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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
17/203

17. 少しでも届くなら

「よっしゃぁぁぁぁ! 楽しんでこーぜ!」


坂上先輩が突然大声を上げる。

今日は月曜日。

俺たちは学校を休んで関東大会会場に来ていた。


奇跡のような昨日の勝利で、俺たちは2回戦を突破し、今日は更なる強豪校との試合だった。

その場の雰囲気は、ほとんどヤケクソだった。


「まぁ、負けは決まってるからな。楽しんだもの勝ちってヤツ?」


雨宮先輩が言うと、「そんなこと言うなよ! がんばろーぜ!」と三神先輩が喚いた。


もちろん、先輩たちだって本気で試合に挑むだろう。

それでもやっぱり、勝てるはずがないと心のどこかで分かっているのだ。


そんなヤケクソムード全開の先輩たちと笑っていると、黙ったままベンチに座り込んでいる里宮の姿が目に入った。


「……里宮?」


恐る恐る声をかけると、里宮はパッと顔を上げて小首を傾げた。


「えっと……どうかした?」


「?」


「なんか、元気ないように見えたから」


言うと、里宮は不思議そうに瞬きをして「別に、フツー」と答えた。


「そっか。ならいんだけど」


何故だろう、最近の里宮にどこか違和感があるような気がする。何かに悩んでないといいけど。


そんなことを考えているうちに、集合の合図がかかった。


「これから、長ノ岡対雷門の試合を始めます!」


「「お願いします!」」


長ノ岡か……。

間違いなく、今まで俺たちが戦ったことのないレベルの強豪校だろう。

……でも。

諦めるのは、まだ早い。


『スパッ』


「よしっ、里宮ナイッシュー!」


油断している長ノ岡の選手たちの間を縫って、里宮が連続で点を決めている。


デカイ選手しかいないコートでは、逆に小柄ですばしっこい里宮が有利なのかもしれない。

あの長ノ岡も、背の低い“女”と戦うのは初めてだろう。


そして、里宮がまたひとりのディフェンスを抜こうとした時……。


『ガッ』


「!」


『ピピッ』


「里宮!」


突然倒れ込んだ里宮は床に片手をついていた。

今、何が……?

呆然としていると、隣に座っていた五十嵐が冷静に言った。


「あいつ、あの11番、里宮の足を引っ掛けやがった。ここで退場になってくれればありがたいんだけどな……」


「……っ」


そんな……。

里宮はすぐに立ち上がり、“まだ戦う”と言っているように見えた。


ここで里宮が下がれば、完全に長ノ岡の思うツボだ。

再び試合が始まると、さっきまでの勢いが嘘のように雷門は点を取られ続けていた。


長ノ岡の動きも、前半より素早いように見える。

どうやら体力を温存していたようだ。

みるみるうちに点差は離れて行き、先輩たちの表情も真剣になっていった。


里宮は、どうしても諦めたくないんだろう。

先輩たちも同じだ。

どれだけ差をつけられても、全力でやりきる。

それが雷校の力なんだ。


『ワァァッ』


巨人のような長ノ岡の選手に、里宮が片手を振り上げて飛びかかった。

シュートを打とうとしていた長ノ岡の選手の手から、ボールが一瞬にして消える。


残り時間は30秒、点差は40以上。

あんなことしたってムダだ。


きっと誰もが分かっていた。

あんなにマークされていたらシュートなんてできないし、もし入れられたとしても追いつかない。


本当は、さっき怪我した足も、痛くてしょうがないだろうに。


それでも必死にボールにしがみつく里宮を、ただ見ているだけ、なんて。

俺にはできなかった。


「っ里宮、いけぇぇぇぇ!!」


俺にできることは、ベンチでひたすら喉を潰すことだけ。それしかできない。


それでも……。

少しだけでいい。

少しでも、里宮に届くならーー……!


『スパッ』


「よっしゃ! 里宮ナイッシュー!」


長野も声を張り上げた。


『スパッ』 坂上先輩。

『スパッ』 雨宮先輩。

『スパッ』 三神先輩。


「クソッ!」


3……2……1……


『ビー!』


「そこまで! 58–102 !」




* * *




「あー、くそー! 58–102 ってなんだよ! ボロ負けかよちくしょー!」


三神先輩が不満そうに声を上げる。


「まぁまぁ、頑張ったんだからいいじゃない。ここまで追いつけたのもすごいよ!」


コーチが慰めるものの、みんなテンションだだ下がり状態だった。


「里宮、足大丈夫?」


小さくて細い足首に包帯を巻いた里宮に問いかける。


「ぜんぜん大丈夫」


里宮はそう答えたが、かすかに声が震えていた。

きっと、悔しくて仕方がないのだろう。


「おつかれ。残念だけど、次頑張ろうぜ!」


「……」


『次、頑張れば良いんだよ』


「……里宮?」


突然黙り込んだ里宮の顔を覗き込むと、里宮はハッとした表情で慌てて目をそらした。


「……どうかした?」


「っべ、べつに……」


里宮……?

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