勇者の力
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い範囲で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
・少年に召喚されて蘇るも、あれやこれやに巻き込まれる。 そんなこんなでラナと再会した。
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俺の答えを聞いたラナの剣先が揺れた、チョット揺れただけなんだがチリッとした。
喉になんか垂れてきた。
「 と、言うことなんだが? 」 そろそろ剣を下してほしい。
「 波乱様は、まだ質問に答えて下さっていません! 」
そう言われても俺だって正解は知らん。
それに 『 波乱様 』 って言ってるから、俺だって認めてくれてると思うんだが。
ラナだって、『 ラナ 』 って判るんだが俺の知ってるラナじゃない、大人になってるし、目が光ってるし。
転生したのか?
「 この身体は俺のじゃない。 だから、何もないところで時々躓くくらい、上手く動かない 」
「 ・・・・・・ 」
「 この頭も脳も俺のじゃない 」
コーヒーを持っていない方の手で頭を叩く。
「 俺が俺なのはこの中にある記憶だけだ、脳も借り物だから本当に記憶って言うデータだけだな 」
「 ・・・・・・ 」 じーっと見ているラナ。
「 データだけだったらゴーレムでもいいんだよな。 ゴーレムだったら、データの複製も簡単に出来そうだし 」
「 ・・・・・・ 」 じーーーっと見ているラナ。
「 でも、データ複製しちゃったらどれが本体になるのかね。 全部か? 」
並列化とかしないと人格が分かれたりしてな。
でも、倒されてもお代わりをいくらでも用意できるから、無敵だと思うんだ。
ラナが質問する、俺が答える。
ラナが質問する、俺が答える。
ラナの質問は、全て俺とラナしか知らないハズの内容ばかりだ。
間違ったことは言っていないと思うんだが、ラナの質問が止まらない。
ラナが少しずつ涙目になって来てるし、何か間違っているのか?
周りで跪いてるエルフ達はもう足が痺れてると思う。
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「 ・・・・・・波乱様、約束を覚えておいでですか? 」
ラナとは色々約束した、約束したんだがほとんど守れていない。
元気になったら街へ行きましょうとか、ピクニックとか、海水浴も在ったな。
守りたかったけど守れなかった約束を思い出すと、胸が締め付けられる。
守れないと知ってて約束したのは俺だ、あの時は残り時間が少なくて未来に希望が欲しかった。
ラナも俺を元気づけるために、色々約束してくれたみたいだけど、守らなかったのは俺だ。
「 約束って言うと、今晩一緒に映画を見るっていう? 」 あの日守れなかった約束だ。
「 違います 」
「 ラナの服を一緒に買いに行くって言う 『 違います! 』 」
「 約束、したよね? 」
「 そうです! しました! でも、そうじゃなくてコレです! 」
剣を持っていない手でスカートの中をゴソゴソするラナ、取り出したのは革製のリング、奴隷の首輪。
ほんと、あの中ってどうなっているのか、見たいような見たら人として終わるような。
「 これのことっ! 」
ラナが取り出した首輪が、掌の上で分かれて指の間をすり抜ける。
地面に落ちた奴隷の首輪は粉々に砕けた。
「 アァ・・・ 」
砕けた首輪を目の前にしてラナが落ち込んでる、剣を手放して四つん這いになってる。
当時の物ならかなりの年月が経過してる、革なんだから砕けても不思議じゃない。
ラナがそのままの体勢でこちらを向いた。
「 買って下さい! また、買って下さい! 」
「 金貨は持ってるから買えるとは思うけど。 今って奴隷の首輪買えるのか? 店で? 」
やばいブツなんで非売品だったと思うんだが。
それとも時代が変わってるから、魔道具屋とか雑貨屋で普通に売ってたりするのか?
「 ・・・・・・ 」
ラナが剣を手に取り無言で立ち上がる、また俺の首に向けて剣を向ける。
奴隷の首輪の件は無かったことにして、ここから始めるらしい。
「 ちゃんと覚えてる。 『 俺がミューティションしたら俺を処分してくれ 』 だ。 人に迷惑を掛ける前にな。 で、俺はミューティションしたのか? 」
「 覚えていらっしゃらないのですか? 」
「 すまん、あのころは記憶があいまいでな。 自分が起きてるのか寝てるのか判らないくらい、体調が悪くてね 」
「 そうなのですね。 あのころの波乱様は直ぐに倒れられて、お辛そうでした。 覚えておられない方が、良かったのかも知れません 」
俺は目の前の女性がラナだって判る、何故だって言われても困るが判るから判る、不思議な感覚だ。
ラナだって、俺だって判ってると思うんだが。
これってあれか、本人確認してるっていうよりラナ怒ってる? 拗ねてる?
「 ラナ、そろそろ剣を下してくれないか? 」
「 ・・・・・・ 」
「 下してくれないと、抱きしめられないだろ? 」
知ってる、こんな事もっとイケメンがやることで、俺がやるべきじゃ無いってことくらい知ってる。
んでも、目の前でラナが泣いてるんだよ。
大人の女性になってるけど、ラナが泣いてるんだよ。
ラナがユックリ剣を収めた。
俺に向き直ったラナの姿が消えたと思ったら、全身に衝撃を受けた。
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目を開けると、コーヒーと血の染みが付いた服が視界に入った、服はもちろん俺のだ。
どうやら気を失っていたらしい。
視線を上げるとこちらを向いて跪いてるクロエさん。
「 波乱様、お目覚めですか? 」 頭の上からラナの優しい声がした。
「 起きたよラナ。 んで、一体どうなったんだ? 」
横を向いて答えようとしないラナ、しかたが無いんでクロエさんに同じ質問をする。
俺とラナの顔をチラチラ交互に見てる。
「 ラナ 」 一応注意はしておこう。
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
ラナもクロエさんも無言のまま、何も話さない。
「 構わないから話してくれる? 」 ラナは俺が抑えるとしよう。
ラナの顔を見上げたままクロエさんお話を聞く。
「 ・・・勇者様が波乱様に体当たりして・・・ 」 ラナの顔がだんだん赤くなる。
「 ・・・そのまま抱きしめられたのですが・・・ 」 ラナが涙目になってきた。
「 ・・・お命の危険がありましたので・・・ 」 なるほど。
つまり、俺はラナからボディーアタックからのボディークローを受けたらしい。
んで、口から血を吹き出したと。
内蔵が破裂したか、肋骨が折れて内臓に刺さったか、とにかく危なかったらしい。
「 マリア様の特性ポーションをお飲み頂いてから、こちらで回復を待っておりました 」
手持ちの特性ポーションは品切れだな。
「 なるほどね。 あんがとクロエさん、よく判った 」
ラナは真っ赤になってチョット涙が出てる、ラナの後ろに見える樹が風で揺れてる。
「 ただいま。 で良いのかな? 」
「 ・・・・・・お帰りなさいませ、波乱様。 永い間お待ちしていました 」
それは俺のせいじゃないんで何にも言えん。
「 でだ、ラナ。 こう言う時は膝枕なんじゃないか? 」
俺は今ラナに後ろから抱きしめられてる、形としてはラナという座椅子にもたれかかってる感じだな。
これはこれで在りなんだが、膝枕は何処へ行った。
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