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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
13/203

13. 関東大会

試合開始のブザーが鳴り響き、選手たちは一斉に走り出した。


緑山高校は、ディフェンスに力を入れている学校で、選手の平均身長はとてつもなく高い。

そこで雷校は今日、そのディフェンスを抜くための作戦で戦うのだ。




『なぁ、もし里宮が緑山のディフェンスに囲まれたら、抜けられると思うか?』


『なんで私が抜けられないことになってんの』


『いや、里宮は確かに強いけど、流石に緑山のデカイディフェンスに囲まれたら辛くないか?』


『あぁ。だから関東大会はこの作戦で行こうと思う』


『坂上……でも、これって難しすぎるんじゃ……』


『私はんたーい』


『里宮……』


『そんな作戦じゃ、緑山には勝てない。私が考えたのはこの作戦』


『これ……いや、いくらなんでも……』


『いや、いけるかもしれない……!』


『坂上!?』


『よし、関東大会はこの作戦で行くぞ!』


『ちょ、ちょっと待っ』


『雨宮先輩』


『?』


『怖いんですか?』


『……くそ、生意気なんだよ! ……やってやる!』




こうして、里宮の考えた作戦で戦うことになったのだ。


話し合いのあと、本当にキャプテンの作戦じゃなくて大丈夫なのか、と聞くと、里宮は力強く頷いて「絶対勝つ」とガッツポーズをした。


里宮の“絶対”に狂いはない。

俺は思わず微笑んでいた。


今、目の前で進んで行く試合。

“いつか俺も”そんなことを思いながら見守る。

コートでは、雨宮先輩が緑山のディフェンスに囲まれていた。


作戦の始まりだ。


里宮が雨宮先輩から距離をとる。

普通なら近くに走ってパスをもらうのが最適だ。


それにも関わらず、雨宮先輩は里宮の姿を確認すると、迷いなくパスを出した。

あんなに遠くにパスをしても、途中で緑山の選手に捕られてしまう。


案の定緑山の選手が里宮の前に立ちはだかり、ボールに手を伸ばす。

“捕られる……!”誰もがそう思った瞬間、一つの影がシュッと通り、華麗にボールを奪った。


「「坂上!」」


坂上先輩はそのままゴール下まで突っ走り、ディフェンスとギリギリまで距離を詰めたところで、振り向くことなくノールックで後ろにパスをした。


それを受け取ったのは里宮だった。

緑山の選手が、”しまった“という風に息を呑む。


『パサッ』


見事に綺麗なシュートで、ほとんどの選手が呆然としていた。


「よっしゃぁ! 里宮ナイッシュー!」


となりに座っていた長野が立ち上がって声をかける。俺の顔にも、思わず笑みがこぼれていた。




『とにかくパスを回せ。どこにパスを出すのか悟られるな。回せ。回せ。全員で攻めろ!』




坂上先輩の言葉が脳内で再生される。

雨宮先輩は、里宮にパスを出したと見せかけて坂上先輩にパスをした。

里宮は囮だったのだ。


それからどんどん点差は離れていき、78 − 60で雷校の勝利となった。


「よし、まずは一勝!」


坂上先輩が声を上げる。

俺は嬉しくなって思わず里宮のもとに駆けて行った。


「里宮! おつかれ……」


言いかけて、俺は足を止めた。


「里宮……?」


里宮はその場でうずくまっていた。


「おい! 里宮、どうし……」


「クシュッ」


「!?」


里宮は鼻を擦りながら顔を上げた。


「ん?」


「……『ん?』じゃねーよ! もー。ビックリしただろー」


「?」


「てか、今日の作戦上手く行ったな! ちょーかっこよかったぜ!」


そんな会話をしながら、俺と里宮は会場を後にした。




* * *




『ちょーかっこよかったぜ!』


『蓮! やったね、勝ったね! おめでとー!!』


『……蓮、お疲れ様。疲れたでしょ。……次、頑張れば良いんだよ』


……私はいつまで、あの人のことを忘れないでいるつもりなんだろう。


『ピロリン』


『明日の試合、頑張れよ!』




『キロンッ』


『うん。頑張る』


里宮からLINEの返事が来たのを確認して、俺は眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シンプルな地文でありながらも情景が浮かびやすく、選手達の躍動感や迫力も伝わってきてとても読みやすかったです。 それぞれのキャラに魅力があるのもこの作品の良いところだなと思いました。 里宮に…
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