愛され者
近付いてくる足音の方を向けば、そこにいたのは愛され者の藤野江 真人。
この学校に居れば嫌でも名前を聞くし、姿を見る。この間は掲示板にでかでかと顔の写真が載った新聞の記事を貼りだされていたな。確か新聞部が発行していた何とか特集の。
なんでそんなこいつがこんなところに?
「なんか用か」
「………」
返事がない。もっと言えば表情もない。
おかしいな。こんなに不愛想な奴だったか。
不審な目を向けて、向こうも何を考えているのかわからない目で此方を見ており、よくわからない空間が出来上がった。
なんか言えよ。何しに来たんだよ本当に。
何故かこっちが居心地悪くなり、仰向けの体制から藤野江が居るのとは反対方向に寝返りを打つ。
暫くして隣に座ったのが気配で分かったが、此方から声をかけるのは何だか癪に障る気がして放置。
用事が有るのか無いのかはっきりしないが、待ってやる義理もないので寝るとしよう。そう思った直後に、大きな溜息が聞こえた。
「疲れた…」
沈み切った声でそう呟くもんだから思わず振り返ってしまった。しかし声の雰囲気とは裏腹に微笑むイケメンと対面する羽目になる。
「佐山はいつもここにいるの?」
「…あぁ」
「そっか。一つ聞いてもいい?」
「なんだよ」
「時々、僕もここに来ていいかな」
一瞬何を聞かれているのかわからなかった。思考が動き出してすぐに疑問に思う。
特に用事がないのにここに来る理由がわからない。しかも言い方からしてこいつ一人だけがここに来るみたいな言い方。
深く考えるのも面倒だが、こいつの相手をするより今は寝ることの方が重要であると判断した。
「勝手にしろよ」
「いいの? やった、ありがと」
さして嬉しくもないだろうにそんな言葉を言って立ち上がり、「じゃあね」と去っていく。
結局何しに来たんだ。まさか目的ってここに来る許可をもらうだけか? 変な奴。
扉が閉会する音を聞いて数分すると始業のチャイムが鳴った。