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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
22/203

22. 2月14日はバレンタイン?

数日後、昼休み。


川谷が“戦争”こと購買から帰って来て、里宮にいちごみるくを投げた。里宮は相変わらずの無表情でそれを受け取り、ストローをさして口をつける。


数日前、部活の時間中ずっと眠っていたということがあったから少し心配していたのだが、全然大丈夫そうだ。


「川谷、そのトマトちょーだい」


「うわ! ちょ、勝手に取んなよ!」


トマト大好きな川谷が半泣きのような声を上げる。


「しょうがないな、お前には俺のトマトやるから」


わざとらしく溜息を吐いて川谷の弁当にミニトマトを乗せた五十嵐に、「五十嵐はトマト嫌いなだけだろ!」と長野がツッコんだ。


「なんだ、そーだったのか。しょーがないから食ってやるよ」


そう言ってミニトマトを頬張った川谷は見るからに嬉しそうだ。

何が“しょーがない”だよ。

くだらないやりとりに呆れていると、里宮が「くだらな」と呟いた。


「なんだよ里宮! 元はと言えばお前が俺のトマト食ったからいけないんじゃねーか!」


川谷が喚くも、里宮は全く気にすることなくいちごみるくを飲んでいた。

そんな騒がしい昼休みは終わり、授業開始のチャイムが鳴り響いた。




* * *




5限目終了のチャイムが鳴り、俺は隣で寝ている里宮を起こす。


「里宮、授業終わった。おい、里宮」


声をかけても起きないので、「立て、里宮!」と肩を揺すると里宮はようやく「んー」と唸りながらガタッと立ち上がった。

ぼぅっとした様子でふらふらしながらお辞儀をする里宮は“いつも通り”だった。


こいつ、目開いてねぇじゃん。

そんなことを考えて溜息を吐いていると、「高津くん、今日日直だよ〜」と反対隣の女子が教えてくれたので、「あ、ほんとだ。ありがと」と返して立ち上がる。

黒板を消していると、今日の日付が目に入った。


2月13日。


あ、明日バレンタインか。

どうりでカップルが増えているわけだ。

まぁ、俺には関係のないことだろうけど。


そういえば里宮は誰かにチョコをあげたりするんだろうか。

お父さんとかにあげてる姿は想像つくけど……。

そんなことを考えながら席に戻ると、五十嵐、川谷、長野の3人が俺の机に集まっていた。


「あ、高津ー。里宮二度寝したんだけど」と長野が面白おかしく里宮を指差して言う。

長野の言う通り、里宮はまた机に突っ伏していた。


「なんか……逆に尊敬するわ」


よくそんなに寝られるな。

と、川谷が「ちょっと図書室行ってくる」と席を立った。

その瞬間、里宮の目がパチッと開く。

どゆこと!?


「あのさ、高津。明日さ」


珍しいな。里宮が女っぽい行事を覚えているなんて。


「明日、川谷の誕生日じゃん」


“ズコッ”

あ、そっちね。

てか完全に忘れてた。ごめん川谷。


「そんで、明日うちでパーティしたいんだけど」


「え」


“うち”……?


「私の家」


……里宮の家? パーティ?

急な展開に頭が追いつかない。


「……どう?」

里宮が少し不安そうに眉根を寄せて上目遣いに俺を覗き込む。不覚にもちょっとドキッとしてしまった。


「あ、ああ。いいんじゃ」


「なにそれ楽しそう!」


俺の言葉を遮って声を上げたのは長野だった。

全く、テンションが上がるとほんとに人の話聞かないんだから、こいつは……。


「飾り付けとかすんの?」


五十嵐が言うと、里宮は小さく頷いた。


「パーティは午後からってことにして、午前中集まって飾り付けしようと思うんだけど。 明日休みだし」


誕生日パーティとか、初めてだな。

そういえば里宮の家も何気に初訪問だ。


「なに持っていけばいい?」


「飾り……とか。川谷の好きなものとか」


「川谷の好きなもの……? あ、トマト!?」


自信満々に言った長野に、里宮が呆れ顔で「アホ。私の部屋汚す気か」とツッコむ。


そんなこんなで、川谷の誕生日パーティ計画が立てられたのだった。




* * *




……さすがだ。


里宮の家の第一印象はそれだった。

里宮の父が社長だということは知っていたから、どんな豪邸だろうと身構えていはいたのだが。


いやぁ、さすがだ。

大きいだけじゃなく落ち着いた雰囲気が漂っている。

焦げ茶色の壁はレンガのようなデザインになっていて、洋風の城のような雰囲気を醸し出している。


大きな庭にある枝には棘が生えていて、花は咲いていなくてわかりづらいが恐らく薔薇だろう。

他にも色々な植物が植えてあり、なんだか森の中にそびえ立つ城のように見えてくる。


それだけ城のような雰囲気があるにも関わらず、周りの家や建物から浮いているような感じはしなかった。

派手すぎない感じがして、俺は少しホッとした。


……だからって、緊張しないわけがないけど。


俺はゆっくりと大きく深呼吸をしてインターホンを鳴らした。

『ピンポーン』と、さらに緊張感を煽る音がドアの向こうから聞こえる。


ガチャッとドアの開く音がして、中から現れた人影が「こんにちは」と柔らかい声で言った。

里宮のお父さんだ。


「は、はじめまして。里宮……さんと同じクラスの高津 茜です」


慌てて挨拶をすると、里宮の父は穏やかに笑った。


「あぁ、はじめまして。睡蓮の父です。なにかと無表情で表に出さない子だから、友達のこととか心配してたんだよぉ」


……なんか、なんていうかこの人、本当に里宮の父なのか? 性格が違いすぎる。

おっとり系? 癒し系?

てっきり『あぁ、睡蓮の友達? ふーん』みたいな感じかと思ってた……。


いや、勝手に悪い印象持つとか失礼すぎるだろ、俺。

とにかく、優しそうな人で良かった。


そういえば……。


「あの、里宮は……」


遠慮がちに言うと、里宮の父はキョトンとした顔で答えた。


「あ、睡蓮なら……」


その時、奥の方から『バタン』という音が聞こえた。


「シャワーだよ」


シャ……!?

いやいやマイペースすぎるだろ!

まぁここ里宮の家だけど!


「まぁ、そんな寒いところいないで上がりな。睡蓮の部屋、勝手に入ってもいいと思うけど……。一応上がってくるまで待ってな? もーすぐだと思うから」


そう言われて俺はリビングに通された。


「お、お邪魔します……」


いや、すでにお邪魔してるけど。

なんだかもう一度断っておかないといけないような気がした。

それほど、デカかった。

テレビでよく見る芸能人の家みたいだ。


「座って待ってな〜」


と大きなソファーを勧められ、俺はとりあえず端っこにそっと腰掛けた。

里宮の父が仕事があるとかで(恐らく書斎に)行ってしまうと、俺は広いリビングで一人になった。

しんとしている上に広すぎる空間に、俺は思わず落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回してしまう。


ソファーの目の前にあるテレビは自分の家のものとは比べものにならないほど大きく、その横には立派なサンセベリアが置かれていた。

後ろを振り返るとダイニングが見える。

その隣にあるキッチンも随分広そうだ。


そんなことを考えながらほぼ無意識に観察をしていると、『ガチャッ』と音がして里宮がリビングに入ってきた。

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