事前準備と情報収集の重要性
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
色々あったディスタンドへの道中でラナに再会した。 白川さんの予言では、俺とラナが世界をどうにかしなくちゃならないらしい。 5大国会議が始まった。
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王城の待機室でコーヒーブレイク。
王都で始まっているお祭り騒ぎも、ココまで音は届かない。
5ヶ国会議に出席するため、各国の首脳陣が集まり始めたのが10日ほど前。
その国独自の産品を持参して、大規模な商業市が開かれるのが慣例なんだと。
今回、他国は被害が大きくて、品数も数量もかなり減ってるらしい。
「 波乱様、お時間です 」
「 了解した 」
メイドさんズ筆頭のマライア姉さんが呼びに来た。
ノックの音は聞こえてたからな、行くとしますか。
窓から見える空は快晴だ、もうじき雨が降りそうだが。
会議の出席者は各国3名ずつ、それとラナ、白川さんの子孫、河原君の子孫で合計18名。
俺の席は無い。
俺は各国の首脳陣に説明する専門家、あくまでもゲストだ。
メイドさんズがお辞儀してる前を通り過ぎ、会議室に入る。
いちおう国際会議だから、彼女たちも廊下で待機。
会議室の全ての窓には、カーテンと窓硝子を守る防護壁が掛けられてるんで日の光が入らない。
少々暗い、ろうそくとオイルランプで灯りを確保したつもりなんだが足りなかったな。
魔道具の明るさに慣れてるんで、暗く感じる。
「 皆様に紹介致します。 彼がマリオン=波乱、本計画の立案者です 」
女王が紹介してくれたんで一礼、女王とラナの後ろに移動して説明を始める。
全ダンジョンの破壊計画の説明だ。
「 それでは、現在各国で発生している奇病の原因と対策、今後の予定について御説明します 」
腕を大きく振ってソルの3D映像を、円卓中央の空間に表示する。
室内がちょっと明るくなったな、出席者が驚いてるけど俺は知らん。
ラナと白川さんの子孫と女王は落ち着いてるけど。
ちなみに、遠隔操作の技術で操作してるんで、腕は振る必要は全然まったく無い。
「 以上です。 何かご質問は? 」
円卓の回りをユックリ歩きながら説明した。
説明が終わったのは、ちょうどラナと女王の席の後ろだ。
「 お前の案でよぅ、本当に助かるのかよ? 」
獣人が訊いてきた、多分クマだろう。
出席してる国は、エルフ族が1ヶ国、人族が2ヶ国、獣人族が2ヶ国。
他にも国は在るらしいが、5大国だとこうなるんだと。
「 どうですかね。 確実に助かる、とは言えませんね 」
だってな、色々在るからな色々と。
「 他に方法が在るんじゃねえのかい? 」
「 代案が在るようでしたら、どうぞ 」
クマさんの隣に座ってたエルフ族が立ち上がった。
ラナが立ち上がって、代わりに俺を座らせた。
警戒態勢だ。
「 それでは私が説明を 」
俺はコイツの仕草も口調も気にいらない、声を聞くだけでイライラする。
なぜだろう、イケメンだからか?
「 では、波乱家に命じて魔王を呼び出せと。 それで、魔王を屈服させて魔素を出させると 」
「 頭の悪い子供でも理解できましたか? 」
長々と説明? 自慢? していたが、要点を抑えると1行で済むな。
波乱家には、代々魔王を召喚する秘術が伝わっている。
魔王を呼び出して、これを打ち負かして配下に従える。
後は魔素を出させ放題になるんで、現状を回復して元通りの生活をおくれる。
・・・・・・らしい。
「 ラナ。 魔王を呼び出す方法なんて在るのか? 」 本人が聞くってのもあれなんだが。
「 波乱様。 あったら、もっと早く呼び出してましたよ? 」
ニッコリ笑うラナ、そりゃそうか。
「 それは、応じかねるお話しですね 」
女王はきっぱりと断ったな。
「 出来る出来ないでは無い! やって頂く! 」
「「 その通りだ! 」」
ディスタンドとスリスターの代表を除く、全員が立ち上がった。
白川さんと河原君の子孫も一緒に立ち上がってる。
「 我が国がどれだけの被害を受けたと思っている! 不作になるわ、畜産も上手くいかないわ、さんざんなんだぞ! 」
「 突然死も、ディスタンドとスリスターの陰謀だ! 全ての損害を補償してもらおうか! 」
「 我が国も多くの国民が・・・ 」
なんか言いたい放題言ってる。
「 みなさん、先ずは落ち着きましょう 」
エルフ族の気に入らないイケメンが歩き始めた、何すんだろう?
「 皆さん、暗黒邪神教って訊いたことが在りますかね。 言い伝えでは、随分酷いことをやっていたとされていますが。 あれは全て、波乱家とディスタンドが流した嘘です 」
イケメンが円卓から離れた所で立ち止まり、こちらに振り返る。
両手を広げて・・・・・・、まだ演説するのか。
「 我が教団は世界の平和を・・・ 」
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「 俺はコイツを支持するぜ 」
「 我が国も同じです。 支持します 」
「 同じく! それと両国に対して賠償を求めます! 」
獣人族の2ヶ国と人族の1ヶ国、3ヶ国でディスタンドとスリスターを非難してる。
賠償と謝罪も求めてる。
ドヤ顔で糾弾する3ヶ国と、平然と座ってる2ヶ国、実に対照的だ。
3ヶ国は暗黒邪神教を信じるんだと。
んで、暗黒邪神教は俺やディスタンドが勝手に付けた名前で、本当は清く正しい宗教らしい。
邪悪なのは波乱家とそれに連なる者達で、邪悪から見れば光の使徒が悪になるとか何とか。
興味ない。
「 茶番だな 」
「 生意気な子供ですね! 生まれ代わりと言っているようですが、そんなものは 」
イケメンエルフは壁にぶつかった。
正確にはラナが突き飛ばして壁まで吹っ飛んだ。
喋ってる途中で吹き飛んだんで、何が言いたかったのかは判らん。
そろそろ終わりにしよう、おやつの時間はもう直ぐだ。
『 これはこれは、女王様。 無事に御神体を手に入れられた様で、何よりです 』
『 答えなさい、これはどういうつもりですか! 』
『 御神体を渡して頂きましょう。 それは我が暗黒邪神教 教徒の物・・・ 』
「 何ですか、これは! 」
さっきまでソルが映し出されていたモニタには、大昔の王宮の謁見の間が映ってる。
宰相が、御神体を無理やり奪おうとしてるシーンだ。
御神体ってのは防護服を着てる俺なんだが。
「 昔の映像だな。 しっかり、『 暗黒邪神教 』って言ってるだろ 」
「 あれは、ご神体! 」
「「「 御神体? 」」」
イケメンエルフだけ皆とは違うところに食いついてる、あれで病院送りにならないなんて結構頑丈だな。
王宮に教徒が乱入してきたところまで、映像を進める。
王宮の門を破り押し入ってくる教徒たち、先頭に居る人物が拡大表示される。
「 何だあれは! 」
「 腕が四本だと!? 」
「 名前は久保山くん、召喚された1人だ。 暗黒邪神教に利用されたみたいだな 」
イケメンエルフに皆の視線が集まる。
召喚者を化け物にした、様に見えるってのがポイントだ。
後の調査では、過度に魔素を浴び発生したミューティションの可能性が高いらしい。
映像の中の光の雨が止む、決着だ。
『 ちょっとラナ? 何してるのかな? 』
『 波乱様の防護服を閉めてます 』
『 まてまて、俺は脱ごうとしてるんだぞ? 』
『 少しでも症状を遅らせるには、防護服を着て魔素を防ぐのが一番です。 防護服の酸素はまだあります 』
『 それは判ってるけどね。 慣れないせいで閉塞感がだな・・・ 』
「 あれが、幼い頃の勇者ラナ様? 」
「 黒い服を着ているのは、波乱様? 」
全員が映像に釘づけだ、効果は絶大だ。
そう言えば、女王にも見せたことがなかったか。
「 嘘だ! あれは! あれは御神体のはずだ! 」
イケメンエルフが叫ぶ。
口の中でも切ったのか、口の端っこから血が垂れてる。
出来れば内蔵が痛んでると嬉しい、イケメンだからってのは関係無い。
でも、爆ぜなかったのは残念だな。
「 見て通りあれは服だ、御神体じゃ無い 」
映像では脱ごうとしてる俺と、脱がせまいとするラナがワチャワチャしてる。
してるんだが、ふらついた俺をラナが支えた事で決着だ。
御神体って言われてる物は、何かを着てるの俺だってのは見れば判るだろう。
顔が映ってるしな。
『 悪いけど後始末をお願いできるか? 俺は施設に戻る 』
『 後はお任せ下さい。 波乱様は御静養下さいますよう 』
騎士団長なんかが頭を下げる中、俺がラナに運ばれてく。
昔話はここまでだ。
メガネ型モニタの情報では、王都を目指していた3ヶ国の連合軍の処理も完了した。
回路をオープンしてから、もう使えなくなるモニタを消す。
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「 お前は随分落ち着いてるじゃないか。 自分が置かれてる状況が、判っていないんじゃねぇか? 」
「 状況は理解しているつもりだが? 」
クマの獣人は落ち着いてる、俺の計画の反対派では一番落ち着いてるんじゃなかろうか。
効果が出るにはもう少し時間が必要だ。
「 何かを隠してるみてえだが。 まぁ、良い。 魔素が足りないってのは俺でも判る、ポーションは効き難くなるし、魔法は弱くなってるしな 」
「 そうだな 」
「 魔法がまともに使えないって事はだ、どういう事か判るだろ? 」
「 さて? 」
魔法が使えないエルフより、自分達の方が強い。
だから戦争でこの国を奪いエルフ族を奴隷にする、予定だそうだ。
クマの獣人が両手で円卓を叩く、痛そうだな。
「 ・・・・・・。 俺たちの時代か来るって事だ! 」
「 そうなのか? それは知らなかった 」 両手が痛そうで笑える。
「 手は大丈夫か? 随分痛そうだが 」
「 ・・・・・・お前、何しやがった 」
何人かはおかしな感じに気が付いてるようだが。
「 この部屋は俺が改造した、女王様に頼まれてね。 今この部屋は、魔素の濃度が薄くなってる 」
「 それが獣人の俺に、何の関係が在るってんだ! 」
「 なぜ獣人族は力が強いのか不思議でね、調べてみたんだ 」
獣人族は、人族の何倍もの力を出せるんだと。
筋肉は脂肪より重い。
筋肉自体の重さを支えなきゃいけないし、加重に耐える骨格も必要だ。
だから、筋肉だけが2倍や3倍在っても、2倍や3倍の力は出せない。
2倍の力が出せるってことは、2.5倍位の筋肉が必要だろう。
3倍の力を出すには4倍以上は必要だろう。
4倍の量の筋肉ってことは、腕の太さが1.2m位になる。
そんな上半身を支える下半身はどうなるのか?
生物としてアンバランスな寸法になるハズだと思うんだよな、少なくとも人型では無理だろう。
だから、不思議に思って調べてみた。
「 調べたんだけどな、獣人族の骨は人族とそんなに変わらなかったんだ、密度も太さもね。 だけど力は強い、不思議だろ? 」
静かに、ユックリ話し掛ける。
俺はマッドなサイエンティストじゃ無いから、スキャンしただけで解剖なんかはしていない。
相手がどう受け取るか? 俺は知らん。
「 それで、調査結果なんだが。 獣人族は、魔素で身体を強化してるみたいなんだよ 」
「 ・・・・・・それがどうした 」
「 どうって、そうなる 」 クマさんを指差す。
「 魔素が薄くなると、獣人族は力を出せなくなる。 筋肉が多いせいで、重くて殆ど動けないと思う。 骨も脆くなるかもな 」
会議室を改装するとき、部屋中に魔石の破片を入れた塗料を塗りまくった。
床も天井も、もちろん壁も、カーテンも窓の御防護壁も全部だ。
魔石は魔素を貯めておける、必要な時は取り出せるけど。
つまり、魔素に対しては半導体だ。
魔素を保持してる魔石、魔素に対して絶縁状態の魔石を細かく砕いて塗りたくった。
厚みが5cm位は塗ったかな。
んで、さっき施設の魔素収集装置の配管を部屋に繋いだ。
配管をオープンにして直ぐだから、今も室内の魔素は徐々に減少してる。
もう会議室内では魔法も魔道具も使えない、使おうとしても魔素が拡散する。
「 ! 」
イケメンだったエルフが呪文を唱え始める。
それを見た人族の何人かが、魔道具を起動しようとしてる。
動かないけどな。
「 馬鹿な! 」
イケメンエルフが使おうとした魔法、その魔法陣は風でまき散らされる煙のように不安定だ。
「 馬鹿な! 馬鹿な! 」
更に魔力を込めてるらしい。
そんなことをすると、ほら倒れた。
「 ラナ、頼む 」
「 はい、波乱様 」
イケメンだったエルフに隷属の魔道具を嵌める、恐らくラナが何発か殴ってる。
俺には見えなかったけど。
廊下からは衛兵がなだれ込んできて、残りの者に隷属の魔道具を嵌める。
魔道具は、魔道具改造の技術で俺が無効化してある。
ディスタンドで作られた物も在ったけど、誰が横流ししたかは把握してる。
「 さて、会議を再開しましょうか 」
ニッコリ笑って話し掛ける。
これからが本当の会議だからな、その前に窓を開けて魔道具の灯りを点けよう。
閉鎖的な環境じゃ、良いアイディアは生まれないから。
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