森の秘密
「心配するな、お前は俺が守る」
「は、はい。お願いします」
最近、ある森で連続失踪事件が起きている。学者である私はその調査を依頼されたのだ、護衛の国選魔術師(かなりの大男)と共に。
その森は少々特殊で、先の大戦で焼け野原となったのを敗戦国の魔法で再生され、長い間自然との共生・平和の象徴として親しまれて来た。
だが最近はその敗戦国でナショナリズムが台頭し、俄かにキナ臭い事になっている。行方不明者の中にはその国の魔術師たちも含まれていた。
だからこれは政治問題、とてもじゃないが植物の専門家である私が関わるべき問題ではなかった。
「何だ、私が信用できないのか?」
「い、いえ……」
が、私は半ば強制されるようにその森へと足を進めた──。
森へ着いた頃にはすっかり日が落ちていた。
久し振りに見た森は以前よりも大きく、一層不気味に見えた。
「行こうか」
「は、はい……」
大男はランタン代わりに指先に火を灯すと、それを頼りに奥へと歩き出した。
森の木々は私たちを包むように鬱蒼と生えている、大男の背中で完全に影となった私は今にも何かに襲われそうな気配を感じていた。
すると森の奥からすすり泣くような声がする。と、次の瞬間に私は大男の背中に鼻をぶつけていた。
「どうかしましたか?」
「お、お化けじゃないよな?」
「はい……?」
次に聞こえたのは足音だ、しかもこちらへ近付いて来る。身構えた大男の脇の下から悪人面の男が迫って来るのが目に入った。
「人であれば何一つ恐れる事はない。食らえ! 我が家に伝わる魔術砲を!」
「敵かどうかの確認は!?」
「よせ、やめ──」
男が何か言う前に、私の目の前で巨漢が宙を舞った。
「わ、わー!? た、たつけてぇ!?」
暗闇の中で私は何も出来なかった、何が起きたか分からなかったのだ。
今更のように周囲の薄明かりに気が付くと、木々の中に人らしき影が見えた。まるで植物に取り込まれたように。
「に、逃げろ……」
そんな声を聞いた気がして私は一目散に走り出す、暗闇の中を転がりながら。
だが森は私の存在になど興味がないように、呆気なく出口へと導いてくれた。
逃げながら、私の中にはある仮説が出来上がっていた。
この森は魔力によって人工的に再生させられた森である。つまり、魔力を吸収する事によって更に成長しようとしているのではないか。
今ほど私に魔力がないのを感謝した瞬間はなかった。
だがこの事実を伝えたとして、国はそれを認めるだろうか……?