胎動
初投稿となります。 よろしくお願いします。
舞台設定を簡単に、出来る限り狭い舞台で進める予定です。 戦闘シーンや格闘シーンが苦手ですので、極力少なくしていきます。
・変なことに巻き込まれ、気が付いたら牢みたいな部屋の中。 異世界で、魔道具を改造出来る技術を手に入れる。 魔星破壊ミッションは成功した。
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「 ラナ君。 囚人の様子はどうかね? 」
「 はい所長。 囚人はウロウロ、キョロキョロしています! 」
「 なるほど。 囚人は元気なんだな? 」
「 はい。 とても嬉しそうです! 」
近頃は暇なんで、ラナと一緒に映画鑑賞をする時間が増えてる。
こっちの映画は見た事が無かったんで、それなりに楽しい。
昨日の夜は、主人公が牢獄から脱走する映画だった。
アスターが俺の部屋に突撃してきたんで、施設の記録を調べた。
調べたんだが、魔石を入れ替えると逆属性の効果が出る魔道具なんて無かった。
失われた技術以上の魔道具を創れるんなら、遊ばせておくのは無駄だ。
ここで働かせようと提案した。
反対意見は無し、女王様も含んで全員が賛成だった。
で、誰が連れて来るかを決めたんだが俺になった、こっちは反対票1。
ヒッキーの部屋には、行きたくなかったんだよ。
「 ではラナ君。 囚人に面会と行こうじゃないか 」
「 はい所長 」
ラナは今日もノリがいいな。
アリウムが居る部屋は、鍵をロックしてあって外には出られない。
食事は部屋で摂れるけど、メニューはパンとスープと水だけだ。
おかわりは自由。
俺が入ってた試練の部屋とは大違いだ。
「 ここは勇者様の故郷ね? 絵本に在ったあの部屋なのね!? 」
「 ほぼ不正解だ、ここは勇者の故郷ではない 」
不正解だからチョップを入れておこう。
「 じゃあ、ここは何処なの! 」
涙目になっても知らん、お前は囚人扱いだ。
ラナもノリノリだし。
「 魔星が破壊されたのは知っているな? 」
「 ええ、聞いたわ 」
「 魔星の破壊は、ここから指示を出して実行した。 ここはこの星を、ソルを守るために作られた防衛施設だ 」
部屋のパネルに魔力を流して、シオ星系を表示する。
この説明何回目だ?
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アリウムは立ちなおった、立ち直ったと言うかなんと言うか。
『 婚約者とその家族が処刑されたのに、ショックを受けていない自分にショックを受けた 』
アリウムの話を要約するとそういう事だったんだが。
俺には女心は判らん。
俺がアリウムに出したオーダーは、都市鉱山の発見と採掘。
施設に記録されてた魔道具用の素材は、大昔ではありふれた素材だった。
建築物や移動手段に大量に使われてたらしい。
昔の武器や防具は、兵器体系が違うんで役に立たない。
剣と魔法が飛び交う戦場には、パワードスーツが良く似合う。
似合うんだがそもそも作れないし、作れてもエネルギー源が無い。
ただ、建造物なんかに使用されてる金属は、今でも剣や防具に使用出来る。
魔道具にも使えるし、最初から精錬済みなのもポイントが高い。
大量に在るから使いたい放題だ。
被害に遭った住民が、その場でスケルトンやゴーストになってる可能性は在る。
ゾンビになった住民は、とっくの昔に干からびてるだろう。
居たとしても、それも含めて何とかして頂く。
「 それで、どうやって探すの? 」
「 それを考えるのがアリウムの仕事になる、掘り出す方法もな。 魔道具探知機って在っただろ、あれを改良したら見つけられるんじゃないか? 」
「 あれは1mしか届かないのよ? 」
「 ラナ、懐中魔石灯を貸して 」
「 どうぞ! 」
ラナがスカートの中から懐中魔石灯を取り出す、いつみても不思議な光景だ。
受け取った懐中魔石灯を分解して、アリウムに見せる。
「 この魔道具も反射部が無いと、光は1m位しか届かない。 反射部を付けると? 」
実際に点けて効果を確認させる。
「 反射部を付けるのね!? 」
「 半分不正解。 それでも良いけど、もっと工夫してくれ 」
アリウムが頭を抱えたけど、後はお任せ。
少しは自分で考えて頂こう。
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「 波乱様、防護服を大量に用意できませんか? 」
「 何に使うつもりですか、女王様? 」
「 子供達だけでも、魔素の影響から救いたいんです 」
高濃度の魔素は、ほぼ全ての動物に影響を及ぼすと予測されてる。
過去の記録と照合したんだが、植物はそんなに影響受けないらしい。
動物特有の要素と言えばミトコンドリア、酸素を使ってエネルギーを作るスゲー奴。
ひょっとしてこいつが、魔素を使用してエネルギーを生成してるんじゃないだろうか。
使えば使うほど、魔力保有量が増える現象とは合致しないが。
で、女王様の要請は却下、防護服を着たまま一生を過ごせるはずがないし、素材が足りない。
防護服の素材は無かったが防護服用の補修塗料、真っ黒な液体だけは渡しておいた。
用途と用法は女王様にお任せ。
数日後、用意した塗料を盗まれたんで、お替りが欲しいと言ってきたけど却下。
素材は前回で使い切った、もう作れない。
頑張って探しますって言ってたけど、探すのは配下の誰かだろう。
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このごろ、記憶が断片的になってる、気が付くとポッドの中だったり、ベッドに寝てたり。
いつもラナが側に居てくれたけど。
HPはもう一ケタだ。
『 魔素到達まで5分 』
『 了解。 情報を召喚者へ連絡 』
『 召喚者に連絡します 』
魔素の嵐がソルの夜側に到達した、ディスタンドの在る大陸は昼だからほぼ裏側。
数時間のズレは在ったが、狙い通り直撃は避けられた。
それでも、もうすぐ大量の魔素がディスタンドまで到達する。
ディスタンドの首都は、氾濫に備えて厳戒態勢中。
白川さんと河原君は王城で待機中、手薄になった城壁へ駆けつける機動部隊の中核だ。
他の国へも連絡は回っているはずだが、確認は出来ない。
『 波乱様、大丈夫ですか? 』
『 大丈夫だよ 』
俺はポッドの中で待機中、何か在っても直ぐに治療できるから、らしい。
ラナはポッドの外に居てくれてる。
『 波乱さん大丈夫っすか? 』
『 問題無いよ、そっちはどうだ 』
『 今のところ空には異常ないっすね 』
『 空より地平線を注意してくれよ 』
魔素も魔物もそっちから来るはずだ。
『 任せるっす! 』
『 よろしくな 』
『 波乱さんはポッドの中で、大人しくしていて下さいね 』
『 もうポッドに入ってるよ、白川さん 』
『 全部俺たちが片づけるから、安心して欲しいっす。 おじさんは、大人しくしてるっすよ 』
『 ・・・・・・あのな。 ずっと戦い続けて、おじさんになったんだからな 』
生まれてすぐに、おじさんになった訳じゃ無い。
こう見えても前は若かったんだよ。
『 え? そうなんすか? 』
『 お前も戦い続ければ、くたびれたおじさんにランクアップ出来るぞ。 あと20年は掛かりそうだけどな 』
『 長いっすね!? 』
『 おじさんになるには、長い時間が必要なんだよ 』
いろんなことを乗り越えて、初めておじさんになれるんだ。
『 魔素到達まで3分 』
『 地平線に虹色の霧が見えたっす! 』
しばらく寝ていたらしい、気が付くとポッドの外は虹色だった。
『 警告 魔素濃度が想定値を超えました。 警告 魔素濃度が・・・ 』
『 ・・・・・・現状を 報告 』 ポッドの外には大量の魔素か。
『 施設内魔素濃度が想定値を超えました 』
『 原因は? 』
『 魔素密度に想定外のムラが存在しました 』
『 影響は? 』
『 ラナ様のバイタルサインに異常あり、設備への影響は在りません 』
報告を聞いて横を見ると、いつもいてくれるラナが居ない。
『 ポッドを開けろ! 』
『 ラナ様によりロックされています 』
『 命令をキャンセル! ロック解除! ポッドを開けろ! 』
ラナを助けなければ。
ポッドが空き始めると身体を襲う強烈な倦怠感、重力が増えたんじゃないか?
ラナの姿を探すが部屋の中にはいない、でもポッドから出ようとして気が付いた。
ポッドによりかかる様に、ラナは床に倒れていた。
「 ラナ! 大丈夫か! 」
「 は、波乱様、ちょっと眩暈がして・・・・・・ 」
顔が真っ青だ、ちょっと眩暈がじゃないだろ。
ポッドによりかかる様にして態勢を確保して、なんとかラナをポッドに入れる。
「 治療を開始 」
『 治療を開始します 』
ポッドにもたれかかって、ラナの治療を見守る。
治療が始まると直ぐに、顔に赤みが戻ってくる。
何とか大丈夫そうだ、安心したら気が抜けた。
しばらく寝ていたらしい。
気が付くと視界の半分が真っ赤だが、倦怠感が軽くなっている。
これなら1人で歩けそうだ。
「 何をしてたんだっけ? 」
思い出せない。
異世界に召喚されて---病気は治ったんだよな。
「 もうじき死ぬって言われたのか 」
そうだ、勝手に呼び出されて、家族と離れたこの世界で俺は死ぬんだ。
・・・・・・フザケルナ。
帰れないならこんな世界に用は無い、壊してやる。
ゆっくり階段を上ってコントロールセンターに行く、設備は動いている。
中央の椅子に辿り着き命令をだす。
「 魔星の破片を切り出して、残った魔星の破片に高速で衝突させたらどうなる 」
『 魔素融合反応により半径10kmが蒸発します 』
「 最大効果を得るために必要な質量と、必要な速度を計算。 射出用魔道具を製造開始 」
『 計算完了。 警告 施設に致命的な損害が発生します 』
「 了解した。 製造を開始しろ 」
『 警告 施設に致命的な損害が発生します。 魔力パターンによる確認が必要です 』
ウルサイナ。
入力したらいいんだろ。
『 魔力パターンが合致しません。 命令は実行できません 』
「 どういう事だ! 」
魔力を流すが認識しない。
『 登録されていない魔力パターンが入力されました。 拘束します 』
魔力パターンが違うだと?
一体何が起きてる、ステータスを確認すると。
名 前:波乱万丈
称 号:復讐の召喚者
職 業:魔王(初代)
レベル: 1
H P: 3/999
M P: 9/999
筋 力:999/999
知 力:999/999
素早さ:999/999
器用さ:999/999
「 魔王? 初代? 私が初代魔王だと! 」
面白い、魔王ならこの世界を破壊しないとな。
HPも回復してきてる、このまま行けば---
「 グッ! 」
右肩に衝撃。
真っ赤な視界で右肩を見ると、右肩から先が無くなっている。
歩こうとしてバランスを崩し、左側へ倒れる。
「 何が起きた・・・・・・ 」
左手だけで起き上がろうとして、そのまま仰向けに倒れる。
視界から徐々に赤色が消え、少しずつ身体が重くなる。
「 波乱様 」
声がする方を見ると、メイド服を着てブルードレスを付けた美しい女性がいた。
メイド服の袖は短かくスカートも短い、大人が無理やり子供服を着たような感じだ。
見えてはいけない物も見えている。
「 ラナ・・・・・・なのか? 」
いつものメイド服、ここはB5F。
ラナしか入れないはずだ。
「 はい、波乱様。 魔王は倒しました。 ここは安全です 」
「 魔王? その姿は? 」
「 お気になさらずに。 ゆっくりお休みください 」
床の上には黒くて細い腕が落ちてる、魔物になった俺の腕か?
”俺にミューティションが起きたら、誰かに迷惑を掛ける前に殺してくれ” 、それはラナと奴隷契約を結ぶ時の2人だけの約束。
「 そうか・・・・・・。 約束を守ってくれたんだな、ありがとうラナ 」
確認するとHPが残り1、いよいよ最後か。
痛みはもう感じない。
ラナが側に居てくれるんでチョット安心だ。
|||||
「 白川様、聞こえますか? 」
『 聞こえるわ。 どうしたの? 』
「 先ほど波乱様が逝かれました 」
『 ・・・・・・そう。 波乱さんのミューティションはどうだった? 』
「 魔王が波乱様の身体を乗っ取ろうとしたため、排除しました 」
『 魔王になったの!? 』
「 いいえ。 波乱様の身体を、魔王が乗っ取ろうとしました。 右手から浸食を始めたので、右肩を切り離しました。 魔王だった物はポッドで処分が終わっています 」
『 ラナちゃんは無事なのね? 』
「 はい。 高濃度の魔素で倒れましたが。 魔王を倒して勇者になったので、もう大丈夫です 」
『 ラナちゃん本当に大丈夫? 勇者って? 』
「 ええ、大丈夫です。 少し予定がズレましたけど、予定通り計画を進めます 」
『 ・・・・・・判った。 こっちは上手く行っているから、無理はしないでね。 』
「 ありがとうございます、白川様。 無理はしていません、私が望んだことです 」
波乱様の身体をポッドに入れ、私は隣のポッドに入る。
初めて波乱様の部屋に行くとき、試練の間に入るとき、覚悟は出来てた。
あの時は命令されてたけど、今は違う。
『 人工授精プログラムスタート 』
気付かれた点などが在りましたら、読後の感想をお待ちしています。