美しい展示物
暇すぎて何となくで描きました。
短いですが読んでみてください。
町外れの小さな村のある美術館に、新しい展示物が運び込まれた。
小さな額縁に収まったそれは、展示されると瞬く間に話題になった。
見る人誰もが、非常に美しいだとか、一生見ていたいなどと絶賛するのだから、それはそうとう美しいのだろう。
ある日の休日、美術館の話題を聞きつけたお金持ちの男性が、遠く都会から訪れた。彼の名をF氏と言う。
後々、財閥の跡継ぎとなる彼は、子供の頃から裕福な家庭で難なく育って来たおぼっちゃまだ。
しかし彼はその日もう1人連れていた。
古い友人の内藤だ。内藤はごく一般的な環境で育った、F氏から言わせれば「凡人」だったが、その飾らない性格と優しさから、小さな頃から皆に好かれていた。
F氏も例外ではなかった。
F氏は今日、友人の内藤を美術館に誘っていたのだ。
「では行こうか」
美術館の前まで来て、F氏は言う。
「実は今日はお目当てのものがあってね」
「分かっているよ。例のヤツだろ?今話題になっているものな」
その展示物にはこの村にしては多くの人が集まっていたが、都会の見知らぬ人間に皆が道を開けた。
F氏は展示物を味わうようにしばらく眺めたら、───これは美しい。などと、言葉をならべ、大同小異な感想をひたすら内藤に聞かせた。
F氏一通り思いを語り終えると、今度は、頷いていただけの内藤が口を開いた。
「非常に興味深い話だけれど、残念ながら、やはり私には芸術のセンスがないようだ。この展示の、美しさの本質がわかる気がしない」
F氏は困った顔をした。
「すまない。私にはまだ難しい。芸術はまだ早かったようだ。わざわざ誘ってくれなのに申し訳ない。今日は本当にありがとう」
そうしてそこで2人は解散した。
しかし内藤は、家に帰っても考え続けた。
「不思議だ。あのなんでもない平凡な男の絵が、見る人の目には、そんなに美しく映るか?全く、芸術というものはどうも難しい」
内藤を悩ませたその展示物は、実は鏡を額縁にはめただけのものだった。
鑑賞者たちには、額縁の中にいつもの自分が見えたはずだ。
しかしその鏡は、鑑賞者だけではなく、その心も写したのかもしれない。
お金持ちに恨みはありません。