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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第4章
159/203

158. 星空イルミネーション 後編

クリスマスなだけあって、ショッピングモールは大勢の人で賑わっていた。いくつか店を見て回り、俺たちは人気のカフェに入ったり高校生らしくプリクラを撮ったりした。完成した写真には驚くほどデカい目になった自分が映っていて、思わず二度見してしまった。あまりの変わりように、罰ゲームだろこれ、と思った。

一方高橋は終始楽しそうで、珍しく爆笑しながら「かわいいよ!」と褒めてきた。……全然嬉しくない。


そんなこんなでショッピングモール内を歩き回り、ふと目についた可愛らしい雰囲気の雑貨屋に入って行く。高橋は少し目を丸くして「珍しいね」と言いながら後に続いた。

確かにこんなファンシーな店に自分から入ったことはほとんどなかった。


「何か欲しい物あるの?」


「……いや、優花に。今年は大会あったから買いに行く暇なくてさ」


「あ〜、クリスマスプレゼントかぁ! 良いお兄ちゃんですこと〜」


「……ちょっと馬鹿にしてるだろ」


軽くツッコミを入れると、高橋はふふんと満足そうに笑った。


「よしっ! じゃあ私も優花ちゃんにプレゼント買お〜っと」


そう言って商品棚に目を向ける高橋に、思わず「えっ」という声が漏れ出す。


「ん?」


「いや……いいよ、そんな。気にしなくて」


なんだか気を遣わせてしまったような気がしたが、高橋は「私が買いたいから買うの!」と言って譲らなかった。


「なんか、悪いな」


小さく言うと、高橋は眉根を寄せて「も〜、五十嵐くん分かってないなぁ」と頬を膨らませた。そんなことを言われても、俺はただ首を傾げることしかできない。

高橋が言うように、俺は何も分かっていないらしい。


「“五十嵐くんの妹”っていう以前に、優花ちゃんは私にとって大切な友達なの」


そう言って微笑んだ高橋は、少し間を置いて、「それに、恩人でもある」と付け足した。


「恩人?」


「うん」


小さく頷くと、高橋は懐かしい思い出を語るように優しい顔をした。


「入院してた時、本当に毎日優花ちゃんに救われてた。同じように入院してる子たちが集まるレクルームみたいな所があるんだけどね。優花ちゃん、いっつもそこで小さい子たちを笑わせてた」


当時のことを思い出したのか、高橋は「ふふっ」と楽しげに笑った。


「検査の時も手術の時も応援してくれて。私の方が年上なのに、励ましてもらってばっかりでさ。……優花ちゃんのおかげで、なんとか頑張れた。だから、優花ちゃんは私の恩人なの」


……そんな話を聞くのは初めてだった。優花に、そんな一面があったなんて。


「……優花ちゃんみたいになりたいと思ってた。私も、私と同じように苦しんでる子たちを笑わせてあげたいって。……五十嵐くん」


名前を呼ばれて、高橋のまっすぐな目が俺を射抜く。


「だから私、看護師に、なりたいと、思ってて……」


ぎこちなく発せられた言葉に、俺は思わず目を丸くしていた。突然だったこともあるが、高橋が既に進路を考えていたことに驚いた。……それも、きっかけのひとつに優花の存在があるなんて。


「……こんな私でも、なれるかな?」


少しの期待と不安を織り交ぜたような顔をして、高橋は言った。俺が口を開くより先に、ハッとした様子で高橋が顔を上げる。


「いや、今のはなんでもない! 忘れて! 変なこと聞いてごめ──……」


「なれるよ」


高橋の声を遮って言う。無責任な言葉だろうか。そんなことを頭の片隅で考えたりしたが、軽い気持ちで言った訳ではなかった。じっと俺を見つめる目が、微かに揺れる。


「高橋なら、絶対」


気まぐれでも、お世辞でもない。それは俺の本心だった。

高橋の、人を想う優しさや温かさは“看護師”という仕事に適しているように思えた。……それに、高橋が勉強熱心で努力家だということを、俺はもう知っている。


「……ありがとう」


潤んだ目を細めて柔らかく微笑んだ高橋に、大きく頷いて微笑み返す。

過去の自分と同じように苦しんでいる人を救う。

それは当時の苦しみと常に向き合っていなければ叶わない行為だ。

……それでも、高橋は目指すのだろう。

過去の自分のように、優花のように苦しむ誰かを、救い出す道を。






それぞれ優花へのプレゼントを選んで購入し店を出ると、外は丁度良い暗さになっていた。

色とりどりの光が遠くに見え、高橋の歩く速度が段々と早くなっていく。


「うわぁ……!」


光の海に辿り着くと、高橋は小さな歓声をあげてうっとりと目を細めた。


「すごい、綺麗……星の中にいるみたい」


心ともなく零れた言葉が、白い息に溶けていく。

手を差し出すと、高橋は嬉しそうに迷わず俺の手を取った。

そのまま、イルミネーションの並木道を歩いて行く。

クリスマスということもあって、辺りはカップルだらけだった。幸せそうに笑い合う男女。自分たちもそのうちの一組なのだと思うと、少しむず痒い。


相変わらず星のような光に見惚れている高橋を横目に、繋いでいない方の手でバッグの中を弄る。器用に小さな箱を開け、取り出したそれを高橋の細い手首に着ける。

無数の光を受けて輝くブレスレットを見て、俺は自然と顔を綻ばせていた。

目を丸くして驚く高橋の姿が目に浮かぶようで、俺は思わず小さく笑った。


「五十嵐くん? どうしたの?」


「いや、なんでも」


「ふぅん? あ、見て! あそこにトナカイがいる!」


繋いだ手を引いて進んで行く高橋に、これは気付くまで時間がかかりそうだな、と思う。


「高橋」


名前を呼ぶと、前のめりになってイルミネーションを眺めていた高橋が軽そうなボブの髪を揺らして振り返った。


「メリークリスマス」


繋いだ手を顔の横に掲げ、悪戯に微笑む。

案の定高橋はこれでもかと言わんばかりに目を丸くしていた。驚きと喜びで小さく跳ねながら笑う高橋を見て、俺も思わず笑っていた。



手を繋ぐ先、彼女の手首で、それはイルミネーションに劣らぬ輝きを見せていた。

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