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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
23/203

23. 私はチビじゃない!

「あ、りみーー……」


姿を現した里宮の格好に驚いて思わず言葉に詰まるが、里宮は全く気にすることなくタオルで髪を拭きながら近寄ってきた。


「あぁ、高津。一番? 早いね」


そんなことを言った里宮は明らかにワンピースではないパーカーを着て、黒いストッキングを履いていた。

顔が小さいからか、グレーのパーカーに付いたフードがやけに大きく見える。


「……里宮、それワンピースじゃないだろ」


「うん」


「サイズがデカいパーカー着てるだけだろ」


「うん」


「下履いて来い!」


『うん』じゃねーよ!

色々と危ないんだよ! てか寒そうだし!


「は?」


里宮はわけがわからない、というような顔をした。


「履いてんじゃん」


ストッキングを引っ張ってそう言った里宮に、俺は「丈が短すぎるんだよ!」と文句を言った。

「そう?」と里宮は首を傾げる。

パーカーの丈はもちろん膝より上。なんなら制服のスカートより上だった。低身長にも関わらず長い足があらわになっている。


「見てるこっちが寒いんだよ。なんでもいいから履いて来い」


あと本当に申し訳ないけど、“見えそう”で怖い。


里宮はまだ理解できないのか不思議そうに首を傾げていたが、そのうち「わかった」と短く返事をして二階に上がって行った。


自分の部屋で着替えてくるつもりなのだろう。

俺はホッと息を吐いてソファーに座り直した。






数分後、一階に降りてきた里宮は「これでいい?」と自分の足をポンポンと叩いた。

黒いジーンズを履いているのを見て、「うん」と頷く。


これなら街中を歩いていてもおかしくないな。

おかしくないというか……危なくない。

そんなやりとりをしていると、『ピンポーン』とインターホンが鳴った。


「あ、長野?」と言う里宮と、「五十嵐か?」という俺の声がハモる。

俺たちはお互いに目を合わせた。

どっちだ?


『ガチャッ』


「「お邪魔しまーす」」


まさかのダブル。

予想外の結果に苦笑していると、里宮はあからさまにつまらなそうな顔をして溜息を吐いた。

ちょっとくらい隠せよそのガッカリ感……。


「里宮の部屋もう飾り付けしてあんの?」


「ちょっとだけ」


と、そんな会話をしながら俺たちは二階の里宮の部屋へと向かった。

里宮の部屋は予想通り広かったけれど、広すぎるほどでもなく安心感があった。

いや、俺の部屋よりは十分すぎるほど広いけど。


「よっしゃ、準備開始ー!」と長野が上機嫌に声を上げると、五十嵐が持っていたビニール袋を除いて言った。


「ところで、トマトどこに飾る?」


それを聞いた俺と里宮は「「……バカヤロウ」」と呟くことしかできなかった。

まさか本当に持ってくるバカがいるとは……。


そんなこんなで、パーティ会場準備が始まったのだった。




* * *




「里宮ー、今日何時に川谷来んのー?」


部屋の飾り付けが終わり、休憩に入ると、五十嵐が言った。


「えっとぉ……」


里宮はコップの牛乳を飲み干して答えた。


「確か11時……くらい」


あやふやな答えに、長野が「忘れんなよぉ〜」と笑う。

俺はお茶を一口飲んで言った。


「なんで里宮牛乳なの?」


「そーいえば里宮って学校でも牛乳とかいちごみるくとか飲んでるよな。なんで?」


五十嵐も続けて問うと、里宮は露骨に目を逸らした。


「どーでもいいだろそんなこと」


……身長伸ばすためなんだろうな。


そこで長野が余計な一言を口にした。


「“チビ”はいっぱい牛乳飲むといいんだぞー」


次の瞬間、里宮はピシッと凍りついた。

部屋の空気がピリピリしたものに変わってくる。

本人に悪気はないみたいだけど……。


「どうした? 急にそんな深刻そーな顔して。腹痛いのか?」


長野が首を傾げて里宮の顔を覗き込む。

まずい、と思った時には遅かった。


「今……なんて……」


「え?」


里宮はワナワナと肩を震わせて絞り出すような声で言った。


「なんて……言った……?」


長野は意味がわからないというように眉をひそめる。


「だから、『チビはいっぱい牛乳飲んーー」


「牛乳は、健康に良いって。なぁ、高津。」


片手で長野の口を塞いだ五十嵐が、何事もなかったかのような口調で俺に言う。


「お、おう! 俺も毎日飲んでる!」


慌ててその場の空気をなんとか誤魔化そうとするが、里宮は俯いたままだ。

完全に不機嫌になってしまったらしい。

11時から川谷が来ると言うのに、よりによって一番機嫌が直りづらい話題を……。


「……い」


「「え?」」


「っ私はチビじゃない!」


頰をピンクに染めてそう言い放った里宮はキッと長野を睨みつけた。五十嵐に口を塞がれたままの長野は、みるみるうちに青ざめて行く。

自分が何を言ったのか、どうして里宮が怒っているのか、やっと理解したようだ。


「長野だって、高津と五十嵐に比べたら十分チビだろ!」


喚くように言った里宮に、長野は慌てて五十嵐の手を剥がした。


「ごめんって、里宮! バカにしたわけじゃなくて! 無意識に……って言うのも失礼だけど! とにかく、悪気はないから! 」


必死に謝る長野に、里宮はフンッとそっぽを向いた。


「別に怒ってない」


いや、どう見たって怒ってるだろ……!


「里宮いつも牛乳飲んでるし、これから伸びるって!」と、また長野が余計なことを言ったが、里宮は「うるさい」と一言言っただけだった。


「里宮」


突然口を開いた五十嵐に、全員が振り返る。


「川谷来るまでゲームしない?」


唐突な提案に驚きつつも、里宮は小さく首を縦に振った。


「する」


その瞳がかすかに輝いたのを見て、俺は思わずホッと息を吐いた。


川谷の誕生日パーティなのに、険悪ムードで出迎えるわけにはいかない。

きっと五十嵐もそう思ったのだろう。

テキトーそうに見えて、なにかと気が利くんだよな。と、五十嵐の横顔を眺める。


ふとこっちを向いた五十嵐は、ニカッと笑って親指を立てた。俺は自分の予想が当たっていたことを確信し、親指を立てて笑い返した。



そんな五十嵐の配慮に気づいているのかいないのか、里宮は早速始めたゲームで長野に勝ち、満足そうな顔をしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  里宮のTシャツに主人公がどきどきしてるシーンが青春って感じがしますね。  日常って書いてあるけど、中身はバスケを熱く語る作品だと思いました。里宮が試合で活躍するシーンは面白かったです。 …
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