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黒を被った弱者達  作者: 南波 晴夏
第1章
10/203

10. 気になるなら

翌日の朝、登校した俺の目の前を里宮が通り過ぎた。


「あ、里宮おは……」


言い終わるより前に、里宮はボーッとしながら廊下を進んで行った。


全く、なんなんだよ昨日から。

そんなことを考えていると、後ろから五十嵐がポンッと肩に手を置いた。


「気にすんな。俺にもあんなだったから。そーとー疲れてんじゃねーの?」


「……そういえば里宮、昨日も変だったんだ。『一緒に帰ろう』って言ったら、『先帰ってて』とか言って、なんかノートに夢中でさ」


「ノート?」


「そう、なんか見つめてたんだよ。珍しく」


そう、里宮が教科書やノートを開くのは授業中以外ありえない行動だった。

それでも、学年5位以内に入っている頭脳なのだが。


そんな里宮がノートを開くということは、まず勉強のノートではない。

だとするとーー……。


「部活ノートか」


俺と同じ答えを出した五十嵐が呟く。

確かに、バスケ大好き負けず嫌いの里宮なら考えられる。

でも、わざわざなんでノートなんか?


「あんま考えても無駄だぞ。気になるなら本人に聞けば?」


五十嵐が急に他人事のような言い方をする。


「“気になるなら”って、お前はいいのかよ」


「んー。俺は別に」


「……あっそ」


俺は静かにため息を吐いて五十嵐と教室に向かった。

教室のドアを開けると、俺の隣の席で突っ伏して眠っている里宮の姿が目に入った。


“気になるなら”か……。

俺は気持ちよさそうに眠っている里宮の頭にチョップした。


机に突っ伏して寝ていた里宮が「いたっ」と声を上げる。不機嫌そうな目で俺をにらんだ里宮は「何」と無愛想に言った。


「何って、里宮こそ何寝てんだよ」


小さく息を吐いて言うと、里宮は首筋を揉みながら吐き捨てるように言った。


「うるさいな。私が寝ようとなにしようと私の勝手でしょ」


小さくあくびをした里宮は再び机に突っ伏して、もともと小さい体を更に小さくした。


「……なんだよ、つれねぇなぁ」


小さく呟いた言葉に、里宮が反応することはなかった。




* * *




「おかしい」


俺はウィンナーを頬張りながら言った。


「ぜってーおかしいって、里宮。別人みてぇ」


「……確かにちょっとおかしいかもな」


難しい顔をした川谷が言う。


「えー、いーじゃんなんかあったとしてもほっとけば直るっしょー」


長野が椅子をグラつかせながらテキトーなことを言う。

椅子が揺れるたびに長野のちょんまげもぴょこぴょこと跳ねた。


「お前は黙ってろ」


読書をしていた五十嵐が口を挟むと、「だってー」と長野がふてくされたような声を上げる。


「てか五十嵐昼食べないの?」


「今いいとこなんだよ」


そんな会話をしていると、俺の背後から背の低い“誰か”が声をかけた。


「お前らさっきからなんの話してんの」


そこに立っていたのは小さな弁当箱を持った里宮だった。


「お、おう里宮。どこ行ってたんだよ」


俺が露骨に話を逸らすと、里宮は疑わしそうに俺を睨んでから隣の席に座った。


「岡田っちに捕まってた」


「それはドンマイ」


里宮は小さく頷いて弁当の蓋を開けた。

よほど腹が減っているらしい。

いそいそと卵焼きを口に放り込んだ里宮は、軽く顔をしかめた。


「味薄かった」


「え、それ里宮が作ったの?」


長野が身を乗り出して里宮の弁当を覗き込むと、里宮は一言「うん」と答えた。


「まじ!?」


川谷と五十嵐も驚きの声を上げる。


弁当の中にはミニトマトとブロッコリー、卵焼きと小さな唐揚げが入っていた。

それに小さなおにぎりが一つ付いている。


「すごいな里宮。これ全部自分で作ったのかよ」


俺が言うと、里宮は「まぁね」と自慢げに言った。


「毎朝父さんの弁当も作ってるし」


「「……」」


その場が一瞬静まりかけた時、「そーだよな。そりゃこんだけ上手なのも納得できるわ」と五十嵐が明るく言った。


「「だ、だよなー!」」


俺たちはそれに合わせて笑うことしかできなかった。

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