13. 関東大会
試合開始のブザーが鳴り響き、選手たちは一斉に走り出した。
緑山高校は、ディフェンスに力を入れている学校で、選手の平均身長はとてつもなく高い。
そこで雷校は今日、そのディフェンスを抜くための作戦で戦うのだ。
『なぁ、もし里宮が緑山のディフェンスに囲まれたら、抜けられると思うか?』
『なんで私が抜けられないことになってんの』
『いや、里宮は確かに強いけど、流石に緑山のデカイディフェンスに囲まれたら辛くないか?』
『あぁ。だから関東大会はこの作戦で行こうと思う』
『坂上……でも、これって難しすぎるんじゃ……』
『私はんたーい』
『里宮……』
『そんな作戦じゃ、緑山には勝てない。私が考えたのはこの作戦』
『これ……いや、いくらなんでも……』
『いや、いけるかもしれない……!』
『坂上!?』
『よし、関東大会はこの作戦で行くぞ!』
『ちょ、ちょっと待っ』
『雨宮先輩』
『?』
『怖いんですか?』
『……くそ、生意気なんだよ! ……やってやる!』
こうして、里宮の考えた作戦で戦うことになったのだ。
話し合いのあと、本当にキャプテンの作戦じゃなくて大丈夫なのか、と聞くと、里宮は力強く頷いて「絶対勝つ」とガッツポーズをした。
里宮の“絶対”に狂いはない。
俺は思わず微笑んでいた。
今、目の前で進んで行く試合。
“いつか俺も”そんなことを思いながら見守る。
コートでは、雨宮先輩が緑山のディフェンスに囲まれていた。
作戦の始まりだ。
里宮が雨宮先輩から距離をとる。
普通なら近くに走ってパスをもらうのが最適だ。
それにも関わらず、雨宮先輩は里宮の姿を確認すると、迷いなくパスを出した。
あんなに遠くにパスをしても、途中で緑山の選手に捕られてしまう。
案の定緑山の選手が里宮の前に立ちはだかり、ボールに手を伸ばす。
“捕られる……!”誰もがそう思った瞬間、一つの影がシュッと通り、華麗にボールを奪った。
「「坂上!」」
坂上先輩はそのままゴール下まで突っ走り、ディフェンスとギリギリまで距離を詰めたところで、振り向くことなくノールックで後ろにパスをした。
それを受け取ったのは里宮だった。
緑山の選手が、”しまった“という風に息を呑む。
『パサッ』
見事に綺麗なシュートで、ほとんどの選手が呆然としていた。
「よっしゃぁ! 里宮ナイッシュー!」
となりに座っていた長野が立ち上がって声をかける。俺の顔にも、思わず笑みがこぼれていた。
『とにかくパスを回せ。どこにパスを出すのか悟られるな。回せ。回せ。全員で攻めろ!』
坂上先輩の言葉が脳内で再生される。
雨宮先輩は、里宮にパスを出したと見せかけて坂上先輩にパスをした。
里宮は囮だったのだ。
それからどんどん点差は離れていき、78 − 60で雷校の勝利となった。
「よし、まずは一勝!」
坂上先輩が声を上げる。
俺は嬉しくなって思わず里宮のもとに駆けて行った。
「里宮! おつかれ……」
言いかけて、俺は足を止めた。
「里宮……?」
里宮はその場でうずくまっていた。
「おい! 里宮、どうし……」
「クシュッ」
「!?」
里宮は鼻を擦りながら顔を上げた。
「ん?」
「……『ん?』じゃねーよ! もー。ビックリしただろー」
「?」
「てか、今日の作戦上手く行ったな! ちょーかっこよかったぜ!」
そんな会話をしながら、俺と里宮は会場を後にした。
* * *
『ちょーかっこよかったぜ!』
『蓮! やったね、勝ったね! おめでとー!!』
『……蓮、お疲れ様。疲れたでしょ。……次、頑張れば良いんだよ』
……私はいつまで、あの人のことを忘れないでいるつもりなんだろう。
『ピロリン』
『明日の試合、頑張れよ!』
『キロンッ』
『うん。頑張る』
里宮からLINEの返事が来たのを確認して、俺は眠りについた。