
ソルでは、移動手段としての飛行機は使用していなかったらしい。
移動チューブが、建造物のあちらこちらから出ているのが見える。
太いチューブは、長距離移動用だろう。
「「「 ・・・・・・ 」」」
殆どの受講者達は、この映像で思考が停止する。
”大昔の方が技術が進んでいた” なんてことは信じられないらしい。
ロマンが足りないな。
「 ある日、後に魔星と呼ばれることになる彗星が現れた。 ソルは、魔星から放出される魔素の影響を受けることになる・・・ 」
モニタの映像は、次々と変わっていく。
過去に存在した人類の文明の証、そして魔素の及ぼす影響だ。
「 危機感を持った人類は、魔星を迎撃する計画を実行した。 計画は失敗、そして、魔星の欠片が地表に落下した 」
最初の映像に戻る。
構造物を襲う、熱波、衝撃波、そして暴風や震動。
モニタは、しばしノイズを映した後にブラックアウトする。
「 魔星の欠片の衝突により、ソルの人口は激減した。 また、魔素は人類にとって有毒だった・・・ 」
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「 それでは、私達は人類の子孫と言うことなのですか? 」
静かな会議室に、エルフの女性の声が響く。
「 正解だ 」
モニタを再点灯。
「 進化論は理解しているな? これは人類の進化の最新地点、その推測になる 」
人類を頂点としたツリー、枝分かれした先に人族、エルフ族、獣人族、それとドワーフ族が表示される。
「 ドワーフ? ドワーフ族は昔から居たのですか? エルフより前に? それに巨人族? 」
「 ダークエルフも居たのか? 」
「 不正解だ。 ドワーフは居ない、ダークエルフも巨人も居ない。 全て人類だ 」
個体差は今より大きかったみたいだな、身長も肌の色も。
「 さて。 今まで君たちが使用してきた薬剤は、全て人類用に設計された物だ。 だから、人類には有効だ、人類にはね 」
薬剤の総使用数は、まだのべ10数万回だから、安全性が完全に保証されてる訳じゃ無い。
個体差はあるだろうし、特異点もあるだろうし、そのへんは説明しておく。
「 では、魔物にとっては薬剤は毒になると? 」
「 半分不正解だ。 薬剤が効くのは人類の子孫、って事だ 」
薬剤が魔物には毒になる可能性は在る、在るんだが試すのはもったいないだろう。
ゴブリンやオーク退治は、殴った方が早い。
「 今回も騒ぎ出す奴は居なかったな 」
「 もう6回目ですからね。 知識も情報も、町に流れていますから 」
晴れて医師見習いになった者達が居なくなった会議室で、指導員の1人が話し出す。
「 今では手洗いとうがいは、市民の習慣になりつつあります。 それと、地動説も 」
みんなが信じていた天動説、そこに俺が地動説を提示した。
実際の映像付きで。
信じない奴がには、衛星軌道からの最大ズーム映像を見せた。
ダーッとズームすると、手を振ったり踊ったりしている自分が写るんだからな。
それでも信じなかった奴は、今までいない。
それでも信じられない奴はそこまでだ、面倒だから放置して俺は相手をしない。
俺は何もしない、何もしないけど施設を退去して国に帰ってもらう。
「 さすがに自動説はもういないか 」
「 居ても選別から除外しています、ご安心を 」
自動説、『 世界は自分を中心に回っている! 』 と信じてる奴が唱える理論だ。
”何をしても許される”なんて事は、考えていない奴らだ。
自分が世界の中心だから、許してもらう必要すらないんだと。
自分は大声で騒ぐけど、周りが五月蠅かったら文句を言う。
自分はやっても良いんだが、他人がやるのは許せないんだと。
アホな貴族のお坊ちゃま、お嬢ちゃま達に多い傾向がある。
「 んじゃ、今日中に希望を確認しておいてくれるか 」
「「「 判りました 」」」
「 これで、第6回の医師研修会を終了する。 お疲れ様 」
「「「 ・・・・・・ 」」」
受講生だった15人はこれから1年間、自分とは異なる種族の国の治療院で、医師見習いとして治療に携わる。
1年間無事に治療活動に従事できれば、『 白川神殿 公認医師 』 となる。
公認医師には神殿から、治療器具と薬剤の支給が保証される。
現状では最新の機器と薬剤だ、殆どのケガと病気を治せる。
治せないような重病でも、施設のポッドを使えば治せるしな。
そんな医師には、盗賊でも悪徳貴族でも手を出さなくなる。
後ろ盾は神殿と勇者ラナだし。
他種族の国で従事したくない者はそれまで、あとは知らん。
ディスタンドで2か所、スリスターでは4か所で同じ研修会を実施してる。
毎月の卒業生は最大で1ヵ所15人、既に300人を超える卒業生を送り出してる。
魔素の濃度が徐々に上がって来てるから、ケガ人も病人も増える一方だ。
促成栽培過ぎるのは理解してるんだが、今は数を増やす事に主眼を置いてる。
それに、主たる目的は種族間の偏見をなくすことだ。
自分や、自分の大切な人の命を救ってくれた他種族の医師。
種族間の偏見をなくすのには、有効だと思ってる。
人口が減り過ぎてるのに、つまらない偏見で人類の子孫同士で戦争なんかするなって事だ。
重要だよな、世界平和。
ところで、ドワーフはどこいった?
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