18. そんなわけあるか
翌日。
昨日は学校を休んでの試合だったから、今日が今週はじめての学校だ。
「おはよー、高津!」
教室に入るなり、ちょんまげの長野が片手を上げる。
「おはよ、長野。朝から元気だなー」
長野のちょんまげを突きながら言うと、長野はおもしろおかしく「あはは! うっせ!」と笑った。
そんな会話をしていると、女子達の小さな話し声が聞こえた。
「やっぱバスケ部かっこいーよねー! 関東大会、2試合も勝ったって!」
「え? 初出場でしょ!?」
「それにしても、やっぱイケメンカラスかっこいいわ〜」
「てか、里宮さんってイケメンカラスの誰と付き合ってんだろー」
「知らなぁ〜い。でも、いつも一緒にいるよね〜」
いや、試合の情報早ぇな。つか、丸聞こえなんですけど。
席に着くと、隣で突っ伏して寝ている里宮が目に入った。いつもならチョップで起こす所だが、流石に今日はやめておこう。
連日の試合で、そうとう疲れているのだろう。
「でも、見た感じ高津くんと付き合ってそーだよねー」
「あ、それわかる〜。一番仲良いもんね〜!」
そんなわけあるか。
里宮にだって、好きなヤツくらいいるだろ……。
俺は、里宮の寝顔を見た。
いや。この、里宮が……?
ナイナイナイ。
* * *
「……どーすんだ? この状況」
五十嵐が苦笑いをしながら言う。
そんなこと言われても、俺は「さぁ……」と答えることしかできない。
俺たち4人は、机に突っ伏して寝ている里宮を囲んでいた。
流石に待っていられず、着替えは先にしたのだが、教室に戻るとなんら変わりなく眠っている里宮が目に入り、「嘘でしょ!?」……ということになったのだ。
「流石に起こした方が良くねぇ? 部活チコクじゃん」
長野が言う。
「でも、里宮は関東大会ですごい活躍してたし……。
疲れてるから、許されるんじゃないか?」
川谷が人差し指を立てて提案する。
「でもなぁ……」
俺が頭を掻いて呟くように言うと、五十嵐が「里宮をこのまま一人で教室で寝かせといて大丈夫なのか、ってとこだな」と腕を組んで言った。
その言葉に全員が頷く。
と、その時……。
『ガラッ』
「うおっ。びびったお前ら何してんの?」
キョトンとした表情で教室に入って来たのは岡田っちだった。
「あ、ちょーどいいや岡田っち! 里宮が起きないんだけど、保健室に運んどいてくんない?」
五十嵐が言うと、岡田っちは「は!?」と目を丸くした。まぁ、当たり前か。
「よし、皆部活行こうぜ!」
長野が少しいたずらっぽく笑った。
「は!? ちょ、待てよ!」
後ろから聞こえる岡田っちの声を無視して、俺たちは笑いながら廊下を駆けて行った。
* * *
……あれ?
なんで私、上向いて寝てるんだっけ?
あぁ、ここ、保健室か。
誰かが、運んでくれたのかな。
『蓮! やったね、勝ったね! おめでとー!!』
『次、頑張れば良いんだよ』
……久しぶりに、思い出してしまった。
そのせいか、随分昔の、懐かしい夢を見ていた気がする。
……忘れる筈のない、悪夢だ。