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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第4章
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164. 花散る先の次章

「あ〜あ。本当に卒業しちゃったなぁ〜」


軽い鞄を肩に担いで歩きながら、名残惜しそうに長野が言った。

先輩達の見送りを終え、俺たち5人も帰路に着いていた。

駅まで続く桜の並木道を、いつものように話しながら歩いて行く。


「別に一生会えなくなる訳じゃないだろ? 試合も観に行くって言ってくれたし」


川谷が言うのを聞いて、「ボロ泣きしてたの誰だっけ〜?」と五十嵐が悪戯に笑う。川谷は顔を真っ赤にして「五十嵐もちょっとうるっとしてただろ!」と喚いた。五十嵐はハハハと知らないフリをして笑っている。


「そういえば、高津泣かなかったね」


里宮が真顔で言ったのを聞いて、俺は思わず「え?」と首を傾げた。


「それな〜。俺、高津が一番泣くと思ってたわ〜」


そんなことを言う五十嵐に、なんでだよ、と突っ込むより先に長野が「俺もそう思った!」と元気よく宣言した。

そんな悪気なく満面の笑み浮かべられたら文句も言えないだろ、と思い、小さく息を吐く。

川谷も「意外だったよな」と笑い、里宮はコクコクと頷いていた。


「そんなに?」と冗談混じりに言うと、その場にいた全員が「「うん」」と声を揃えて頷いた。まじかよ……。

そんな風に思われていたなんて気付きもしなかったな。

密かに肩を落としていると、長野が賑やかに笑いながら背中を叩いてきた。


「そんな落ち込むなよ〜! いい意味だから! ほら、いい意味!」


「うん……?」


こいつ、とりあえず“いい意味”って言えばなんとかなると思ってないか……? じとっとした視線を投げかけるが、長野は分かっているのかいないのか上機嫌に笑っていた。

……やっぱり憎めない。


「あ、泣くと言えば里み──……」


“バシッ”


すかさず響いた衝撃音がその場の空気を止める。思い切り背中に鞄を打ち付けられた五十嵐の言葉が続くことはなかった。里宮はふんっと鼻を鳴らして再び鞄を肩にかける。

容赦ないな……。


俺と川谷が顔を見合わせて苦笑する中、長野はキョトンとした顔をしていた。里宮からどデカい一撃を食らった五十嵐が「いって〜」と笑いながら背中を摩る。全く懲りていないようだ。そんな様子に、じわじわと腹の底から笑いが込み上げてくる。俺は思わず吹き出して笑っていた。


「あはははは、あほらし〜」


そう言いながらも、なんだか可笑しくて笑いが止まらなかった。やがて川谷と長野も声を上げて笑い出す。


「俺たちがあほらしいのはもともとだろ〜」


そう言って笑った五十嵐に、里宮がすかさず「お前が言うな」とツッコミを入れる。それを聞いて、俺たちはまた笑う。

確かに、俺たちがあほらしいのなんて今に始まったことじゃなかった。1年の時から、くだらないことを言っては腹を抱えて笑っていた。成長しないな、なんて思いながらも、皆の変わらない笑顔を見るとそんなことはどうでもよくなってしまう。


きっとこれからも、あほらしいことばかりやっていくんだろう。俺たちは。


「高津」


振り返ると、里宮はいつもの気だるげな目を細めて、優しく笑った。


「来年もよろしく」


そう言った里宮に、俺は「おう!」と元気よく応えた。


「……あいつらのまとめ役もね」


相変わらず腹を抱えて笑い続けている3人を顎で指し、里宮が悪戯に笑う。俺は思わず歯を見せて笑っていた。


今この瞬間も、いつか“あほらしい”過去になっていく。

腹を抱えて笑った記憶も、汗を流して戦った記憶も、未来の俺たちを支える思い出になる。これから先も、そうやって変わらない毎日を過ごせればいいな。


空を見上げると、まだ一部しか咲いていない桜の木が見えた。やがてこの桜も満開になり、その花びらを散らしていく。



……そして、俺達は3年になる。

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