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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

INNOSENCEシリーズ

百合乙女達の日時

作者: 南條 樹

【招待状】

貴殿を当家主催のパーティーへ招待致します。


日時 ○○月××日

会場 プリンセスホテル


尚、パーティーへは同性のパートナー同伴でのみ参加可能。


セイラ・シュトレイン




◆◇◆◇◆◇



「ここのホテルに来るのも随分と久し振りですね」

「そうだね、何日振りだっけ?かなり前としか覚えて無いよ。それよりも美香、今回の主催者はどんな人なの?」

「セイラさんですか? シュトレイン家の長女で、現存する貴族階級の中では最高位ですが、彼女自身は階級に拘らないと言ってる方ですよ」

「それを聞いて安心したよ。美香と付き合う様になってから、色々な所へ行ってるけど、財閥関係の集まりは未だに慣れないから不安だったの」


ごめんねと言う気持ちも込め、素直に打ち明ける。


「沙耶らしいですね。でも、少しずつでも良いから慣れていって下さい」

「美香の為だもん。私だって早く慣れる様に努力するよ」

「有難うございます」


『チュッ!』


お礼を言いつつも、私に抱き着いて唇に軽く触れる程度のキスをしてくる。


「も、もう…… 運転手さんに見られて恥ずかしいよ」

「見てる事は有りませんから、気にしなくても大丈夫ですよ。 で も、照れてる沙耶も可愛いです」


その後も、 キスをしたりしていちゃついていたら目的地に着いた。

目的地であるプリンセスホテルの前には、メイド姿をした女性が立っており、私達が車から降りると声を掛けてきた。


「美香様、お久し振りです」

「ミシェルさんも、お元気そうで」

「皆様、既にお待ちになっております」

「そうですか。沙耶、私達も急ぎましょう」


案内された部屋に入ると、既に斉藤さん達がソファで寛いでいた。斉藤さんは、ライトグリーンのドレスを着ており、金髪と良く似合っている。斉藤さんの隣に居る人は、ライトイエローのドレスを着ていて、此方も斉藤さんに負けず劣らず似合っている。勿論、私達もドレスを着ており、美香はラベンダー、私は薄いピンクを着ている。


「西園寺さん、如月さん、久し振りです」

「彩音さん、お久し振りです。 そちらに居る方は?」

「先輩方は初めてでしたか? 私達の後輩であり、私の恋人でもある高梨七海です」

「初めまして高梨です。先輩達の噂は学生時代から存じております」

「初めまして。私は西園寺美香、こっちが如月沙耶です」


学生時代の噂って…… 一体何?

そんな噂になる様な事して無いよ!

お互い挨拶を済ませると、時間まで今まであった事を話をしていた。


「皆様、時間ですので会場の方へどうぞ」


先程、私達を案内してくれたミシェルさんを先頭に、パーティー会場へと向かった。会場内は、広くゆったりと設けられたスペースと、会場奥に設置されたテーブルの上には、色取り取りの料理が並べられ、給仕と思われる人達がグラスの乗ったお盆を持っていた。

会場内は、私達の他には誰も居なくて、さっきまで緊張していたが、誰も居ないと分かると緊張が溶け、それと同時に拍子抜けもした。もっと多くの人が居て、それこそ高貴な人達の社交の場となっていると思っていたからだ。そんな事を思っていたら、出入口の所に赤いドレスを着た人と黒いスーツに身を包んだカップルが立っていた。

私は小声で隣に居る美香に問いかけた。


「あの人達は?」

「ドレスを着ている方がセイラさんで、男装をしているのがセレシアさんですね」

「セレシアさん…… 凄く似合っていて格好いい」

「沙耶。私の前で浮気するのですか?」

「まさか! 私は美香だけだよ」

「ふふふ。冗談ですよ」

「も、もう~」



******



「七海、こういう場に慣れて無いと思うけど大丈夫?無理していない?」

「彩音さんが居るから大丈夫です。あと、西園寺先輩達に、私の事を恋人と紹介してくれたのが嬉しかった」

「そう? それだけで喜んで貰えるなら、これから何時でも言うよ?」

「だって…… 高校生の時に一度、彩音さんに振られているから……」

「そうだったね。それでも、ずっと私の事を想っててくれたのは凄く嬉しいよ」

「彩音さんが他の人と付き合っていても、簡単には諦められないし、別の人と付き合う事なんて尚更無理でしたから」


いちゃいちゃしながら話をしていたら、美しいカップルが登場してきた。


「彩音さん、あの人達は?」

「この会の主催者であるセイラさんと恋人のセレシアさん」

「セレシアさんは、女の人ですよね?」

「そうですよ。彼女の家は古くは将軍家で、今でも軍事関係の仕事をされています」

「そうでしたか。主催者の方が見えたと言う事は、他の方は見えないって事でしょうか?」

「此方は極親しい人達だけが呼ばれているのでしょう。他の方達は、きっと別の所でパーティーでも行っていると思いますよ」

「どうして分かるのですか?」

「私も何度か出ていますが、普通のパーティーの方は男性の方も多く、婚活の場と言った方が良い位に趣旨が変わってしまって、私も何度か告白された事がありますからね」

「そ、それは嫌ですね」

「特にセイラさんは、親が勝手に婚約者とか決めかねないですからね」



******



「セイラ、本当にこっちに来ても大丈夫かい?」

「ソフィアが居ますので、問題無いですよ」

「ソフィアさんが怒って乗り込んで来そうですがね」


そう話つつ招待客が居る部屋の中へと連れ立って入ると、西園寺さんと、斉藤さんが此方に気付き挨拶をしてきた。


「「セイラさん、セレシアさん、お久し振りです」」

「お二人共、お久し振りです。今日は私主催の舞踏会にお越し頂き有難うございます。畏まった事は致しませんので、ごゆっくりしていって下さい」

「「有難うございます」」

「二人共、久し振りだね。それにパートナーも可愛い方達だ」

「セレシアさん、お久し振りです。私のパートナーが可愛いからってナンパはダメですよ」

「勿論だとも。私にはセイラが居るから浮気はしないさ。でも、彼女達から来たら受け入れるよ」

「沙耶、浮気はダメですよ」

「七海? 七海は浮気しないよね?」


お互いのパートナーにぎゅっと抱き着いてる様を見ながら、部屋の一角に待機している楽団へ合図を送ると、ゆったりとした曲が流れだす。


「折角のパーティーだ、ただ話し合うだけで無く、一曲踊ってみてはどうだ?」

「そうですね。沙耶、行きましょう」

「彩音さん。私、踊れないですよ」

「大丈夫です、私がリードしますから」


二組のカップルが部屋の中央へ行くと、優雅にステップを踏み出した。


「セレシア、余り二人をからかわないのよ」

「分かっているさ。でも、彼女達にはこれ位が緊張も溶けて丁度良い」

「そうですわね。折角招待しましたもの、楽しんでいって欲しいですわ」

「私達も一緒に踊ろうか?」

「はい」




楽団達が奏でる曲に合わせて踊っていると、勢いよく扉を開ける音が響きそちらの方を見ると、ピンク色でフリフリした可愛らしいドレスを纏った少女が仁王立ちして立っていた。


「お姉様。やっと見つけましたわよ。一人だけ抜け駆けして、こんな所に居るなんてズルいですわよ!」

「ソフィア……」

「やっぱり来たか……」


仁王立ちしていた少女がセイラさんの方に向かって歩いて…… 何故か向きを変えて此方に……え?


「お姉様にも言いたい事はありますがそれよりも、やっと会えましたわ! (ワタクシ)と一緒に踊ってくださる?」

「え? …… 私?」

「さ、沙耶……?」

「ええ勿論、貴女です…… 何時も美味しいケーキを有難う」


少女の顔を良く見れば、何度もお店へ足を運んで下さってる常連さんだった。


「あぁ、ソフィアちゃんね! 何時も美味しそうに食べてくれて有難うね。 セイラさんの事をお姉様と言ってたけれど本当?」

「ええ、セイラは(ワタクシ)の実の姉ですわ。お父様主催のパーティーに出たく無いからと、私を盾にしたのです」

「ソ、ソフィア……」

「それよりも(ワタクシ)と一緒に踊って下さらない?」

ガシッと両腕を持たれ、為す術もない私は仕方無いとばかりに溜息をつき、美香へと謝る。

「一曲だけならね。 美香ごめんね」

「はぁ~ …… 仕方無いですね」

「やった! じゃあ、早速行こ?」

「その前に、私の名前は如月沙耶です。沙耶と呼んでくれて良いですよ」

「沙耶ね! 分かった!」

「宜しかったのですか?」

「本当は嫌ですけれど、仕方有りません。沙耶から彼女の話を聞いておりましたから、ここで無下にするわけにはまいりません。ただ、まさか彼女がセイラさんの妹さんとは知りませんでした」

「そうでしょうね。ソフィアは、私と違って自由奔放ですから……」


中央で優雅に踊っている二人を見守っていたら、ソフィアが沙耶に抱き着つき、唇にキスをしていた。


「「え!? 」」


キスをされた沙耶はソフィアから離れると、呆然とした顔をして立ち尽くしていた。


「好き…… 私、沙耶の事が好きなの。何時も甘い香りがしていて、優しくしてくれて、そんな沙耶の事が好き」


そう言うと、ソフィアはもう一度沙耶にキスをすると、上目遣いで見てくる。


「え……と、あのね……」


どう返事しようか迷っていると、ソフィアの背後から……


「恋人である私を放ったらかしにして、別の女性を口説くなんて良い度胸ですね」

「え!?」


ソフィアが振り向くと、そこに居たのは着物を着た少女。ストレートに伸ばした黒髪がとても似合っている彼女の表情は、微笑みを浮かべているものの、その目は冷ややかで、纏っているオーラも冷たい。

「シ、シノ……こ、これは……その……」

「問答無用です。さぁ、行きますよ」


ソフィアの腕を掴むと、引き摺る様にしながら去って行った。


「い、痛い! シノ、ちゃんと歩くから引き摺らないで~」


ソフィアを引き摺りながら広間を後にして、セイラ様達から見えない所まで来ると、ソフィアを離して向かい合う形になった。


「それで? どうしてあの場で告白なんてしたの?」

「だ、だって…… 沙耶さんとは、もっと仲良くなりたかったから」

「それだけ?」

「……間近で見たら、ついキスしたくなっちゃったの。それに沙耶さんなら甘やかしてくれると思ったから」

「はぁ~……ソフィア、甘えたいなら私に言えばいいじゃない。キスだって、したければ何度だってするよ。 私達、恋人でしょ?」

「そ、そうだけど……」

「けど?」

「沙耶さんを間近で見たら、抑えきれなくて。勿論、私の恋人はシノだよ」

「何時もの悪い癖ですね。これは一生治らないのかしら」


やれやれと言った感じで溜息をつかれたけれど、赦してくれたのかな? シノの事は好き。沙耶さんは、何時も優しくしてくれるから好き。告白したのも、(ワタクシ)の気持ちを知って欲しかったから。 キスしちゃったのは、したくなったからしただけだもん。

シノの方を伺う様に見たら、思いっ切り抱き着かれた。


「私の居ない所で、浮気はしないで下さい。私の居る所でも、本当は浮気はして欲しく無いですけれどね。何時までもここに居てはお父様達に怒られてしまいます。戻りましょう」

「そうだね」


二人連れ立って、両親の居る元へと帰ったのだった。




◇◆◇◆◇◆




「な、何だったのでしょう……」

「セイラ?」


残された私達は、嵐が過ぎ去ったかの様に茫然としていた。


「上手くいったみたいですね」


そこへ現れたのは、私達をここまで案内をしてくれたミシェルさん。

彼女が何かをしてくれたのだろうか?


「ソフィア様が此方に見えて直ぐに、シノ様へと連絡を取りました。その結果があの様な事ですね」

「は、はぁ……」


取り敢えずミシェルさんが、ソフィアちゃんの恋人さんに連絡をしたと言う所だろう。それにしても、さっきの少女は何処かで見た様な…… あ!もしかして!


「ソフィアちゃんの恋人さんは、茶道家の紅月家(コウヅキ)の一人娘の紫乃さん?」

「そうです、紅月家の方です。良く分かりましたね」

「私も茶道を習っていまして、紅月家へ行く事があるのです。それで紫乃さんとは何度かお会いしてました」

「そうなのですね。紫乃様はソフィア様一筋ですから、ソフィア様に対しては厳しいのです」

「それは何となく分かります」


普段見せる顔も、本当に好きな人は大切にしたいのだなって思うほどに、目を輝かせているからだ。


「それよりも、折角のパーティーだ。時間はまだまだあるから、ソフィアの事は置いといて、食事でもしつつ楽しい時間を過そうではないか」

「そうですわね。折角いらして下さったのですから、楽しまれないとですね」

「いっそうの事、お互いのパートナーに食べさせ合うのはどうだ? ここにはカップルしか居ないわけだし」

「それは良いですね!」

「「「「 え!? 」」」」


セレシアさんが食べさせあいっこを提案して、セイラさんがそれに乗る形で、私達にも勧めてきたのだが、流石に皆の前では恥ずかしい。美香と二人きりでなら平気だけれど、皆の前でとなると…… 美香の方をチラっと見れば、顔を真っ赤にしつつも満更では無さそうな雰囲気をしていた。


「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だ。ここに居るのは、皆同性のカップルしか居ないのだからね」

「それは……楽団員の方もって事でしょうか?」

「楽団員? ああ、彼女達は楽団員じゃない。私とセイラの後輩だ。今日の為にお願いしたのだが、彼女達も本番に近い状態で練習が出来ると喜んでいたよ」

「それだけでは有りません。彼女達の大半は、セレシアのファンですからね」

「いや、それを言うならセイラのファンだっているぞ」

「兎に角、あの人達も同性愛には理解していると言う事ですね?」

「そう言う事だ。何なら私達がお手本を見せてあげようか?」

「それは良いですね。 私達が率先してやれば、恥ずかしい気持ちも薄らぐでしょう」

「「「「え!?」」」」


セイラとセレシアはテーブルの前まで行くと、フォークを手に取り目の前にある一口サイズの料理を指すと、互いの口へとそれを運び食べさせ合った。

少し離れた所から悲鳴が上がったが、彼女達の仲睦まじさに喜んでいる様だった。


「そんな恥ずかしい事では無いだろう?」

「ええ…… まぁ……」

「彩音さん、私達もやろ?」

「七海……」

「いいでしょう?」

「そこまで七海が言うのなら、食べさせあいっこしよう」

「やった!」

「「 ……… 」」


彩音さんと高梨さんがテーブルの前に来ると、フォークに一口サイズに切った料理を刺して、互いに食べさせあった。

その様子を見ていた私と美香は、言葉を失っていた。二人きりの時はよく食べさせ合っていたが、人前でやるのは恥ずかしい。


「最後は美香と如月さんだけですわね」


ニコニコとしながらセイラさんが勧めてきた。

主催者自らが勧めているとあっては、招待された私達は素直に従うほか無かった。

皆が見詰める中私達は、互いに料理が乗ったスプーンを持つと、食べさせ合った。その顔は二人共に真っ赤だった。


「やはり百合は最高ですわね」

「ああ」


三組の百合カップルは思い思いにパーティーを楽しんだ。




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