14. 諦めたくないんだ。
関東大会2日目、バスの中の空気は驚くほど重かった。
「豊玉に当たるとか……」
坂上先輩が力なく呟く。
「俺たちが勝てる可能性って何パーセント……?」
雨宮先輩までもが弱気になっている。
「まーまー。バスケに大事なのは楽しさを忘れないこと! ね!」
コーチが必死に慰めるも、2年の先輩たちの空気は沈んだままだった。
気まずい……。
そんなことを思っていると隣に座っていた里宮が「フッ ださ」と鼻で笑った。
俺は驚いて振り向いて里宮を睨みつけたが、里宮はそんな俺を無視してそっぽを向いた。
「なんだと里宮! お前、1年のくせに生意気なんだよ!」
バスケ部の中でいかにもチャラそうな外見の三神先輩が声を荒げる。
からかうような口調だが、このデリケートな空気を読まずに嘲笑った里宮に本気で怒っていてもおかしくない。
慌ててフォローしようとするが、里宮は悪びれもせず再び口を開いた。
「あれくらいの学校相手に弱気になってちゃ、優勝なんて絶対無理だし」
里宮の言葉に、その場がシンと静まりかえる。
関東大会に向けて練習していた時、先輩たちが掲げた目標を思い出した。
『関東大会初出場で初優勝!』
誰もが目をそらして俯く中、坂上先輩が小さい子供を説得するかのような口調で里宮に言った。
「里宮、まさか本気で優勝できると思ってんのか? 俺たちとは格が違うんだ。これは夢物語じゃない。現実を見ろよ」
先輩たちが笑顔で掲げたその目標を、達成できる筈はないとみんなが気づいている。
そしてそれに気づいているから、あんな風に笑えたんだ。
そういうものなんだ。
言ってしまえば、冗談みたいなもんなんだ。
負けず嫌いの里宮には理解できないかもしれないが、それが現実なんだ。
「絶対無理、なんて誰が決めたんだよ。優勝目指して戦ってるんじゃなかったのかよ。私は弱気なんて大嫌いだ。負ける気で戦うっていうのか? 冗談じゃない。絶対、勝ってみせるから」
里宮はそう言って坂上先輩を睨みつけた。
「諦めたくないんだ」
坂上先輩の目をみてハッキリとそう言った里宮に、坂上先輩は数秒黙り込んだ後俺の負けだ、と言う風に首を振った。
「里宮、お前の頑固さには少し憧れるよ。
……よしっ、みんなで勝ちに行くぞ!」
「「おー!!」」
「おいお前ら、貸切バスと間違えてんじゃねーのか!? もーちょい静かにしろ!」
盛り上がっていた俺たちに岡田っちが慌てた声でそう言い、みんなは面白おかしく笑っていた。