8. 弱いから、強いんだ。
「……里宮は、すごいな」
思わず言葉が漏れ出していた。
里宮は俺とは違いすぎて。
羨ましく思うことすら傲慢なことのように思える。
「なんでも自分で出来るし、絶対諦めない。そんな里宮だから人気者なんだよな。俺なんて弱くて意気地なしでどうしようもない奴なのに」
静まり返った体育館に、俺の震えた声が響く。
こんな弱音を吐くことこそが弱いのに、里宮は笑うことなく真剣に話を聞いてくれる。
「俺は……強くなりたい。何をされても耐えられるくらい。俺……里宮みたいに、強く、なりたい」
思わず溢れそうになった涙を慌てて飲み込んだ。
弱音吐いた上に突然泣き出すとかめんどくさすぎだろ、と自分に言い聞かせて唇を強く噛んだ。
すると今まで黙って話を聞いてくれていた里宮が口を開いた。
「私は、高津が思う程強い人間じゃない。誰にだって弱さがある。高津だけじゃないんだ。あいつらだって。五十嵐とはミニバスで一緒だったから泣き顔なんか何回も見たことあるし、長野だって普段は笑ってるけど親の帰りが遅くて家ではいつもひとりぼっち。川谷は“バスケ初心者だから”って毎日必死に練習してる。……高津」
里宮は俺の目を真っ直ぐに見て言った。
「弱いから、強いんだ」
里宮の言葉に、俺は目を輝かせた。
「弱いだけの人間なんていない。強いだけの人間なんていない。大丈夫、高津だって強い。人それぞれ、強い部分が違うだけ。それをわけあって、支え合って行くのが友達でしょ。高津、“なりたい”じゃなくて、“なる”んだよ!」
俺は、涙で濡れた目元を覆って思わず笑った。
「強く……、なる……っ!」
そんな俺を見た里宮は、俺の涙をジャージの袖でゴシゴシッと拭いて、言った。
「そうだ、高津。立ち上がれ。自分の居場所は、自分で奪い取るんだ。やられてばかりじゃ、面白くないだろう?」
いたずらに微笑んだ里宮に、俺は歯を見せて笑っていた。
「おう!」
こんなに人の言葉が心に響いたのは初めてだった。
この日から、里宮は俺の大切な仲間であり、“尊敬すべき人”という存在になったのだ。
俺は満面の笑みで、里宮に言った。
「ありがとな!」
それを聞いた里宮は、いつもの気だるそうな目を少し細めて、うっすらと微笑んだのだった。