表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
12/203

12. 穏やかコーチ

とうとう関東大会当日。


俺たちは気合を入れてバスに乗った。

……俺は出ないけど。


そんなことを思って少し沈んでいると、俺の隣で爆睡していた里宮の頭が俺の肩にトン、と倒れかかってきた。


こんな大事な日に、よく寝れるよな……。

呆れたような苦笑いを浮かべつつ、里宮らしい、とも思った。


「お前ら、もーすぐ着くから寝てる奴起こせー」


岡田っちが小指を耳に突っ込みながら言う。

そんなテキトーな顧問に呆れながらも、俺は里宮の肩を軽く叩いた。


「里宮、もう着くって。おーい、里宮ー」


声をかけても揺すっても、里宮はぜんぜん起きない。


「……」


俺は数秒迷ったあとふざけ半分に里宮の頭をチョップした。


「んー」


里宮は小さくうなるだけで、目を開けることはなかった。俺は大きなため息を吐き、前の席に座っている岡田っちをつついた。


「岡田っちー。里宮が起きないんだけどー」


「まじかこいつ、これから試合だってのに。里宮ー!」




『蓮! 手、繋ごうか』


『かっこいいね、バスケ』


『蓮ーー……』




「!」


「お、やっと起きたか。ったく、寝てんじゃねーぞー」


岡田っちはわざとらしく大きなため息を吐いた。

里宮はまだぼぅっとしているのか、無言で窓の外を見つめていた。


その横顔が、どこか寂しそうに見えた。

何か悪い夢を見たのか、ただ寝ぼけているだけなのか、俺には分からなかった。




* * *




会場に着くと、俺たちは早速ベンチの準備をしに行った。


雷校にはマネージャーがいないので、岡田っちと俺たち1年生で準備をすることになっていた。


「あ、おはようございます!」


1年の中の一人が声を上げ、釣られて顔をあげると、そこに立っていたのは予想していた人物だった。


「やぁ、みんな元気か〜?」


一見気の弱そうな、細い男が片手を上げて挨拶をする。

彼は雷校のコーチだった。


とてもフレンドリーで優しく、みんなから信頼されている。

その外見からは想像がつかないが、バスケの技術はかなり上級で、いくつかの大会で優勝した実績もあるらしい。


年齢は30代前半といった感じだ。

普通は“コーチ”と呼ぶのが当たり前なのだが、こうたという名前から“こうちゃん”と呼ばれることが多かった。


すると、雷校のユニフォームを着た2年生たちがベンチにやってきた。


「おぉ、こうちゃん! おはよー!」


キャプテンである2年生の坂上先輩は嬉しそうにコーチに近づいて行った。


「おはよう! 坂上くんは今年キャプテンなんだから、頑張って勝っちゃってよね!」


「おう! 任せとけ!」


こんなフレンドリーなコーチだからこそ、安心して楽しく戦うことができるのだろう。


強い、弱いに関わらずみんなと対等に接してくれるので、俺もコーチを信頼していた。

良いコーチで良かったな。と、そんなことを思っていると、遠くから小さな影が近づいて来た。


雷校のユニフォーム。

いつもの長い髪は高い位置でポニーテールに結ばれている。


全く緊張していない様子の里宮は、「あ、こーちゃん」と軽く片手を上げて挨拶をした。


「あ! 里宮ちゃん!」


コーチは尻尾を振る犬のように里宮に近づいて行った。


「相変わらず、ユニフォーム似合うね〜。って言うか、今日“あの作戦”するんでしょ?」


「うん。うまくいくかわかんないけどね」


相変わらずのタメ口で答えた里宮の頭を、コーチは優しく撫でた。


「頑張れ!」


「……うん」


あの里宮も、少しばかり心を許しているように見えた。


「……さて。そろそろかな」


さっきまでの穏やかな表情とは打って変わって、真剣な表情で言ったコーチの言葉に、ドクン、と心臓が大きく跳ねる。


「頑張っておいで!」


コーチが片手で拳を作ってウィンクをすると、里宮と2年生の先輩たちは真剣な表情で力強く頷いた。



「これから、緑山対雷門の試合を始めます!」


「「お願いします!!」」

『蓮』は里宮の密かなニックネームです。

本名は『睡蓮』です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ