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序章 新しき世界 (前編)

もっと皆から愛されたかった、もっと皆を愛したかった、だからこそ皆から愛される何かがほしかった。


 「君はまだそこにいる?」


 暗い部屋の中、僕の膝の上で丸くなっているたった一人の友達を見つめる。君が年老いて動けなくなってしまう前に僕はなにかできただろうか?

 そんな後悔の中で、もう弱々しくなってしまった友達の呼吸の浮き沈みを感じる、それだけが僕にとっての唯一の支えだった。



 ……僕は何度も自分の過去を振り返る、決して不幸ではなかったと思う、決して誰からも愛されなかったわけじゃない


 確かに僕は愛されていた、家族はもちろん、僕を友達だと言ってくれた人もいないわけじゃなかった。

 だけど僕は許せなかった、勉強のできない自分、体が弱い自分、意気地なしの自分、嘘つきな自分


 「シュー………シュー…………」 音が聞こえる……

 音の方向を見ようとしたが・・・・よく見えない・・・・

 何かが燃えていることはわかった、練炭の火がどうやらテーブルに燃え移ったようだ。

 だけどもうそんなことどうでもよかった、友達の呼吸が感じられなかったからだ。

 気が遠くなっていくのを感じる。

 不思議と悲しさも苦しさもなかった・・・僕は安堵してそのまま眠りについた。



---



 誰かの声で目が覚めた。

 知らない天井に知らない男女の嬉しそうな顔?……体が思うように動かない……

 僕は赤ん坊の様だ、不思議な感覚だった、なぜか僕には生まれ変わったのだという自覚があった。

 

 僕に前の世界になど未練はない……


 はずだった……


 涙が止まらない、胸が苦しい……

 自分でもなぜだかわからないが、前の世界の未練が蘇る……愛されるに値しない僕を愛してくれた両親、そして最後まで一緒に居てくれた友達の事がしきりに思い出された。

 

 「お前は何者だ?」


 頭の中から謎の声が聞こえる……しかし僕は声に返答する術を持っていない……ただ「あ~」と赤ん坊らしく声をあげるだけ……


 「にわかには信じられないが別の世界の人間……のようだな? お前の強い感情は伝わってくるぞ……

そうだな……お前の事をもっと知る必要があるかもしれないな、たっぷりと時間はある」


 そして嬉しそうにそいつは言った


 「お前はこれから俺の人形だ」

 その言葉と同時に意識が朦朧としていくのがわかる……まるで夢の中に眠りに落ちる様な……



---



 どれだけの時間が流れたのだろうか? 僕の意識が徐々に鮮明になっていくのがわかる。

 僕はいままで寝ていたのだろうか? おもむろにベットから起きようとして自分の姿を確認しようとする。

 体は動く……手足は小さくまだ自分が子供だということはわかった。


 「エルティ!こっちだよ!」


 声のする方向には女性が立っていた……恐らく僕の母親だろう、そんな確信があった。

 どうやら僕の名前はエルティ? の様だ……


 「マ……マ……」

 なんとか発語した僕はそう言って自分の母親の元へ向かおうとする。

 同時にまたあたまの中から謎の声が聞こえる。

 

 「転生者の場合、意識が完全に定着するための時間がまだかかるようだな……お前の意識が完全に定着した時、俺が知っている事を全てを教えてやろう」



---



 「完全意識が定着したようだな、もう意識が眠りに落ちる様な事はないだろう、まずは……そうだな、俺の声が聞こえるか?」


 「聞こえる」

 意識がはっきりしているのがわかる、今の僕は子供……これが生まれ変わり? というやつなのだろうか?


 「ミケ……」

 思わずそうつぶやいた、最後まで僕のそばに居てくれたかけがえのない友達であり、家族であった存在の名を……胸が苦しい……


 「……前の世界の事は忘れることだ、もう戻ることはできないのだからな、それより新しい世界だぞ? お前は今ここで生きていくことを考えるべきだ」


 そんなことはわかっている、そう考えたほうがきっとワクワクするだろう、楽しいだろう、幸せだろう……前の世界の事を忘れることがきっとこの胸の苦しみがとれる、この痛みから解放される、事実そんなことを考えていた。


 「僕はクズだ」


 思わずつぶやいた言葉は僕の心に深く突き刺さった。

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