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感電死

「で、なんでイスラードが一緒なんだ」


 今日も今日とて死体回収におわれる日々。僕らの人生には死体死体死体の三拍子が並ぶ。そんな平和な日々に今日は違うところが一つある。同行者だ。


「言っただろ?女王直々の命令なんだ護衛は仕事中も続けるよ」


 ジャック・ザ・リッパーの再来。珍しく目を通した今朝の新聞にも、新たな犠牲者の事が書いてあった。


「お前はただの冒険者なんだ、俺たちと違ってモンスターに襲われるぞ」


「安心したまえ、自分の身は自分で守れる。モンスターをおびき寄せてしまうからな、仕事中は邪魔にならないよう遠目で見ているよ」


 遠目ね……見ることには変わりないのか。


「メリリィ嬢の身は私が補償しますよ」


「死体回収者はダンジョン内では絶対安全。冒険者からの攻撃も受けない」


「メリリィの言う通りだ、ダンジョン内までは護衛は要らない筈だろう。死体がみたいだけだな」 


「やはりバレてしまったか」


「何度も言うが隠そうとしろ」


「シュウラはイスラードさん相手ならよく喋るのね」


 不思議そうにメリリィはこっちを見ている。


「勘違いするな、僕が喋ってるんじゃなくてこいつがよく喋るんだ」


 イスラードといると余計に疲れる。黒髪眼鏡、スーツのいつもの格好に加えて、今は腰に片手剣がある。スーツに剣というのは案外似合うものだな。


「してシュウラよ、今日の死因は?」


「何故言わねばならん」


「気になるではないか。私もそれなりに心準備をせねば」


「よく言うな。……今日は感電死だ」


 ──感電。人体に電流が流れ、傷害を受けること。人体は電気抵抗が低く、軽度の場合は一時的な痛みやしびれなどの症状で済むこともあるが、重度の場合は死ぬことがある。


「感電死……私がまだ見ぬ境地か……」


 イスラードは感慨深い顔をする。


「まだ見ぬってわざと死にに行かないでくださいね?私たちの仕事が増えるのはやめてほしいです」


「んーメリリィ嬢に言われては仕方ない。ここは視死だけにとどめておこう」


 視死。初めて聞く言葉だ。まったく、くだらない造語を作りおって。


「それで、感電死というどんな感じなんだ?シュウラ」


「何故僕に聞く。君が知らないのに僕が知るわけないだろう」


「そう……だな」


 少し歯切れの悪い返事をした。それもそうだろう。


「だが、まあ想像はつく」


「どんな?」


 メリリィはやはり死の感覚に食いついてくる。


「体の隅々を電流がむさぼり尽くす。その激痛じゃマッサージには向かいないだろうな」


 しばしの沈黙。


「珍しいね、君が洒落をいうなんて」


「放っておけ」


 電圧にもよるが、あまりにも強ければ体に穴を開けるくらいは容易いかもしれんな。


「それ自体では死ななくとも皮膚が焼け焦げれば皮膚呼吸ができないで死ぬ、なんてこともあるかもな」


「フム、やはり一度試すべきだな……どうだろうメリリィ嬢、君の望む額を提示する、だからどうか一度感電死を体験させてはくれまいか」


「いやよ、貴方の死体なんて触るのも見るのもごめんだわ」


「なんと、まさか君がそこまで私に感情移入してくれているとは」


「してないわよ!」


 微笑ましい言い合いはさておき、ダンジョンに入ってから三十分ほどだろうか、フロアに到着した。


「鉄の焦げたような匂いがするな」 


「そうだな」


 フロアは毎度お馴染みレイド規模ではなく、セミレイド十八人で挑むものだった。


「今回は人数少なくて楽そうだな」


「では私は入り口にいるよ、私が入るとモンスターが湧いてしまうからな」


「ああ、三十分もかからん」


 体が黒く焼け焦げ、硬直したそれは生々しく死した時を刻んでいる。


「焦げてるけど焼死体とかよりも全然楽そうだね」


「一瞬で程よいぐわいに熱を通されたって感じだからな、綺麗なんだよ」


「これやったモンスターってなんなの?」


「インドラとか言ったか。想像通り落雷を操って攻撃してくるモンスターだよ。格好は修羅だったか」


「ふーん。感電死ってさ、痛い?」


「痛くない死にかたなんてそうそうないと思うが」


 そんな会話をしながら硬くなった死体をそのまま焼却炉へと放る。


「そうだシュウラー」


 入り口から声がかかる。


「なんだ」


「今私は隙なんでね、今のうちに話したいことを話しておくよ」


「かってにしてろ」


「……今回のジャック・ザ・リッパーの再来。警兵は未だなにもつかめていない。民間の探偵社も捜査に名乗りをあげているらしいが、警兵でも無理なんだ探偵ごときがなにか出来るとは思えん」


 ──警兵。国を統治する近衛騎士団に属する警官兵のことだ。事件などが起きた時はこの警兵が謎の究明にあたる。


「被害は日に日に増していくのにも関わらず、警備に人員を割いてもなお、大地人殺しは止むことを知らない。死体回収社を護衛しろという命令が女王から出たのは私情の他にありはしない」


 私情、か。


「それで私も思うところがあってね、君らの護衛を続けながらジャックを追おうと思ったんだよ」


「お前も探偵ごっこをするつもりなのか?」


 首を横にふる。


「違うよシュウラ。ここからは機密事項なんだがな、当初ジャックは大地人の女、子供ばかりを潜伏や隠密行動の得意な戦闘には特化していない者だと考えられていたのはしっているな」


「ああ、前の時に言われてたな」


「警兵は当初、大体の人物像は浮かんでいたんだ。前回唯一の目撃証言の夜闇に光る紫の爪に唇、殺し方から想像の出来る細身や力の弱さから女性とな。だがだ」


 イスラードの顔はより一層険しくなる。


「警兵団塔下町東地区兵長、ラーダ・オルガンという男をしっているかい」


「ああ、百年戦争時代の猛者だな前線の鬼騎士の二つ名の」


「彼が殺された」


 暫しの沈黙。


「ジャックにか?」


 思わず回収の手が止まってしまう。


「そうだよ。警兵はこの事を必死に隠したがってる。もっともだろうな、百年戦争の猛者が殺られる程の相手だと知れればパニックは必至、冒険者へも影響が及びかねないからな」


「警兵に雇われたのか?」


「ああ。女王からの命令もあったしな断ってはいたんだ。だが、君も手伝ってくれるのならこれを引き受けようと思う」


「どうして俺が」


「君は強いし、護衛対称と同じなら女王も文句は言うまい」


「本気で言ってるのか」


「いたって真面目だよ」


 こいつのこういう顔も珍しいな。


「わかった引き受けよう」


「よかった、君ならそう言ってくれると思ったよ」


 そんな会話が終ると、僕は仕事に戻った。


「さっきさ、なに話してたの?」


 帰り道、少し離れたところで回収していたメリリィにそう聞かれた。


「ああ、なんでもないさ」


 と、適当にはぐらかしたが終始納得のいかない顔をしていた。


「物騒な世の中だなってことだよ」 


 この日よりジャック・ザ・リッパーとシュウラが相対するまであと十日もなかった。


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