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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
4/203

4. 笑わない人?

疲れた身体をうんと伸ばして歩き出す。

すると、後ろから声をかけられた。


「高津、一緒に帰ろ」


相変わらずの無表情でそう言った里宮に「おう」と応えて足を止める。


薄暗くなった道を並んで歩く。

隣を歩く里宮はやけに小さくて、歩幅を合わせるのに少し手間取る。


なるべく小股で、里宮より前に出ないよう心がける。

そんなことに集中していると、里宮が「ねぇ」と覗き込むように声をかけた。


「どーすればさっきみたいなディフェンス早く抜けれるかな?」


「いや、お前はもう十分すぎるほど早いって」


俺なんかよりずっと。

というネガティブな一言は飲み込んだ。


「違くて。背高い選手とかさ。ほら、こないだ練習試合したとことか」


練習試合……?

俺は1ヶ月ほど前に試合をした選手たちを思い浮かべる。やたら背が高くて体格も良くて、里宮が隣に並ぶと小動物か小人みたいになってた……。


「あ〜……難しいんじゃない?」


俺が目を逸らしがちに言うと、里宮は「なんで!?」と目を丸くした。想像以上に食いついてきた里宮に、なぜか気まずさを感じてしまう。


「だって里宮チ……背低い方だろ」


『チビ』と言いかけて慌てて言い直したが、手遅れだった。

里宮の鋭い瞳が俺を睨む。


「高津、今チビって言った」


俺の行く手を阻むように立ちはだかり、上目づかいに睨んでくる里宮は、『チビ』以外の何者でもなかった。


「チ、チビなんて言ってないだろ」


「今、『チ……』って言ったじゃんか」


「『小さい』って言おうとしたんだよ!」


「小さいもチビも同じだろ!」


俺と里宮はしばらく睨み合っていたが、挙げ句の果て里宮はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向き、俺の前を歩き始めた。


仕方なく里宮の後を追って歩き出す。

里宮の長い髪が不機嫌そうに揺れている気がした。


里宮は背が低くて、驚くほど細くて顔も可愛らしく、男子からはかなり人気がある。


でも、里宮はあまり笑わない。

本当に面白い時や楽しい時しか笑わない。

大体いつも気だるそうな瞳で話している。


それでもギャップが良いとかで男子から人気なのは変わらないのだが。

そんな完璧な里宮が、あの日どうして俺なんかに声をかけてくれたのだろう。

ボーッとしていると、すぐそばで声がした。


「……津! 高津!」


そう、里宮の声だ。


「なにーー」


言いかけた俺の言葉を、里宮の警告が遮る。


「前」


里宮が指をさした先には、白い看板があった。


『バゴッ』


「!!」


突然の激痛に、俺は思わず顔を覆ってしゃがみ込んだ。

薄く目を開けると、目の前には『スピード落とせ』の看板が立ちはだかっていた。


思い出したように里宮の方へ目を向けると、里宮はカバンを顔に押し付けて肩を震わせていた。


カバンの奥から「フフ……」という声が漏れ出す。

俺は大きなため息を吐いた。

隠しているつもりなのだろうが、バレバレだ。


「里宮、笑ってんのバレてる」


俺が言うと、里宮はカバンから顔を話して笑い出した。


「はははははっ」


くそぅ。言ったそばから笑いやがって。

悔しくて恥ずかしくて、俺は思わず顔をしかめる。

思った以上に幼く笑う里宮に、心臓の鼓動が速くなる。


「ぼーっとしてて看板にぶちあたるとかっ……!」


ツボに入ったらしくまだ笑っている里宮に、俺は「うるせぇな!」とそっぽを向く。


「……ははっ!」


笑いが治った様子の里宮が俺の顔を覗き込む。


「やっぱ、高津といる時が一番楽しい!」


その言葉と弾ける笑顔に、心臓の鼓動は更に加速して行く。

それを隠しながら、俺はふてくされたように言った。


「里宮が一方的にからかって遊んでるだけだろ」


「それもあるけど」


里宮はカバンを肩に乗せながらヒョコヒョコと歩き始める。


「高津といると本当に楽しいよ。初めて会った時から“こいつ面白そう”って思ったんだもん」


……“初めて会った時”か。

俺は懐かしそうに目を細めて先を歩く里宮を追いかけながら、遠い昔のように感じる里宮との出会いを思い出していた。

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